異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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42話 夢の変身体験

「…………へぇっ!?」

 

 私の台詞を聞いた彼は、その言葉を理解するのに数秒。その後に素っ頓狂な声を上げ、渡された携帯からすぐに私に目線を向けた。

 

「どういうことですか!? もう一回言ってください!」

 

……ビンゴ! 彼の目は今の言葉を聞き、輝きを見せた。この初対面の人の明らかな怪しい言葉であったにも関わらず、明確な興味を示し聞き返してきた反応で確信した。

 違っていたのならば、曖昧に返し帰ってしまうだろうし、こんな今にも掴みかかってきそうなくらい興奮するなんてことも絶対にないだろう。

 

「女の子の身体になる……いや変身の体験してみないかっていったの」

「……マジですか……」

 

 やはりね、私の言ったことをちゃんと理解し、その驚きと嬉しさの入り混じった表情。私の求めていた人間に違いない。

 私は探していた、こういったことに心から憧れている男の子を。

 

 

「いや、待ってください……あなたは一体」

 

 そう……そうくるよね。予想通りだ。

 いきなりそんなことを言われて注意が向くのは、まずその話についてではなく、その目の前にいる人間が何者なのか。

 

 だから私は自分のことを教えると同時に……その言葉の真偽を彼自身の身体を持って示す!

 

「私は……」

「えっ! ちょっと……えええええ!?」

「魔法使いだよ。これで信じてくれた?」

 

 私は彼の半袖のワイシャツから出ていた右手を掴み、滑らすようにして肘まで動かした。

 するとやや浅黒い肌、変哲もない男性の腕だったものが肘から先だけ陶器のような白く艶やかな肌へと、さらには指先まで女性的な細く可憐なものへ瞬きの間に変わっていった。

 

 既に日は暮れはじめ、背後のコンビニの照明くらいしか明かりはないがそれでもはっきりとわかる変化であった。

 その証拠に彼はここが決して人目が皆無とは言えない場所であるにもかかわらず、大きな声を上げ驚愕した。

 

「しぃっ……声が大きいよ」

「はい……これどういう原理で……」

「とりあえず一旦戻すね、はい」

「え……」

 

 目を白黒させる彼を一瞥し、変化させた腕を元に戻す。ひとまずこれで私が本物であると完璧に信じてもらえたはずだ。

 あとはあれを試してもらうだけだが……

 

「ちゃんと説明はするから、とりあえず人目のないとこがいいな。私この辺詳しくないんだけど、どこかいい場所知ってる? 時間はとらせないから」

「じゃあ……近くの公園にでも」

「オッケー、ところで……改めて聞くけど、君は会ってすぐの私を本当に信用してくれた? 目につかないとこに行って、私が実際これから君に何するかわからないよ、それでもついてくる?」

 

 彼の意思を尊重し、一応この先に付いてきてくれるか問いただす。

 

「……はい。ちょっと怖い気持ちもありますが、俺は信じます」

「そう……ならおめでとうと言っておくよ。君は今、人生の分岐点において正解を選んだはずだから」

「……」

「それじゃ、行こ」

 

 

「なるほど、つまり本当に異世界があって、あなたはそこから来た魔法使いと……」

「そうそう、理解が早くて助かるよ」

 

 その公園に向かいながら、男の子と話し、その素性を聞いていく。ついでながら、さらなる信頼を得るため私のことも教えてあげる。

 彼の名は古賀アキラ君、この辺りの高校に通う二年生。中学の時、漫画でそういった話を見たことから性癖に目覚め、それからその類いの作品を探し続け、最近は小説がマイブームらしい。

 そして何より彼は絶対に叶わないことだとはわかっていても、一度は自らが美少女になってみたいという思いを抱えていた。

 

 まさに理想的な人材だ。これならあれのいいモニターになり、その性能の向上に尽くしてくれるに違いない。

 

「ここです」

「よし、誰もいないね。ちょうどいい」

 

 話の途中ではあったが、公園へと到着した。ベンチがいくつかと滑り台、砂場があるだけのこじんまりとした公園で、もう日没間近ということもあり、その中に人影はない。うってつけの場所だろう

 

「さて、念のため……」

「あっ魔法の杖ですよね! 今何したんですか?」

「公園の外から中の私たちが見えないように、簡易的な結界を張っただけだよ。どこかで覗き見られたら嫌だしね」

「へえ~」

 

 私からしたらほんの些細なことに過ぎないが、それでも尊敬のまなざしを向けてくれている。それはとても嬉しいことだけど……これくらいで驚いてもらっちゃ困るな。

 

「よし、始めよっか。服は着たままで大丈夫だよ」

「それがさっきの……」

 

 ベンチに座った私は懐から片手で持てる大きさの箱を取り出した。この中にしまってあるものこそが私たちの作った願望の結晶だ。

 改良を重ねたこれは空間操作、感覚同調、幻術、様々な高等魔術を駆使することで、使用者の理想ともいえる形でその外見を再現できるまでになった。先ほどアキラ君の腕を変えて見せたのもこれによるものだ。

 

 だが私とレンちゃんだけで使うには、見本となるものも少なくそのバリエーションは不足していた。というよりも、もう一人変身願望が豊かな人に使ってもらいたかったというところか。

 そこでアニメやゲームでたくさんのキャラに囲まれて育った現代日本の若者にはうってつけだ。使ってもらっての有用な意見も聞けるだろうし、私たちより精度の高い変身も容易に違いない。

 自動で蓄積されるそのデータは、さらなる性能の向上を生む。

 

 もちろん帰ってから私たちでこちらで手に入れた資料を参考にしながら、何度も試してみて少しずつ学習させていっても、時間はかかるが結果は同じだ。

 だけど私にとってそれ以上に大切なことがあった。わざわざ男の子を選んだのもそのためだ。

 

「うん……それじゃあ今から君の夢を叶えてあげる、準備はいい?」

「……お願いします」

 

 手のひらに出した粘液状のスライムに起動のための魔力を流す。そして同時にアキラ君の額に触れ想像してもらっている理想の姿を読み取り、水色のスライムに送り込む。

 手のひらに乗る量でしかなかったそれは意思を持ったかのように急激に体積を増しながら、目をつむり立つアキラ君を包み込んだ。

 

「うっ、ああっ……」

 

 その中で既に機能の一つである魔術的な変声により鈴の鳴るような少女のものになったアキラ君の声が聞こえる。

 スライムは纏わりつくようにしてあっという間に髪となり、肉となり、服となる。その際に感覚の同調により、本人はまるで身体が作り替えられていくような感覚を味わう。

 

 私たちも体験したがこの感覚は気持ちいいような、こそばゆいようなとにかく不思議で面白い感覚だ。

 ましてやアキラ君の場合、男の身体から女の身体になる感覚を味わうわけだ。声が出でしまうのもうなづける。

 

「はあっ……はあはあ……」

「よし、上手くいった。凄いなあ……ここまでのものとは思わなかった」

 

 私たち以外に試すのは初めてだったが変身は無事に終了した。時間にしたら十秒程度のものだっただろう、いつも通りの時間だ。

 

 そして今の今まで平凡な男子高校生が立っていた場所には……私でさえ驚いてしまうほどの理想像といえる美少女が立っていた

 白い髪も綺麗さと可愛らしさが入り混じった顔立ちも少女らしい体型もアニメチックな服装も、どれも私たちが試した時よりもずっと細かくて、洗練されていて……この姿になることへの強い願望、私たちの半端な覚悟との差を示しているようだった。

 

「えへへ……どうですか」

「いや、ビックリしたよ。この姿ってなんかのアニメのキャラとか?」

「えっと……いえ、俺がもしなれるんだったらこんなのがいいなって、ずっと考えてたっていうか……」

「オリジナルのキャラってことね」

「はい……」

 

 それを言葉にしたアキラ君は少し恥ずかしそうにうつむいた。そんな何気ない仕草でさえ、その見た目だと心惹かれる……

 

「そんな恥ずかしがらなくていいよ。だって考えてごらん、私たちがこれ作ったんだよ? 同じ様なことしてるに決まってるでしょ」

「ああ……そうですね」

 

 自らの秘密をひけらかしたも同然だったアキラ君が照れているのを見て、私は軽いフォローを入れてあげる。まあ事実なのだけれどもね。

 

「ほら、そんなことより念願の女の子の身体になれたんだから、いろいろ自分で確かめてみな。はいこれ鏡ね」

「はい、うわっ……」

 

 懐から手鏡を出して、アキラ君に渡す。それを受け取ったアキラ君は、自分の外見に素直な驚きを見せた。

 

「うわあ……髪長い、すごいサラサラ……腕も細い。胸もちゃんとある、柔らかい……いい匂い……」

 

 ……いい、すごくいい。これが私の見たかった光景だ。この為にこんな子を探していたといっても過言ではない。

 理想の女の子の身体を味わってみたい男の子。そんな願いが叶ったら、このように我を忘れて、スベスベモチモチの白肌を桜色に染めて、自分の身体をまさぐるのも至極当然。

 そしてそれは普通の女の子では絶対に見られない仕草。

 

 口数が減り、思ったままのことを口に出しているのも、その感激の深さがうかがえる。

 そしてそれを私は、何も口を出さずに借りた携帯で撮影しながら、ただ見守っていた。

 

 

「これが……現実だなんて……」

「思えない? これは確かに現実、決して夢なんかじゃないよ」

「セシル・ラグレーンさん……でしたよね。先生と呼ばせてもらいますね」

「んん……まあいいや。なんでも好きなように」

 

 一通り自分の身体の確認が終わったアキラ君は改めて、この出来事を夢まぼろしでないと確認するかのように、私に問いかける。

 もちろん夢などではないと教えてあげる。手を握ってあげながら。

 

「なら疑問なんですが……」

「私がこういうのが好きなのが意外ってこと?」

「……! そうです」

 

 適当に機を見て切り出そうとした話題を、向こうからきっかけを作ってくれた。そのまま乗って、私はレンちゃんについて語ることにした。

 

「それは……私が本物をよく知ってるから」

「本物ってことは……」

「そう、私の大切なパートナーのレンちゃんは元男の子の女の子だよ」

「はあ~どんな人なんですか」

「身体年齢は高校生くらい? 優しくてとっても気が利いて~めっちゃ可愛い銀の髪の美少女!」

「へぇ~」

 

 とても興味津々といった感じで言葉に耳を傾ける。私もちょっと嫁自慢が過ぎてしまったかな……

 

 しかし今話したことは私の本心だ。レンちゃんと出会い、共に生活していくうちに、中身は男の女の子という存在に私は強く心惹かれていた。

 レンちゃんは気づかずにその素質があったという感じだが、じゃあ現在進行形で美少女になってみたくてしょうがない男の子をしてあげたらどうかと……その反応を一度見てみたかったのだ。

 

「今度、俺も会ってみたいです」

「なんなら今からでも会いに行く? 私の買い物帰りを待ってるし」

「えっと今から……あっ、塾行かなきゃ! やばっ忘れてた!」

「あ……そうだったの? じゃあ一回元に戻る?」

「……お願いします」

 

 私が手をかざすと、仮初めの身体を形作っていたスライムは瞬時に形を崩し、吸い込まれるようにして箱へと収まった。

 変身を解除する際は感覚同調も切れるため、それに対して苦痛や不快感といったものはない。だが、せっかく念願の女の子になれたのに早くもそれを解除することになってしまった寂しさはその表情からうかがえた。

 

「ほら、しょぼくれないで。これ貸してあげるから」

「え……俺がこれ持って帰っていいんですか?」

 

 私はスライムの入った箱を置いてあった荷物を手に取り始めたアキラ君に手渡した。

 無論、初めからこうするつもりではある。だが向こうにとってはそうではなかったようだ。

 

「そうだよ、この箱自体に動かすための魔力は込めたから、アキラ君でも問題なく使えるよ。蓋を開けて出したら、なりたい自分を想像するだけ、簡単でしょ?」

「本当に……ありがとうございます!」

「誰かに見られちゃよくないから、一人の時間にゆっくりと楽しんでね」

 

 一転、心からの嬉しそうな笑顔を見せるアキラ君。ああ……いいことしたなあ。

 

「あとメールアドレス教えてくれない? 私、携帯なくてパソコンしか持ってないからさ」

「はい。えっと……書くものあります?」

「はいこれ、私のも書いといたから。後で撮影した写真送ってね」

「わかりました、これでいいですかね?」

「よし大丈夫。それじゃ暇な時間ができたら、どこでもいいから連絡ちょうだい。レンちゃんを連れていくからさ」

「じゃあ早速、塾が終わり次第連絡いれます」

 

 そうしてメモ帳にアドレスを書いた後、背を向けてアキラ君は歩き始めた。いろいろあったけど、時間的には十分間に合うはずだ。

 だけど塾か、あんな体験した後で大丈夫かなあ……そうだ!

 

「待ってアキラ君!」

「ん? 何か……」

「こんな事の後じゃ、勉強に集中できないでしょ。私がここでのことを忘れさせてあげるよ」

「え、ええっ!?」

 

 その言葉にアキラ君は驚きを見せた。だけどこれは思い通りのリアクション。ちょっとからかっただけだ。

 もちろん完全に記憶を消してしまうなんてことはしない。

 

「大丈夫だよ、私がこの魔術をかけたら、君はここでの出来事を忘れて何事もなかったように塾に向かう。それから……」

「それから?」

「塾が終わったら、勝手に全て思い出すようにしてあげる。その方がもう一回、女の子になれることを知る感激があるでしょ」

「ぜひやって下さい!」

 

 迷いのない即答だった。

 こういった体験は実際に試す瞬間以上に、不可能であったはずのことが可能となったと知った時にこそ一番の感激があるものだ。

 

「それじゃさよなら、また後でね。はい」

「────!」

 

 私が彼の後頭部に杖で触れると、一瞬彼の身体は硬直し、そしてすぐに動き出した。

 それにしても現代っ子は忙しいねえ……

 

「ん……俺、ここで何してたんだっけ? まあいいや、早く行こ」

「…………」

 

 

 私も結構時間を食った、レンちゃんも待っているし改めて買い物して、早いとこホテルに戻るべきだろう。

 

 そうしていつも通りの日常に戻ったアキラ君を一瞥し、結界を解いてその公園を後にした。

 彼の人生で二度目の夢の叶う瞬間を想像しながら……

 

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