異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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11話 帰路へとついて

「これは……」

「う~ん、いかにもだね。やはりこういうところに住むやつは作りたくなっちゃうのかな」

 

 明らかに人工のものである大きな扉のある場所にたどり着いた。

 その大きさは僕たちの背丈の倍近くはあり、なぜわざわざこんなところにこんなものを作ったのか、小一時間問い詰めたくなってしまう。

 

 だが、きっと意味なんてないのだろう。ここまでの道のりを考えたら、こんな何の変哲もない扉による防衛の効果など無いに等しい。

 恐らくセシルさんの言ったようにただ作りたいから作っただけ。そう考えると、ここに住むやつの余裕、遊び心、そんなものがうかがえる。

 

「この先にいるのですかね。その黒幕が」

「間違いなくね。よし! ちょっと耳貸して」

 

 ここまでこれといった困難な障害はなかっただけに、この先に危険なものがある可能性は高い。

 何か作戦があるのだろうか。

 

「君を……するから適当なところで……して」

「え? そんなので大丈夫ですか」

 

 耳打ちされた内容、そのあまりにもシンプルな手段に僕は一瞬戸惑ってしまった。

 だが……僕はこれまでわずかな期間ながらも魔術を学んだことで、なんとなくわかっていた。ここにいるものだけならず、この世界にいるもの全てがこの単純極まるやり方を防ぐ術を持たないことを。

 

「大丈夫! 私はあいつのことよく知ってるから。ただ……一つだけこの先何がいても、話と違うじゃん! みたいになっても決して焦らないで。落ち着いていて」

「はあ……」

 

 それはどういうことだろうか。

 でもいざとなれば、何とかしてくれるだろう。何も心配することはない。

 

「じゃあ行くよ……とりゃあ!」

「──!?」

 

 いきなり予想外の行動、セシルさんはその扉に手をかけ開ける……のではなく魔力をまとわせた蹴りで勢いよく開け放った。

 恐らく万が一の待ち伏せに備えての行動だろう。しかし……びっくりした、何か言ってよ。

 

 扉の向こうは少し生暖かいような空気、そして短めの通路があり、その奥は開けた部屋になっていた。少し薄暗い部屋だったが、すぐに目は慣れた。

 しかし見えてきたその光景に僕は目を疑った。

 

「また侵入者がきたと思っていたら……あなたでしたか」

 

 部屋の奥から黒いローブを着た若い男がゆっくりと姿を現す。一目でわかる、こいつが例の魔術師だろう。

 しかし僕はそれ以上に目の前の光景に対して、気を落ち着けるのに精一杯だった。

 

「ああ久しぶりだねアレン。それにしても大したもんじゃん。例のあれの試作型ってところ?」

 

 セシルさんは彼と話しながらも、それをそれを見上げ感心している。

 その部屋にいたのは……体長十五、いや二十メートル近くはあろうかというドラゴンだった。強靭な四肢、見るからに硬そうな鱗や皮膚、部屋に転がるいくつかの人骨が犠牲になった人々を物語っている。

 

 僕は以前、ここまでファンタジーな生物はこの世界には存在しないといわれた。しかし、目の前にいる存在は紛れもなく、以前いた世界でも、ここに来ても絵本などで何度か見た、よく見知ったまさしく竜。

 むしろあまりにもイメージ通りのその姿が、人工的に生み出された存在であることを示していた。

 

「そういえば君は昔から竜のお話が好きだったね、これで念願叶ったりというところか。こいつがいるならいくら兵隊が来ようと怖くないってわけだ」

「ふっ……ふふふふっ、そうですよ。しかし一人でこんなところまで来て……全く変わりませんねあなたは、でも今はだいぶ落ちぶれたよう……!?」

 

 パンッという破裂音が部屋全体に響き渡った。全く分からなかったがいつの間にかセシルさんが攻撃をしていたらしい。

 しかし、それは男の眼前にて薄い壁のようなものに阻まれてしまった。だが視力強化を通してみると、その壁も既にボロボロで魔力を発していないことがわかる。

 

「ちぇっ、一発じゃダメだったか……それにしてもお前には言われたくないね。誰のせいだと思ってるんだい?」

「さすがですね……だが私もここまで一人で来た。こんなところでやられるわけにはいかないんですよ」

 

 口では強がっているが冷や汗をかいている。それもそうだろう、きっと今の防御は十分な時間をかけて用意した魔術によるもの。それが単なる杖からの魔力弾一発で崩壊寸前までいったのだ。

 そしてそれは単なる威力によるものではない。強化ガラスが一点の衝撃であっけなく砕け散るがごとく、防御魔術の綻びをついた一撃だった。

 このわずかな会話の間だけでそれを把握し、寸分違わず打ち込んだ。しかも自分はそれに気づくことすらできなかった。改めて実力差を実感するには十分だっただろう。

 

「だが……いくらあなたといえどもこいつを倒すのは不可能です。それに研究も大詰め、直に量産すら可能になる。そうすればこの国も私のものだ、やがては世界も手に入れられる。でも……あなたには関係のない話ですね」

 

 アレンが右手を挙げるとそれにあわせてドラゴンが足を振り上げた……踏み潰すつもりか!

 危険を感じた僕はセシルさんの方を向くと、目を合わせた後一つ小さく頷いた。もう()()()()()という合図だった。

 

「さよならです先生……」

 

 男が手を降り下ろした瞬間────パチッという電撃音と共に、青白い火花が弾けた。

 

「!? 何……だ……」

 

 震えながらも、後ろを振り向く。予想外の方向からの衝撃、人の本能として後ろを向くのは当然のことだ。

 だが、その視線の先には何も()()()()()()

「…………────」

 

 一拍置いてアレンは膝から崩れ落ちた。完全に意識はない。

 そしてドラゴンは突然の主の沈黙に攻撃を中断し、辺りを見回している。

 

 

「……ああ、さよならだね」

 

 いや、ちょっと待って! なんかそれっぽいこと言ってるけど、やったのは僕だから!

 

 でも、まあ何のことはない。僕は姿を消す魔術をかけてもらい、後ろにこっそり回りこむ。そして二人が会話している間背後で待機していて、合図とともに首筋にパリッとやっただけだ。

 

 これは元々違う世界の魔術のようで、便利だから常に発動のための魔力の結晶を携帯しているらしい。なんでも姿を隠すだけでなく生物の視覚以外にも作用し、センサーなどでも発見は不可能でどんなカメラにも映らないという高性能とのことだ。

 別世界の技術でもある以上、この世界で探知する手段は一切ない。悪用はしないと言っていたが……どうだかな。

 

 しかし……この後どうするんだ。魔術を学び始めたから分かる、いくらセシルさんが天才でも、それは技量が秀でているということであり、火力という点で体ひとつの個人が集団を上回ることはないし、もちろんこのドラゴンを殺すことはできない。

 何か兵器でもないと無理じゃないか? それともそういうの持ってきてるの?

 

「んん? えっ、ええええ?」

 

 ドラゴンの様子がおかしい、と思った次の瞬間、突然倒れこみ動かなくなった。ふと気づくといつの間にか姿も戻っているようだ。

 これは終わった……ということなのだろうか。

 

 

「……大丈夫だよな」

 

 軽く身体に触れてみたが、完全に動いていないようだ。

 どうやったのかは知らないが、とにかく速足でセシルさんの方へ向かう。

 

「おっ、レンちゃんありがとね。少しあいつと話したかったから、こんなこと頼んじゃった」

「は……はい、それは別にいいです。しかしどうやって……」

「あそこを見てごらん」

 

 指差したドラゴンの腹をよく見ると何かが刺さっていた。あれは……ナイフ?

 

「あのナイフには特製の麻酔薬がたっぷりと仕込んであるのさ。効き目、即効性共に申し分ないやつをね。ほら猛獣には麻酔、常識でしょ。普通に注射だと刺さらないだろうし」

「まあ、わかりますけど……」

 

 最近部屋で作っていたのはこれだったのか、こんなものを用意してきたなんて……

 

「今、ずるいとか思ってる?」

「いやいや、そんなことないですよ」

「まあ仕方ないか。でもあれは個人レベルの火力じゃ無理でしょ。見た感じ火を噴いたり空を飛んだりはできない、そこまで超常的な存在ではないみたいだけど……レンちゃんにわかるように言えば恐竜が生きて動いて、さらには人が従えてるみたいなものだからね。この世界の剣や槍、ちっぽけな鉄砲なんかじゃとてもかなわないよ」

「それにこの場所……」

「そう、こんな狭い中じゃ派手にぶちかますこともできない。その辺も計算しての番としての配置だろう。勝てない相手に工夫するのは人として当たり前」

 

 わかるけど、ちょっと肩すかしっていうか……

 

「じゃあこれお願いね」

「これは……」

 

 渡されたものは手錠と手袋だった。魔術を封じるとかいう手錠はわかるけど、手袋?

 

「そいつに手錠したら、周りの骨を拾ってきて。しっかりと弔ってあげなくてはね」

 

 なるほどね、そのための手袋か。やっぱり責任を感じているのかな……

 

「私はこれからこいつを解体するから頼んだよ」

 

 そう言ってセシルさんは別の大きなナイフを出しドラゴンを解体し始めた。そのまま持ち帰ることが無理なのはわかるが……明らかにその手際の良さは初めてではない。それに簡単に皮膚を切り裂き、返り血が全く出ていないところを見ると、あのナイフも特別なものなのだろう。

 もしかして始めからこれが目的だったのかもしれない。 

 

 

 

「ふう……全部拾ったかな」

 

 最初はやはり気持ち悪かったが、拾っていくうちに慣れていった。これがいい事かどうかはわからないが……こういうことも経験だ。

 

「こっちも終わったから、向こうへ行くよ」

「は~い」

 

 僕が拾い終わるころ、既にセシルさんはドラゴンの解体を終えていた。

 呼ばれてついていった先は、始めに男がやってきた方向だ。その奥にはもうひとつ研究室と思われる部屋があり、書物や実験の跡とみられるものがあった。

 

「色々ありますねぇ」

「そうだね、ん? これは実験体を売っていた顧客のリストだな。後で王宮と取引して、情報料たっぷりと取ってやろうか」

「えぇ……」

 

 おいおい……これじゃ泥棒とあまり変わらないぞ。

 

「ん? これは……」

「え! ちょっと見せて!」

 

 僕は机の引き出しから、紙の束を見つけた。恐らく実験のレポートだと思うが、セシルさんに即座にとられてしまった。

 しかも凄いニヤニヤして読んでるよ……

 

「あの~ちょっと~」

「おっと、私、今もしかして悪い顔してたかな?」

 

 ええしてました、思いっきり。

 

「私こういうのを眺めてると、ついなっちゃうんだよね。自分で調べるのも楽しいけど、他人の研究を見るのも面白いもんだよ。ここまでできたのは、普通にすごいことだしね。まあ、これは世に出すのも危険だし、燃やすのももったいない。戦利品としてもらっておこう」

 

 そういってセシルさんはそのレポートをしまいながら、僕に向けて口に人差し指を当てたポーズをする。

 つまりは「このことは内緒!」ということだろう。

 

 

 

「こんなもんか、そろそろ戻ろう」

「わかりました」

 

 一通りの捜索を終えた僕たちは、未だにピクリとも動かないアレンを連れて、元の道を辿った。

 帰り道は道や罠の在り処もわかっているうえ、ここの主である男を連れているのだから、襲われることもなく楽に進めた。

 

 

 そして来たときの半分ほどの時間で入り口にたどり着くと……そこにはあらかじめ連絡しておいたのか何人かの兵士が待機していた。

 

 

「お二方、ご協力感謝いたします」

「おっ、隊長久しぶり」

「はいお久しぶりです、セシル殿。しかし、あなたが行ってくださるとは……連絡を受けたときは驚きましたよ」

「私とこの男と話したかった……というのもありますが、これ以上犠牲を出したくなかったですからね。あなたも一応聞いてるとは思いますが、数でかかればいいという相手でもなかったので」

「ありがとうございます。私は正直昨日出撃の命を受けて、ここで死ぬ覚悟でいました。今朝は妻と娘に別れを告げて……それで城に行ったら突然の待機命令。まさかとは思いましたが……」

「そうですか、もっと早く私が動ければよかったですね……」

「いえ我が隊の部下もみな感謝していますよ。ところで、何か戦利品などはありますかね?」

 

 あっ……これは……

 

「それやっぱり上の人から聞いて来いって?」

「はい、一応……」

「戦いの最中に全て焼けてしまいました。な~んにも残ってません。しいていうなら取引先のリストくらいですかね。これはあとで私から持っていくので、そう私が言っていたと伝えてください」

「……なるほど、わかりました。そう上に報告しときます」

「わかってますね~」

 

 やや大人の会話を交えながら、兵士の隊長と思われる人物と談笑を続ける。それなりに親しくしている人なのだろう。

 

「それでは、そろそろ私たちは戻らなければならないので。報酬などはまた後日」

「はい、後は任せました」

 

 そうして日も傾き始める頃、兵士たちは犠牲者の遺骨を持ち、男を連行していった。

 

「あの後どうなるんですかね」

「恐らく極刑は免れないだろうね」

「そうですか……そうですよね……」

「レンちゃんが気にすることはない。仕方ないことだよ……」

 

 そうは言っても……

 

「じゃ、私たちも帰ろうか」

 

 こうして僕たちは日が暮れ始める中、馬に乗り来た道を進み始める。

 手綱を持つセシルさんの背中はなんだか元気がなさそうで……かつての教え子に引導を渡すことになった、そんな悲しさが垣間見えた。

 そして────

 

「……んっ、どうしたのレンちゃん?」

「えっ……? ん……なんか、落ち込んでるみたいだったんで……いやでしたか?」

 

 自分でもこの瞬間、どんな感情でいたのかよくわからない。

 慰めたいと思ったのか、とっさに出てきた言葉はそうだったが、もしかしたら僕も今日、人の死にわずかながらに触れ怖くなったのかもしれない。それとも黄昏時の風景が、何か思い出させたのかもしれない。

 とにかく何が本心かは自分でも知る由がない。

 

 だけど後ろに座っていた僕はそんなセシルさんを見て、いつの間にか腰に手を回し抱き締めていた。

 

「……もう少しこのままでいてくれる?」

「……はい」

 

 そう答えたあと僕は自然と腕の力を少しだけ強めた。

 背中に体重を預けて暖かく柔らかい感触を、ほんのりとしたいいにおいを、お互いの鼓動を、しばらくの間感じていた。

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