O5-11になるはずだった彼は今日も息を続ける 作:ryanzi
妖術、あるいは奇跡論。人間が怪異と渡り合うことを可能にした技術。
これがあるとないとでは、かなり趨勢が異なっていたことだろう。
もしかしたら、人間はとっくに滅んでいたかもしれない。
さて、聖が構えた刀も妖術により構築されたものだ。
魔法少女の力と違い、妖術には一切の代償が目下のところ確認されていない。
使い魔や魔女を斬り伏せるなどたやすいことだ。
それでもダエーバイトからは逃げるしかなかった。
記憶を振り捨てるように、刀を振るう。
いつの間にか使い魔はいなくなっていた。
残っているのは銃の破片のようなものと聖だけ。
不思議なことに、破片はいつまで経っても消えなかった。
「・・・さて、どうするべきか」
いつもなら逃げていたはずであろう。命が惜しいからだ。
しかし、この使い魔だったものたちは殺意が高かった。
それに、背景の映像もあの大改編直前の戦争のものだ。
明らかに聖個人にのみ敵意を抱いているのは間違いない。
ここで逃げきれたとしても、永遠に追跡してくるだろう。
つまり、彼に残された手段は一つ。魔女を討伐することだ。
「私チャンが加勢してあげよっか?」
その時であった。天女のような少女が舞い降りたのは。
魔法少女だ。魔法少女に違いあるまい。
というか、それ以外にないだろう。
その少女はいかにも最近のギャルのようであった。
しかし、聖は感じ取っていた。この少女は切れ者だと。
いくつもの超常団体の長と渡り合った彼だからわかるのだ。
「ありがたい。一人ではやはり不安だったからな」
だが、この瞬間、とっくに彼は逃げることしか考えていなかった。
魔法少女は魔女殺しのプロフェッショナルだ。
あとは彼女が勝手に何とかしてくれる。そのはずだ。
さっき、討伐しなくてはと考えたのもなかったことにしていた。
だが、とにかく彼女は切れ者だった。
「あっ、女の子だけ置いて逃げようなんて考えないでね☆」
「・・・わかってるさ」
別に考えが見抜かれたわけではないようだ。
ただ、念には念を押しただけらしい。
もし見抜かれていたら、完全に不信の目になるから間違いない。
二人で魔女空間の奥に進んでいく。
待ち構えていたのは、全長18メートルの実体・・・魔女だ。
だが、魔女にしては何かがおかしかった。
その違和感を魔法少女の方から言ってくれた。
「・・・なんか人工的すぎない?」
「そうだな・・・」
普通、魔女といえば不気味、混沌といった単語が似合うような見た目だ。
だが、この魔女は違う。デザインからして秩序に対する渇望が見てとれる。
それに、まるで取ってつけられたような金属部品が余計に違和感を搔き立てた。
「・・・まさかだけどさー、人間に改造されたとか?」
「確かにそうとしか思えないが・・・そんなことできる人間がいるのか?」
「質問に質問で返すようだけど、青く光る刀を振るえる人間が普通いる?」
まったくもってその通りだった。
だが、この刀を振るえるのは妖術を覚えているからだ。
大改編以前の記憶を有した人間が他にもこの時代に生まれ変わっているのだろうか?
そうでなければ、魔女を改造なんて狂ったことはできないはずだ。
それも、特定の個人を狙うような魔女など。
それでは、なぜ聖を狙う?そもそも、どうやって聖の居場所を知ったのか?
しかし、この魔女は考えてくれる時間を与えてくれなさそうだ。
巨大な右腕のガトリング砲を彼に向けてきたからだ。
ダエーバイトよりかは恐ろしくなかった。
だから、逆に冷静に立ち向かうことができた。
「私が囮になる!こいつの狙いは私だ!」
撃ち放たれたレーザーを全て弾きながら叫ぶ。
本当は少女の方を囮にして逃げたかったのだが。
しかし、魔法少女の方にはまったく攻撃が来ていなかった。
どうやっても逃げるのは不可能だろう。
「みたいだね。じゃあ、やっちゃいますか!」
たった一瞬の出来事だった。
何が起こったのか、わからなかった。
天女が再び舞い降り、魔女の頭を大地に踏みつけていた。
そう形容するしかなかった。一瞬で魔女は倒されたのだ。
聖は改めて魔法少女の強さを思い知った。
魔女の肉体は消え去り、グリーフシードと金属片だけが残った。
「ねえ、やっぱり人間に改造されたんじゃないの?」
少女が金属片の一つを拾い上げる。
それにはRPC Authorityと刻印されていた。
魔女文字ではなく、完全に人間のアルファベットであった。
なぜ自分たちの正体につながるものを刻んでいたのか?
よほど倒されないという自信があったのだろうか?
「ねえ、グリーフシードいる?」
少女がグリーフシードを差し出してきた。
確かに聖はたった今超常的な力を使っていた。
しかし、妖術あるいは奇跡論は精神の穢れがたまらないのだ。
「いや、私はいい。君が使ってくれ。
今回大活躍したのは君なんだからな。
それに、私は使わなくても大丈夫だから」
「ふーん・・・じゃあ、お言葉に甘えて☆」
背景の映像も消えつつある。この空間もそろそろ終わりだろう。
「ここであったことはお互い忘れよう。その方がいい」
そう言って立ち去ろうとすると、ひめなに腕を掴まれた。
「これで終わりだと本当に思ってるの?
私チャンが犯人だったら、もっと強い魔女をけしかけるよ?
ねえ、手を組もうよ!私チャンの名前は藍家ひめな☆君の名前は?」
ひめなと名乗る少女の言うことは尤もであった。
確かにこれで終わるとは限らない。
むしろ、もっと状況は悪化するのは目に見えている。
「・・・寮陽聖だ」
「よし、聖くん!ここは同盟と行こうじゃない☆
聖くんもなかなか強かったし、上手くやってけるの間違いなしだよ!」
「・・・そうか」
「もっと自信持ちなよ!普通の人間にできないことやってたし!」
聖はひめなの調子に完全に翻弄されていた気分がした。
これは知ってる。あの大改編以前にも体験したからだ。
超常現象の確保収容に関する王立財団のリーダーと似た調子だった。
彼もまたひめなと同じくらい、いや、それ以上に切れ者だった。
それに、自己肯定感も異様に高く、自分は神に選ばれた人間だと信じていた。
それどころか、神から与えられた使命を遂行する新しい組織の設立すら望んでいた。
(・・・彼もこの時代に転生したのだろうか?まあ、もう会うことはないだろう)