異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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24話 思い出の味

「しかし、本当にそんなことがなあ……」

「まだ信じられない?」

「いや、そういうわけではないが……わかっていても理解が追い付かないという感じで……」

「無理もないよね、ゆっくり落ち着いてよ」

「ああ……」

 

 少しして、僕たち抱き合った姿勢から身体を離した。

 胸に手を当て深呼吸をして自らを落ち着けようとする父さん。僕の記憶では何があっても落ち着いて、どっしりと構えている人だったから、こういうのは初めて見る姿だ……

 

 僕と会ったとき、どちらかというと母さんの方が冷静になっていた。これが素の父さんなのかも。

 

「……!」

「どう? 少しは落ち着いた?」

「ああ……本当に魔法が使えるんだな」

「そうだよ。これでもっとはっきり信じてもらえたでしょ」

 

 僕は道具なしでも使える簡単な精神操作の術式を発動させ、胸にあてた父さんの手に自分の右手を重ねる。元々魔術を扱う向こうの世界の人とこちらの人では耐性が違うため、本当にごくわずかの力でするよう注意する。

 そのまま数秒、やがて呼吸も心拍数も戻り、落ち着きを取り戻した父さんに対して微笑みを向けた。

 

「よくわかったよ、それにしてもな……」

「ん~?」

「かわいいな、お前……」

「……それは自分でもわかってるよ」

 

 こんなことが言えるならもう大丈夫だろう。僕はリビングの椅子に座り、母さん、そして一通りの説明をしてくれたセシルさんに対してアイコンタクトをした。

 そして父さんは母さんと共に改めてセシルさんと向き合った。

 

「えっと……セシル・ラグレーンさんでしたよね」

「はい、セシルでいいですよ。私もお二人にご挨拶したかったです。そんなにかしこまらなくてもいいですから」

「……ではセシルさん。また私たちをこうしてレンと会わせてくれて、言葉で伝えきれないくらいですが、本当にありがとうございます……!」

「いえいえ、私もレンちゃんと出会えて、私の方がお礼をしたいくらいですよ。それに感謝なら身体をくれた女の子にもしてあげるべきです」

「はい……」

 

 母さんと並び深くセシルさんに頭を下げる父さん。確かに直接僕を転生させたのはこの人だが、この身体の元の持ち主が僕と同じ日に死に、そしてセシルさんが見つけることがなかったらその機会すらなかった。

 それに関することは僕の中ですでに決着をつけているが……改めて言われるとやっぱしんみりくるなあ。

 

「それで……レン、お前は向こうの世界で元気にやってるんだな」

「そうそう、楽しくて退屈しない毎日だよ」

「そうか……それならばいいんだ。お前はもう大人だし、こんな素晴らしいパートナーもいる。新しいお前の人生、俺たちに構わず好きなように生きてくれ」

「父さん……ありがとう」

 

 僕自身、七年経って容姿が変わらないため少し自覚が薄いが、本来僕が生きていたならば、既に社会人として自立をしているであろう年齢だ。セシルさんという存在もあり、説明の中で今回こちらに来たことはあくまで一時的なものであることを伝えたが、父さんが引き留めてくるような様子はなかった。

 それどころかこうして僕の後押しをしてくれた。やっぱり迷ったけど……会いに来てよかったな。

 

「それで今日はこのまま泊まっていくんだっけ?」

「ここまできて、そうしないわけにはいかないでしょ」

「なら……今日はたくさん話を聞かせてくれ。向こうでのことをたっぷりとな」

「もちろん、そのつもりだから」

 

 そう答えながら、僕は再び微笑みを向けた。これまで経験したこと、学んだこと話したいことはたくさんある。

 

「よし、じぁあその前に残りの料理の仕上げをしましょう。レンもまた手伝ってくれる?」

「オッケー、すぐ手伝うよ」

 

 

 

「美味しそうですね~いつもレンちゃん言ってましたけど、お母さん料理上手ですね」

「そんな……私なんかよりずっとセシルさんの方がお上手でしょう。それにお口に合うかどうか……」

「私は行く先々でなんでも食べてるので好き嫌いないですよ、この国にもいたことありますし。それに私も確かに腕に覚えはありますけど、やっぱり母親の味というのは特別なものですからね」

「はい……」

 

 母さんは出来上がった料理を運びながら、セシルさんと料理について語り合っている。なんか端から見てると親子みたいに見えないこともない。

 それにしても母親の味か……僕はこうしてまた食べられるわけだが、セシルさんはそうはいかないからな。

 

 

 そうしてメインのシチューとパンをはじめ、色とりどりの様々な料理が食卓へと並んだ。

 思い出すな、誕生日やクリスマスといった特別な日はこうやって料理好きの母さんがたくさんのご馳走を作り、食卓を囲んでいた。

 本当に……本当に懐かしい。

 

「おかげでずいぶん助かったわ。お疲れ様、レン」

「母さんもね」

 

 全ての支度を終えた僕たちは、既に父さんとセシルさんが座っている食卓の椅子に腰を下ろした。

 いつもは二人で食べる夕食を、今日は四人で食べる。たったそれだけ、それだけのことだが僕はそれができたことの喜びを深く噛み締めた。

 

「じゃあ、母さん……いただきます」

「どうぞ、おなか一杯食べて」

 

 いつものように一礼をしてスプーンを手にとった僕はシチューをすくい、ゆっくりと口へと運んだ。

 ……ああ、そうだこの味だ。何度も何度も子供のころから数えきれないくらい食べた味。ずっと食べたかった、僕にとっての母親の味だ。

 自然と身体が震え、涙が溢れてくる……

 

「ううっ……うっ……」

「ちょっとレン、大丈夫?」

「……大丈夫だよ。本当に美味しいよ、母さん」

 

 涙を拭いながら、そう答えた。見上げた母さんの目にも、うっすらと涙が覆っていた。

 

 

「うん……なるほど、これがレンちゃんが何度も作ろうとしてきたお母さんのシチューですか」

「やっぱり違いますよね……僕が作ったのもいい線だったと思ったけど、こうして食べてみると……」

「レンちゃんには悪いけど……確かにそうだね」

 

 セシルさんも母さんのシチューを食べ、その味に興味を持ったようだ。

 基本的になんでも美味しそうに食べる好き嫌いのない人だが、本当にこの味が気に入ったことがその口振りから感じることができる。

 

「特別なことはそんなにしてませんよ。まあしいて言うなら仕上げに隠し味を入れていたり……」

「やっぱり入ってるんじゃん、後でちゃんとしたレシピ書いてくれない?」

「もちろん、向こうでもセシルさんにも作ってあげなさい」

「あっ、お願い~」

 

 目を合わせて、お互いに微笑む。だけどセシルさんは口ではそう言っているけど、もしかしたら既にある程度、レシピの見当がついているのではないだろうか。

 まあいずれにせよ、秘密もわかりセシルさんも手伝ってくれるなら、この味を向こうで食べられるようにするのも簡単なことだろう。

 

「さあセシルさん、ワインもどうぞ」

「ありがとうございます。これは……いいお酒ですね」

「さすが、わかりますか? こんなときですからね、奮発しました。レン、あなたも飲むよね?」

「そうだね、頂戴」

 

 返事を聞いた母さんが全員のグラスへと宝石のように美しい赤ワインを注いでいく。一応は僕も成人済みだ。そんなに強くはないけど、普段から嗜む程度に二人でいろいろお酒は飲んでいる。

 それに初めて親子で飲み交わすんだ、なにも遠慮する必要はない。

 

「じゃあ、乾杯~!」

「乾杯~!」

 

 父さんの音頭で四つのグラスが上がる。そして一拍おいて、各々がグラスに口をつけた。

 

「うん……美味しい」

 

 舌の上で転がすようにしてじっくりと味わう。甘味、苦味、渋味、酸味、それらの冴え渡った味わいが口の中に広がり、そして喉の奥を通ったあと、素晴らしい葡萄の香りが鼻を抜け、余韻をもたらした。

 セシルさんは見た目と香りだけでわかったようだが、お酒の知識があまりない僕もこれはなかなか高級なものだということはわかる。

 

「ほらほらレン、どんどん食べてちょうだい」

「うん、わかってるよ」

 

 母さんに薦められ、僕たちはほかの料理にも箸をつける。やはり料理そのもののレベルの高さ、完成度はセシルさんの作ったものの方が上かもしれない。

 だけど……七年ぶりの、もう二度と味わうことのなかったはずの料理は普段のものよりもずっと美味しく感じた。僕はその味を決して忘れないよう心に刻み、味わいながら食べていった。

 

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