O5-11になるはずだった彼は今日も息を続ける   作:ryanzi

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一世紀後の正常なる世界

男は恥に塗りつぶされてしまった。

19世紀はあらゆる魑魅魍魎による戦争の時代であった。

ヨーロッパではナポレオンの機械兵団。アジアではダエーバイト。

南北戦争はアメリカ合衆国からメキシコ、南アメリカまで広がっていった。

日本もその例外ではなかった。

大陸から侵攻してきたダエーバイトにより京都は陥落した。

男は数少ない生き残りの一人だった。

それは彼が命を惜しんだからだ。そして、彼はその選択を後悔した。

男が逃げた後も、男の率いていた組織は戦い続けた。

彼の組織だけではない。多くの超常団体が人間の尊厳のために戦い続けた。

何百万の命の灯が一秒ごとに消えていく規模の戦争だった。

数十年にもわたった戦争は、ある日一瞬で終止符が打たれた。

戦争だけではなかった。いくつかを除き、全ての異常がその存在を終えた。

 

「この星のイレギュラーはもう許容できない」

 

1901年6月1日、世界は正常へと復帰し、男は消えていた。

 

 

 

 

正確に事実を言うなれば、男は高校生として21世紀における人生を享受していた。

男こと寮陽聖(りょうようひじり)は自分がベンチで眠りに落ちていたことを確認した。

久々に、19世紀のときの記憶を夢に見てしまっていた。

21世紀はあらゆる平和とその裏に潜む闇の時代であった。

()()()()()()()()、あらゆる異常は消えていた。

ダエーバイトはいないのは当然として、肉と疫病を崇拝する集団も消えていた。

機械信仰(メカニト)地中海の島国(サモトラケ)二足歩行の前支配者(ビッグフット)も同様である。

いや、件の前支配者に関して言えば、都市伝説程度には残っているのだが。

さて、問題はその除かれてない異常・・・魔法少女、魔女、インキュベーターである。

目の前に広がる復興途中の街並みもそれが原因でもたらされたものだ。

 

(・・・ようやくワルプルギスが倒されたのか)

 

アレは一度、独逸帝國異常事例調査局のメンバー1人に瀕死にまで追い込まれたはずだった。

1876年のことだった。1901年における大改編でなかったことにされたが。

大改編、聖が勝手に名付けた名称。

人類史は1901年6月1日に完全に編集され尽くされたのだから、ぴったりの名前だ。

夏王朝はただの古代文明に成り下がり、ナポレオンはネオ=グノーシス主義に傾倒しなかった。

アメリカ南北戦争はアメリカ合衆国だけに収まり、ファクトリーのファの字も見当たらない。

そして陰陽寮は・・・ただの呪術的側面を持っただけの研究機関として、その役目を終えた。

 

「・・・いい天気だ」

 

魔女の口づけと使い魔さえなければ、完璧な世界だった。

闇を恐れる必要もなく、今座ってるベンチが捕食性を有することもない世界。

突然、古代種族が復活して東アジアの大半を支配することすらない。

夏の太陽と草の冷たさに満たされたような日々が続いてくれた。

無論、問題だってある。今の住処である神浜市だってそうだ。

でも、それは彼ら・・・人類自身の問題だ。

 

(わざわざ私が口出しすることじゃない)

 

前世で超常団体のリーダーだった人間がとやかく言う義務はない。

今の聖が望むのは、平凡かつ正常に生きて、あの凄惨な日々を忘却することだ。

・・・だが、運命はそれを許してくれそうになかった。

突然、彼の周囲の風景が一変する。魔女空間に取り込まれたのだ。

一般人とは違うためか、どういうわけか直接狙われることが多い。

いつもは適当に逃げていれば、相手の方から諦めてくれる。

だが、今回は違った。使い魔が真っ先に殺しにかかってきたのだ。

彼らの見た目はほぼレーザー銃であり、殺意が高めだということがわかる。

実際、撃たれたのもレーザーで、避けるのが間に合わなければ蒸発していただろう。

 

「・・・なんだこれは」

 

だが、それ以上に衝撃的だったのは結界内の風景だ。

ドーム型の壁には、白黒の映像が映し出されていた。

・・・それは、あの19世紀の戦争のものだった。

 

「ずいぶんとひどい趣味をしてるじゃないか・・・」

 

この結界の主とやらはずいぶんと聖に悪意を抱いているらしい。

逃げようにも、レーザーを避けるので手一杯だった。

魔法少女の助けを待つべきか?そもそも、それまで持つのか?

では、妖術(西洋の超常団体は奇跡論と呼ぶ)を使うべきか?

だが、魔法少女の助けが意外にも早かったら、どう弁明する?

十秒間だった。彼は避けながら考え、そして行動に移す。

 

彼は青い光を放つ透明な刀で使い魔たちを切り裂いていた。

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