山吹色の白兎   作:あルプ

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山吹色の白兎

 

妊娠が発覚した後、僕達はすんなりと結婚して今は幸せに暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 

………そんなはずが無かった。物事の一つ一つ、とてつもない苦労があった。今でこそ最高に幸せだが、そこに行き着くまでは地獄のようだった、、、

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

妊娠が発覚し、その3日後に遠征から帰って来るなり心配して来てくれたリヴェリアさん達幹部に事情を説明した。

すると、フィンさんがニヤリと邪悪で爽やかな笑顔を僕たちに向けて言った。

 

「まさかここまで行くとは思ってなかったけど……とりあえずおめでとう。これでベル・クラネル。君もひとまず落ち着けるかな?」

 

落ち着けるかな?この言葉にハッとさせられる。確かに、わずか数ヶ月の間でレベルが5近くに上昇した僕は、冒険者として落ち着いた期間が無かった。皆と別れたあとも自暴自棄で荒れ散らかしていた。決して、落ち着いた冒険者生活では無かった。

 

「それに、これは君の主神からの依頼だったんだ」

 

「え、ヘスティア様が!?」

 

「ああ。ロキのところに来て、再三に渡って頭を下げていたよ。『壊れてしまった僕の大切な子供を元に戻す手助けをして欲しい。僕達ではもうどうしようもないんだ』って」

 

初めて聞く話だ。ステータス更新の時の会話自体が半年ぶりの会話だった。その時にもきにかけてはくれていたようだが、あくまでそれは"フリ"だとしか思っていなかった。

 

どうして気づかなかったんだ……彼女は、いや、ファミリアの皆は、いつも僕を心配していてくれていたのに。どんなに僕に拒絶されても、声をかけてくれていたというのにっ、僕は………僕は…………!!!!!!

 

「本当に……僕はどうしようも無い人間だ」

 

今になって湧き上がる後悔と自責の感情。過去の蛮行の数々が記憶の濁流となり、遂には涙腺の防波堤を決壊させた。

枯れ、朽ちていると思っていた涙が、黒ずんだ古い木板を濡らしてゆく。

 

「ベル……」

 

後ろから、何度も何度も僕を救ってくれた温もりが僕を包んでくれる。でも、どうしてなのか暖かくならない。心の奥から冷え切ってしまったような感覚。今までとは別種の味わったことの無い恐怖が僕を支配してゆく。

 

やめろ、やめろ。やめろ、やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい……………

 

 

 

 

 

 

「ベル・クラネル!!!!目を覚ませっ!!」

 

 

 

 

 

 

鈍い痛みが頬を貫く。ハッとなって我に返ると、目の前のリヴェリアさんが「すまない」と言って一歩下がる。僕は礼を言って、恐る恐るフィンさんへと向き直る。レフィの手を握りしめ、視界がぶれる中、なんとか踏みとどまってまっすぐにフィンさんを見据える。

 

「ベル、無理かもしれないがあまり不安にならないで欲しい。ファミリアの皆は君を恨んでたりはしない、帰ったらむしろ歓迎されると思うよ。だけど……」

 

僕は息を呑む。彼の一挙手一投足が、今まで僕が目を逸らし続けてきた現実を写しているようで怖かった。

だが、その後に放たれた言葉は意外な言葉だった。

 

「結婚のことは分からない。君が帰ってくるだけなら問題も無いだろうけど、正直君たちの関係がここまで行くとは思わなくてね。子供も出来たことだし、もちろん結婚も考えているのだろうけど、異なるファミリア間の問題だから難しくてさ……」

 

珍しく言葉を濁し、親しみやすく表情を崩す。もちろん、僕は賛成だよ?けしかけたのは僕達だからね、 と付け加えることも忘れずに。

 

「とりあえずレフィーヤが退院するまでに説得出来るよう頑張ってみるよ……でも、君の方が難航するかもしれないから、なるべく早く言いに行くことをオススメするよ」

 

ふと、神様の顔が浮かぶ。あの善性100%の神様だからスパって決まりそうなんだけどなあ。

 

「最後に。レフィーヤ、妊娠おめでとう。ベル・クラネル、2人を絶対守るんだ。男の約束を違えたりするなよ?」

 

「はい。絶対守ってみせます」

 

「レフィーヤ…おめでとう。娘が旅立つ感覚で悲しいものがあるが……頑張ってくれ。これから大変だろうが、お前は強い。そのお腹に護るべき赤子がいるならば、その子の誇りとなるように胸を張って生きてゆけ」

 

「はいっ!ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

「反対反対!絶対認めへんでウチは!」

 

やっぱりこうなってしまったか……と頭を抱えるフィン。アキとラウルの時は手放しで喜んだのに。でも、他ファミリアでしかも目の敵にしている神のファミリアならばしょうがない気もする。

しかしなぜ、リヴェリアはこうも黙っているのか。こういう局面はガレスが頼りないからリヴェリアに応援を要請したというのに。

 

「ロキ、そんなこと言ってもレフィーヤは子供を身篭っている身なんだよ?ダメだダメだって言うのはあまりにも酷すぎるとおもうんだけ「うるさーい!!そんなん既成事実作っただけや!そんなこすいやり方認めたないわ!」

 

「実際そうかもしれないけど、僕達がけしかけたのは事実なんだよ。けしかけた事実があるのに既成事実って言われても納得出来ないんじゃないかな。どちらにせよ、僕は彼らを祝福したいんだ」

 

「はあ?意味わからんわ!ってか、けしかけたのは知っとるし、それ込みで大反対っちゅうとるんや!」

 

ダメだこれ。すまないベル・クラネル、ぼくの口からではなんともならなかったよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈む重苦しい空気の中に張り裂けるような軋む音が響く。

僕は思わず横を振り向いてしまった。そこには記憶にこびりつくような、鬼神の形相をしたリヴェリアが主神を睨みつけ立ち上がっていた。恐らく、ウダイオスですら怖気付く恐怖のオーラを纏っていたと思う。それくらいの恐怖と悪寒を僕はこの小さな身体全身で感じた。

 

「おい…ロキ」

 

ゆらりとロキの前に立ち、胸ぐらを掴む。服ごと持ち上げられる形になったロキは何も言えなくなり糸目を見開いている。

 

「なっ」

 

「ロキ。私は貴様をお調子者だが子供を想う神として尊敬していた。他派閥同士の結婚に難色を示すのもよく分かる……だが、今回貴様は感情論でしか物事を言わないじゃないか。ただ、神ヘスティアが憎い一心で反対している。違うか?」

 

「ち、違わん……」

 

「ならば私は貴様を許さん。こちらが要請したことは知っていて、こうなることも予見できた筈なのに反対もしなかった奴がガタガタ言う資格などないっ!!!!!!産まれてくる子供に、レフィーヤに、今後どんな顔をして会うと言うんだこの痴れ者があっ!!!!」

 

猛烈な勢いで雷を落とすリヴェリア。その怒号は館全体に響き渡り、野次馬が続々と集まってくる。

 

ロキは涙目で声を絞り出すことさえままならない状況。常に理論武装して重要な話し合いに臨むロキには珍しく感情論を押し通そうとした結果、母親代わりとして奮闘してきたリヴェリアの堪忍袋の緒が切れた。

こうして、円満では無いものの渋々ロキファミリアとしては彼達の結婚を承認した。

 

しかし、リヴェリアとロキの確執は彼達の子供が産まれるまで長々と続いた。板挟みで何ヶ月と耐えてきた僕やガレスを誰か労わって欲しいよ、冗談抜きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

竈の館の門の前に仁王立ちするのは、長めの白髪に特徴的なルビライトの瞳をしている冒険者。黒いローブを脱ぎ、いつしかヴェルフの考案した呼び鈴をカランコロンと鳴らす。

 

「ふあ〜ぁ。誰だいこんな時間にぃ……って、ベルくん!?」

 

久しぶりに顔を見た神様はどこかやつれているようだった。神様は僕を見るなり慌てて館の中に入ってゆく。ああ、やっぱり怖いよな。逃げられてもしょうがないか……と思って、極東に伝わる謝罪の究極奥義である【DOKEZA】を用意し、神様が再び来るまで待った。

 

神様が来た時は、ファミリアの皆も一緒だった。リリと春姫さんは泣いていて、ヴェルフは僕を見下ろすように立った。神様は後からゆっくりと出てきた。

僕は姿勢を崩さなかった。いや、崩せなかった。顔を上げられなかった。

 

「これまでの事、許してもらえるとは思っていません。でも、男としてのケジメをつけるために謝罪と、傲慢ですがお願いをしに来ました」

 

僕は顔を上げる。何を言われるか分からない恐怖。3年間直視してこなかった目の前の仲間たちの顔は何を考え、訴えようとしているのか全く分からない。

しかし、これは結婚抜きにしなければならない。

 

「団長業務を代わりに請け負ってくれていたリリ、僕のわがままにいつも付き合わせていたヴェルフ。この3年一切話すこともしなかった春姫さんに、ただ強くなるために利用する形になっていた神様。僕はこれだけのことをしました。一声で断罪しても良いです。本当に、申し訳ございませんでした!!!!」

 

気まずい空気が僕たちを取り巻く。不意に、コツコツと誰かが近づいてきて……僕は抱きしめられた。

暖炉の側にいるような感覚。ああ、神様だ。僕の敬愛する神様だ。天涯孤独の僕の家族はここにいるのだと、心の芯から暖まる気がした。

僕の瞳からは返事を待たず涙が溢れ出てきた。抱きしめた神様はその行動が返答だと言わんばかりに、強く優しく僕のことを抱きしめた。

 

僕はこれまでどうしても流せなかった涙を枯れるまで流し、その後に顔を皆に向けて笑った。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「ぜ〜ったい許さないぞ!そんなこと認めてたまるか!!!!」

 

「話を聞いて下さい神様!」

 

特徴的なツインテールが感情の昂りと共に逆立ち、ベルを穿たんとしている。

ベルは慌てて宥めようとするも、全く聞く耳を持たない。先程の感動はどこへやら、儚く空を支配する曇天に吸い込まれてしまった。

 

「ヘスティア様!落ち着いて、さっきの慈愛の化身の姿はどこに行ったんですか!」

 

リリルカは必死に後ろからヘスティアがベルに襲いに行かぬよう捕まえている。

 

「春姫!この前作った縄もってこい!」

 

「キュウ……」

 

「ああダメだ!?こいつショックで気ぃ失ってやがる!」

 

まさに地獄絵図。引き起こした当人であるベルは狼狽してオロオロあっちを向いたりこっちを向いたりしている。

 

「今まで何も言わなくてごめんなさい!でも、しっかり伝えなきゃって思って」

 

「そういう問題じゃないやいこのバカベルくん!」

 

ええ……じゃあどういうこと?と全く心当たりが無い鈍感兎は頭を抱える。

 

謝罪を受け入れてもらい、「お願いってのはなんだい?」と促されて「他派閥なんですが、結婚を認めて欲しく思って……」と言ったら突然神様が襲いかかってきた。怖かった。ジャガーノートが背後に見えた。

ヴェルフとリリがじたばたする神様を捕まえるも、その目は完全に肉食獣が弱き草食獣を狩る時のそれ。瞳孔が開いてて、呼吸音がフシューフシューとおおよそ正常な神様のものじゃない。負の神威だだ漏れの神様を見て、僕は久しく相手の強大さそのものに怖気付いた。

 

「神様……話を、話を聞いて下さい!」

 

ピタッと神様の動きが止まる。

 

「フィンさんから聞きました。ロキファミリアにも協力を仰いだんですよね?苦手な神様のはずのロキ様に頭を下げてまで僕の更生に力を尽くしてくれたって」

 

「だから運命の人と出会えて結婚ってことかい?」

 

「はい。神様が働きかけてくれたお陰で僕は再びまっすぐに前を見据えて歩き出すことが出来ました。そして、前を向くきっかけになったこれからを共に歩いてくれる人との3人での生活、これを結婚と言う形として認めて欲しいんです」

 

それから十数分と神様は固まって熟考していた。

 

意を決したように目を開き、僕を正座させ向かいに神様も座る。

すぅ、と深呼吸をし、口を開く。

 

「分かったよ。ハーレムなんてものを目指していた君にもようやく最高のパートナーが見つかったんだから、認めないわけにはいかないじゃないか。大切な子供の晴れ舞台を素直に祝えなくて何が神だ!」

 

一息に言った。僕はこんな高尚な神様に出会えて心底良かったと感じた。

しかし、次の言葉の衝撃に全て掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、ボクとも結婚しよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳を疑った。聞き間違いだと思いたかったが、後ろに見えるヴェルフとリリの顔が悲しいかな、聞き間違いではないと言っている。それを見たおかげで、2度目の衝撃に倒れそうになる。

 

「うんうん。ここでは一夫多妻なんてものはザラにあるんだし、それも良いよね!3人でってことだし、あんなに好き好き言ってくれるベルくんから遂に結婚の話が出たんだ、ボクがその輪の中に入ってもおかしくないおかしくない!」

 

よく分からない飛躍した論理で勝手に頷いている。え、怖い怖い。神様ってこんな神だっけ?数秒前まであった僕の尊敬を返してもらいたい気分だ。あ、よく見たら目が完全に逝った人の目だ。滲み出る雰囲気も精神的に狂ってた頃の僕とよく似ていた。

 

「頭イカれてるんですかヘスティア様!」

 

「なんでボクの恋路を妨害するんだサポーターくん!どちらかと言えば君もこっち側だろう?!」

 

えぇっ!?どういうことですか神様!?ってか、リリがこっち側って何のこと!?リリも否定してよ頼むからァ!!!!

 

「リ、リリ…….?」

 

「確かに……リリはヘスティア様側です。それでもリリは!好きな人の幸せを願います。それに、ヘスティア様は何か勘違いしてます!」

 

「っ!!!!」

 

目を見開く神様。真剣な眼差しのリリ。終始置いてけぼりの僕とヴェルフ。

 

「ね、ねえ……ベルくん。勘違いって何のこと…か、な?」

 

チラリと僕を見る神様。未だに言わんとすることを理解できない……

 

「あ、一番重要なことを忘れてました。最初に言うべきだったんですけど」

 

「なんだいなんだい?教えておくれよ!」

 

「僕と婚約者のレフィーヤとの間には子供がいるんです。だから、簡単には引き下がれません!泥水を啜ってでも認めて貰えるまでここにいます」

 

場が今日何度目か分からない静けさに包まれる。

 

「えと……神様、よろしくお願いします」

 

耐え切れず口を開いた。その内容が起爆装置だったようで、皆の感情が一気に爆発した。

 

「そうかベル!お前も男になったんだなぁ……感慨深いぜ、おめでとう!!!!!!」

 

「ベル様が、ベル様が、ベル様が…………ここここ、こ、こ、子供おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!??????」

 

「ベルくん、それは本当なのかいっ!?でも、嘘はついてないしぃぃぁぁぁ!?」

 

「ヘスティア様が壊れた!」

 

「皆さんご迷惑をかけました……はて?これはどういう状況で?」

 

「ベ、ベ、ベル様がぁぁぁ」

 

「リリルカ様?お顔が凄いことになっておりますよ。落ち着いて下さい。ハンカチどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます。じゃなくてっ!!!!ベル様が子供を作りました!!!!子供ですっ!!!!結婚は結婚でも全てやり終わってからのデキ婚でしたぁぁ………」

 

「……………え?子供?デキ婚?それはつまり、、、ベル様とベル様の伴侶の方は……その、つまり」

 

「"そういうこと"をしたってことですね」

 

「は、はわわわわ……!!!! …… キュウ」

 

「ま、また春姫様が倒れてしまいましたァ!?」

 

「ちょ、こっちもヘスティア様が完全に放心してる!送還されそうな生気の無さだからとりあえず2人を寝かせるぞ!!」

 

「はいいぃ!!!!!」

 

「えっと、ボクはどう「ベル(様)は黙っておけ(おいてください)!!!!」

 

ベルはそのまま、ポツンと群れからはぐれた兎よろしく悲しそうな顔で正座のまま放置された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

結局その日は交渉が纏まらず、後日レフィーヤと共に訪問することになった。

 

「そんなことが……大丈夫ですかね?多分、神ヘスティアと春姫さんはベルのことを異性として好いていたからそうなったと思うんですけど」

 

「まさか。少し前まで人間として終わっていた僕だよ?好きでいてくれた人なんてレフィ以外いるはず無い」

 

断言するベルに少し呆れ、ため息を吐くレフィ。

 

「それに、仮にそうでもレフィ以外の人は眼中に無いよ」

 

満面の笑顔で言うベルに、恥ずかしがってクッションに顔を埋めるレフィーヤ。レフィーヤ渾身のジト目抗議も虚しく素通りされたようだ。

 

「僕の方は絶賛難航中だけど、レフィの方はどうなの?」

 

レフィーヤは苦々しい感情を表に出しつつ、事の経緯をはなす。

 

「交渉は成立したんだ。良かったよ」

 

「良くないですよっ!!!!いや、良いんですけど最高ですけど、リヴェリア様が完全に鬼神と言うか、反対するロキを吊し上げて凄まじいことになってるそうなんです!」

 

「反対勢力を潰してくれるのは結構なことじゃないの?」

 

「下手したら内部抗争どころか送還でロキファミリア解体ですよ!?ああもう、頭が痛い……」

 

「愉快だなあ」

 

ケラケラ笑うベルに少しげんなりする。でもなんだろう、心が磨り減った反動か自分と私の幸せしか眼中に無い言動が多々見られる。

でも、誰でも助けようと無茶無謀な冒険を繰り返すあの頃のベルはかっこよかったと同時に危なっかしくて見てられなかったのも確かだ。

そんなベルがやっと落ち着ける場所を見つけた、それが私の隣だってのが凄く嬉しい。だからこそ、ベルの隣は誰にだって譲りたくない。そのうち英雄候補を堕とした女って言われる日が来るかな。あれ、私もベルのことを言えないくらい独占欲強くなってる気がしてきた。思わず声を出して笑ってしまう。

 

「どうしたのレフィ?」

 

「なんでもないですよ」

 

「なんでもないってことは無いでしょ、ねえなに?」

 

「なんでもないってば」

 

「気になるじゃんか」

 

このまま平和なまま時が過ぎていけば良いのにな。今が楽しくてしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

2日後、ヴェルフに連れられて再びホームへ向かった。門が開かれ、奥の扉からヘスティアが出てくる。2人の緊張は最高潮に達していた。歩く時に同じ腕と足が同時に出てしまうほどの緊張感を生み出していたのは、神ヘスティアと神ロキの神威。そしてロキファミリア代表のリヴェリアからの威圧。前に置かれたグラスは心無しかカタカタ揺れている気がした。

 

「今から話すことは、両ファミリア間の結婚のことについてだ。2人はそれぞれ団長と幹部という立ち位置であるが故、我々の一存で決めることは出来ない。だから、両神の承認の元決定することとする。異論は無いな」

 

黙って2人は頷く。リヴェリアが顔を二柱の神の方へ向くと、神ロキが立ち上がった。

 

「言わんでも分かると思うけど、ウチは賛成や。正直まだ認めたくない。やっぱり認めた無い。でもな、確かにリヴェリアの言う通り、子供の門出を祝えん奴は神として以前に親としても失格や。だから認めたる」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

机に額を当てんばかりに深く座礼をするベル。

 

「だけどな、1つ条件がある。絶対にレフィーヤを守り通せ。これを守れんかったら即解消や」

 

「はい、承知の上です。命に替えても守り通し「待てベル・クラネル」

 

リヴェリアに急に静止される。驚くベルを射抜くように向かいから冷たい視線を送る。

 

「命に替えてなどと間違っても言うな。命を失えばそれまでだ。貴様は満足だろうが残された者の事を考えない言動は頂けん。護るべき人がいるなら、自分の命を守れ。自らの命を省みない奴に他の命を守り通すことなど出来ない」

 

諭すように、淡々と告げる。その言葉の中に、多くの仲間を目の前で失ってきたハイエルフの苦悩が現れているようだった。

二度とこんな顔をさせてはいけない。決意を胸に口を開く。

「レフィも子供も守って見せます。それに、死ぬ時はレフィーヤの隣でって僕は決めてるんで」

 

ベルの言葉にリヴェリアさんは優しく微笑む。

 

「ロキ、割り込んですまなかった。続けてくれ」

 

糸目を鋭く見開いた神ロキ。だが、こちらもニヤッと笑顔をベルに向けた。

 

「うちの言いたいことはママが全部言ってくれたわ。そーゆーこと。命を大切にな」

 

「誰がママだ!全く……」

 

神ロキの冗談で笑い声こそ無いが、張り詰めていた空気が和む。流石は道化の神と言ったところだろう。

 

しかし、もう一柱の神は表情を崩さない。黙ったままベルとレフィーヤを見つめている。

 

「コホン。か、神ヘスティア、貴方はどう判断しますか?」

 

柔んだ空気がまた硬直する。各人に緊張の糸が張り巡らされ、ハイエルフでさえも思わず萎縮してしまうほどの神威が彼女からは振り撒かれていた。

ゆっくりと、椅子から立ち上がる。いつもの丸く可愛らしい瞳からは想像できないほどの眼光の強さは、更にベル、レフィーヤの両人を萎縮させた。

 

「ベルくん」

 

「はいっ!?」

 

思わず立ち上がってしまうベル。構わず神ヘスティアは話し続ける。

 

「ボクは……異性として、神としてでは無く一人の女として君のことが好きだ。これは出会った時から変わっていないよ」

 

衝撃の告白。ベルは脳天を穿つような衝撃によろけ、レフィーヤに支えられて椅子へ腰を落とす。そして、そのまま頭を抱え込んでしまった。

 

「ベルくん、もう覚悟はできている。応えてくれとは言わない。答えを出して欲しいんだ。この僕の気持ちにどんな形でも良いから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

言葉に詰まる。言葉の続きは待てど待てど出て来ない。レフィと一緒に前に何となくでしていた雑談が、まさか本当になっていたとは。

 

……いや、もしかしたらレフィは既に知っていたのかもしれない。そのうえで、こうなる可能性も考慮していたのだと考えるとレフィの心労は図り知ることが出来ない。ほとほと自分の鈍感さに嫌気がさす。

 

こうなると僕も腹をくくらなければならない。3年前とは違う、全てをかなぐり捨てて逃げてばかりの僕とは。

 

僕はまっすぐに神様を見る。そして、隣で心配そうに僕を見るレフィの方を抱き寄せ、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様。僕はレフィだけを愛すと誓いました。英雄の道を踏み外し、人としての道すらも踏み外しかけていた僕を、無理やりにでも、体を張って救いあげてくれたのはレフィだけでした。その……神様の気持ちは素直に嬉しかったのですが、ごめんなさい。僕は神様のこと、異性として見たことは無いし、これからも出来ません。神様は路傍に迷う僕を拾ってくれた、大切な【家族】ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うん。ベルくんの答え、受け取ったよ。ならボクは、竈の神として、家族として願おう。君達に幸多からんことを、産まれてくる子供に祝福を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

「パパ!ママ!はやくきて!」

 

「そんなに走ると危な「ピャッ!!」あ……」

 

「う、うわあああああぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!!」

 

「もう、また転んだの?アルフィ、こっちおいで」

 

「ぴええぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

「泣き虫は本当に僕に似ちゃったなあ」

 

「女の子だからしょうがないですよ。ほら、もう痛くない痛くない」

 

「スンッ、ヒグッ、エグッ!!ママァァァ」

 

「しょうがない子ね。ほらおいで」

 

「うんっ」

 

「パパのとこにはいつになったら来てくれるのかな……」

 

「それは……お腹の子に期待して、ね?」

 

「諦めたくないぃぃ!アルフィ、こっちおいで!!」

 

「………」

 

「なんか言ってよぉ!?」

 

「ふふふっ♪アルフィはママ大好きだもんね」

 

コクコク

 

「あー可愛い!私の天使!」

 

「あ、レフィ!僕もアルフィを抱っこしたい!」

 

「アルフィ、パパとママどっちがいい?」

 

「ん」

 

「そ、即決ぅ!?」

 

「だよね〜ママが良いよね〜スリスリ」

 

「うぅぅ……」

 

「パパ?」

 

「あらら、意地悪しすぎちゃった。アルフィ行ってあげて」

 

「パパだいじょぶ?」

 

「隙あり捕まえた!」

 

「わあっ!ママたすけて!」

 

「でもアルフィ嬉しそうじゃない。ほら、パパに肩車してもらったら?」

 

「ほんと!?パパ、たかいたかいしてくれるの?」

 

「もちろん、それっ!」

 

「わーい!キャッキャッ」

 

「良かったねアルフィ。パパもお疲れ様」

 

「ありがと。じゃあ帰ろっか」

 

「うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Thank you for watching!!!




後日談は要望が多ければ書きます。また、アルフィはアルテミス様とフィルヴィス、目の前で亡くなった2人の名前から取りました。どこかの母親と似ている所は……彼等の運命力と言った所でしょうか。


ではまた次回作で会いましょう。ここまで見て下さりありがとうございました
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