急な試験による疲れで早めに寝ることになり、もう既に殆どの人が寝静まった夜の10時。
俺はこっそりと洞窟を抜け出し、試験開始時に船から降ろされた浜辺に来ていた。
「おーす。Dクラスはどんな感じ?」
「どんな感じ?じゃないわよ!!この根暗インキャをスパイにしたとか聞いてなかったんだけど?!!」
綾小路と櫛田だ。綾小路は相変わらずの無表情。逆に櫛田は方は普段の姿からは想像出来ないほどの荒れっぷりだ。
「まあまあ、落ち着け。ところで綾小路、実は聞きたいことがあるんだけど……」
「櫛田のスパイ適性だろ?俺がスパイだと明かした瞬間はかなり疑ってたし知らないふりしていたが、鎌をかけたら簡単にボロ出したぞ」
え、うん。いや聞きたいことは合ってるんだけど。マジかこいつ。
「マジかー。いや想定通りではあるんだけど。とにかく助かったわ」
「後、これからはああいう手のやり方はやめてくれ。気づくまで時間がかかったし、それまでのやり取りがかなり面倒くさかった」
綾小路がうんざりしたような声でそう言う。
「悪かった。もうしない」
「は?どういうこと?」
状況が読めてない櫛田に説明をしていく。
今回、俺は櫛田にあえて綾小路がスパイ(実際は対等な協力関係)であることを隠した状態で、綾小路に櫛田と一緒にここに連れてくるように頼んだ。
それによって櫛田が偽のスパイが現れた状況に対応出来るか測ろうとしたわけだ。結果としては、しっかり言い含めて必要があることが分かった。
ついでに清隆にも櫛田のスパイ適性を測るつもりだとわざと伝えなかったことで、綾小路の判断力も同時に測ろうとした。結果は惨敗。櫛田のことを測ろうとしたことだけじゃなく綾小路のことを測ろうとしたことまでバレた。こいつマジで底が見えねえ。
「つまり、だ。これからは新しい部下が手に入ったら必ずお前に伝える。だから、お前が知らない部下なんて存在しない。騙されないよう気をつけろよ」
主に龍園とか坂柳の部下がスパイの振りとかしてくるかもだから。
「ということで臨時の部下が入ったから一応伝えとくな。Aクラスの坂柳派筆頭の橋本と神室がこの試験だけ協力してくれることになった」
「え?」
櫛田も綾小路もよく分からないって感じの表情。いや綾小路は無表情だな。
「どういうこと?」
「今回の試験で参加出来なかったのって坂柳なんだよ。だから、この試験は葛城が指揮を取る。坂柳は葛城派を失脚させる為に。俺はポイントを稼ぐ為に。利害の一致で橋本と神室をこの試験だけ自由に使えるってわけだ」
「あーなるほどね。というか、どいつもこいつも腹の中真っ黒で嫌になるんだけど」
「坂柳派、葛城派っていうのは?」
お前そこからか。綾小路よ。
「えーとね。今、Aクラスは葛城派と坂柳派っていう2つのグループで対立してるの。同じクラスなんだけど保守派と革新派みたいな感じで折りが合わないんだよ」
いろんな交友事情に詳しい櫛田が説明してくれる。
「なんで坂柳はこの試験に参加してないんだ?葛城派を蹴落とす為にわざとか?」
「いや、坂柳さんは体が弱くて本当に参加出来なかったんだと思う。運動も出来ないみたいだし、無人島サバイバルなんてなんじゃないかな」
「なるほど。助かった。で?そのスパイはオレたちに関係あるか?」
「いや、ないな。あくまで一時的なスパイだ。一応、報連相しただけでお前らは一切関わる必要はない。むしろ関わるな」
これで無人島試験が終わって神室たちに「服部が櫛田と綾小路をスパイにしてました!」なんて報告されたら溜まったもんじゃない。
「分かった。後でAクラスのリーダーを教えてもらえる、くらいに考えとけば良いんだな?」
「おう。理解が早くて助かる」
まさにそうしようと考えていた。流石綾小路といったところか。
「む〜………………………」
なんだ?橋本たちについて話し終えた所で櫛田から強烈に睨まれる。特に何か話すわけではなく、じーっと俺の方を見てくるだけだ。不満? もしくは怒り? どっちかは分からないが負の感情を感じる。俺何かやらかしたかな。
「ど、どうかした?」
「あのさ、まだスパイとか作るつもり?」
「えっ……?」
「今回は一時的なものかもしれないけどさ、また別にスパイとか増やすつもりなの?」
少し予想外の質問に戸惑う。
えぇ……?それ重要か?手に入れたら話すって言ってるんだから今のお前には関係なくない?
一旦、質問に答える為に思考を回す。次スパイを手に入れるとしたら………、Aクラスなら橋本とか神室をそのまま取り込む、適当にCクラスから龍園に不満持ってそうな奴とか他には………、優秀らしい松下とかも候補か? と言っても全部これからの状況で決まるし、今は何とも言えんな。
「まぁ……状況に応じて作るかもしれないな」
「私で良くない?」
「は?」
「だ・か・ら!私で良くない?むしろ私以外いらなくない?」
「なんで?」
「だって私がいれば他クラスの情報だって手に入るし。そもそも私だけが服部君の役に立つっていうか特別って言うか。いや、特別っていうのは別にそういう意味じゃないけど。まあ?服部君が望むなら仕方なく、仕方なーく服部君の特別になることも藪坂では無いというか、許可してあげるというか、悪くないというか、ギリギリ許容できるというか、ちょっとアリかもっていうか、不束者ですがこちらこそっていうか」
「ごめん、ちょっと早口過ぎて何言ってるか分かんない。要約して」
「っ!!その、アレよ!えーっと……。そう!!他クラスのスパイなら兎も角綾小路とか何の役にも立たなくない?って話!」
え、そんな話だったのか。思ったより核心付くな。綾小路の実力ばらすわけにもいかないし。いや。なんて答えよう。
「いや、ほら。綾小路はアレだ。そう!使い捨ての駒だ!」
あ、ミスった。テンパってとんでもない事言ってしまった。すまん綾小路。フォロー頼む。
「ああ。オレは使い捨ての駒だ」
いや同意すんのかい!
「そっか。使い捨ての駒か」
「そうだ」
「そうだな」
「…………………………………………………」
沈黙!そらそうよ!自分から駒宣言する人間への対応なんか知らんもん。いや、ミスった俺も悪いんだけど。
「ならさ、適当に私も何か命令していいの?」
「いやそこは服部を通してくれ」
「えー!服部君。私もこいつを自由に酷使したいんだけど。ダメ?」
唐突な上目遣い。最強の不意打ち。可愛いすぎる。だが、
「すまん。それはダメだ。許してくれ」
お前が綾小路に命令して変に機嫌損ねてみろ。怖すぎて死ねるぞ。
「これでもダメかな?」
そう言って櫛田は俺との距離を詰めてきた。やばい。近っ!ゼロ距離だ。今にも触れそう、いや触れてるな。俺の胸から腹の辺りを左手でなぞるように撫でてくる。それはエロいって……!あ、目が合った。吸い込まれそうな瞳が俺を魅了する。Dクラスの連中は毎日のようにこんな美少女を眺められるのか。櫛田が更に顔を近づけてくる。ヤバい。近すぎるって。恥ずかしくないの? いや、櫛田の顔も赤い。本当は恥ずかしいのにこんな顔近づけようとするのか。すげーかわいい。更に距離が縮まる。もうキスしそうだ。いやしよう。俺は目を閉じ、唇を………
「おーい。そろそろ試験の話をしないか?」
邪魔すんなやあ!クソの小路!空気読めやぁ!
「チッ!!あーもう折角勇気出したのに〜…。ふざけんなよぉ……!!」
え、待って。櫛田さん。あれ?何その舌打ち。本当はハニトラだったのか? 何? もしかして俺を嵌めようとしたの? 綾小路はわざと空気読まなかったとか? ………そんなわけないか。
「そうだな。じゃあ試験の話をしよう。何から擦り合わせる必要がある?」
取り敢えず綾小路の言う通り試験の話に切り替えよう。
「あー。櫛田と平田とした取引って結局なんだ?2人とも口を割らないせいで幸村は「俺たちを信用してないのか?」とか言い出すし、3バカも騒ぐしそれに女子が対立的になるしで、クラスを抑えるのが大変だったんだぞ」
「あぁ〜……。悪い悪い。あの契約はお前らDクラスが川の水をBクラスに使わせる代わりに Bクラスがリーダーを教える、って内容だ」
「………リーダーを入れ替える気か?」
「そういうこと。だからBクラスは指名すんなよ」
原作通り綾小路は茶柱に脅されて、ポイント稼がないといけないらしいからな。
「えっどういうこと?リーダーって変えられるの?」
綾小路がチラッと俺の方を見る。お前が話せ、ってことだろう。
「正当な理由がなければリーダーは変えられない。裏を返せば正当な理由があればリーダーは変えられる。リーダーがリタイアするのは正当な理由に当てはまるだろ?」
「は!?なにそれ気づいたもん勝ちのクソゲーじゃん!!」
まあ、そうだな……。4月までの授業態度といい過去問といいこの先の優待者試験といいこの学校気付いたもん勝ちみたいな所はあるな。
「あー。でも納得したわ。だから私たちにリーダーカード見せたわけね」
「そういうこと」
「うわっ。もし知らなかったら、大事な水資源を取られてその上クラスポイントも減らされてたってこと?ゴミじゃん。性格悪っ!」
「いや、性格悪いのはこんなルール作った学校側だろ」
「いやいや、その性格悪いルールを利用する奴も性格悪いよ。まあでも、心底敵じゃなくて良かったと思ってるわ」
「ていうかさ、綾小路君もリーダーが入れ替えられることに気づいてたの?」
「いや、実際に気付いてたわけじゃない。『リーダーは正当な理由なく交代できない』って言葉に少し違和感を持っていただけだ。服部の話を聞いて当てずっぽうで言ったら当たったんだ」
「ふぅ〜ん……」
櫛田に納得してなさそうな目を向けられる綾小路。多分演技だろうけど、たじろいでる。おもろい。
助けてくれ、と言った感じで俺の方を見てくる綾小路。仕方ないな。話を変える、いや戻してやるか。
「そろそろ作戦の共有に入りたいんだけどいいか?まず聞きたいんだけどさ、お前らDクラスのリーダーって誰?」
「クソ堀北」「堀北だ」
ここら辺は原作通りか。面倒くさいけど綾小路がいる以上何とかなるだろう。
「じゃあ、櫛田は明日堀北のキーカードを俺の所に持ってきてくれ。やり方はそうだな。他クラスにバレずらくするためとか何か理由を付けて堀北のキーカードを複数人で管理する体制を作って、明日お前がキーカードを管理出来る時間を作ればいい。綾小路はそのサポートな」
「分かった。けど、服部君はそのキーカードをどうするつもりなの?」
「俺の策略としてはキーカードの情報をAクラスに売るつもり。だからキーカードをカメラで撮ることが出来たらそれでいい」
「もしかしてオレたちにもリーダーを変えさせるつもりか?」
「?そうだけど?」
綾小路の反応に違和感を覚えたが、その違和感はすぐに解決した。
そういえば、こいつは始めから堀北をリタイアさせる戦略を立ててた訳じゃなかったな。
「別にいいだろ30clくらい。ケチケチすんな」
「別にポイントをケチったわけじゃない。分かった。こっちの戦略もお前に合わせる」
「おうありがとう」
というわけで綾小路の了承も得たから、最大限Aクラスを嵌めれるぜ。
「あ、そうだ。明日堀北のリーダーカード手に入れたら、どこに持っていけばいい?」
あー。考えてなかった。どうしようか。こんな広大な森の中上手く会えるわけないしなあ。でもこんな見晴らし良い砂場で真っ昼間に落ち合うわけにも行かないし。
「なら、うちのクラスのベースキャンプ近くにある小屋まで来てくれるか?多分うちの洞窟に来て上手い具合に頼めば、案内してくれると思う」
「えっと…。まずそのBクラスの洞窟の場所が分からないんだけど」
あらマジか。手間だしリスクもあるが、俺の方から行くか? と考えていた所で綾小路からの助け舟が来た。
「ならオレが案内しようか?今日探索で洞窟を見つけたから場所分かるぞ」
「そっか。なら近くまで案内してくれると助かるかな」
近くまで?別に一緒に来てもいいんじゃない?
と思ったけど、まあ些細なことか。別に気にする必要ないな。
「んじゃ、そういう感じで大丈夫か?」
「明日以降もここ集合か?」
んー。いや別にそんな小まめに報告し合うこともないだろうな。
「取り敢えず、6日目の夜にここに集合することだけは決定で。それ以外で伝えたいことが出来たら、偵察と称して相手のクラスに行く。そしたらその日の夜10時くらいにここ集合ね」
「緊急性の高い出来事が起こったら?」
「その時は相手クラスの偵察に行って『また○時くらいに来るかもしれない』って伝えてその時間にここに集合することにしよう。もしくは、相手が来るまで待って個人的な相談ってことにして普通にこっそり話すのもありかもな」
ここまで決めとけば流石に大丈夫でしょ。
取り敢えず現段階で出来る話は済んだと思ったが、そうじゃないらしい。
「こっちも幾つか報告と聞きたいことがある。Cクラスの伊吹って女がDのスポットに来たんだが、そっちにもCクラスから誰が来たか?」
あー。対Cの擦り合わせね。原作知識がある身としてはあんまり気にする必要を感じないけど。
「こっちには金田って奴が来た。うちは衣食住を提供するって条件でポイントと労働力を払う契約を結んだんだ」
「なるほどな」
「BとDに1人ずつ送るとか露骨すぎじゃない?やっぱスパイだよね」
「多分な。まあでも、こっちはリーダー変えるつもりだからスパイなんてしても意味ないけどな。無駄な努力ご苦労様って感じ」
「あはは。性格悪っ!」
「だってそうだろ?意味ないじゃん」
「そうだけどさー。それで相手から金取って働かせるなんてやっぱり性格悪いよ」
むむ。否定し切れない。でも、こっちは誰かと違って過去に学級崩壊なんて起こしてないんだぞ!
「まあ、状況は把握した。リーダーを変える前提で動く以上伊吹や金田がスパイでもそこまで気にする必要性はないな」
「おう」
「ただ、他クラスにリーダーを変えられる可能性に気づかれないように立ち回るべきだろうな」
「それは同感。こっちはこっちでそれっぽくカモフラージュするからそっちも適当によろしく」
「うん」「ああ」
こうして今度こそ完全に話し合いも終わり、自クラスのベースキャンプに向かうために2人は森の中に消えていった。
俺? まだいるんだよなあ。会合相手が。
今作の櫛田はチョロいですが、原作でもチョロくてなんか原作の方から解釈一致に寄り添って来てありがたいwwwww