超絶ドMウマ娘と鬼畜トレーナー() 作:ダイコンハム・レンコーン
ウマ娘は激怒した。
かの邪智暴虐なる鬼畜トレーナーを廃さねばならぬと。
トレーナーは激怒した。
かの邪智暴虐なる鬼畜トレーナーを廃さねばならぬと。
トレセン学園は激怒した。
かの邪智暴虐なる鬼畜トレーナーを廃さねばならぬと。
だが、その怒りはたった一枚の大きな壁に阻まれていた。
そのトレーナーの担当ウマ娘であり、たった一人、その身を生贄としトレセン学園を守り続ける健気な被害者。
その名は──『クウカチャン』。
今日もまた、彼女はその身を犠牲にトレセン学園を守り続けている。
♢♦︎♢
「……」
夕暮れに染まった練習場。一人観覧席からそこを眺めるウマ娘が居た。
名を、メジロマックイーン。メジロ家のご令嬢だ。
品行方正、常に優雅たらんとするその姿勢はまさしく、心身ともに高貴なる者だと言える。
……故に、度し難い。
彼女は今の現状が、どこまでも腹立たしかった。
「クウカさん……貴女は何故……」
彼女の目線の先には、ウマ娘一人とトレーナーが一人。
『もっと速く、もっと腰入れて引きなさい!』
『は、はいぃ〜! ぼへぇぇぇぇっ!!』
ウマ娘とトレーナーが揃ってやる事と言えば、トレーニングだが、今目の前に広がる光景は、到底トレーニングとは思えない光景だった。
ウマ娘のトレーニング法の一つとしてダンプカーのタイヤを
五倍、五つのタイヤを引かされていたのだ。
「あんなの……虐待ではありませんの!」
尋常ではない量の体液を垂らし、顔を真っ赤にして白目を剥きながら五つのタイヤを引くその姿は、もはや拷問と言って差し支えないモノだった。
「見ていられませんっ……!」
目の前の惨状から目を逸らしてしまうマックイーン。
そして、それは同じく練習場に来ていた他のウマ娘やトレーナー達も同様だった。
かつては、マックイーンとそのトレーナーと共にあの鬼畜トレーナーに直談判しに行った事もあった。
しかし、その度にトレーナーをかのウマ娘『クウカチャン』は擁護し、
そう、ここトレセン学園はウマ娘ファーストを第一に掲げている。故に、ウマ娘がそのトレーナーを必要とする限り、トレーナーがそのウマ娘を受け入れ続ける限り、外部からの干渉はほぼ不可能となる。
しかしその頑なさが却ってマックイーンに疑心を生んだ。
マックイーンは彼女があのトレーナーに何か弱みでも握られているのではないかと考え、トレーニングの合間合間にあの二人を監視する事にしたのだ。それは今もまだ継続中である。
しかし、あの鬼畜トレーナーはまるでボロを出さない。
タチの悪い事に、あの鬼畜トレーナーはあのトレーニングにより担当ウマ娘であるクウカチャンに結果を出させ続けているのだ。それ故、成績不振による解雇も出来ない。
それどころか、此方を挑発する様に目の前でクウカチャンを痛め付けていた。
その光景を見たトレセン学園の職員、ウマ娘達は一人残らず怒りに手が震えたと言う。
マックイーンも他者の迷惑を考慮しなくても良いならば、あの鬼畜トレーナーにブレーンバスターをお見舞いしたい気分になっていた。
しかし、現実は非常である。握りしめた拳を振り下ろす先はない。振り下ろせば最後、こちらの責となってしまうからだ。確かにウマ娘達にとって、目の前の光景ははらわたが煮え繰り返る程の物だが、それに担当のトレーナーを巻き込む事は出来ない。逆も然り。
「……必ず、必ず救い出して見せますわ」
なればこそ、彼女を正当に助け出す手段はただ一つ。
──
鬼畜トレーナーのトレーニングは無意味だと証明する事が、一番の近道となる。
マックイーンは後ろ髪を引かれる様な気持ちで自身の担当トレーナーの元へ戻って行く。
いつか必ず、と誓いの言葉を残して。
♢♦︎♢
「ふぅふぅふへ〜っ!!」
なんとも気の抜ける掛け声と共に、顔から色々と体液を流しながら恍惚とした表情で五つの特大タイヤを引くウマ娘が居た。
マゼンタの髪色と暴力的なボディラインが特徴のウマ娘。
そう、クウカチャンだ。
「(トレーニング終わらせたいから)もっと速く、(この視線耐えられないから)もっと腰入れて引きなさい!」
そしてこちらの圧縮言語の使い手は、かの鬼畜トレーナーである。
目深に帽子を被っている為、周りはその表情を窺い知る事は出来なかったが、その表情はさながらダンゴムシの裏側を見たOLの様に引き攣った表情をしていた。
要するにキモさと恐怖を感じていた。
──何故、こんな事になっているのかと言うと、クウカチャンがトレセン学園に入学してすぐの頃に遡る。
まずこのクウカチャン、超がつく程のドMだった。
トレセン学園に入学した動機が「厳しいトレーニングで(SMの)高みを目指せるから」である。コンプライアンス的に許されたらダメなヤツだ。
理事長の秋川やよいはこれを都合よく解釈したが……ある意味ここが一番の致命傷であった。いや、真の変態程、一般人への擬態率が高いのかもしれない。
そしてまんまと学園に侵入を許されたクウカチャンは、自分好みの鬼畜トレーナーを探す事に決めた。見つからなければ善良な一般人トレーナーが被害に遭う事を考えれば、結果はマシだったのかも知れない。
そして白羽の矢が立ったのが今のトレーナーである。
当時はそのトレーナーも純粋な"悪"だった。
とにかく頑丈なウマ娘を集めてレースにとにかく出走させて金を稼ごうと考えていたトレーナーに、クウカチャンの鬼畜センサーが全力で反応し、逆スカウト。トレーナーは三途の川の渡し船を渡りに船と思い込み、承諾。痛恨のミスである。
しかしこのトレーナーに悪行をさせなかった事は不幸中の幸いと呼ぶべきか、それとも類は友を呼ぶと言う事か。悪因悪果を生ずるのだ。
最初はどんな無理難題のスケジュールにも応え、結果を出すクウカチャンを使い勝手の良い駒と認識していたトレーナーだったが、映画でよく見る調子に乗った悪役が身に余る力を手にした時の様に、異常に気付いた時には時すでに遅し。
鬼畜トレーナーの名はトレセン学園に広まり、クウカチャンを手放そうモノならトレーナーとして再起不能にさせられる事にトレーナーは気付いてしまう(寧ろ気付かずにトレーナーを辞めていた方が被害は少なかったかも知れない)。
そう言う訳で、なし崩し的にクウカチャンの公開プレイに付き合わせられているのだ。本人は鬼畜の癖に真っ当な純愛物のお話が好きだと言うのに。
「ぼへぇぇぇっ! もっとぉぉぉぉっ!」
「そこッ!! 変な声を上げない!!」
クウカチャンを被害者だと完全に認識してしまっている周りから見れば、担当ウマ娘に悲鳴すら上げる事を許さない鬼畜トレーナーである。
──実際は変態ウマ娘とそれにドン引きするトレーナーなのだが。
また、この二人が存在している為に、思わぬ効果も生まれていた。
基本的にトレーナーの方針により、クウカチャンはターフもダートも距離も選ばない、どこにだって現れる可能性がある。
その為、学園中のウマ娘やトレーナー達が、クウカチャンを救う唯一の方法『レースでクウカチャンに勝利する』を成し遂げようとトレーニングに打ち込む事で学園全体の底上げが進んでいるのだ。
それ故に、現在のトレセン学園の総合力は世界でもトップクラスとなっているのだが……それはまた別のお話。
さて改めて──この物語は、ドMなウマ娘と鬼畜トレーナーが巻き起こす、勘違いの物語である。
アイデアが溜まってきたら後でブラッシュアップを掛けるかも。
2021/07/22誤字報告ありがとナス!