囲碁・将棋部に賭け将棋を挑んだ翌日の放課後。俺は神崎と一之瀬を自分の部屋に誘っていた。
「それで。話って何かな?」
神崎とは4月の内は普通の友達でいる、一之瀬にはポイントの変動を伝えない、と考えていたが予定を変更した。理由は早い内に俺が使える人間である事(ただの原作知識)を伝えといた方が立ち回りやすいかな、と思ったからだ。
「まずさ。この学校のことどう思う?高校生に1ヶ月10万円のお小遣いとか多すぎると思わない?」
「確かに。この学校卒業したら、消費癖ついてそうで怖いにゃー」
「まぁ、多少怪しくはあるが…それがどうしたんだ?」
「そうか。じゃあ、結論から言うぞ。来月貰えるポイントは10万ポイントじゃない。」
「理由を説明してもらえるか?」
「ああ。まず入学式の日に星乃宮先生が『この学校は生徒を実力で測る。』『毎月1日に振り込まれる』と言ってたのを覚えてるか?」
「ああ」
「うん」
「星乃宮先生は毎月1日に10万ポイントが振り込まれる、とは言ってない。」
「なるほど、そういうことか。毎月1日に振り込まれるポイントは変動し、その変動の仕方は実力で決まると。だが、そうなると、実力とは?という疑問が出てくるぞ」
理解はやいな。これは役に立ちそうで俺もにっこり。
「おそらくだが、素行とかだと思う。教室に監視カメラがあるのに気付いたか?遅刻欠席早退をしないか、授業を真面目に聞いているか、とかをチェックされていると思う」
「なるほどね。義務教育の間に何度も言われた事ができてるかどうかってことね。でも素行でポイントが変動することを知れば、皆ちゃんとやり出すんじゃないか?」
「そう、だから、来月からは学力とか身体能力とか、分かりやすく実力ってやつも問われてくるだろうし、ポイントが変動する試験なんかもやるだろう。言い忘れてたが、実力の評価単位は個人じゃなく、クラスで、Aが一番優秀でDが最弱。ついでに進学、就職率100%の恩恵を受けられるのはAクラスだけだ」
2人がメッチャ驚いてる。なんで?
「…よく…そんなに調べれたな。そんなに。まだ入学して3日だろ」
……確かにな〜。普通こんなに早く気づかないよなぁ〜。どうしよう。なんて言い訳しようか。
「ていうか、服部君さ、そのことに初日の内に気付きかけてたよね?」
「そういえばそうだな。星乃宮先生に質問していたやつか」
「それそれ!」
「まあ、頭には少し自信があるんだ」
「というか、そこまで分かってるんなら早く皆んなに伝えた方がいいんじゃない?」
「そのことなんだが。皆に伝えるのは少し待ってくれないか」
「どうして?」
「学校側と取引したい。もしかしたら、クラスの人にポイントの増減について黙っとく代わりにポイントをもらえるかもしれん」
「でもそれじゃ…他の人が損するんじゃないかな?それに気づいたのは服部君なのに私たちだけ教えてもらってポイントももらうとかズルいよ」
「さっき言ったポイントが大きく増減する試験があると推測できるだろ? あれで実力が低いとみなされた生徒はすぐに退学にさせられるぞ。クラスメイトが退学させられることにお前が耐えられるか?」
「耐えられないよ。でもBクラスに実力が低い子なんていないし、もしいたとしても退学になんて私が絶対させない。」
「ならなおさらポイントは貰っておけ。2000万ポイントがあれば、退学処分を受けても回避出来るぞ」
「…ホントどうやってそんなに情報集めたの?」
「それは企業秘密だ」
まさか『君たちの事小説になってるよ!』なんて言える訳がない。
「話を戻すぞ。とりあえず先生に明後日取引を申し込みに行く。だからそれまで黙っといてくれ」
「それは分かったけど、どうして明日じゃないの?」
「明日もう1人この秘密を共有したい奴がいる。ウチのクラスの姫野だ」
「何故、あいつなんだ?」
神崎が聞いてくる。
「正直言わせてもらう。これから他クラスとの戦いが始まった時、Bクラスは一之瀬に依存し頼りきる。断言出来るぞ」
神崎が苦い顔をする。何となくそうなると分かるのだろう。
「そうなったら、一之瀬に意見出来る奴なんて俺や神崎だけだ。足りないんだ。一之瀬に対等に意見出来る奴がもう1人欲しい。」
「それが姫野ってことか。」
「ああ。あいつはクラスを一歩引いて見ている。仲間にできれば、強力な戦力になる」
「………よくクラスメイトの事見てるね。まだ入学して3日目なのに。」
………確かに。クラスの事も学校の事も把握しすぎでは。まずい、なんて言い訳しよう……。あれ、なんかデジャブ。
「すまん、少し人に言えないような情報の集め方をしてるんだ。ギリギリルールに触れない、グレーゾーンのやり方で。だから、あんまり探らないで欲しい」
まったくの嘘を並べる。嘘に嘘を重ね、いずれ俺はクラスメイトに断罪される—————————これはそんな物語(違う)
「分かった。これ以上聞くのはやめとくよ。でも危険なことはやめてね。それで服部君が退学とかしたら、元も子もないんだから」
そう言って、一之瀬が俺の手を握ってくる。女子特有の柔らかさ。人肌の温もり。近づくと感じる花のような香り。やべぇドキドキしてきた。
「すまん。気を付けるようにする。」
「まったくだよ」
そう言って一之瀬は手を離した。もっと味わいたかった。
———————————
次の日の放課後の教室。
「姫野。話がある。少し付き合ってくれないか?」
「は……?なに」
ぶっきらぼうに姫野が返してくる。
「ここじゃ出来ない話だ。俺の部屋に行っていいか?」
「だる……下らない話ならすぐ帰るから」
「ああ、それで構わない」
第一関門クリアだな。
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俺の部屋にて
「は?なんでこの2人がいるのよ?」
「にゃはは〜、おじゃましてま〜す」
俺の部屋には神崎と一之瀬がいた。俺が姫野を誘う間に速攻で部屋に行ってもらっていたのだ。また、合鍵を作り忘れていたので自分の鍵を貸すハメになってしまった。今度、合鍵を作って渡さないとな。
「ああ、お前の説得に俺1人じゃキツイかもと思ってな」
「は、説得?帰っていい?」
そう言って踵を返そうとする姫野を見て俺は慌てる。
「待て待て!少なくとも話は聞いていけって!」
「はあ…、早くしてよね」
姫野ってさ、ぶっきらぼうで男っぽいとかあるけど、実は語尾に「ね」とか「よ」がついてること多いよな。こういう所で女の子っぽい所出されると、ドキドキしてしまう。
「分かった。まずこの学校についてなんだが——————」
この学校について一通り説明を終えた後。
「で?ポイントが増減することとか、Aクラスじゃないとこの学校の恩恵を受けられないのは分かったけど、そんなのクラスにまとめて言えば良くない?」
「実は明日学校と取引しようと思っている。ポイントについての情報を一定期間黙っとくかわりに、口止め料をもらえないかどうか」
「ならなんで私には言ったのよ?」
「口止めする人数が多い方が全体で多くポイントがもらえるだろ?」
「それも、別に私じゃなくていいじゃん。もっと仲良い子いるでしょ。なんだっけ、白波さん…とか」
「あれはダメだ。一之瀬のイエスマンでしかない。駒としてなら兎も角、棋士としては使えない。」
「私の友達をそんな風に言うのやめてほしいんだけど」
一之瀬がやや怒顔で言ってくる。かわいい。……ってふざけたらダメか。
「誠にごめんなさい」
「イエスマンだとなんでダメなのよ?黙っといて、ってのも聞かせやすいんじゃないの?」
「そうか。説明してなかったな。お前に話したのは、これから俺たちと一緒にクラスを引っ張て欲しいからだ」
「は、はぁ?めんどくさいし。私、Aクラスとか興味ないし。クラス争いとか勝手にやってよね。」
「安心しろ。お前の役割は、神崎と共に俺を支える事だけだ」
本当はもう一つ、一之瀬が暴走しないように抑えてもらう役割があるが、一之瀬の前で言うのはやめといた方がいいな。
「お前に俺たちの助けなんかがいるか分からないが、やるからには力の限りを尽くそう」
神崎が嬉しいことを言ってくれる。俺が女なら惚れてたかも、なんて。
「神崎君だけで良くない?私いる?」
「いる。俺や一之瀬に対等に意見を申せる奴は1人でも多い方がいい」
「でも神崎君はともかく、私があんたや一之瀬より良い意見とか言えると思えないんだけど」
「俺たちだっていつも正解を出せる訳じゃない。間違えることはある。でも姫野がいないとその間違いに気付くことすら出来ないかもしれない。そしてその間違いがクラスの生死を分けるかもしれないんだ」
それを聞いていた一之瀬が目を見開く。俺たちの選択がクラスの運命を握ることがあるかもしれないなんて考えた事が無かったのかもな。まあ、そんなこと意識するには早すぎるから仕方ないだろう。なんせまだ4月だ。
「私からもお願い、姫野さん。クラスの為に協力してくれないかな」
「知らないわよ。だから、私クラス争いとか興味ないんだってば」
ハッ。クラス争いに興味無いのは本当かもしれないが、お前原作で足並み揃えるのは大事とか言ってただろ。つまり、クラスの雰囲気悪くしたり、クラスの足引っ張ったりはしたく無いんだろ。
「一つお前にメリットを与えてやる。」
そう言って俺は姫野に耳打ちしようとする。あんまり一之瀬には聞かれたくないからだ。ところが、
「なっ、なに?!」
急に俺が近づいてきたことにビビッたのか、そんな風に言って慌てる。えっ、かわいすぎんか?
「ああ、悪い。メリット教えるから耳貸して」
そう言って、俺はもう一度近づく。今度は姫野も応じてくれる。
「これから、さっき言ったみたいなポイントが増減する行事があったらさ。うちのクラスって勝っても負けてもパーティーとかすると思わない?
しかも長い時間。特に中身も無く「お疲れー」とかそれだけを何時間も言ってさ。そうなったら、多分姫野も誘われるよね、そのパーティー。しつこく何度も何度も。断りきれなくて、結局無理矢理参加させられてさ。特に楽しく無い事に何時間も無駄に時間を取られる。嫌だよな。俺の左腕になればそのパーティー、誘う事すらさせないよ、どうする?」
姫野が悩む様子を見せる。今の話ちょっと現実的すぎるからな。まあ、原作にあった事だから当然なんだが。悩んでいる姫野を見て追撃をかける。
「更に。仕事をこなす度に報酬はやる。クラス争いに興味無いって言ってたが、金はあるだけあったほうがいいだろ?」
「……分かった。あんたに従うわ」
「従うというよりむしろ逆なんだが……まあ、末長くよろしく」
俺は右手を差し出す。4.5巻で月城が握手の手に意味を持たせてたが、そんな事は考えてない。よく分からんし。
「はいはい」
しぶしぶだが、姫野が手を取ってくれた。……………。さっきの反応といい、この手といい、ガサツに見えるけど姫野もやっぱ女の子なんだなぁ。
誰かに思考を覗かれたらキモがられそうな事を思いながら、俺は新たな仲間を手に入れた。
姫野をヒロインにするのもありだなって思ってます。どうですかね?
誤字脱字報告、感想よろしくお願いします。