本作は久しぶりすぎて色々感覚バグってるかも注意
無人島試験2日目。暑さを感じて目を覚ます。時刻は7時前。学校がある日の朝よりも30分以上早い起床だ。
「あっ! おはよう服部くん!」
「ああ。おはよう」
一之瀬がいつもみたいに明るいテンションで俺に声をかけてくれる。流石一之瀬。よく無人島でいつも通りの明るい感じを保てるよ。
「む〜?」
「ん?どうし」
何故かこっちに近づいてくる一之瀬。何事かと思っていると、おもむろに両手を俺の頬に添えてきた。
近い近い近い……!!
軽く後ろに引いて離れようとしたが失敗する。一之瀬から、そこまで強くはないが抵抗しないと離れられない程度の力で、俺の顔を支えるようにして後ろに下がるのを止めて来たからだ。
「ん〜? 隈があるよ? 寝不足? 大丈夫?」
そんな事かよ……!相変わらずパーソナルスペースってものがない。
「手……離して…」
声が尻すぼんでいく。すっげぇ恥ずかしい。多分顔真っ赤だ。
「あ、ごめんね?」
「………キスでも……されるのかと思った」
「キ、キス!? にゃ、にゃにを言ってるのかな! 服部君!」
「いやだって………。その、いや本当にキスされると思ったわけじゃないけどさ……! それくらい近かっただろ……!」
さっきまでの状況を思い出したのか、顔を真っ赤に染める一之瀬。
「ご、ごめんね。その、そんなつもりじゃなくて………。あ、いや別に服部君とのキスが嫌って言ってるんじゃなくて………」
「えっ!?」
予想外のリアクションに思わず声が
「い、今のなし!!私ちょっと顔洗ってくるね!」
そう言って猛スピードでウォーターシャワーの方に駆け込んで行く一之瀬。ウォーターシャワーって顔だけ洗うみたいな器用なこと出来たか?
いやそんなツッコミは野暮だな。いつ出てくるか分からないが、今一之瀬と顔を合わせると多分また恥ずかしさが込み上げてくるだろうから適当に外を散策して時間を潰す事にしよう。
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午前中はせっせと労働に勤しみ、シフトをオフにした午後がやってくる(Bクラスはシフト制で役割を回してる)
そう。櫛田がリーダーカードを持って来てくれる時間だ
ここで念の為、俺の無人島試験での目的、今日行う作戦、今までばら撒いたカードについて振り返っておこう。
まず、無人島試験での目的。これはシンプルにポイントだ。と言っても『どっちのポイント?』って話だが、今回は両方。どちらも最大利益を求めていこう思う。
ただし、ここで注意すべき事がある。
それは坂柳との共闘だ。
坂柳は葛城派を潰す為、俺はポイントを手に入れる為にこの試験でのみ共闘している。この共闘によって俺はAクラスの橋本と神室を"コマ"として自由に扱えるようになったが、代わりに葛城派を潰すという"縛り"(誓約と制約とも言う。普通の人は契約と呼んでる)を得ている。他人との縛りなので、達成出来なければ勿論、罰を受ける事になる。
つまり俺は今回の試験で、プライベートポイントとクラスポイントの両方を得ながら葛城派の潰さなければならないという事だな。
では全体を振り返った所で、次は俺が今日行う事を振り返ろう。
まず、Dクラスのスパイである櫛田と協力相手である清隆にDクラスのリーダーである堀北のリーダーカードを貰い、それをカメラで撮影する。
そして、Bクラスのリーダーである俺こと"服部晴秋"のリーダーカードと合わせて、Aクラスにプライベートポイントと2クラス分のリーダー情報(証拠付き)を交換する契約を持ち込む。
今日やる事はこれだけだ。明日やそれ以降にやる事の説明は、また当日になったら行おう。
と言ってもそれじゃつまらないよな。なので、明日以降の話に向けて、俺がこの試験の為に今までばら撒いたカードを説明しようか。
1つ目、葛城派に試験の情報を売った事。
2つ目、俺が橋本に頼んだ事。
まず1つ目のカード。葛城派に試験の情報を売った事。俺は原作知識を利用して、終業式辺りに葛城派に無人島試験の一部を教えていたのだが、それによって葛城派はこの試験に有利なサバイバル知識を身につけている。そしてこれにより、試験に大きく貢献出来ている葛城派に坂柳派が劣等感を募っていっている。
この時点で既に1枚目のカードの役割は終わっている。その役割とは『坂柳派から葛城派への劣等感』という種を蒔くことだ。
そしてここで蒔いた種に水を与えたのが、2つ目のカード。俺が昨日の夜に橋本に頼んだ事に繋がる。
昨日、俺は『坂柳派と葛城派の溝を深める』ために『坂柳派に葛城派への劣等感を与える』よう頼んだ(ここら辺の論理が分からない人は19話を振り返ってほしい)のだが、実はここで俺は橋本の思考を誘導する様な事をしている。
と言うのも、『坂柳派と葛城派の溝を深める』為の手段が『坂柳派に葛城派への劣等感を与える』しか無いように見せかけているのだ。正確に言えば、その選択肢以外見えないようにしている。
俺が何故こんな方向に思考を誘導したのか。何故、そもそも"コマ"として使える橋本に対して思考を誘導するようなことをしたのか。
結論から言うと、『坂柳派と葛城派の溝を深める』というのは後付けの大義名分でしかなく、『坂柳派に葛城派への劣等感を与える』ことには別の目的があり、その上、その本当の目的を橋本に知られると契約を反故される可能性があるからだ。
『橋本が契約を反故する』なんて言ってる意味が分からない。坂柳の指示もなしに独断でそんな事するだろうか?
そう言いたい人間がもしかしたらいるかもしれない。が、別にあり得ない話じゃない。どんな時にそうなると言うと、『契約を反故して受ける罰より俺の指示通り動いて受けるマイナスの方が大きい時』だ。
つまり、俺が坂柳派に葛城派への劣等感を与えてまでやりたい本当の目的は、橋本(達)にとって契約を反故するよりも圧倒的にマイナスになるようなモノだと思ってもらって構わない。その上で、俺の利益になることだ。
さて、作戦を振り返っている間に櫛田が来たようだ。場所はBクラスが取っている小屋の近く。
「来たか」
「やっほ服部くん」
櫛田は、キョロキョロと周りを確認しつつ俺に近づいて来る。……そして、俺に抱きついて来た。
………は?
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櫛田桔梗side
や、やっちゃったーーーーーーー!
私は出会い頭に服部君に抱きついた。思わず、とか衝動的に、では無い。一応理由、というか大義名分はある。"一応"だけど。
あぁ…でもやっぱりこれ恥ずかしいかも!?
そう思いながらも堂々と服部くんの胸に顔を埋める。石鹸のような柔軟剤の匂い……それと無人島という洗濯も風呂もまとも出来ない環境だから分かる服部くん本来の匂い。へへへっ。
「ちょ、何してるんだ?!」
「静かに。誰かが来たらどうすんの?」
「いや、それはこっちの
それはそう。いきなり抱きつかれたら困惑するのは当たり前だ。……でもさ、困惑100%なのは納得いかないんだけど。ちょっとでいいから照れたり恥ずかしがれよ。
「この状況誰かに見られたらどうするつもりなんだよ」
「1番見られたらマズイのは、私たちがカードの受け渡しをしている所でしょ」
『いやいや待て。そういうことじゃないだろ』って言いたそうな顔してるね。ふふっ。こういう時は分かりやすいんだよね。かわいい。
「この状況だって見られたらまずいし、それとこれとは関係ないだろ?」
「関係大アリだけど? カードは私のジャージのポケットの中にあるから早く取って。この状態なら誰かに見られても、その、あ、逢引きしてるようにしか見えないから最悪の事態は回避出来るでしょ?」
「は!?」
本当にこの場面見られて、誰かに逢引きしてるって勘違いされたらどうしよう。そんな僅かな可能性を憂慮する。いや、憂慮するフリだ。もし本当にそうなったら困る所かむしろ疑似既成事実で外堀が埋められたことを歓迎するだろう。
「いや、それは」
「あぁもう意気地なし! 何? あんたまさカこの程度ノことが恥ズかシいワケ?」
一向に何もしてこない服部くんに苛立ってこんな事言っちゃったんだけど……最悪だ。恥ずかしくて声が裏返った。それに絶対、顔真っ赤だ。チラッと(こういう時でも自分が可愛く見える角度は意識してる)服部君の顔を覗くと、『ああ〜。こいつも本当は恥ずかしかったのか。無理してたんだな』みたいな事を考えてる顔をしてる。しかもその直後になんか覚悟を決めたような顔しやがった。
「ふぇ!? ちょ、ちょっと何してんの?!」
急に服部くんが私の腰に手を回して抱きしめてきた。これで私がワザと開けていた空間(服部くんがスムーズに私のジャージのポケットからリーダーカード取る為に開けていた空間。恥ずかしくて密着出来なかったわけじゃないから!)が無くなり完全な密着状態のゼロ距離バグになる。
ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!確かに発破をかけたのは私だけどさ!これはがっつきすぎじゃない!?
でもそうやって戸惑いながらも、この密着バグそのものと服部くんがこんなにがっつくくらい私を求めているという事実にドキドキする。
「何って腹辺りでゴソゴソやってたら不自然だろ? だから、こうやって手を一周させてカードを取ろうとしてるだけだけど………。あれ? 何? 恥ずかしいの?」
はあ? ………へー。ふぅん。都合の良い大義名分ってわけね。そんなモノまで用意してそんなに私とハグしたかったんだ?(自分の事は棚に上げる)
「別に恥ずかしくないけど? このまま進めれば?」
私の負けず嫌いの性格と単純にもっと今の状況を長引かせたいという欲求が、状況を引けに引けなくさせる。
心臓がドキドキ鳴り響く。これ絶対服部くんにも聞こえてるでしょ。
服越しに感じる服部くんの体温とゴツゴツした男の子らしい肉体。
ちょっとドキドキし過ぎて足下がおぼつかないかも。でもふらつくことはなく、支えられてる事実と安心感。
「きゃっ!?」
「えごめん。どこか当たった?」
「いや、何でもないよ。気にしないで」
「?」
ちょっとさっきより抱きしめられる力が強くなってビックリしちゃった。でも、そっか。私のジャージのポケットに一周させて触らないといけないわけだから、そりゃあ、抱きしめる力は強くなるよね。って、考えてる間にもドンドン抱きしめる力が強くなっていく。
やばいやばいやばい。
さっきからゼロ距離ではあったんだけど、それ以上に密着させられると言うか、さっきまではくっついてるだけだったんだけど、今はお互いの体を押し付けあってるような感じ。さっきより全然際どい。
「ひゃっ?!」
「ごめん。言えばよかったな」
「いや、だ、大丈夫………」
今度は服部くんの手がポケットに入ってきた。そのせいで、ポケット越しの筈なんだけど、直にお腹を触られてるみたいな感覚になる。どうしよう?太ってるとか思われてないかな?!
「離すぞ」
「えっ………あ、うん」
服部くんがハグを解いたので、私も合わせて解くしかなくなる。心臓の鼓動はまだうるさく鳴り止まないのに、温もりは急速に遠ざかっていく。
「じゃ、ちょっと写真に撮ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
そう言って私から遠くの木の陰に向かっていく。私もついでに笑顔で手を振って妻が送り出すみたいなムーブを行う。多分効果ないと思うけど。私が満たされるから別にいい。
服部くんが戻ってくる前に次のムーブを考える。手を伸ばしてハグを要求する? でももし拒絶されたら、いや、されなくても恥ずかしい。また私から抱きつくか?
そうこう考えるが、まだ考えが纏まらない内に服部くんが帰ってきた。何故かジャージの袖を引っ張って萌え袖みたいにしてる。まぁ、アリなんじゃない?
でも、考えが纏まってない私を他所に服部くんは私に近付いて直接ポケットに手を伸ばした。そして、すぐにポケットからも手を離す。萌え袖は解除されてた。まさか。
ポケットの中を探ると、プラスチックの板のようなモノに触れる。間違いなくリーダーカードだ。ちょっとだけジト目で服部くんを見る。
「流石にあんな事はもう出来ないぞ。俺の心臓が持たないからな」
「!」
ちょっと顔を背けながらそう答える服部くん。私は服部くんの正面に回り込み、下から覗き込むようにして服部くんの顔を見る。
「へー?ふぅん?」
「……なんだよ」
また私から目を逸らした。だから、私もまた服部くんの正面に回り込んだ。
「……だからなんだよ」
「いやぁ? 別にぃ?」
「恥ずかしかったら言えば良かったのに。それはそうだよね。学校一の美少女とのハグなんて緊張するよね?ごめんねぇー。気づかなくて」
「は?!お前もあんなガチガチだったじゃねえか!」
「えー何のことー?覚えてなーい」
ふふっ。今日は気持ち良く眠れそう♪
「じゃあね〜。私の事が好きすぎてハグでいっぱいいっぱいになっちゃった服部くん♪」
私はそのままスキップでDクラスのキャンプ地まで帰った。
というわけで連載再開します。ただ、実は純粋に再開した訳でもなくてですね、宣伝目的も兼ねています。と言うのも現在、第二作目の
ようこそ伝説の特別試験を起こす教室へ
という小説を投稿しています。もし良かったらこの作品も見てほしいです。基本あっちをメインで投稿するつもりで、1:4くらいの割合の比重で執筆しようと思ってます。