異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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45話 最後の一日

「…………んん、まだ……早いかな」

 

 首までかかった布団の暖かさ、柔らかさを感じながらぼんやりとした意識の中、静かにまぶたを開けて横向きになった身を起こした。

 枕元の時計を見ると、まだまだ起きるには早い時間。だけど窓の外は真っ暗、夜も明けていないようだ。

 

 風邪を引いているときなどならまだしも、普段何も異常もないのにこのような時間に起きてしまうのは、何か驚くような夢を見たから、暑くて寝苦しかったから、物音を感じたから、そんなさまざまな理由があるだろう。

 

 そして今の僕がこのような時間に起きてしまった理由は……喉が渇いたからであった。

 

「……あったはずだよね」

 

 一言、小さく独り言をつぶやきながら、スリッパを履いてテーブルの上に置いていたはずのペットボトルのお茶を取りに行く。

 そして記憶通り一本残っていたお茶に口をつけ、常温で置いていたため少しぬるい感触とそれゆえにはっきり感じる旨みを味わいながら、先程から気付いていた一つの出来事……セシルさんのベッドの方へと目を向ける。

 

「あれ起きちゃったの?」

「はい、ちょっと喉が渇いたもんで。セシルさん、眠れないんですか?」

 

 セシルさんはベッドの上で漫画雑誌を下敷きにしてパソコンを乗せ、さらにコミックスをマウスパッド代わりにして、動画を見ていた。

 僕が目を覚ましたことに気づき、付けていたヘッドホンを外したセシルさんは、向かいの自分のベッドに腰掛ける僕に対してそうやって声をかけた。

 

「いや……一度はちゃんと寝たんだけどね。なんだか目が覚めちゃって、ちょっと前から起きてる」

「僕も似たようなもんですよ。あ……飲みます?」

「うん、ちょうだい」

 

 セシルさんが右手を出す。その意思を汲み取り、僕は三分の一ほど飲んだペットボトルをセシルさんに手渡した。

 

「うん美味しい。ところでレンちゃん、また寝ないの? まだ時間はだいぶあるよ」

「なんか僕も目が覚めちゃったんで……このまま起きてることにします」

 

 返答しながら僕は隣のベッドの方へと移動をし、その右隣に同じうつぶせの体勢で横たわった。セシルさんのふわりとした髪からほんのり香るシャンプーのいい香りが鼻孔をくすぐる。

 そしてすぐそばに置いてあったマウスを動かすと、スリープになっていた画面が映し出された。

 

「それ、面白いですか?」

 

 セシルさんが見ていたのは様々なジャンルのものが投稿されている有名な動画サイト。

 僕もそれなりに見ているものなので、こちらに来て初めて触れたセシルさんの感想が少し気になるな。

 

「面白いのもあれば、イマイチなのもって感じ?」

「ふ~ん」

 

 まあそんなところだろう。こういうのはやっぱり作り手のセンスってものが問われるのかも。

 

「……」

「あれ、もうやめちゃうんですか」

「レンちゃんも見たかった?」

「いや、そんなわけじゃないんですけど……邪魔しちゃいましたかね」

 

 セシルさんは今まで見ていたページを閉じると、パタンとパソコンを閉めた。

 もしかして一人の時間を楽しんでいたのに、余計なことしちゃったのかなとそんな気持ちがしたが……

 

「違う違う、レンちゃんも一緒に起きているなら、ちょっとお散歩でもしないって思ってね」

「夜明け前のお散歩ですか……」

「よくない?」

「賛成です!」

 

 

 

「こういう時間に出歩くってのも……」

「なかなか新鮮ですよね~」

 

 着替えた僕たちは未だ日の登らない街中へと繰り出した。同じ道を日中、また夜に歩くのとは違い、独特の静寂と暗がりに包まれ、道行くお店はシャッターに閉ざされている。

 だが時折すれ違う早朝マラソンの人たちや24時間営業であるコンビニの明かり、それらがこの国にいるということを実感させてくれる……ような気がする。

 

「二週間あっという間だったね」

「そうですね……でも楽しかったです」

 

 今日でこの街の光景ともお別れだ。予定の二週間……長いようであっという間の時間だった。

 思いがけない母さんとの出会い、お墓参りに色々と買い物、新しく友達になった後輩。予想だにしていなかった出来事がたくさんあり、とても濃密な時間だったと言えるだろう。

 

「レンちゃん……聞いてもいい?」

「なんですか~」

「こっちにさ……残ったりはしないの?」

「…………」

 

 何を言い出すのかと思えば……そんなことか。

 

「しないですよ。もちろんこっちは居心地よかったですし、馴染みもあります。でも今更気持ちが変わったりしないですよ」

「そう……わかった!」

「ホッとしましたか? そんな顔してますよ」

「ちょっとだけね」

 

 そうやってお互い顔を見合わせながら、僕たちは改めて手を繋ぎあった。

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