山吹色の白兎   作:あルプ

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僕だけを見てくれ

 

 

きつい薬の香りに木の仄かな芳香が合わさる部屋で僕は、寝ている彼女を背に1人佇んでいた。

結局あれから3日。レフィは起きてくる気配を見せない。結局、起きるまでは病名を言えないとアミッドさんから告げられ、僕は後悔と自責の念で押しつぶされそうになっていた。

 

 

あの時、ファミリアに戻るのを止めていれば。

ずっとそばに居てくれと、なぜ言えなかったんだ。

そもそもどうして、僕は彼女に入れ込んでしまったんだ

 

 

なぜ僕は、彼女と出会ってしまったのか……

 

 

 

ロキファミリアの人達にも迷惑をかけた。たまに飲みへ連れてってくれたラウルさんやベートさん、レフィーヤのことがあってから色々と世話を焼いてくれたリヴェリアさんに対し、恩を仇で返すような行為だった。軽率で、時と場合によっては戦争だって有り得る程の愚行だ。

 

結局僕は、自ら火種を撒き散らした愚者でしか無かったんだ。

 

【英雄】なんて笑わせる。僕は誰の英雄にもなれやしない。自分の行為に酔って、周囲を巻き込む【英雄ごっこ】をいい歳までしている大馬鹿者だ。

 

沈む僕の肩に、そっと掌が置かれた。振り向く気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

あの後、騒ぎを聞き付けたフィンとガレスが割って入って静止させた。結局この遠征は途中で中止になり、私は彼らに怒る気にすらなれず1人でいた。

 

「君がそこまで落ち込んでいるのは珍しいね」

 

優男の声が背後から聞こえてくる。無言でいると、ため息混じりで話を続けてきた。

 

「今は落ち込んでいい。だけどね、彼女達のケアはしておいてくれると助かるよ」

 

ハッと我に返り振り返る。フィンと、その後ろにはボロボロ、血塗れの3人が沈んだ面持ちでいた。

 

沈黙は耐え難いものだった。が、話し始めることさえ出来なかった。

 

「リヴェリア、話したいことがあって…」

 

数分間の沈黙を切り裂いたのは、アイズだった。その後、再び少しの沈黙を経て、3人一斉に口を開いた。

 

 

 

 

「「「ごめん(なさい)、リヴェリア」」」

 

 

 

 

言われた言葉の意味が分からなかった。どうして謝るのか、理解出来なかった。

頭を下げ続けるのを呆然と立ち尽くしながら見る私に、フィンはクスリとも笑わずに言った。

 

「彼女達、もちろん他の2人もだけど、ものすごく反省してるんだ。食い違いとかも話し合って、双方分かり合えたはずだよ。でも、3人は君が泣いているってのを聞いて謝りたいと言ってきたんだ。理由は……ティオネ、話してごらん」

 

下げた頭を上げて、ティオネが一歩前へ。踏み出したところの草は抉れていて、辺り一面の芝生に1つ、汚れがついたようだった。

 

「理由……って言ってもね。はっきりとあるわけじゃないのよ。その、えっと、私たちのせいでリヴェリアが泣いてて、謝らなきゃって」

 

彼女にしてはたどたどしくそれでもしっかり伝えてくれた。

目尻からまた涙が溢れ出てくる。乾ききった跡に再び流れる涙は、先程よりも止めどめなく流れた。

 

「リヴェリア?どうしたの、やっぱり嫌、だった?ごめん、ごめんね、ごめんなさい……!」

 

縋るように泣き、感情を露わにするアイズ。ずっと黙っていたティオナも、気まずそうに俯いているティオネも謝罪と共に座る私の膝で涙を流し始める。

 

「そんな、謝るのは私の方だ。レフィーヤが、お前たちの妹が連れ去られたと言うのに行動も、声さえ出せずに立ち尽くしてしまった。お前たちも静止させようと思ったが、1歩も動けずにいた私なんかに謝るなんて……」

 

「それでも!だって、だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母親を泣かすなんて、娘失格じゃないっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にも先にも、涙が止まらなかったのはこの時だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

「……ベル?」

 

振り向けなかった。合わせる顔が無かった。どんなに優しい声で何を言われても、自分を許せなかった。

 

巻き込んだ、また。何度目だ、学習しないな僕は。正解は孤独しか無かった筈なのに。手を出して自ら過ちの選択肢を選んだ。

 

掌が肩に置かれた。責められると思った。なぜ私はここにいるのかって。責任感が強い彼女が遠征を途中で投げ出させるようなことを許す筈がない。そう思っていた。

 

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 

思いもよらない一言だった。僕は資格すらあるはず無いのに、彼女の方へ振り向いてしまう。

 

 

泣いていた。はにかみながら、嬉しそうに泣いていた。その顔に、怒りなんて感情はどこにも無かった。

 

僕は思わず、彼女を抱きしめていた。

 

「レフィ、レフィ!良かった、本当に良かった!」

 

嬉しくて彼女へ飛びついた。そのまま顔を近づけ、唇を奪う。

長い、長いキスを経て僕はようやく、彼女に本気で向き合えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

「コホン、では、良いですか?」

 

一部始終を巡回中のアミッドさんに見られていたらしく、わざとらしい咳払いから会話は始まった。

 

「レフィーヤの病気って一体なんですか……?」

 

恐怖に潰されかけそうになりつつも、何とか声を絞り出す。私は大丈夫、離れたりしないからと、指を絡めたその手から伝わってくる。

 

アミッドさんは面食らったような、呆気に取られた表情で僕たちを見てくる。その後になんだか扱いに困った子供を見る表情に変わり、深く、大きくため息をついた。

 

「どれだけ鈍いのですかあなたは……」

 

その後にアミッドさんから出てきた言葉の衝撃と重みは、今後永遠に忘れることは無いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます。あなたの伴侶、レフィーヤさんのお腹には新しい命が宿ってますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

僕達は顔を見合わせる。それから、体の奥底から湧き上がる感情が溢れ出した。

 

「やった、やったよレフィ!子供だ、僕たちの子供だよ!」

 

「うん、うん!良かった、本当に良かった!!ありがとう、ありがとう!!」

 

その日僕は3年の時を経てようやく、【分かち合う】喜びを思い出した。

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