異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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1章
1話 新しい人生


 僕……高崎蓮(たかさきれん)はとある地方都市の公立高校に通う十七歳の男子高校生だった。

 容姿も頭脳も普通、何かのめり込めることも、これといった特技もなく自分を代わり映えのない人間だと自覚していた。

 

 そしてこれまでもこれからも普通の人生を歩むと思っていた。

 

 

 そう思っていた……

 

 

 一瞬……本当に瞬きの間の出来事、しかし僕には数秒にも数十秒にも感じられる時間だった。

 

 いつものように学校を終え、季節がらそれなりに早い時間でもかなり薄暗くなってきた下校の途中、横断歩道で信号を待っていたところトラックが突っ込んできたのだ。

 

 そのほんの数秒前、向こうから一台だけ来るトラックの様子がおかしいと感じていた。速度の緩急があったり、ふらついた動きだったり、おそらく居眠りでもしていたのだろう。

 

 

 しかしそう感じてはいても、突然急カーブをしたその車体を当然避けられるわけもなく僕の体は宙を舞った。

 

 跳ねられた瞬間、自分の骨が割れる鈍い音をはっきりと耳にし、地面に叩きつけられた体から絨毯のように血が広がった。不思議と痛みはなく、意識ははっきりしていたが指先ひとつ動かせず、ただ横たわるのみだった。

 

 

 やがて冬のアスファルトの冷たさも感じなくなっていき、自分が死にゆくことを予感した。家族や友人、今までの人生がかすかに脳裏に浮かぶ。

 

 

 ……もうそのことを考える気力もなくなってきた。もやがかかったようだった視界が徐々に暗くなり、自分の体が浮いていく気がした。

 

 

 何か特別なことをしたわけでもない。ただ生きていただけの……僕の人生はここに終わった……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 …………意識が……ある?

 いったい何があった? 僕は死んだのか? あれから助けられたのか、それとも……ここが死後の世界ってやつ?

 

 ともかく、ふと気がつくと自分に確かな身体の感触がある。

 多少混乱したが身体は動かせなかった。その代わり少しずつ視界が開けてきたので、僕はひとまず落ち着いて状況を観察することにした。

 

 

 薄暗い部屋、本のようなものがあちらこちらに散乱している。どうやら室内にいるらしい。

 少なくとも、病院というわけではないようだ。

 

「………?」

 

 ふと見ると部屋の中央で椅子に座り、読書をしている人物がいた。顔までは見えなかったがシルエットは女性であることがかろうじてわかる。

 その人物がこちらの様子に気づいたのか、読んでいた本を閉じこちらに近づいてきた。

 

「どうやら、お目覚めのようだね」

 

 その声は綺麗で、それ以上に何か安心できるような不思議な魅力を帯びた声だった。

 彼女が近づいてきたことでその容姿もはっきりと見えてくる。

 

 歳は二十歳そこそこくらいに見える、比較的長身でその顔立ちはかなりの美人ではあったが、どこか好奇心にあふれる子どものような印象を感じさせた。

 少しはねていて、軽く肩にかかるか、かからないかくらいのセミショートのきれいな金髪、透き通るような碧眼、すこしダボっとした服をきたその人物。

 予想はできていたが医者や看護師といった感じではない。

 

 それなのになぜだろうか? 

 この人に対し、警戒をするという気持ちにならないのは?

 

「じゃあさ……これは何本に見える?」

 

 その人物は指を三本立て、僕に問いかけてきた。

 一応、声は出せそう。状況はつかめないが、危険はなさそうだし……

 

「三本です…………え?」

 

 それを答え、自らの声が耳に入った瞬間、僕は気づいた。

 自分の声が全く違った、まるで女の子のような透明感のある高い声になっていたことに……

「うんうん、意識ははっきりしているようだね。問題なしっと」

 

 彼女はこの状況に納得するかのように、うなづくような動作をしている。

 ということは……この状況はこの人が作り出したってことか?

 

「まあ、色々戸惑うことはあるかもしれないけれどまず要点を話そうか。君には……これからこの世界で私と一緒に暮らしてもらう」

「はい?」

 

 この世界? 一緒に暮らす? 一体この人は何言ってるんだ……

 

 

「なーに言ってんだこの人、てか自分は死んだんじゃ?……みたいな顔してるね。ちゃんと説明はするから安心したまえ」

 

 その言葉に混乱をしていると、この人はずいぶんと気さくな口調で説明を始める。

 話を聞けばわかる、そう言うかのように。

 

「まず、君についてだが……君は一度死んだ、間違いなくね。私が殺したわけじゃないからその死因まではわからないけど、君はしっかりとその記憶があるはず……あるよね?」

「記憶……あっ……」

「ごめんごめん、つらいなら思い出す必要はないよ」

 

 あの瞬間を思い出す……轢かれたときの音、感触、痛み、全てが鮮明な記憶として残っている。

 やはり一度自分はその生涯を終えたのだと……

 

「生物の魂は通常その生物が死ぬと肉体を離れ、また違う生物に宿る。だが私は君が死んだ後すぐに魂をこの世界に引き寄せてその身体に入れた、というわけだ」

 

 その肉体? 他にも気になる言葉はあったがその言葉を聞き、先ほどの声の変化を思い出す。

 そして僕はある程度自由に動かせるようになった、自分自身を初めてこの目で見た。

 

「あれ? え?」

 

 簡素な服の上からわかるかすかに膨らんだ胸、かつての自分よりも細い手足、首筋にかかる感触のある長い髪……

 なんとなく予想はしていたが、これはやっぱり女の子の身体?

 

「まあまあ、落ち着いて。次にその身体についてだけど……まだ自己紹介をしていなかったね。私の名前はセシル・ラグレーン、ここで魔術を研究している者だよ」

「ちょ……ストップ!」

 

 淡々と説明をする彼女に僕はたまらず口を挟む。

 

「いやいや、待ってくださいよ。何で女の子の身体になってるんです? それに魔術って……そもそも、ここどこ?」

 

 ようやくこちらから意見できたので、ここぞとばかりに僕は矢継ぎ早に疑問をぶつけた。

 それを聞いた彼女は一瞬考え込むような動作の後……

 

「あ~そうか、なるほど。それより……君はもしかして男の子?」

「えっ? そう……ですけど」

「マジか……やらかしたかも。でもそれならそれでいいかな。とにかくこれから話すから続けるよ」

 

 なんだか、スルーされてしまったようだ。しかも向こうは納得しているようだった。

 その反応から察するに、女の子の身体になってるのは手違いがあったっぽい……

 

「まずその身体だけど、この近くのある場所に、腹部を刺されて倒れている少女がいた。その子は私が見つけたときにはすでに息絶えていて、蘇生は叶わなかったがその身体からは素晴らしい魔術の才能が感じられた」

 

 え……それって、つまり……

 

「私はずっと一人で研究をしていたが、その子を助手に欲しくなった。しかし、死んでしまっていてはどうしようもない。そこで私は別人の魂をその子に入れて助手にしようと思ったわけだ。魔術の才能は肉体に依存するものだからね。……ここまで話せばもう分かったと思うけど、それが君だよ」

「……!」

 

 その予感は的中した、やっぱりこの体ゾンビなの?

 

「ああ、大丈夫。肉体の損傷は私が完璧に治した。つまり、魂が入った今の君の肉体は生前と変わらず活動している。試しに自分の胸を触ってごらん」

 

 その言葉を聞き、僕はゆっくりと自分の胸に手を当てる。

 ふよふよとした柔らかい感触に一瞬戸惑ったが、心臓がトクントクンと確かな鼓動を刻んでいることを確認できた。

 

 それは今まで生死も曖昧だった自分が、生きているという安心感を感じさせるものだった。

 

「これで一通り説明は終わり。本題に入るけどさっきも言ったように君は私の助手になり、この世界で暮らしてもらう」

「う…………」

 

 僕はあまりに非現実的な話の連続に戸惑っていたが、この人が嘘を言っているようには感じなかった。

 それどころか……死んだと思ったらこんな場所にいきなりいたなんてもっと気が動転していてもおかしくないはずなのに、自分でも困惑するほどその説明を理解し、冷静に考えることができている。

 

 だけどその問いかけに返事をすることは出来ず黙っていると、彼女はどこからか手鏡を取り出し僕に渡した。

 

「試しに今の自分の顔でも見てみる?」

 

 そう言われ、手渡された鏡を覗き込むと……

 薄暗い照明の光に照らされる長い銀髪、滑らかで透き通るような白い肌、はっきりとした藍色の瞳、年は十六、七歳くらいだろうか……とても整った顔立ちをした少女がいた。

 予想以上にかわいい……文句なしの美少女だ。

 

「ね? かわいいでしょ? 君はどうせ一度死んだ身だし、儲けものだと思ってその美少女の身体で第二の人生を歩むってのも悪くないと思うけど?」

 

 確かにそれは一理ある。というか、また生きられるのなら普通に考えたらそれしかない。

 だが、ここまでの会話でほとんど乗せられるがままだった僕は、自分の意見を多少なりとも伝えたいという気持ちが沸いてきた。

 そうやって、少し嬉しそうに話す彼女に僕はある疑問をぶつける。

 

「もし……これで僕が断ったらどうするんです?」

「あ……うん……そうしたら残念だけど、君の魂には消えてもらい違う人のを呼ぶしかないね」

 

 その返事を聞いた僕にもう選択肢はなかった。そんな人生も悪くないと思ったし、この人も死体を蘇らせて自分の助手にするなんて危ない人かもしれないが悪い人という感じはしない。

 数秒考え……僕は覚悟を決めて口を開く。

 

「わかりました……あなたの言うとおりにします」

 

 それを聞いた彼女は笑顔を浮かべ僕に言った。

 

「よし……ならばその円を自分の足で越えてくれ。それを越えたとき君の魂は完全にその肉体に定着する」

 

 はじめて足元をまじまじと見ると床に直径一メートルほどの白い円が描かれ、僕を囲んでいるのに気づいた。これがこの人の言う円に違いない。 

 ふらつく足で立ち上がった僕はごくりとつばを飲み……ゆっくりとその円を越えた。

 

「──!」

 

 踏み越えた瞬間、ずしりとした感触を得た。

 そしてそれまでかすかに感じていた、ふわふわとしたイメージが一切無くなった。

 

 きっとこれが……魂が定着するということなのだろう。

 

「おめでとう。これで君はこの世界に生きることになったわけだ。わからないことも多いと思うけどこれから教えてあげるから」

 

 僕の手を握りそう言う彼女だが、僕は話の内容よりもその握ってきた手の感触に関心がいく。

 その白く綺麗な手の暖かさ、それを感じているこの肉体が、自分のものだということを実感する。

 

 

 こうして僕は女の子の身体での新しい人生を歩むことになった……きっとこれでよかったはずだ。

 

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