無人島試験2日目 午後
櫛田と長時間ハグという心臓が何個あっても足りない
Aクラスのキャンプ地に近づくと1人の生徒が見えた。名前は分からないが見覚えはある。おそらくAクラスの生徒。クラス争いの性質上、どうしても何となく見覚えがあるだけで話した事はない生徒が多くなってしまう。
立ち姿や周囲への警戒心からして、食糧探索などで偶々そこに居るわけではなさそうだ。おそらく葛城の策。クラスメイトを警備員のような形で使ってキャンプ地を守っているのだろう。原作でも似たような事をしていた記憶がある。
正面からAクラスのキャンプ地に向かう。葛城の事だ。警備の穴など無いだろうし、俺に高円寺の様にターザン走法で警備を掻い潜れる身体能力もないからな。正面突破一択だ。
「止まれ」
まぁ、勿論止められる訳だがこれは予想通り。
「ここから先はAクラスが占有しているキャンプ地だ。食糧探索なら他を当たれ」
「葛城に用があるんだ。悪いが通してもらう」
「葛城
葛城
「お前は葛城派か」
「だから何だ。今関係あることか?」
「いや、確かに関係ないな。じゃあ俺は行くよ」
「ああ、さっさとどっか行……っておい!待てお前!」
俺は腕時計の正確な時間を確認し、Aクラスのキャンプ地の方に走っていく。
別に『俺にも本当に占有しているのか確認出来る権利はある』だとか『入っただけでルール違反にはないない』だとか『そもそも占有と独占はイコールじゃない』などいくらでも俺がAクラスキャンプ地に向かう主張を行うことも出来るが、時間が掛かって面倒くさいので却下だ。どんな手段でもキャンプ地に辿り着ければ問題ない。それに明日の予行演習にもなるかもしれないしな。
走力で勝てるかは分からないが、たとえ追いつかれても暴力禁止のこの舞台で俺を追い返すのは難しいだろう。だが、その心配は杞憂に終わり俺は警備の男に追い付かれる事なく、キャンプ地に到達する。日頃鍛えていた成果かな。
時計を確認すると10秒経過していた。道が整備されていない事を踏まえてると、警備の男がいた場所からここまで大体50 mくらいだろうか。
「葛城はいるか?」
もし、この場を外しているなら多少時間が掛かっても待たせてもらおう。そう頭の中で整理しながら、手前にいた女子生徒に聞く。が、その答えを聞く前に………
「待て待て待てぇ————!!」
さっきの警備の男に抱きつかれるように引っ張られる。おいおい。男からのハグはノーサンキューだぜ?
「何だ全く騒がしい」
奥のテントから葛城が出てくる。
「大丈夫です! 葛城さん!なんでもないっす! この男は俺が対処します!」
俺を引っ張ろうとしながら、叫ぶ警備の男。もうここまで来たんだから諦めてくれよ。
「いやいい。下がってくれ杉尾。その男はお前で対処出来るような相手じゃない」
「え、いや……………分かりました。すみません失礼します」
途端に丁寧に頭を下げて、元いた場所に戻っていく警備の男、改め杉尾。それに対して葛城も感謝の言葉を送る。敬意と感謝が交わる気持ちの良いやり取りだ。俺が敵である事を除けば。
「それで服部。ここが俺達Aクラスが占有しているスポットだと杉尾から聞いている筈だが、それを知ってまで侵入してくるとはどういう了見だ? お前はBクラスの参謀。下手な真似をして、AクラスとBクラスで戦争が起こっても文句は言えないぞ」
面倒くさい。いや、強行突破した俺が悪いのか。
「単刀直入に言う。Bクラス、そしてDクラスのリーダー情報をお前達Aクラスに売りに来た」
「「「!!!???」」」
Aクラス内に衝撃が走る。
「どういうつもりだ!?」
「自分のクラスを裏切ったのか!?」
「Bクラスのリーダー情報を売る? Bクラス全体の総意か?」
「罠か? 罠だな? 罠かもなあ!」
「Bクラスのリーダーを教える訳がない!絶対嘘付くに決まってるだろ!」
「そこは契約で縛れば何とか……」
「というかDクラスのリーダーをなんで知ってるんだよ!?」
「見栄張ってんじゃねえの?」
「いや、流石にここで見栄張ったりはしないだろ」
どんどん騒ついていくAクラス。これは、落ち着くまで一旦待つか。そう考えていた矢先………
「落ち着けお前達」
収拾が付かなくなりそうだったクラスの雰囲気を一喝で鎮静化する。流石だな。ここに居るのは葛城派だけじゃないだろうに。
「ここでどれだけ騒いでも意味がない。むしろ服部の思う壺だ」
「ま、葛城の言う通りだな。ほら、契約書は用意してある。そっちで確認してくれ」
そう言って、懐から紙を2枚取り出し、その内1枚を葛城に渡す。もう1枚は自分用だ。
『 1学年無人島試験契約書
契約日 2015年8月2日
契約署名者 服部晴秋
________
※以下で使われるクラス名は契約を結んだ時のクラスを指している
1. 服部晴秋は、葛城公平にBクラスとDクラスのキーカードに書かれてあった名前を教える
2. 服部晴秋は契約1の証拠として、キーカードを撮影した写真を見せなければならない
3. 契約2について。写真がブレている、画面が暗すぎる、撮った写真がキーカードの背面を写している、などの『名前がハッキリと確認出来ない写真』であった場合、契約4は履行されない
4. Aクラスは服部晴秋に対し、毎月1日に40万ポイント払わなければないない。これは2015年9月から2018年3月まで効力を発揮する
5. 契約4並びにこの契約全体はAクラスの総意として扱う。その為、契約署名者が退学やクラス移動をしても効力を発揮する
6. 契約2.3.5の証明として、この契約は真嶋先生立ち会いの下で行う
7. 真嶋先生はこの契約に対し公平な立場を取らなければならない
8. この契約の内容と存在をAクラス生徒は卒業まで他クラス(服部晴秋本人を除く)に喋ってはならない。喋った事が判明した場合、服部晴秋に罰金として10万ポイント支払わなければならない 』
「ふむ。クラス内で1度話し合っても構わないか?」
「勿論。ただこっちも暇じゃない。20分。いや、この場に居ない他のクラスメイトを集める時間も考えて30分だけ待ってやる。それだけ経っても決まらなければ、値上げか帰るかさせてもらうからな」
「随分と強気だな」
「そりゃあな。軽くかもしれないが中身は確認しただろ? かなりそちらに得がある話だ。これを飲まないのはどう考えても損。 強気にもなるさ」
「なるほどな。だが、こちらも怪しいと感じれば手はすぐに切らせてもらうぞ
「勝手に疑ってくれ。別に怪しくなんかないからな」
葛城らが話し合っている間にスポットの位置、そしてテント、井戸、焚き火をしていたであろう木が集められた場所、地面が特に踏みしめられた場所など『本来なら人が集まっている場所』の位置を記憶しようとする…………が、スポットが見当たらない。
契約書に注目している葛城らに気付かれない程度に軽くキャンプ内を動いて詳しくスポットを探す。
………アレか? 2つのトイレとシャワー室。それらに3方向から挟まれるように大きな布で囲まれたナニかがある。流石に今直接確認するのは不味いだろうし、後で橋本に確認しておこう。
恐らくだが、葛城目線で最も気にすべき点は龍園との契約だ。原作通り契約を結んでいるそうなので、龍園がBクラスとDクラスのリーダー情報を手に入れたら、証拠付きでAクラスに流すようになっている。
龍園にとってBクラスとDクラスは他クラス。リーダー情報を手に入れられる保証はないのに対し、逆にこちらは既に証拠を見せられる状況。ただ、もし龍園がこれからリーダー情報とその証拠を手に入れてしまったら、俺との契約は無駄金になる。
葛城にとって悩ましい所だろう。だが、俺との契約で得られるのは100 clだけじゃない。差を詰めてきているBクラスに-50cl とスポットでのボーナスポイントを失わさせる事が出来る。葛城目線、俺達はDクラスのリーダー情報を持っている為、追加で50ポイント得られる状況。契約を結ばなければ、Bクラスに更に差を詰められて溜まったもんじゃないだろう。逆に、契約を結べば、Bクラスと大きく差を広げられる。
そしてその功績によって葛城派の勢力は強くなる。口ではああ言っていたが、心は絶対こっち寄りな筈だ。
他の懸念点として予想出来ることは、坂柳のいない試験で成果を得すぎて葛城派が勢力を伸ばすことよく思わない坂柳派の反発あたりか。ただ、それに対してはこっちに橋本(とついでに神室)がいる。契約を結ぶ方向で上手く纏めてくれる筈だ。
程なくして、俺の予想通り葛城は戻ってきた。勿論、契約は結ぶらしい。
これで
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無人島試験2日目 夜
昨日伝えた通り、着船時の砂浜に橋本がやってきた。
「おいおい服部さんよ。あんな契約結んで本当に大丈夫なのかよ。このまま行けばウチのクラスが勝っちまうんじゃないか? 覚えてると思うが、俺たちは龍園とも契約を結んでいて無人島で与えられたポイントは使わず300ポイントそのまま保有してるんだぜ?」
開口1番にそんな事を聞いてくる。もうちょっと信用してくれても………ってそれは難しい話か。
「問題ない。このまま行けば葛城はコケる。それより確認したい事があるんだが、キャンプ地周辺を警備をしているのは全員葛城派か?」
「ん? いやそんな事はないぜ。普通に坂柳派も警備に割り振られてる奴はいる。割合的に言えば半々って所かな」
「へぇー。警備の交代のタイミングはいつだ?」
「大体3時間交代だ」
「なるほど。スポットの更新は大体どの辺りの時間に行うんだ?」
「点呼の午前8時前後に更新。そこから8時間おきに午後4時、午前0時に更新している」
「まぁ、スタンダードなやり方だな。あっ。そういえばさ、スポットはどこにあるんだ? トイレやシャワー室で3方向から囲まれてたヤツか?」
「そうだ。2つのトイレとシャワー室で物理的に外から見えずらくした上で、更に布で隠してある。更新する時は葛城が決めたメンバー何人かがあの布の中に入って完全に隠れて更新するようになってる」
「流石の防御っぷりだな」
想像以上の防御力に関心する。裏切りが無ければ、リーダーがバレるリスクがほぼ0に近い。裏切りが無ければ。
そんでもって仕掛けるタイミングは……キャンプ地周辺に
「警備はいつからいつまでやってるんだ?」
「朝の6時から夜の9時までだ。勿論、点呼の時だけキャンプ地に戻るけどな」
危ない危ない。 午前0時に仕掛けるのは無しだな。消去法で仕掛けるのは警備がいる午後4時のタイミングだ。
「午後4時以前で直近の警備交代タイミングは午後3時で間違いないよな?」
「ああ。合ってるぜ」
「よしっ。じゃあ、明日の午後3時半にここ集合。それまでに午後4時辺りに更新する筈のスポットの占有が切れる正確な時間、その時間に葛城派の生徒が警備している場所を一箇所把握して、俺に教えてくれ」
「了解。葛城派の生徒は誰でも良いのか? どんな奴が良いとかあるか?」
へぇ。気が効くじゃないか。こういう所は坂柳も気に入ってそうだな。
「そうだな……。出来るだけ足が遅い奴の場所を教えてくれ」
「任せろ」
「それで俺が明日やる事なんだけどさ、————————ってことをするから、それが終わったら————————ようにしてくれるか?」
「なるほど。今日、俺達とあんな契約を結んだのはその為か。明日の策で葛城派を失墜させるってわけだな?」
『葛城派を失墜させる』という坂柳との契約。その結末は既に俺の中で決めている。当初の予定とは大幅に変わったが、それでも
だから、俺は橋本の質問に答える事なくこの場を解散した。
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無人島試験3日目午後4時頃 Aクラスキャンプ地周辺
今は、橋本から伝えられたスポットの占有が切れるちょうど30 秒前。場所はこれまた先程橋本に教えられた生徒……に見つからないよう十数m手前の木に隠れている。
30分前に橋本にここを教えられてからコソコソとここまでやって来た。
20秒を切った所で、両手を上げて敵意が無い事を示しながら警備の方向に向かう。
「服部?! 今日は何の用だ?」
「また葛城に用があってな。通させてもらうぞ?」
「それは絶対に葛城さんじゃないとダメな案件か?」
「ああ。というか、最終的にはまたAクラス全体に伝えることになると思う」
嘘は言っていない。今回は昨日のような平和的やり取りは存在しないけど。
「………まさかCクラスのリーダーが分かったのか?」
「いや、流石にそれは分からん。とりあえず行かせてもらうぞ?」
「………分かった。俺も着いていくが、構わないな? それとちょっとだけ待ってくれ」
そう言って遠くに見える他の警備の人間に合図を送る。すると、その警備の人はキャンプ地に向かってジョギング程度の速度で戻り出した。
まずいな。 昨日からの対策か?
ここで葛城達に待ち構えられると面倒だ。あっちはジョギング。走れば先に着くか? いや、こっちが走り出せば向こうも気付くかもしれないし、何より対策がこれだけとは限らない。
例えば、キャンプ地に向かって叫ばれる。その声を聞いて、警戒状態で葛城達が待ち構える。
こういう事をされると俺の身体能力では作戦が失敗する可能性が高くなる。
なら一旦、堂々とキャンプ地に入ってから葛城をかわすか? 警戒してない状態ならかわすのも余裕だろう。
ただ、ここで警備がミスした印象を植え付けたい。堂々と行って葛城をかわせば、それは警備のミスではなく葛城のミスだ。
いや、流石に失敗するのが1番不味い。ここは堂々と迎え入れられて、不意打ちで葛城をかわす。 警備がミスした印象を与えるのは橋本に任せよう。
「じゃあ、行くぞ?」
「ああ」
警備の男に着いて行き、Aクラスキャンプ地に到着する。と言っても直線を50 m程進んだだけだが。
もうスポットの占有時間は過ぎている。流石に慎重派の葛城が、俺が来ることを知った状態でスポットの更新はしてないだろう。
「さて今日は何の用だ? 服部?」
予想通り葛城に出迎えられる。さてどう動くか。軽くスポットの方を見て、1つの案を思い付く。
「その前にちょっとトイレ借りていいか?」
「………こんな時にか?」
「すまん! ちょっと我慢出来そうになくて!頼む!」
「………分かった。早くしろ。男子トイレはこちらから見て左の方だ」
「ありがとう」
葛城は優しい男だ。『トイレを貸す』という害が出ない行動なら、試験中でも助けてくれると思った。
そして俺は堂々とトイレの方向、つまり
スポットの近くには誰もいない。スポットは布で覆い隠されている。人を配置して警戒していたら、逆にそこにスポットがあると知らせてしまうからだろう。それにクラスの人数も限られているからな。不必要に警戒しすぎて他に手が回らなくなったら本末転倒だ。
スポットは目前だ。俺は目の前にある大きな布を引き剥がした!
「服部!? どういうつもりだ!?」
焦る葛城の声に反応してAクラス中の目が俺に向けられる………が、もう遅い!露出したスポットに自身のキーカードをかざした。
「ハッーハハハ! Aクラス共! このスポットは俺が占有した! ここを使いたければ俺にポイントを払いやがれ!」
ゲスの笑い声がキャンプ内に響いた。
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