超絶ドMウマ娘と鬼畜トレーナー()   作:ダイコンハム・レンコーン

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お久しぶりです。生存報告がてらの投稿なので後で改稿するかも。


クウカチャンの一日 午後(1/2)

 知っている。ウマ娘でただ1人、知っている。

 

 シンコウウインディだけは、知っている。このトレセン学園には、ドドド変態が1人いる事を。ドが足りない? 正確な表現をしようものならランマーの擬音の表現になってしまうだろう。

 

「ウインディさん……」

 

 サッ、まるで視界に移ってはいけないモノを見た様なリアクション、いやそのモノな態度で彼女はマゼンタ色の悪魔から背を向ける。背後から甘ったるく、媚びる様な声がしたが、彼女は聞かなかった事にする。

 

「見てない、聞いていないのだ──」

「ウインディさん、こっちを向いて──」

 

 どこの幽霊だお前は、と鬼畜トレーナーならば言うであろうその光景は、人気の無い校舎裏で起きていた。トレーニング中に人の目を掻い潜り、急に噛みついて自分に目を向けさせようなどと企んだ罰にしては重過ぎる。

 

 実のところ、クウカチャンに対する最後のストッパーとなっているのは、鬼畜トレーナー(ヘイトタンク1号)だけではなく、シンコウウィンディ(ヘイトタンク2号)もまた同じであった。

 

 彼女の興味が2人に移っている間は、そのクラスター地雷がばら撒かれる事もない。彼女は身を挺して学園の風紀を守ったヒーローなのだ。

 

「く、クウカに一杯ウインディさんの徴を付けてくれた日の事は覚えてます! あの時みたいに思い切りやって欲しいんです! あの時のことを思い出すだけで──ぐふふ」

「いや一体何言ってるのだ?!」

「あの一夜を忘れたんですか?!」

「余計酷くなってるのだ!?」

 

 自らの趣味となると饒舌になるクウカチャンを前に、すっとぼけなど許されないと言う雰囲気が醸造されていく。一見エゴイストながらもセンチメンタルなウインディにはこの圧にいよいよ無視も出来なくなってきた。

 

 ウインディはあの日の過ちを悔いた。今から誰にも噛みつかないから、あの日の事を取り消してくれないだろうかと3女神に願うも、彼女達は既に匙を明日へ不法投棄している。もうどうにでもなれと言う事だ。

 

「トレーナーさんだけじゃなくて、同じウマ娘にもウインディさんみたいな鬼畜さんが居てくれて、クウカ、幸せでしゅ、ぐふふ」

「ウインディちゃんの"ソンゲン"が壊されてる気がするのだ……!」

 

 クウカチャンの肉感的な躰に噛み付いた時の事は、今でも彼女の頭の中にある。それはきっと禁忌の味だったろう。あの時のクウカチャンの抱擁力はスーパークリークに似て、心に懐いたモノはアグネスデジタルへの畏怖に似たモノだった。

 当人がヤバいおくすりを一服盛っていそうなリアクションであるからして、その身体にもヤバい成分が含まれているのだろうか。

 

 なんとも言えない噛み心地、噛みつきソムリエシンコウウィンディのアゴに馴染む感覚は、捨てがたくもあり。ぐぬぬと呻くウインディ、クウカは容赦無しに畳み掛ける。

 

「わ、私にあんなコトしてくれたのは、トレーナーさんとウインディさんだけなんです。だから──」

 

 だが、ウインディは弾けた。

 

「もう知らない知らない知らない! ウインディちゃんは何も知らないのだあーっ!!」

「あっ……」

 

 耐え切れず逃げるウインディに、寂しげに手を伸ばすクウカ。

 

 しかし、その悲しみはすぐに拭い去られる事だろう。

 

「ふふ……いやはや、アレが初めて賞金を獲得した時以上に喜ばしい事があるなんて、思いもしませんでしたよ」

 

 彼女が走り抜けた校舎裏の影からクツクツと笑い声。同じ悲しみ(苦しみ)を分かち合える同士が居るならば、かのトレーナーが放っておく筈などないのである。

 

 噛み癖と言う気性に難のある彼女は、チームの輪の中に溶け込み辛く。仮に入ったとしてもウインディか他のチームメイトに何らかの忍耐を強いる事になる為、中々スカウトが来ないでいた。そしてここ日本では芝のレースが人気、そんな中ダートを主戦場とする彼女には更なる不利条件が付きまとう。

 

「見たところ走りも中々。そして彼女の主戦場はダート、アレもダートを走る事はありますがやはり主戦場は芝、互いに被らない」

 

 だが、そんな条件など、全てを過去にする核爆弾と比べれば遥かにマシ、いや寧ろ最適であるとすら彼は思う。何故ならば、ある程度浮いた存在であれば引き込んだ所で周りから干渉されるリスクが減り、ド変態とそれに付き合う変態トレーナーと言う風評被害を回避する事が出来るためだ。

 

「折角見つけた理解者足りうる存在、逃がしませんよ」

 

 ──しかし、彼女と彼が揃えば大概はロクでもない事が起きるのである。

 

 

 

──✳︎──

 

 

 

「わ、私を捨てるんですか──まさか、新しいプレイ……」

 

 シリウスシンボリがトレーニングをフケて校舎裏に足を向けた瞬間、この世の絶望を煮詰めた様に昏い声がした。幸か不幸か、末尾の余計な語句は小さ過ぎて耳に入らなかった様だが、彼女はつい気になって校舎裏を覗いてしまった。

 

「正直なところ、アナタには飽き飽きさせられましたからね。今すぐに縁を切りたい位です」

「こ、言葉責めっ!」

「──何だ、ありゃあ」

 

 シリウスシンボリは、その暗がりに立つ二人に目を凝らした。それは帽子を被った中肉中背の男と、マゼンタ色の髪のウマ娘。言うまでもなく鬼畜トレーナーとクウカチャンである。

 

「わ、私を捨てちゃうんですか!」

「っな!」

 

 涙ながらの震え声。シリウスシンボリには、今に捨てられようとしている彼女が健気に問いかけている様に見えた。尚実際は悦びに打ち震えているだけである。

 

「捨てませんよ。アナタを捨てたらアナタがどうなるか想像もつきませんからね」

「トレーナーさん……」

 

 まるで洗脳。捨てられる、と言う恐怖を楯に彼女が自分に依存せざるを得ない状況に追い込んでいる。シリウスシンボリは忌々しげに舌を打つ。

 

「つまらない(ヤツ)だな」

 

 下らない、ああ下らない。この状況を取り巻く何もかもが下らないのである。欺瞞と錯誤に満ちた空間で、誰一人として正しく居られる者は居ない。

 

「では、暫く私は離れますが変な事はしない様に、くれぐれも」

「はい、クウカはトレーナーさんを待ってますね!」

 

 シリウスシンボリもクウカチャンが危険なトレーニングを日々課されているのを知っていた。と言うのにトレーナーは監督もせずその場を離れると言う。シリウスシンボリは益々イラついた。

 

「随分な扱いされてるじゃないか」

 

 だからか、彼女の前にふらりと姿を現したのは。

 

「……シリウスシンボリしゃん?」

「ちょいと失礼、アンタは確かクウカチャンだったか?」

「は、はい?」

 

 前を開けたジャージ姿はかなりとサマになっている。そのギラついた目も、微笑を湛えたその口許も、見れば多くの人々が魅了される事だろう。しかしながらクウカチャンは首を傾げるばかりで何が何だか分かってもいない。

 

「あんなヤツにお前なんて勿体ねえ。私ならもっとイイ所に連れてってやれる」

 

 口説き文句も慣れた風だ。ここトレセン学園ではウマ娘ファーストのお題目は掲げられているが、それでも全てを掬い上げる事は叶わない。身体的、環境的な理由からドロップアウトしてしまうウマ娘も少なくない。そんなウマ娘達を誘っては面倒を見ている彼女の経験の賜物だ。

 

 脚を退いたクウカはそのままシリウスの圧に押され校舎の壁際へ。そしてその背中が冷たい壁にぴたりと付いた瞬間。

 

「なあ」

 

 シリウスの手が彼女の頭の横に叩きつけられる。

 

「──どうだ?」

 

 残った手は、彼女の(おとがい)に添えられた。顔を持ち上げ、二人の視線はぶつかり合う。

 

「い、今はダメです! クウカには、あの人が必要なんでしゅ!」

 

 しかし、舌足らずにクウカはそれを断った。自分にとってこの上なく都合の良い環境であるからだ。確かにシリウスシンボリにはクウカの鬼畜センサーに微弱な反応があったが、根はどこまでも善良であるが故に"壁"を超える事が出来なかったのだ。

 

「ん、そりゃあ残念だな」

「その、ごめんなさい」

「いいさ、アンタが私を見てないのはさっきから分かってたんだよ」

 

 クウカが振り向く事など一生無い方が良い機会ではあるが、シリウスがそんな事を知る筈などなく。シリウスはあっさりと引き下がった。

 

「知りたいねえ。本当のアンタはどこに在る?」

「?」

 

 クウカが下げた頭を撫でると彼女は一言残して校舎裏を去る。

 

(洗脳なんかじゃねえな。あれは)

 

 穏やかな日差しの下、シリウスは考えていた。何が彼女を駆り立てるのか、と。当然この思考は時間の無駄である。どうせロクなモノで無いのだから。

 

(意志ってやつが確かにあった。──だが、あのまま行けばいつかどこかで取り返しのつかない事になる)

 

 それは確かに正しい。主に鬼畜トレーナーの社会的地位とトレセン学園の教員生徒達のメンタルに悪影響を及ぼすだろう。クウカ当人はそれで蔑む目で見られた所でホクホク顔だろうが。

 

(幾ら私でもここまで首を突っ込むとはな。皇帝サマのお人好しが感染っちまったか?)

 

 幾ら秀才であろうと、そこに無い答えを提示する事は無理難題だ。ミルクパズルすら生温い不定形のパズルである。真っ直ぐで歪な心は見透かす事など出来ない。

 

(あんなフニャついた顔の癖して、どこまでも頑固なヤツだった)

 

 故にどれだけ目を凝らしても──

 

「私を袖にするなんて、おもしろい(ヤツ)だ」

 

 闇に巻かれて、真実は隠されたまま。

 

 ──ただおもしろいだけの女など、そこには居ないと言うのに。

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