O5-11になるはずだった彼は今日も息を続ける   作:ryanzi

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続いてほしい日常

結界から出た後、最初に感じたのは太陽の眩しさだった。

こんなにも太陽は明るいということを改めて知った。

だが、すでに聖は暗闇に置かれていた。

ワルプルギスが来た時は少し離れた場所に避難するだけでよかった。

でも、今回ばかりはそうはいかない。

彼は既に巻き込まれているのだ。自身の命を狙う陰謀に。

望むのはただ一つ。さっさと解決して、また光の中で忘却することだけ。

 

「ところでさー」

 

「どうした?」

 

「あの白黒映像って何だったんだろうね?

昔の戦争にしてはファンタジーなモノが映り込んでたし。

なんかSFチックな兵器もあったような気もするし」

 

おそらくファンタジーなモノとは妖術や怪異であろう。

そして、SFチックな兵器はナポレオンの機械兵団だ。

世界各地を転戦することで目にしたことがあった。

よくもまあ、1901年6月1日を迎える前に世界が滅びなかったものだ。

今の世界であんな戦争が起こったら、間違いなく人類史の終焉は確定だ。

 

「気にしないほうがいい。

ああいった空間なんてどれもこれも無意味だ」

 

平静を上手く装いながら言った。

しかし、彼女は何か不審に思ったようだ。

さすがは切れ者だ。

 

「ひっじー、何か隠してない?」

 

「何を?」

 

またしても平静を、さらに言えば、もっと上手く装いながら言った。

こういったことはもう朝飯前だった。人を騙すのなんて・・・。

あらためて、聖は彼自身に吐き気を催した。

 

「うーん、気のせいかあ」

 

「ところで、そのひっじーというのは私の呼び名ということでいいのか?」

 

いつもは違う渾名だから違和感が生まれたのだ。

 

「うん?もうとっくに渾名があった感じ?」

 

「ひじき」

 

「そう・・・ひじき?」

 

「そうだ、ひじきだ」

 

ひめなは笑いを何とかこらえているようだった。

気持ちはわからなくもない。

どう考えても、冗談めいた悪口にしか思えないからだ。

 

「まあ、名付けた子によると誉め言葉らしいが」

 

「えっ?完全に人権侵害としか思えないような渾名だと思うんだけど?」

 

「そこからはあーしが説明してあげよう!」

 

二人の目の前に金髪の腕輪を付けた小悪魔のような少女がドヤ顔で現われた。

彼女こそが聖に渾名を付けた張本人であった。

 

「ほら、ひじきって見た目は地味だけどすごく美味しいじゃん!

ひじき兄ちゃんも地味っぽいけど、輝いているから!

あと、聖とひじきって読み方が似てるし!」

 

「・・・よくわかっただろう?

おかげで私の学校の教師からもひじき呼ばわりだ。

この子とは違う学校のはずなんだけどな」

 

「あー・・・でも、確かにぴったりだよね☆

地味系だけど、悪くはないし、深みがあるよね」

 

「でしょ!」

 

聖は頭をぽりぽりと掻いた。

似たような者同士が同意してしまった。

意気投合の域にまで達するのはそう遠くないだろう。

 

「私チャンは藍家ひめな!あなたは?」

 

「あーしは木崎衣美里!

参京区の方で相談室やってるから悩みがあったら来てみて!」

 

「うん!来てみるね☆」

 

「楽しみにしてるからねー!」

 

ちなみに、聖は木崎衣美里も魔法少女だというのはわかっている。

まあ、彼女の方は聖がそれを知っているということを知らないのだが。

魔法少女は気配と粒子の流れを体感することで判別できるのだ。

これは陰陽寮、蒐集院、五行結社の一員であれば誰でもできたことだ。

いや、海外の組織のメンバーでもできたことだろう。

魔法少女に対する扱いは組織ごとに違ったが、今話すようなことではない。

二人の魔法少女はお互いの趣味について話した後、SNSのアドレスを交換した。

もちろん、聖もひめなとアドレスを交換した。

これでいつでも連絡を取り合える・・・結界内で電話が通じればだが。

とりあえず、ここでいったん別れることになった。

 

(また後で話そ)

 

ひめなは瞳でそう言ってきた。

もちろん、聖もそれを理解し、うなずいた。

今度は衣美里と二人きりになった。

彼女とは家が隣であるから、帰り道も同じになるのだ。

他愛のない会話をしながら帰っていった。

今日何があったとか、あの子がこんな面白いこと言ってたとか・・・。

聖はそんな日常を愛していた。

たとえ、幼馴染が短命とされていた魔法少女でも関係なかった。

わかるのだ。何かが変わりつつあると。

インキュベーターも以前から見かけなくなった。

つまり、神浜市は『インキュベーター・ブラインド』に変化しつつあるのだ。

『インキュベーター・ブラインド』、大改編以前は各地に存在していた。

しかも、たいていは何らかの浄化作用付きというものだった。

おそらく、今展開されているブラインドもその類に違いない。

そういったものは超常的な技術やアイテムで常に実現されてきた。

異常とそれにかかわる人間たちで溢れていた時代は魔法少女にとって理想だったかもしれない。

だが、大改編によりそういった技術は今日に至るまで失われてしまった。

しかし、何者かが再びそれに成功したのだ。

聖と衣美里はこの世界で穏やかに生きながらえることができるかもしれない。

 

「ひじき兄ちゃん、また何か難しいこと考えてるでしょ」

 

「うん?そうだったか?こういう日々が続けばなと考えてただけだが・・・」

 

すると、一瞬だけ衣美里は複雑そうな表情をして、また明るい表情に戻った。

しまったと思った。魔法少女にはこういう話題はしていけないのだ。

浄化作用のあるブラインドがあるに違いないとはいえ、彼女たちは明日をも知れぬ身なのだ。

謝ろうかと思ったが、聖はすぐにそれは無理だと悟った。

なぜなら、聖が魔法少女を知っているということを、彼女は知らないのだから。

 

「・・・続くよ、きっと!」

 

聖も心の中でそうなってほしいと祈った。

でも、それを許さない誰かが自分の命を狙っている。

早くそれを突き止めて、また日常に戻らねば・・・。


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