口実をつくって買い物デートにでかけるが・・・
「はぁー?なんで、あたしが倫也の買い物に付き合わないといけないのよ?」
「・・・だよな、ごめん。いいや」
「べ・・・別に行かないとはいってないわよ」
「英梨々は忙しいし、いいよ」
「・・・倫也、もう少し強く誘いなさいよ!」
「お前しか相談できる相手がいないんだ。頼むよ英梨々」
倫也が道端で土下座する。
「はぁ・・・そこまでしなくていいわよ。卑屈と安っぽいのを通り越して滑稽だわ」
「匙加減がな・・・」
「いくわよ。で、何を買いに行くの?」
「いつもお世話になっている、加藤にさ・・・何か誕生日プレゼントをしようかと思って・・・」
倫也の顔が赤くなる。
「・・・バカ?」
ひぐらしが鳴き始めている。夏もそろそろ終わりだ。9月になれば新学期が始まり、恵は高校2年生で17歳の誕生日を迎える。
「えっ、なんで?やっぱりおかしい?」
「なんでって、どうしてあたしに頼むのよ?好きな女の子に誕生日プレゼントを贈るなら自分で選びなさいよ」
「別に好きじゃないけど・・・」
「じゃあ、なんなのよ」
「メインヒロイン」
「・・・で、サブヒロインのあたしに、メインヒロインの誕生日プレゼントを選ばせるということなの?」
「おまえ、サブヒロインなの?」
「・・・はぁ・・・。えっと、で?その酷なストーリーはいいとして、どうしてあたしなのよ?」
「だって、最近、お前と加藤は仲がいいだろ?俺、そういうプレゼントとかぜんぜんわかんねぇーし」
「なんでも、好きなもん送ればいいじゃない、この年頃なら何をプレゼントにもらったって嬉しいものでしょ」
「なぁ・・・英梨々。こういうの相談できるの・・・おまえしかいないんだ」
「ちょっと、最後のセリフをもう一度言ってみてくれる?」
「おまえしかいないんだ?」
「ちゃんと!」
「おまえしかいないんだよ!英梨々」
英梨々の顔が赤くなって下を向いて照れる。
※※※
倫也と英梨々が電車に乗っている。とりあえず池袋で見てみることなった。倫也が恵を池袋散策に誘うにはかなりの壁があったが、英梨々にはそこまでの壁がない。それがいいのか、悪いのか。
「で、予算は?」
「一応、10万ぐらいはもってきたけど・・・」
「ばっかじゃないの!!」
英梨々が電車内で大きな声を出したので、周りの乗客が2人を見る。
英梨々は知らん顔をして続ける。
「あんたねぇ、宝飾品でも贈って告白でもするの?」
「・・・いや、日ごろの感謝の気持ちを・・・」
「はぁ・・・」
英梨々がため息をつく。
「バイトの時給いくらだっけ?」
「えっと、1000円ぐらい」
「一日何時間ぐらい働いているんだっけ?」
「3時間ぐらい」
「あんた、恵のために何日ぐらい無償で働けるのよ?」
「一生」
「ばっかじゃないの!!」
池袋に着いた。
※※※
「いい倫也、高校生の贈り物なんてせいぜい1000円程度でいいのよ。恋人ならシルバーアクセで数千円のがあるけれど、そんなに何万もするものを贈られても困るのよ」
「困る?」
「重いでしょ。サークルメンバーとして気楽な気持ちで贈るのよね?」
「・・・そうだな」
「でも、確かに倫也は恵にさんざん迷惑かけているから、5千円弱ぐらいのものなら適当かもしれないけど」
「ほう。ちなみに英梨々はいくらなんだ?」
「あたしの絵は今5万くらいよ。あんたのゲーム制作で使う枚数をかけると・・・」
「わっわっ!生々しい」
「別にタダでいいわよ・・・」
2人がサンシャインに入る。
「小物でいいんでしょうけど」
「小物?」
「ストラップとか、ヘアアクセとか、あとは使ってなくなるものとか、食べてしまえるものね」
「アクセサリーとかじゃないんだな」
「だいたい恵はアクセサリーを普段は身に着けてないじゃない。気のない相手にアクセサリーなんて贈るもんじゃないわ」
「じゃあ、ストラップにするか」
「ストラップはいつも一緒にいるって感じで、ちょっと近いのよね」
「どういうこと?」
「ほら、学校の鞄なんかに着けると、いつも見ることになるじゃない。そういうのって好きな人にもらったなら良いけど、そうでないなら付けられないわよ」
「ふむふむ」
「とりあえず、ここね」
2人が若い人向けの装飾品をそろえている店にはいる。
「100円ぐらいからあるんだな」
「ヘアアクセなんかは種類が多い方がアレンジきくでしょ、だから、数をそろえられる低価格のが人気なんでしょ」
「ちなみに、英梨々のそのリボンっていくらくらい・・・」
「あたしの?これは・・・3万ぐらいだったかしら?」
「はいっ!?」
「だって、これは一応ブランドものだし、それぐらいはするわよ。ネクタイとかと一緒ね」
「うそだろ?」
「ほんとよ」
うん。ブランドもののリボンは数万する。
「・・・でも、こんな100円のものを贈ってもなぁ・・・」
「そうね、ケチくさくて贈らないほうがいいでしょうね」
「こっちに500円のあるけど」
「しょせんは500円なのよ。安い薄い布、プラスチック、イミテーションの宝石も塗装なのよ。値段相応ね」
「へぇ・・・」
店員が怪訝そうな顔でみている。
「もう少し上のショップをみましょうか」
「頼む」
※※※
「この辺の中堅ブランドかしらね」
「まったく聞いたことないな・・・」
「倫也でも知っているのってヴィトンとかエルメスとかグッチとかでしょ」
「ああそうだな。スクエニとか、コナミとかも知ってるぞ」
「そこはもう少しギャルゲメーカーにしたほうがいいわよ?」
「・・・ふむ」
「で、こういう服が一万前後の店だと、小物を扱っていれば相応の価格よ」
店の棚を見る。マネキンの服だけ売っているかと思ったら、けっこういろいろ扱っていた。
「恵はフェミニンなものを好むけれど、こういうシンプルなデザインは好きよね」
英梨々がいろいろと手にとってみている。
「これなんかどうだろう?」
倫也がシュシュを手にする。
「あら、いいわね。でも恵はシュシュを普段つけないのよね。だいたい髪型変えちゃだめっていったのは倫也じゃない?」
「そうだな」
「このヘアピンはどうかしら?」
「いいな。でも、ちょっと恵っぽくはないな」
「そうね・・・もう少し女の子らしいとこにしようかしら」
英梨々は店をでる。フロアの案内板を見る。
それから2人はいくつかの店を周った。
「ほんとだ・・・英梨々」
「どうしたのよ?」
「リボンが売ってる」
ネイビーブルーのちょっとシックなリボンだ。価格は8000円。
「そりゃあ、売っているでしょうよ」
「な・・・なにが違うんだ」
「だって、これは細くて長いでしょ。その分、縫製が難しいじゃない。リボンの部分もしっかりしているし・・・あら、いい品ね。それに生地の光沢もあって・・・この猫の刺繍なんて・・・いいわね。買おうかしら」
「お前の物を見に来たんじゃないぞ」
「別にあたしがあたしのものを買って何が悪いのよ?」
「疲れし、少し休憩しないか?」
「・・・そうね」
倫也が話題をそらし、店をでる。
2人はエスカレーターを降りる。
「倫也。ラムネ飲みたい」
「ラムネ?」
「うん」
「コンビニのでいいか?」
「うん」
駄菓子を扱っている店があり、そこでラムネを2本買った。ベンチに並んで座り、ラムネを開ける。泡があふれるのを英梨々は慌てて飲む。ビー玉が心地いい音を立てる。
「ぷはっー」
「はははっ」
「何?」
「うまそうに飲むもんだなーと思って」
「これでも一応学校一番の美少女なのよ?」
「だから、自分で言うなよ」
英梨々も笑っている。倫也と2人で過ごすのは久しぶりな気がする。
「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん」
倫也はラムネを飲み終わると、空の瓶をとりあえず足元に置いて、席を立った。
英梨々は1人残されて、のんびりとラムネを飲んでいる。
ずいぶんといろんな商品をみたが、いまいちよくわからない。倫也が女の子に贈り物を贈るということが上手く想像できない。変な気分になる。あの倫也が?
※※※
しばらくしてから、倫也が戻ってきた。
「あんたずいぶんと遅かったわね」
「トイレに迷って」
「すぐそこじゃないの。いいのよ、別にう〇ちしたって」
「そういう、はしたないこと言わないでくれる!?」
「で、決まったの?恵に贈るもの」
「また、今度でいいや」
「はぁー?何それ」
「いろいろ教えてもらったし、今日はもう十分」
「そ、あんたがいいならいいわよ」
なんだか少しほっとする。
「英梨々、このあと予定ある?」
「同人の締め切りもあるし、ゲームの絵のこともあるし、予定ってほどじゃないけど・・・」
「うち寄ってく?」
「そうね」
「じゃ、ケーキでも買ってくか」
「うん!」
素直だ。もう少しツンにしたい。
2人は地下の食品街のケーキ屋でケーキを見る。
「倫也、ショートケーキとメロンゼリーどっちがいい?」
「なんで、その2択なの!?」
「そんなの、あたしがショートケーキかメロンゼリーで迷っているからに決まってるでしょ」
「だったら、どっちか選べよ!」
「・・・じゃあ、どっちもいらない。帰る」
「えっー。何その駄々っ子みたいなツンは」
「すみませーん。ショートケーキとメロンゼリーください」
「自由だなぁ・・・」
英梨々が店員にオーダーをする。自分で支払おうとするのをさすがに倫也が止めた。
「今日は買い物に付き合ってくれたお礼だよ」
「そう・・・じゃあ、すみませーん。モンブランも追加してくださーい!」
「おいっ!」
ケーキを3つ買った。
※※※
倫也の家のリビングについた。英梨々は箱を大きく広げて、それを皿にしたままケーキを食べる。飲物もペットボトルのお茶。あまり気取らずに自由にしても様になるのが英梨々である。
もちろんティーセットで仰々しくアフタヌーンティーをするもの好きではあるが、それは自宅でできる。
DVDでアニメをかけて、2人はそれを眺めながらケーキを食べていく。倫也がモンブランで、メロンゼリーのメロンをいくつかもらった。もちろん直接口に食べさせてはもらえない。
「で、この短編って何なのよ?」
「ああ、これ、お前に」
倫也がバックから包装された袋を英梨々に渡す。
「何よ?」
「開けてみ」
英梨々が袋を開けると、さっき買おうとしていたネイビーブルーのリボンが入っていた。
「どういうこと?」
「とりあえず、つけてみてくれる?」
「時間・・・かかるわよ」
「待ってる」
英梨々が立ち上がって洗面台の方へ向かう。大きな鏡が必要だった。
しばらくして、英梨々が戻ってくる。
お日様みたいに輝いている金色の髪に、ネイビーブルーのシックなリボンが映える。
「どうかしら?」
「うん、とても似合ってる」
英梨々に似合わないリボンを探すほうが大変だろうと思う。
「うん・・・ありがと」
英梨々が照れている。
「で、どういう風の吹き回しよ?」
「深い意味はないよ。いつもお世話になってるから」
「でも、なんでもない日に女の子に贈り物するはよくないわよ?」
「ん、どうしてだ?」
(どうしてって・・・それは・・・好きになっちゃうじゃない?あれ、なんか違うか。元々あたしは倫也を好きだから・・・えっと?)
「いつも、ありがとう英梨々」
「そうね・・・」
サブヒロインはしんどいのだ。たまにはこういう話があってもいい・・・
「倫也ぁ・・・」
英梨々が甘えるような、少し泣くのを我慢しているような声でいった。
「どうした?」
「ありがと」
「さっき聞いた」
「似合う?」
「さっき言った」
「あんた、バカなの?褒めるときは何度もほめなさいよ!」
「デレ?」
「別にデレてなんかいないわよ!」
「そっか・・・なかなか英梨々のデレを見るのは大変だなっ」
「そんなにデレがみたいの?」
「無理にできるものでもないだろ?」
英梨々が倫也にもたれかかる。そして胸の近くの服をギュッと握る。
「英梨々っ・・・?」
ひぐらしの鳴く声が窓の外から聴こえて来る。夏が終わる。
「倫也っ・・・あたし・・・あたしね・・・」
英梨々の顔が赤く染まる。
「サブヒロイン・・・やだっ」
(了)