ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す   作:お兄さマスター

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セーフティ?

 

「……柏木くん。ボイスロイドのセーフティ機能って、ご存じですか?」

「…………はい」

 

 結月ゆかり雫という、中学生くらいの見た目のスーパーハイスペックなボイスロイドを兄さまが助けた、その日の深夜。

 救急セットを取りに戻ったずんねえさまよりも早く、私とマスターの二人がいる公園へ駆けつけたのは、件の研究所から事態の情報を共有されてすぐさま診療所を飛び出してきたゆかりさんだった。

 彼女が見つけたのは、私を膝上にのせてうなじの匂いを無心に嗅ぎ続けるマスターの姿で。

 慌てて止めに入った結果、いまこうして地べたに正座するマスターと、仕方なさそうな表情でお説教するゆかりさんという構図が生まれてしまった、というのが今回の事の顛末である。

 

「まったく……まだ軽く愛でる範囲の行動だったからよかったものの、胸部や下腹部に手を伸ばしてたら、本社に自動通報されてるところだったんですよ。きりたんのセーフティ機能をオンにしたのは君でしょう?」

「はい……すいません……つい……」

 

 叱られた犬みたいにしょぼくれているマスターは、なんというか見るに堪えない。

 

「あ、あの、ゆかりさん。どうかその辺で……」

「……きりたん、私もそこまで怒ってるわけじゃなくてですね。通報されたら流石に庇いきれないし……そもそも柏木くんって、こんな早計なことをする子じゃなかったハズなんです」

 

 様子がおかしいから心配、という点はわたしも全くもって同感だ。

 犯罪者集団との長時間の戦闘に加え、日ごろから溜め込んでいたらしいストレスが限界を超えて爆発してしまったのか、マスターは普段からは想像できない──あのお酒に酔ったときのような、私に何度も触れたがる状態になってしまっている。

 自らがセーフティ機能をオンにした、という事実すら忘却して。

 あるいは、そうなってしまうほど心も体も疲弊しきってしまっていたのかもしれない。

 

「ごめんゆかりさん、ごめん……ずみまぜん……」

 

 あ。マスター、泣いちゃった。

 

「わ、わっ、ごめんなさい柏木くん! あの、ぜんぜん怒ってないですよ、ねっ、大丈夫ですから」

「うううぅぅぐ」

「どどどうしよう……」

 

 釣られてゆかりさんもてんやわんやしている光景を眺めながら、私はふと思い返してみた。

 

 

 そうだ。

 マスターの事情を考えれば、彼がああなってしまっても何らおかしいことではない。

 元を辿れば、本来彼が最初から購入を検討していたボイスロイドは私だけで、その後の同居人たちについては私のワガママや成り行きでズルズルいってここまで来てしまったのだ。

 そこに加えて、幼少期のショックを思い出させるような敵の出現や、大きすぎる力を得て苦悩したり、そもそもただの一介の動画投稿者でしかなかったマスターが、ここまでの激務に追われなければならない謂れは存在しない。

 忙しすぎ。

 がんばりすぎなのだ、マスターは。

 四人のボイスロイドを運用しながら動画投稿を続けて、大学にも通われて、さらに診療所の手伝いやこうしたボイスロイドを狙う悪い人たちとの闘いなんかにも巻き込まれていたら、それは心が限界になってしまってもおかしくないだろう。

 それに、彼とて一人の若い男性だし。

 私たちの存在が弊害となって()()()()()がご無沙汰になっていたとなれば、いつでも手を出せる”はず”の、少女の姿をした自分の所有物に手を出しても不思議ではないし、むしろ当然の帰結だろう。

 

「……うん」

 

 何かしてあげたい、ではない。

 もはやそういった領域は過去の話だ。

 してあげたいではなく『しなければならない』、だ。

 マスターがあんなになっても、まだ優しさに甘えてダラダラしようだなんて虫が良すぎる。

 自我を尊重されたボイスロイドである前に、まず柏木優という男性の所有物としての責務を果たすべきなのだ。

 それが彼に購入された私の、私たちの最も優先されるべき指標に他ならない。

 

「あの、ゆかりさん」

「は、はい?」

 

 マスターを慰めるので忙しかった彼女が振り返る。

 ここまで来たら彼女にも手伝ってもらおう。

 恩義あるゆかりさんと言えども、マスターから受け取っているものも少なくないはずだ。

 巻き込むには十分すぎる縁がある。

 

「診療所の大きなベッド、空いてますか」

「へっ? ……え、えぇ。緊急入院してる方はいらっしゃいませんが……」

 

 私たちの住んでいるアパートでは、流石にあまり大きな音は出せない。

 実況のための防音材などは用意されているが、大前提として両隣には別の人たちが住んでいるため、万全を期すなら人が少ない立地に存在している、一軒家型のあの診療所を使うのが好ましい。

 

「マスターも少し怪我をしてますし、一旦診療所に戻りませんか。ずんねえさまとイタコねえさま、茜さんにも連絡して来てもらうよう伝えておきます」

「それは構いませんけど……きりたん?」

 

 迷惑をかけた分、こちらからは大きなお返しをしなくては。

 人数が多すぎて大変だったのなら、その人数の多さを逆手にとって利用しよう。

 

「マスター。……いえ、兄さま」

「なんだぁ」

 

 彼の頬にそっと触れ、小さく微笑みながらこれからの予定を告知。

 

「兄さまの言う通りにやりましょう」

「っ……? やるって、何を……」

 

 自分で言ったくせに。

 忘れたとは言わせませんからね。

 あの極限状態で口にしていた欲望なのだから、それこそがあなたを喜ばせる一番の方法だと確信しています。

 間違いなく、私たちはこうするべきだ。

 

 

「エロいこと、しましょうか」

「………………──えっ」

 

 

 


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