名誉と速力   作:pilot

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お久しぶりです。リハビリです。他の小説も進められるといいな......


戦争屋

「お前も統べるものとなるのだろう。そして力でその正当性を主張している。私と何も違いはないだろう。渋る必要が何処にある?」

 

なぜこうなったのだろう、そうシンボリルドルフは思った。

目の前にいる彼女を笑うことは出来ない。きっとエアグルーヴや、その他寮長の面々は即座にこの「勧誘」をはねのけただろうに。

 

だがどうにも、このウマ娘にはそれを真正面から無視することが出来なかった。

 

正しい。正しくない。そういった観点からは答えを出すことは難しい。それはつまり、個々の価値観に則った話題となるはずだ。

だからこそ。そう、彼女らの間に明確な差が無いからこそ、シンボリルドルフは硬直していた。

向き合うは、瞳に湛えた闘争心を隠そうとすらしないだけの、ただの「人間」。

しかしそれは、どうしようもなく「戦い」そのものだった。

 


 

────ここはトレセン学園。

皆の憧れ、輝ける栄光の舞台、

「トゥインクルシリーズ」を目指して走る前途有望なウマ娘たちが数多く集い……

仲間たちと共に学び、身と心を鍛える切磋琢磨の日々を過ごしていた……。

 

のだが。

 

「堕落している」

 

 

そう吐き捨てながらも。そうであっても、今日またこの希望にあふれた学園の門を潜る人間が居る。

といっても、ウマ娘ではない。足は遅いわけでは無いが、しかし圧倒的なわけでは無い。人としての範疇に収まっている。

けれど、それは関係なかった。彼女はそもそもトレーナーである。何か、誰かを鍛え上げるからこそトレーナーなのである。

だからと言って、怠慢が許されるものでもなく、彼らは彼らでウマ娘に迫る努力をどこかでしているのだろう。

 

一歩。学園の中に足を踏み入れた。二歩、三歩。

彼女の歩みはまるで征服者のようで、ただ歩いているだけだというのにどことなく恐ろしい。

 

影を引き連れ道を往く。

彼女はそれでも新人だった。

 

ラムヌーシア。親に名付けられたであろうその名で彼女を呼び表すものは少ない。

 

彼女は気性難だ。それも飛び切りの物を持っていた。

誰に対しても、何かしらで戦いを挑んでいる。どんな時でもそれをやめようとはしない。

 

故に、こう呼ばれる。

ウォーモンガー、と。

在学中の逸話には枚挙に暇がない。無論、手放しでほめることが出来ない物ばかりで埋まっていた。

 

歩きながら周囲を睨み回す。ただ見回すだけなのだが、威圧感を隠せていない。

というより隠そうとすらしていないのだろう。

何かと威圧感を出すというのは彼女にとって都合が良かった。

 

「誰、あの人……」

 

勿論、ウマ娘はそれらに怯える。当然だろう、厳しい先生、トレーナーは居れど、威圧してくるそれは誰も聞いたことも見たことも無い。そもそも普通なら意味がないからだ、そんなものは。

 

まあ、こうなるのであれば普通ではないのが道理だ。

 

彼女は弱い物が兎に角嫌いだった。異常ともいえる信仰心がそこにあって、尚且つ自覚的。

 

今ラムヌーシアを恐れたウマ娘を、彼女自身は歯牙にもかけていなかった。

何が将来有望か。私を前にした程度で怖気づくなど、と。無理な理屈だ、今のところは。

どうせなら私にも噛みつくようなウマ娘が良い。そう、例えば「武士のような」。この新人は早くもオーダーを決めているようだ。

 

傲慢だ。それでも何故ここの門を通れたのか。

ひとえに有能だったから。単純かつ残酷で、そして名誉のある理由。

理事長は悩んだだろうか。あるいはそれでも賭けたのだろうか。

 

 

そのためああいった敬遠は心地よかった。そう感じた。

敬遠と軽蔑と、そして人々がそれぞれ抱く恐怖こそを尊んだ。

だから戦いが起きるのだと。

 

 

 

今日は選抜レースがある日だ。このトレーナーは食堂を利用するためだけにこの学園に来たわけでは無い。

 

有能なウマ娘と、そうでないウマ娘を、どうやって見分けられるだろうか?

 

勿論、見ただけではわからない。走ってる姿を認めるまでは。

 

屋外の席のそこかしこにトレーナーが座っている。

その端、ポツンと一人、ラムヌーシア。

当然と言うべきか誰も隣になど座るものはいない。後ろもなんだか嫌だし、前だって。

観察の邪魔をしたら何をされるか分かったものではない。離れていた方が良い。そんな会話が聞こえてくるようで、何処か滑稽に感じた。

 

気に入らないのならば逃げるのではなく叩きのめせばいいのに、そう笑みがこぼれる。

 

何はともあれ、これは寧ろ良条件だ。まず一つ目の理由として、単純にウマ娘たちが良く見えるというもの。そして二つ目に、彼女は軟弱なトレーナーではないので、~~がすごかった、~~は良いだのという他人に同意を求める行為を鬱陶しい思っていた。だから一人が良かったのだ。一つ目の理由が視覚に関するものだとするなら、これは単純に聴覚にまつわるものだと言える。

その上で、自分の付き合う、それこそ「最も強い」ウマ娘の判断に他人の考えを取り入れるという迂闊さが、彼女の考えの範疇の外にあったのだ。隣で談笑しあうことすら意味不明。

次に会うときは、下手をすれば明日から――――

如何に手法を共有するとは言え、お互いを蹴落とすことになることを誰もしらないのだろうか、と。

 

勝つウマ娘は、誰かの夢を足蹴に走っている。どれだけきれいごと並べようともそれは覆ることはない。マイナーと言うか、殺伐とした結論だ。

けれどもこのトレーナーはそう考えている。だから、いくら早くても「勝ちたい」覚悟が無ければ、と。

 

 

新品のペットボトルのキャップを乱雑に握り、ぱきぱきという音を響かせながら一気に捻る。

冷たい水分を口内、続いて喉に一気に流し込み、味わうことなく蓋を閉め。

そして視線はぶれることなく、レース場の方に注がれていた。

 

丁度その時にゲート入りが終わったらしい。その間ずっと視線を向けていたが、先ほどのような、視線に気圧されるウマ娘は居なかった。

 

――――むしろ。むしろ、誰一人として外野の事など一瞥もしていない。ただゴールを、いや。目の前の走るべき道筋をみていたからだ。既に戦場の中に居るような緊張感がビリビリと目蓋を揺らす。

曲がりなりにも、アピールタイムだぞ。そういった月並みでくだらない感想は、刹那の内に消えていく。もっと別な、ワクワクに似た其れに淘汰されていくのだ。

それこそ、「私に噛みつくような」ウマ娘が見つかるかもしれない。そう感じた。

 

透くような風がターフを駆け抜け、美しい毛並みたちをばらけさせていく。自分自身に無い尻尾が揺れる様に、ラムヌーシアは釘付けになっていた。まるで狼のそれのような、獰猛な感情がみて取れる。酷く羨ましい。そして、欲しい。

 

ゲートインする瞬間。窮屈な世界に入れられる彼女らだが、そのまま閉じ込められるわけではない。

 

1走目。

ゲートが空気を割きながら開く。この瞬間はいつだって、誰だって。外野はもちろん、ウマ娘だって────

前のめりになる。尋常ではない脚力をフルで起爆させ、その身に、一つのロスもなく伝え加速するためだ。

一直線上に体を持ってこなければそれは物理的に不可能な所業。もちろん、その見た目の不安定さが示すように、負荷の大きさは我々人間では一生体験することの無いものなのだろう。無論、本人達にとっても。

 

かといって、ノロノロとジョギングの様に走り始めるのは精々地方の......いや。地方でも「羊」染みた、馴れ合い学園程度でしか見られない。

仮に初速を大して求められない追い込み、差しだろうと、それでも好位置につかなければ隠した爪を失くしたまま終わってしまう。それでは如何に素晴らしい狼だとして、ただの肉塊と変わりはない。羊の方が食らうには柔らかくてマシであろう。

 

だがここは、なんだ。

トレセン学園とは、なんだ。

最早堕落しきったと、彼女自身は考えていた。その思想はまだ変わっていない。

けれども、戦い方を知らぬだけではないか、とも思った。

 

あふれでる闘争心。普段はひた隠しに、レースの際に、僅かにそれが見える。

でも。その後、ライブだのというもので意識をそらす。勝者は皆に感謝し、敗者も一緒になって躍り、歌い、そして戦いすらしない人間たちに奉仕することに納得して。

 

────そうではないだろう。どうみても不自然な筈だ。

 

見れば、ウマ娘は皆自らが得意なポジションについていた。

 

その中でも、悠々と、そして圧倒的に。

普段マイナスに思われがちなそれは僻みがもたらした言葉だろうか。いいや、違う。

絶望的な距離差をつけ、二番手に絶対的な力量差を思い知らせる、逃げ。

 

果たしてそれは本当に、最高で永遠の栄華だろうか?

それに意を唱える物が居た。

二番手は、一番手より一番に近い。

隙を見せれば、喰らってやる。隙を見せなくても、捩じ伏せる。

恐ろしいまでの気迫と知性が、全て「逃げ」を出し抜くために磨き上げられている。それは先行。

 

一着争いをより大局的に見ている者が居る。

差し。そう皆は表現する。

要するに、最期に前に居れば良い。それはルールの抜け穴にも思えるが、既に一般化した「常識」である。

どのタイミングで仕掛けるか。つまりこれは、自分との戦いと「本当の意味での他者との闘争」が同居している。

誰に勝つでもない。全てに勝つのだ。チャンスを必ずものにする。その上で、勝つべきときに全てを抜き去る極限までの集中力を兼ね備えた。

 

力とは、温存するものだ。安定して勝つには、他を知らなければならない。

闘争が愛に喩えられがちなのは、こういった点を発端としているのだろう。

彼女らの走りは、まるで偽りの平和に蕩ける羊のようだ。ペースを維持し、最後尾についていくだけ。

が。

当然、賑やかしではない。羊の皮と血にまみれた狼なのだ。

奴らは最も趣味が良い。追う側の楽しさを知っている。

追い込み。ただただ静かに走り、そして疲弊を蹂躙するもの。

 

これらを見てみろ。

 

何処に、美しいだけのウマ娘が居るだろうか?

確かに、強者というものの活躍は心踊るものだ。

だがウマ娘はどちらかといえば可憐さが求められているようにも思える。そうではない。そうであってはならないのだ。

 

逃げウマ娘は背後がどうなってるかは分かりづらい。だからこそ、虚空に闘争心を燃やしている。自分の限界を唾棄し、ただただ前に前に進んでいく。狼だ。羊は、誰よりも早く走ろうとはしない。

 

先行ウマ娘は自らのその殺意にも似た計画を完全なものとしようとする。逃げウマが自分を見ていないことをチャンスと考えながら、憎く思いながら。その誰も居なかった視界に躍り出ることを夢見ている。

無論、羊ではなく狼だ。狼だけが、他人を抜き去ろうとする。

 

差しウマ、追い込み等最早語ることも無いだろう。狼が追う側、羊が逃げる側なのは自明の理で、わざわざ説明するまでもない。

 

結論として言えることがあった。

ラムヌーシアが確信したことだ。

 

彼女らを解放してやらなければならない。

下らない責務と義務から。

 

まだ、ターフは続いていた。願わくば、永遠に。

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