世界を見守る神様たちの、とある一幕。
異世界転生者は謎の舞を踊りがち。
※この作品はノベルアップ+、カクヨムにも掲載しています。
ワシは
今日も今日とて、部下の神々と共に世界を見守っている。
……そして部下の尻ぬぐいもしている。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
最近、部下の気が緩んでいるせいか、手違いで人間を殺す事が多くなってきた。
それに比例して、異世界転生の件数も爆発的に増えている。というか、何人かは積極的に人間を異世界に送って遊んでいる。後で尻ぬぐいするワシの気持ちにもなりやがれ。
ストレスでワシの頭に白髪が増える。
異世界転生は、異世界に送ってはいお終い……では済まない。
転生先の世界に対するアフターケアが重要だ。なのに最近の若いもんときたら、後先考えずに異世界転生をしおる。
――ドドドドドドドドド――
ほら、さっそく来た。
「助けてください、最高神様!」
「どうしたのじゃ、異世界の神よ」
涙目でワシの元に駆けこんで来たのは、まだ若い異世界の神だった。
担当世界を貰ってまだ日も浅い。さしずめ後先考えず異世界転生者を送りこんで、持て余しているのだろう。
「一体何をした。チートすぎる能力でも与えてしまったか? それとも現地人の知能を下げ過ぎたか?」
どちらにせよ、やってしまったものは仕方がない。
ワシは尻ぬぐいをする為に、椅子から立ち上がる。
「そ、それが……異世界転生者を送り込んだは良いのですが」
「ふむふむ」
「転生者が、世界をバグらせました」
「……は?」
え、バグって……あのバグ?
ゲームとかである、あのバグ?
そういえばこの神が担当している世界って、そういう感じの世界じゃった。
所謂ゲーム風世界。
「いやいや、いくらゲーム風の世界とはいえ、そんなバグが発生するなんてあるか?」
「最高神様、バグはゲームの醍醐味です!」
「そんなところまでゲーム風にするな」
何故こう、余計な箇所にまで力を入れてしまうのだろうか。
「それで、世界がバグってどうなったのだ?」
「はい。転生者がバグと謎の舞を駆使して、転生から十秒でエンディングに到達しました」
「異世界転生にエンディングって何!?」
ゲーム風ではあっても、ゲームそのものではないんだぞ!
なんでエンディングが用意されてるんだ!?
「ゲームはエンディングを目指してなんぼですから」
「やかましいわ! エンディング迎えたら世界終わるだろ!」
「大丈夫です。エンディング後のやり込み要素も完備してますんで」
「そういう問題じゃない!」
頭が痛くなってきた。
とりあえず聞くところによると、エンディングを無理矢理引きずり出した事で、世界そのものにバグが発生したらしい。その対処に困っているのだとか。
「なるほど、話はわかった……後はワシがなんとかするから、今後は気を付けるように」
さぁ、世界の修正で忙しくなるぞ。
そう考えていた矢先、またトラブルが舞いこんで来た。
「最高神様ぁ、助けてくださぁい」
「どうした、異世界の神(妖艶)」
「私の担当している世界がぁ、バグっちゃったんですぅ~」
「お前もか」
デカい乳を揺らしながら泣きついてくる、異世界の神(妖艶)。
なぜこうも若者は世界をバグらせてしまうのか。
というかコイツの担当世界もゲーム風だったな。
「それで、お前の世界はどうなったんだ?」
「はぁい。実は異世界転生者を送ったのは良いんですけどぉ、転生者君がこちらが想定していない挙動ばかりするんですよぉ」
「想定外の挙動?」
「そうなんですぅ。謎の舞でアイテムを無限増殖させたりぃ、本来装備できない筈のアイテムを無理矢理装備しちゃったんですぅ」
「謎の舞好きだな異世界転生者。で、本来装備できないアイテムとは?」
「『機械』っていうんですけどぉ、本来は専用のスキルでのみ使用するアイテムだったんですぅ。それを転生者君が無理矢理装備しまくってぇ……」
そう言うと異世界の神(妖艶)は、ワシの前に一つのヴィジョンを映し出した。
「なんか凄い事になっちゃったんですぅ」
ヴィジョンに映し出されたのは、異世界転生者の姿。
しかしその腕はボウガンと化し、頭にはドリルが装備され、全身がメタリックに輝いていた。
『ガー……ピピピ。帝国ヲ抹殺スル』
「どうしましょう?」
「どうしましょう、じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! なんだこれは!? もう人間じゃなくてサイボーグじゃねーかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「まだギリギリ人間ですよぉ」
「全身メタリックの人間がどこにいるんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! 転生者にクオンタムサージでも浴びさせたのかぁぁぁ!?」
「最高神様ぁ、そのネタマニアック過ぎて伝わらないと思いますよぉ」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
つーか何で中世ヨーロッパ風の世界に、機械があるんじゃい!
「それでぇ、機械装備した転生者君が色々と無双しちゃってぇ。あっという間にエンディングに到達しちゃったんですぅ」
「だからなんで世界にエンディングを実装してるんだ」
「ゲーム風の世界ですからぁ」
「ゲーム風を大義名分にするんじゃあない!」
結局のところ、異世界の神(妖艶)が困っているのは、転生者がバグったせいで異世界のパワーバランスが崩れてしまったらしい。
で、ワシが尻ぬぐいをすると……あぁ、胃が痛い。
「最高神しゃまぁぁぁ!」
「……どうした、異世界の神(幼女)」
号泣しながらやって来たのは異世界の神(幼女)。
そういえば彼女の世界もゲーム風じゃったな。
あぁ……これ絶対トラブルだ。
「ふえぇぇ、世界がバグりましたぁ」
「予測可能、回避不可能」
「ふえぇぇぇ」
何故こう、ゲーム風世界は軽率にバグるのだろうか。
誰が悪いのだ? バグらせる転生者か? それともバグを見逃した神か?
「それで、世界がバグってどうなったんじゃ?」
「ふぇぇ、転生者を送ったら、転生者が謎の舞をし始めてぇ」
「だからなんで転生者は謎の舞をするんだよ!」
「それでね、世界がバグってね。転生者が壁をすり抜け始めたんですぅ」
「まぁ、壁をすり抜けるくらいなら特に問題は――」
「それでね、ついには次元の壁まですり抜けはじめて……」
……はい?
「転生者が暗黒空間を移動し始めたんですぅ」
「どういうことじゃ? 暗黒空間?」
「四天王の部屋ですり抜けをしたら、暗黒空間に入っちゃったんですぅ」
「いやだから暗黒空間ってなに?」
「暗黒空間は暗黒空間ですぅ。それ以上でもどれ以下でもありましぇん」
訳がわからん。
「それで? その暗黒空間に入った転生者はどうなったんじゃ?」
「えっと……それが……」
おどおどしだす異世界の神(幼女)。
その後ろから、冴えない顔をした一人の若者が現れた。
「こんちゃーっす。ここってデバッグルームですかー?」
「……え?」
「ふえぇぇぇぇぇ。こちら側の空間まで来ちゃいましたぁ」
「なにしてんのォォォォォォォォォ!?」
いや前代未聞だよ! 人間が神々の領域に足を踏み入れるとか聞いたことないよ!
つーかそこの人間、へらへらしながら謎の舞を踊るんじゃあない!
「あー、そこの君。ここはデバッグルームじゃないから。さっさと元の世界に帰りなさい」
「ちぇー」
文句を言いながらも、素直に帰っていく転生者。
そしてやはり、謎の舞を踊りながら壁をすり抜けて行った。
部屋に残されたのはワシと異世界の神々。
「お前らなぁ、もう少し自分の世界をきちんと管理せんか!」
「ですが最高神様、バグはこちらも想定外でして」
「やかましいわ! つーかなんで揃いも揃って、皆ゲーム風世界なんだよ!」
「今そういうのが流行りなので」
「流行りですからぁ」
「ふぇぇ、流行りだったから」
「流行り廃りで世界をクリエイトしてんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」
なんなのこいつら。神様としての自覚なさすぎなんじゃないの?
いや、ちょっと待て。今こいつ等、ゲーム風世界を流行りと言ったか?
「……まさか」
聞こえてくるのは、こちらに向かって来る大量の足音。
もう嫌な予感しかしない。
「最高神様、助けてください!」「最高神様!」「最高神の親方!」「ちくわ大明神」「最高神さまぁ」「最高神の旦那ァ!」
部屋に押しかけてくるのは、最近担当世界を貰った神々。
その誰もが、ゲーム風世界を創っていた。
「「「世界がバグってしまいました!!!」」」
あぁもう、本当にもう……
「転生者よ……頼むから世界をバグらせないでくれ……」
ワシの白髪と胃痛は、増していくばかりだった。