異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

14 / 50
2章
14話 意外な提案


 現代の日本のとある地方都市の一角。既に日は西の空へと落ち、立ち並ぶ店や走り去る車といった営みの光が代わりに闇を照らす。

 それらの光は同時にそこに住む人々の生活の様子を如実に表していた。

 

 そしてその街の中心部の地域、いくつかのオフィスビルが立ち並ぶ商業地区。その一つ、既に中の人間は皆無であるビルの屋上、低めのフェンスを越えた先のへりに腰を掛け、スラリとした両足を遊ばせて街を俯瞰する少女がいた。

 

 月光を受け輝く髪をふわりと夜風に揺らし、明け方の蒼の瞬間の空を思わせる澄んだ瞳は宝石をまばらに散りばめたような夜の街へ向けている。

 本来ならば人のいるはずのない場所であり、いるはずのない時間帯。それなのに何事もないように平然と。

 それだけで周囲はまるで、違う世界のような雰囲気に満ちていた。

 

 

 …………言い過ぎかな。まあ、こんなシチュエーションだ、多少自分に酔ってみたくもなるもんだ。

 

 

 僕は今、この辺りで一番高いビルの屋上から自分の故郷である街を見下ろしている。

 正確には前の僕が生まれた街であり、そして……死んだ街でもある。訪れるのは七年ぶりくらいだ。

 

 何十年もご無沙汰なわけではないから、そこまで大きな変化は見受けられない。それでも知らない公園やコンビニなんかができていたり、ここからでも見える場所で様変わりしている場所はちらほらある。

 それは僕に時間の経過というものを否が応でも感じさせていた。

 

 正直なことを言うと、もうここには来る事はないと思っていた。

 僕は少し前セシルさんから、そのまま一緒にいるかそれとも帰るかと聞かれたが僕は前者を選んだ。その時から、もう自分はこことは一切の関わりの無い人間だと考えていた。

 いや、本当はそのはずだったんだがなあ……

 

 

    ◆◆◆             ◆◆◆

 

 

 新たな土地での生活を始めて一ヶ月ほど、住む家も簡単に見つかり、すぐさま住みやすいように改装も済ませた。そうして僕たちはその土地にすぐに馴染み始め、まあまあ快適な生活を送っていた。

 何よりも周りの人間から好かれているのが大きかった。セシルさんは研究者としての本業のほかに、よくお医者さんや学校の先生といったことをやっている。そしてここに来てからも、既にこの地域にも、国を隔てて、ある程度魔術師としての名が知れ渡っているのもあり、簡単にそれらの地位を手に入れられた。

 そういう職に携わるのは稼ぐのが楽というのもあるが、それ以上に手っ取り早く周囲に溶け込むことができるかららしい。

 

 様々な土地を転々とするセシルさんが言うには、新天地での生活は信頼を得ることから始まるとのことだ。

 僕自身も手伝いとして働いているが、買い物をするときおまけしてもらったり、小さい子どもから懐かれたりしたときなどすでに日常の中でそれを実感するときがある。

 

 そんな楽しい生活の中で、とある日の夜、夕食を食べ終わり、くつろいでいたときのこと……

 

「むむっ、くっ……このっ」

「……」

 

 そうやって何やら、うなっているセシルさんは、ソファーに寝そべりながら落ちものパズルゲームをやっている。

 こういうのはシンプルなだけにいくらでも飽きずにできる、僕たちのお気に入りの一つだ。

 

「あっ……」

 

 声を出したまま、手が止まった。きっとミスって終わったんだろう。

 

「ふぅ……ね~え、レンちゃん」

「何ですか~」

 

 ため息を一つ、ゲームの電源を切り、机の上において起き上がったセシルさんは唐突に話しかけてきた。それに僕は読んでいた本から目を離さぬまま、声だけで返事をする。

 どうせ大した事ではない、明日の朝食は何がいいとか、その程度のことだと思ったから。

 

「私たちってさ~出会ってから結構経つよね~」

「そう……ですね」

 

 いきなり変な事聞くな、何の話だろう……

 

「でも、僕たちはほとんど変わりませんけどね」

「そんなことないよ。私はともかく、レンちゃんは成長したでしょ~」

「本当ですか~」

 

 そのままの調子で会話を続ける。何とな~くだが……その意図が分かってきた。

 

「ホントホント、なんていうか落ち着いたっていうか……大人になったと思うよ。身体は変わらないから、あんまり変わった感じはしないかも知れないけど、精神が若いままってことと未熟であるってことは別だからね」

「そうですか……で?」

「!?」

「いや、なんか言いたいことがあるんでしょ? ほらほら、早く言ってくださいよ」

「…………」

 

 今まで流暢に話していた口がピタリと止まる。図星のようだ。

 この人は僕と話すとき、切り出しにくい話題を振るときに、突然脈絡がなく、当たりさわりのない話から始めることがままある。今回もそんな感じがしたが……正解だったな。

 

「ん~そういうところも鋭くなったよね……いいことだよ。実を言うと、一度、レンちゃんのいた世界に、というか日本にまた行きたいな~って思ってる」

「……はえっ!?」

 

 突然の展開に変な声が出てしまった。読んでいた本を膝に置き、ガバっと身を起こしてセシルさんの方に向き直る。

 ちょっと待てよ……聞き間違いじゃないよね?

 

「どうしてそんな急に? この前、もう僕は向こうに未練は無いって言ったじゃないですか。それにこっちの暮らしもいい感じになってきたのに……」

「あ~それはわかってる。だから……レンちゃんの為じゃなくて、私が行きたいの」

「はあ……」

 

 僕のためじゃなくて、自分が行きたい……か。

 

「確かにレンちゃんは例え帰れるようになっても私と暮らすって言ってくれた……でも、向こうにまた行きたくないとは言ってないよねえ。それにホントは一度は戻ってみたいんでしょ?」

「うっ……それはそうですけど」

「じゃあ、いいでしょ! 引っ越してから忙しくて、丁度落ち着いてきたこの時期だからこそ、一度故郷でゆっくりとしようよ」

 

 僕が拒否できずにいると、突然嬉しそうになるセシルさん。その口ぶりから、もう行くことは決定事項のようだ……

 

「別に向こうに住むってわけじゃない。ほんの二週間くらい、ちょっとした旅行感覚だよ」

「うん、まあそれなら……」

「それにレンちゃんもせっかくだから、ご両親に一度顔を見せたらどう?」

「…………そうですねぇ」

 

 父さんや母さんに……

 

「だけど会ったとしても、僕の心は変わらないですよ。あくまでもこっちに住み、一緒にいるってことは」

「もちろん、そのことはわかってるよ。あと私もご挨拶したいしね」

「じゃあ……いいですよ」

「決まりだね。あ~ワクワクしてきた」

 

 確かに僕はセシルさんとこれからも一緒にいることを選んだ。どんな世界でも付いていくすることを選択した。もうそれは例え両親に会っても、揺るがない決心だ。

 でもだからといって、会いたくない、行きたくないなんてことはない。

 

 なんだか……僕がそれなりの覚悟をして決めた選択を、茶番にされてしまった感じがしたが……こういう人だというのはわかっているし、別にいいかな。

 セシルさんと一緒に会いに行くことを、すでにまんざらでもないと考える自分がいることも確かなのだから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。