超絶ドMウマ娘と鬼畜トレーナー() 作:ダイコンハム・レンコーン
追記:今話の投稿からタグに曇らせを追加しました。
「ふふふ、鬼畜トレーナーさんに今日も
……朝から何を言っているのか、この歩く18禁は。
と言う訳で、今日の物語はクウカチャンの寮室から始まる。
「あ、ゴールドシップさん、朝ですよ」
2人1組で生活する寮室。クウカチャンのペアはゴールドシップと呼ばれる芦毛のウマ娘である。
「むにゃ……ちげえって……ちくわぶの過積載は反則だろ……」
「えっと、こんな時は……"レンズ豆をダイアモンドカットにしてギミック発動、テルモソソの怒りによりレンズ豆を手札に戻して再召喚、ライフポイントを回復し、レンズ豆をダイアモンドカットにして……"」
風邪を引いた時に見る夢の方がまだ理解出来そうな寝言を呟くゴールドシップに、クウカチャンもまた謎の文言を唱える。すると──
「ゔわぁぁぁぁっ!! 無限回復遅延デッキとか反則だろうがぁぁぁぁっ!?」
「あ、ゴールドシップさん、おはようございます!!」
──起きた。柄の無いジグソーパズルの方が遥かに理性的なやり取りである。
「っあ、クウカか。……起こしてくれてサンキューな」
「いえっ、当たり前の事をしただけですから」
クウカチャンは淡々と会話を紡いでいく。自分の妄想を語る時は狂った様に饒舌になるのだが、普段の状態ではそうでもないらしい。
「……また今日も、アイツのトコ行くのか」
「はい、トレーナーさんが待ってますから」
その言葉が意味する所はつまり、朝練である。
鬼畜トレーナーの朝からのトレーニングもといプレイ内容を想像し笑顔で答えるクウカチャンに対し、鬼畜トレーナーが行う虐待染みた練習を想起するゴールドシップは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
健気さとは無縁の、もしかすれば世界で一番欲深いとも言えそうなクウカチャンだが、その擬態が脅威的なまでに状況を悪化させている。
「……お前さ、もちっと休む気とかねえのかよ」
「(折角のプレイなのに)休める筈ありませんっ」
「そっか……チッ、そうだよなぁ」
内心、頭を抱えるゴールドシップ。トレーニングを休めばトレーナーから更にキツい扱きを受けるのだろうと、彼女はクウカチャンの言葉をそう解釈していた。
確かに、誰かを想う優しさはそこにあるのだろう。しかしながらそんな心配はまるで無意味と言う事実が非常に虚しいのである。
「なら! えと、なら……」
そしてゴールドシップは、そんな自身の無力に臍を噛む。
トレーナーを無人島に連れ去る事も、クウカチャンを何処かへ連れて行く事も、ゴールドシップならば至って容易に出来るだろう。
しかし、それでは根本的な解決は難しい。
トレーナーとクウカチャンを公的に引き剥がす権力が存在しないからだ。
ゴールドシップには自負があった。
自分は何だって出来ると。不可能など存在しないと。
勿論──クウカチャンに勝つ事も。
しかし、結果は"ハナ差"。
いつもいつも、彼女は僅か数センチの壁を前に敗れていた。
そしていつからか、ゴールドシップはその数センチを、数十メートル、数百メートル、数千メートルと、決して届かない"大差"に思ってしまう様になっていた。
「……へへ、どうすりゃあ、良いんだろうな」
笑って誤魔化し、目を逸らす。
ゴールドシップは、不可能を認めない。認めたくない。
だがその不可能を可能にする答えは、今もまだ見つかっていない。
対してクウカチャンは、暗い顔をするゴールドシップを見てこう思う。
(ゴールドシップさん、何故そんな顔を?)
トレセン学園、と言うよりウマ娘達は基本的に"汚れ"が無い。純情ハートなウマ娘が殆どなのだ。故にこんなドMが居て、無茶苦茶のトレーニングを喜んで受けているなど、思い付きもしないのだ。
ならば確かに、クウカチャンの方が察してあげるべきだろう。
(こんなの、ゴールドシップさんらしくありません! クウカが励ましてあげないと!)
この日、珍しくクウカチャンは自らアプローチを試みた。
「ゴールドシップさん! 大丈夫です!」
「えっ? いきなりどっしたのよ」
「
「……っ!」
結果──ゴールドシップの顔が険しくなった。
そもそもクウカチャンは何故ゴールドシップがそんな顔をしているのか、その訳に気付いていないのだ。その為、主題が無い。
そして、ゴールドシップの目にはこう見えただろう。
──さながら、DV夫の元を離れられない、幸薄の妻の様に。
「クウカッ!」
「ひゃいっ!?」
ゴールドシップは、堪らずクウカチャンを抱きしめた。
「クウカ……待っとけ、このゴルシ様が絶対に勝つからな」
「へ? へ? へっ?」
大きな体躯のゴールドシップの胸の中に、すっぽり収まったクウカチャン。
赤と白。
幼気さが垣間見える美少女、クウカチャン、怜悧な表情をするは美少年とも見まごう麗人、ゴールドシップ。
さながら劇の一幕のような光景は、クッソ下らない勘違いから生まれているのだから救いようがない。
「はへ?」
──気付かぬ内にゴールドシップのやる気スイッチを押してしまったクウカチャンの明日は、どちらか。
トレセン学園に昼が来た。
昼が来たなら、当然メシ時である。
「クウカさん、一緒にご飯どうですか?」
「クウカ……飯でもどうだ?」
「クウカサーン! ランチタイムをトゥギャザーしませんか〜!」
すると、クウカチャンの元には様々なウマ娘がやって来る。
今日やって来たのは、スペシャルウィーク、オグリキャップ、タイキシャトルだ。
それもその筈。クウカチャンへの酷い扱いを見てしまったキングヘイローが主体となり毎日ローテーションでウマ娘達がクウカチャンと昼飯に同伴する文化が生まれたからだ。
……トレセン学園はいつからセラピストの巣窟となったのだろうか。
それでいて事件は迷宮入りしている為、徒労などと言う言葉すら甘いくらいに努力の方向音痴である。
「あ、皆しゃん! はい、喜んで!」
そして普通にしていればただの良識的な美少女であるクウカチャンは断る訳もなく、テーブルに4人一緒に座る事になった。
「クウカ、今日は何をしたんだ?」
「? 勉強ですよ」
「……」
「……」
凄まじい速さで空気が死んだ。オグリキャップの手によって。
学園生活に於いて「午前中何をしたか」と言う質問は、今日の天気を聞くよりも遥かに下策である。授業しかしていないのだから。
「あっ! 今日ゴールドシップさんが一生懸命朝トレしてたんです! 何かあったんですか?」
「いえ、特に何も?
「……」
「……」
また死んだ。蘇生した瞬間空気が死んだ。スペシャルウィークの手によって。
察しの良いスペシャルウィークとタイキシャトルは明らかにそれが原因だと悟った。と同時に自身にもダメージが来ていた。オグリキャップは何となくで察している。
クウカチャンとの会話には落とし穴か地雷しか無いのだろうか。
スペシャルウィークは口を開いたままフリーズし、オグリキャップは難しそうな顔をして山盛りの飯を食べ、タイキシャトルはお腹の辺りを押さえてげっそりとした表情をしている。
「クウカサーン! 今日の放課後にヤキニクパーティがありマース! ご一緒にトゥギャザーしませんか?」
見かねたタイキシャトルは、放課後の話を切り出した。
「本当か!?」
「本当ですか!?」
何故か外野の2人が真っ先に釣れる、が、タイキシャトルはこれを華麗にスルーする。
「えっと、クウカはトレーナーさんに、(妙な噂が立たないように)他の方の所に行かないよう言われてるんです」
「……レアリー?」
「はい、本当は(余計な事を言わないように)あまり他の方とも喋らないようにとも言われてて」
「……」
「……」
「……Oh my gosh」
結局、空気は死んだ。その惨憺たる光景は──
──あのオグリキャップが茶碗に付いた米粒を食い切る事も忘れる程。
──あのスペシャルウィークが思わず箸を膳に置いてしまった程。
──あのタイキシャトルがネイティブにリアクションを取ってしまう程。
何故こうなったのか。
一番の問題点は、クウカチャン自身も鬼畜トレーナーが精神的に参っていると言う事に気付いていない点だった。
しかしクウカチャン含め誰もその事実に気付いていないのである。
「あっ、トレーニングの時間なので、失礼しますね!」
そして今日もまた、勘違いのタネをばら撒くだけばら撒いてクウカチャンは午後のトレーニングへ向かうのだった。