覚えているだろうか、僕が前世よくわからん宗教の神に仕える巫女的な存在だったことを。
そう。目の前の女性、
「アナタはこの前の、」
「私の愛し子に近寄らないで!!」
「ぐ……っ! なんじゃこの霊圧、吸血鬼か!?」
「そ、うっスよ。はは、こりゃまずいな」
「へ、いやいやいや待って待って何これ!? なんで御命様がここに? レイアツ、吸血鬼? どういうこと!?」
「自分の正体にも気づいてなかったんスね……。どおりでホイホイ外に出たり他人に言われることされること全て信じたり、無頓着なわけだ」
「うるさい! その子を離しなさい!! その子は私の愛し子なの。カンナギは今の私の全て。ああ、やっと見つけた。人間に捕らえられていたなんて可哀想に」
「正体? 捕らえられたってなんの話!? なんかおかしいの僕!」
御命様も喜助さんも、全然話を聞いてくれない。状況把握もままならないまま話を進めていくのみだ。
なぜ前世での知り合いがこの世界にいるのかもわからないが、それよりも僕が気になるのは『正体』とか『吸血鬼』とかおよそ日常生活で使わない単語の方だった。
「いっちゃん、やめておいた方がよい。奴さんは話を聞く気なんてなさそうじゃし、儂らも話す余裕なんてない」
「ハア〜〜〜!? 多分話の主役は僕でしょこれ! なんで僕抜きで話してるの!?」
「夜一サンはきーちゃん持って逃げてください。今は落ち着いてもらうのが先っス」
「言われなくとも」
「逃げないよ!」
「逃しません!」
「だから逃げないって!! って、やっば、」
「いっちゃん!」
「カンナギ!?」
首根っこを掴まれて無理やり連れていかれようとしているのをなんとかしようと暴れていると、思わぬ方向に身体が放り出された。しかもそちらにはなにやら爪を構えた御命様が飛び込んでくるのが見えて。
「な、にこれ」
申し訳程度に顔の前にやった左腕があっけなく身体から離れていく。しかし、瞬きした次のときには離れたはずのそれが今までと同じように付いていた。
いくら常識に欠ける僕であれど、流石にこの現象がおかしいことはわかる。こんな大きな怪我が一瞬で治るわけがない。
今、僕の身体に何が起きているか、周りがどうなってるのか。理解できないことが多すぎて僕の脳は拒否反応を示し──
「きーちゃん!?」
「カンナギ!?」
僕は意識を失った。