浦原喜一の転生生活   作:わさび醤油

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第二話:盲点にして最大の難関

転生したとわかったときから一週間。

 

「すみません夜一サン、きーちゃんのオムツ替えてもらえます!? こっち手が離せなくて」

「了解じゃ喜助! いっちゃんのオムツじゃな」

 

僕は早くも心が折れそうです。

身体は1歳にも満たないであろう赤ん坊だが、心は15歳。思春期というものは未だよくわからずとも羞恥心はある。しかも女の人って! いや男の人でもかなりのダメージだけど。

というかなんで二人とも僕を違う名前で呼ぶんだよ。

僕の名前、喜一だったよね!?

なんだよきーちゃんいっちゃんって。二人の名前を知ったときは『子供に自分たちの名前を一文字ずつ入れるなんて、なんてラブラブカップルなんだ』と呆れたものだが、頑なに自分の名前の方で呼んでくるって逆に仲が悪いのか?

前世の両親もよくわからない人たちだったし、親というものは総じて子供にはよくわからない存在なのかもしれない。

 

ちなみに、父親は喜助さん、母親は夜一さんというらしい。喜助さんは恵まれた体躯と色素の薄い金髪を持っていて、夜一さんはモデル体型で美人だ。平凡な黒髪の僕とは大違いである。

さらに謎のでかいお兄さん(テッサイと呼ばれていた)までいる。両親はどちらも和服のようなものを着ていて、前世では着物を常に着ていた僕が言うのもなんだが、その辺を歩くとかなり浮いて見える。

その辺っていうのがまた絵に描いたような都会で、ド田舎生まれド田舎育ちの僕は喜助さんに抱えられていなかったらひっくり返っていた。東京ってすごい。

 

「ほい、これで完璧じゃ。綺麗になって良かったのう」

 

腹のあたりをポンと叩かれ、きゃははと返事をする。僕はありがとうございますと言ったつもりだが、舌が全然言うことを聞かないのだ。まあここで赤子が急に『いつもありがとうございます、でもちょっと恥ずかしいのでお手柔らかにお願いします』とか流暢に喋り出したら怖いしな。

しばらくは、泣いて空腹や排泄を知らせるのは勘弁してもらおう。

 

「う、うう、うえええ」

「つ、次はなんじゃ!? 飯か?」

「う」

 

ごめんなさい、ご飯です……。

そうやってせめてもの意思表示として据わりきらない頭を動かすと、急に夜一さんが慌てはじめた。

 

「き、喜助! いっちゃん言葉がわかるようじゃぞ!?」

「なんだって!? そりゃすごい!」

「儂が飯かと聞いたら頷いたんじゃ……」

「なんと……!!」

 

しまった! 赤子は言葉を理解して頷かないんだった!

『あれ、俺また何かやっちゃいました?』は嫌いなはずなのに、これじゃ僕も同類じゃないか……!

 

「うわ〜〜〜ん!!」

「ああすまんすまん、今から準備するからの〜」

 

秘技・泣いて誤魔化す作戦、成功!

よかった……。今度からはちゃんとよくわからないふりをしなければ。なんだか意味のない俺TUEEEEみたいな展開だが仕方ない。

赤ちゃんは何をやってもすごいと言われてしまうのだ。

しばらくはなんとか耐え切ってみせるしかなかろう。


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