名誉と速力   作:pilot

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突き刺さる薙刀

レースであるのだから、決まったゴールと言うものがどうしても存在する。永遠に走り続けることはできず、目の前に迫る終わりを噛み締めなければならない。

 

中距離、2000m。

 

位置を取りきった後、皆が皆スパートをかける時間を図っている。

 

早すぎればもちろん、散る。人間、そしてウマ娘は常に限界出力を出し続けられる訳ではない。十割の力は、十割だからこそ儚いものである。追い抜いたとして、それは仮初の、三日天下と化す。

 

逆に遅すぎれば、それは臆病者か愚か者か。あるいは、ついていくことですら精一杯だった羊か。

最早手遅れになった後に本気を出したところで、誰もそれを評価してはくれない。することもない。残るのは実際、後悔だけ。ウマ娘に対しては、うさぎと亀の寓話は義務教育としてもいいだろう。

 

結論として、自分の脚質を理解して初めて「スパート」勝負の土俵にたてる。無尽蔵な体力は存在しないし、逆に体力が切れる前に走りきる等も難しい。要するに博打なのだ、努力でなんとか出来る範囲とそうでないものがあるというのは、挑み続けるものの間では常識だろう。

 

その点からすると、この一見冗長にも見える凪の時間にもまた、意味はあるのだ。

静かな走りの中に各々、思い描く道筋がある。

 

つまり長距離、中距離が何故存在するかは、選択肢の多さを与えているからだという理由で説明がつく。

 

1200m、通過。

風と彼女ら、一体どちらが速いのか。

芝は蹴り上げられ、空気は割ける。前へ前へと突き進む先に、障害物は存在しえない。

ここで仕掛けるものもいる。あるいは、引きずりおとされるものもいる。

逃げのウマ娘が減速を始めた。

もしくは、後続が加速し始めたのだろう。

 

食らいつく先行。トップに躍り出る。

目の前にはただ緑色のターフが広がっていた筈の逃げウマ娘が、視界に現れた尾に気圧されていた。

基本的に、抜かれた逃げは追い抜き返すことが出来ない。視界に現れる他のウマ娘の尾は、事実上の死刑宣告、碧い騎士とも言える。

抜かされた彼女は、驚愕とも、あるいはそれでもという諦めの悪い表情を浮かべていた。

 

まあ、一般的だ。

今回のレースは、展開が遅い。というより、先行以外の仕掛けが遅かった。

曲線を、スピードに乗りきったウマ娘たちが無遠慮に駆け抜け、そのまま最終直線にまでもつれ込む。

もつれ込んだだけで、何も起きない。

おそらくこの後はターフを、このならびのまま、予想され切った並びで走りきるだけだ。

凪はまだ続いていた。

 

予想通りの結末とは、ある種の満足感を人に与える。何処まで行ってもサプライズは危険信号であり、刺激的すぎる楽しさでもあるからだ。

 

────だからこそ、予想通り過ぎると良くない。

レースとは行儀の良い娯楽ではないからだ。

かといって、行儀の悪い、火遊びのようなものかと言われれば、違う。彼ら関わるもの全ては真剣そのもので、一時の消費等良しとしない。どころか、人生全てをそれに捧げ、脚が潰れるまで、心の臓が止まる刻まで歩み続ける紅く細い道ですらある。

 

そう、とても単純明快な話だ。

ここにはつまらぬ、不文律が存在しないというだけのことを、このトレーナーは知っている。

かといって無秩序の強制等でも、決してない。

つまるところ単純明快で竹を割ったようなルールが、弱者にも強者にも課せられているというだけのこと。

 

誰よりも早く駆け抜ければ良い。

 

そしてそれは、型にはまる必要もないのだと。

 

このあまりにも遅い瞬間に、凪は潰えた。

 

レースは終盤、最早大勢は決したか。

トレーナー達の目は一人を除き、食らいつく瞳から咀嚼する瞳へと変わっていた。冷静で、そしてつまらない。終わりきったそれだ。終わりをみたそれだ。

諦めにも似たそれは、直ぐに値踏みをする瞳に変わる。未来を見たのならば、そのつぎは未来を考えなくてはならない。

どのウマ娘を磨くことが自分の、引いてはそのウマ娘のゆくゆくは競走バの世界のためになるかを。

もちろん彼らの目は節穴ではなく、その脳に蓄えた知識は偽物ではない。

なんにせよ中央、中央に居るからには骨の髄まで「本物」しかいない。それは請け負われている。あの理事長は幼く見えて、本能に基づく「鋭さ」を持っている。それは誰もが認めるところであった。

 

しかし。一人を除きお行儀が良すぎる故、だ。

型にはまりすぎていた。彼らは最適解を作るのではなく、探していたのだ。

いいや違うだろう。本物は最適解を自ら作る。歩いた道が、大きな潮流となって世界を変える。子々孫々に至るまで。

 

バ群の中をただ一人往くものが居る。

流れに逆らうよう前に進むものが居る。

全員のペースが落ちているのだろうか?

その認識は間違いだ。正しくは、ただ一人だけ加速し続けている。だからこそ周囲が遅く見える。

たった一人の強者が、周囲全ての力を圧倒している。

一人、二人、三人。どんどん、どんどん。

順位は酷いくらい変動していて、漸く皆がその異常さに気付いた。

熱狂?あるいは、恐怖。興奮、そして緊張。

 

予想通りに行かないモノ程、衝撃は大きい。

最後の数百メートル。誰もが自分の敗けを認めない。

誰もが自らが勝者だと主張する。ターフはターフたるため、その力を一身に受ける。地面は抉れ、脚はきしみ、空気は熱気に歪められていた。

私こそ最強だと、誰もが叫ぶ。

 

そしてその敗けを認められぬもの達の中からこそ、たった一人、指導者足る本物の「狼」が生まれるのだ。

勝ちへの執心と、それを飾る勝利。

 

もう道は残っていない。目の前に残るのは現実だけ。ゴール際を、数メートル、数センチ、数ミリ────

 

「一着は────グラスワンダー!二着は............」

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