それからさらに2年後。実に、転生からほぼ3年の月日が流れていた。
「僕、一人で散歩したいんだ。そろそろいいでしょ?」
「そうじゃのう……。どう思う? 喜助」
「アタシはいいと思いますけどねェ。きーちゃんは同じくらいの歳の子の何倍も賢いですし」
ね、ね! と、前世では全く使わなかった『かわいくおねだり』をフル活用してまで一人で散歩に行きたい理由。
そろそろ、本が読みたいのだ。
前の世界にはなかった本があるはずだし、そもそも前世で僕は読みたい本を選ぶということがなかったのだ。知らない好みの本もたくさんあるに違いない。さらに、もしかしたら今まで読んでいた本の続刊が出ているかもしれないというのに、ここで足踏みしている場合ではないだろう。
本はお金がないと買えない、つまりお金を持っていない僕には本は買えないというのはわかっているが、本屋には立ち読みという素晴らしい概念がある。もし買えても持って帰ったらバレちゃうしね。
そこで、立ち読みでこっそりしこたま読んでやろうという魂胆なのだった。
「……ふん、まあよかろう。どこに行くか、いつ帰るかだけは報告しろよ」
「やった! ありがとうお母さん」
二人とも僕に甘くてよかったー!
よし、許可も取ったし早速本屋に行くしかあるまい。待ってろ本! 今行くからな!!
幸い正しい方向感覚を持って生まれたらしい。あれからすぐ家を出た僕は迷うことなく本屋に着いた。
道中で黒猫とも出会ったが、本屋に入る前にはどこかへと消えてしまったようだ。人懐っこくて僕の後を大人しくついてきてたのに……。
まあいい。目的地にはもう到着しているのだ。あとはこの建物に入り、本をひたすら漁るだけである。
「おじゃましまーす……」
「あれ? ぼく一人? お母さんとはぐれちゃったのかなー?」
「えっ」
「お名前は? アナウンスしてあげるね。寂しいけどもう少し頑張ろうね!」
「いや、僕は一人で来て」
「え、一人で!?」
どうしよう。よくわからないけどエプロンしてる人に声をかけられてしまった。何かまずいことでもしたのかな。
何から喋ればいいのかわからなくなり黙っていると、黒猫が颯爽と現れた。ここに来る途中で出会った猫だろう。
「ちょっと、猫は入店禁止だよ〜……」
「なぁん」
「待って待って、そっちには行かないで〜!」
エプロンの人は猫を追いかけてそのまま店の中に戻ってしまった。もしかしてあの猫は僕を助けてくれたのか? そうだとしたら、周りが猫に気を取られている間に僕はここを去るべきだろう。
あの人の言いようからすると、本屋というのは親と一緒に行かなければならないらしい。理由は多分、僕がまだ小さいから。ならばお母さんと一緒に行ってさりげなく表紙を見て帰るしかないということか。
……仕方ない。今回は本屋までたどり着けたことを収穫としてとっとと帰ってしまおう。
あーあ、本読みたかったな………。
「オマエ……」
今、誰か僕に話しかけたか? そう思って周りを見渡しても、それっぽい人は見つからない。しかし声は同じように『オマエ、オマ、オマエェ……』と幻聴ではないことを証明するかのように何度も僕を呼ぶ。
そういえば帽子で日除けになっているとはいえ周りが暗いな、と空を見上げた瞬間。
「ヤット見タナァ……?」
「え」
仮面をつけた黒い『もの』が、僕に向かってその手を振りかざした。
お腹が熱い。怪我もここまで来ると痛いとかそんな感覚がなくなるのか。知らなかった。……いや、完全に知らなかったわけじゃない。前世で僕は父親にこうして殺されているんだ。あのときはもっと酷くて訳がわからないまま意識を失ったから、よくは覚えてないけど。
ああ、まだ意識が残ってる。早く気を失いたいのに。
襲い来る衝撃に閉じていた目を開けると、視界はひっくり返っていた。
そして、目の前には人。
正確に言うと、下駄だ。よく見知ったそれは今世の父親、浦原喜助のもの。
喜助さんがどうしてここに?
「大丈夫、これは夢なんスから。ほら早く帰るっスよ」
「ゅ、……」
夢? こんな状態で大丈夫ってそっちが大丈夫かよ。さっきのが襲うかもしれない、逃げた方が。
いろんなことを言ってやりたいが、口が上手く動かない。今になって瞼も重くなってきて、僕はやっと気を失えるらしい。
今度はさすがに、転生は難しいよね。あれはまぐれで奇跡で偶然だったんだから。
喜助さんの言う通り、夢だったら、いいん、だけど、な。もっと遊びたい、し、学校にも、行ってない、か、ら……。
「夜一サン、帰りますよ」
「……了解じゃ」
主人公が死んじゃった! このロクデナシ! 〜完〜
嘘です、まだ続きます。