異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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46話 好きな世界

「……この時間帯の空ってきれいだよね」

「そう……ですね」

 

 ふと空を見上げたセシルさんがその色について、口を開く。

 

 夜明け前と夕焼けの後、昼と夜の入れ替わる狭間の時間に見られる空。天気がよく、更には空気が良く澄んだ日に数分間、長くても十数分ほどだけ見られる幻想的な光景。

 蒼の瞬間……ブルーモーメントととも呼ばれる空。

 

 彼方から顔を出し始めている日の光による、そんな自然のグラデーションは思わず立ち止まってみてしまう美しさだ。

 

「この空……レンちゃんの瞳の色に似てるよね~」

「なんですかそれ。もしかして……口説いてるとか?」

「ん~ほんの少しだけ」

「……実は僕もそう思ったことありますよ」

「へ~そうなの?」

 

 ちょっとした冷やかしを込めながら、珍しく照れ気味のセシルさんに返す。

 

「今度は僕の方から聞いてもいいですか」

「何かあるの~何でもいいよ」

「セシルさんは……この世界好きですか?」

 

 一拍おいてそう問いかける。自分がかつて住んでいた世界、そんな場所が多くの世界を渡り歩いてきたセシルさんの目にはどのように映っているのか、純粋に興味があったから。

 

「そうだね……大好きかな! 私の今まで行ってきた世界の中でもかなり上位に入るくらいね」

 

 思っていた以上に明るく、にこやかな笑顔と共にそう返答をした。

 そんなによかったのか……これはちょっとだけ予想外かも。

 

「へえ……魔術がないのにですか? そういう研究はこっちじゃ基本できませんよ?」

「まあ私の唯一の取り柄なわけだしそこはちょっと残念だけど……それ以外に大きな理由があるからね」

「理由? それはどんな?」

 

 魔術がない世界だとセシルさんはつまらないのかと思っていたけど……そんな感じではなさそうだ。

 まあ僕たちとは違った天才、先人たちが進めた科学のことをのんびりと勉強して、その産物を他の世界に持ち込んだり、また別の世界に行ったとき魔術へと活かしたりそういったことはできるからなあ。

 そういうことでいいのだろうか? それとも……

 

「もしかして、便利なものがたくさんあるからとかですか? 治安がよくて住みやすいからとか?」

「そういうのも理由の一つではあるけど……一番はみんなが頑張ってる世界だからってことかな」

「みんなが……頑張ってるですか~」

 

 ん~なんかいまいちピンとこないな。

 

「私はこれまで何十もの世界を見てきた。すぐに移動した世界もたくさんあったけど、そういった中で特に気に入った世界では二十年、三十年と滞在し続けたこともあった」

「ふむ……」

「そのうち気づいたんだけど、自分はさっきも言ったように魔術でも科学でも、とにかくみんなで支えて頑張ってる世界が好きなんだって」

「なるほど……こういうことあんまり聞いたことなかったんで、もうちょっと詳しく教えてくださいよ」

 

 なんとなく言わんとしていることはわかったけど、まだまだ理解するには言葉が不足している。

 

「例えば、今私たちが拠点にしている向こうの世界も、私はここと同じくらい気に入ってる。あの世界は魔力の影響こそ、それほど強い方ではないけど、人類みんなが魔術を使うことができる」

「ふむふむ……」

「そしてその中でこちらには及ばない早さとはいえ、みんなの中で熱意と才能を持つ魔術師たちが技術を……文明を少しずつ進めている」

「こっちがだいぶ早いだけかもしれないですけど……そうではない世界も結構あるんですよね?」

「結構あったね。特に魔力が濃いめでかつ一部の人間しか魔術が使えないような世界は一番よく見る上、進まないタイプの典型かな。科学の世界だってほんのわずかな人がその恩恵を独占しているような場合も見たことあるし」

 

 一部の人間が科学の恩恵を独占かあ……ディストピアしてそうだ。あんまり住みたいとは思わないな。

 

「魔術を使える人と使えない人で、差別とかそういうのが結構あるとか?」

「そういうのはあったりなかったり……それ以上に一部に偏ってるとかえって進みが遅いんだよね。あと争いごとも多い傾向ありかも」

「魔力の影響が強いからって、天才が多いわけでも、極端に強い生き物がいるわけでもないんでしたっけ」

「そうそう。私たちみたいのだって、会ったのはレンちゃんが初めて」

「……」

「でも何よりそういうところは私自身が得るものも少ないし、大体はそんな世界に長く留まらないね。もちろんいい人はたくさんいるんだけど……」

「あんまり、居心地よくなかったってことですかね」

 

 そういった僕の言葉に、一瞬悩ましそうな表情を見せたセシルさん。そして再び空を見上げ、一つため息をして口を開いた。

 

 

「そうかな……そういうことになっちゃうかな。私たちが世界に善悪とか順位をつける権利なんてないけど、そういった感情を持つくらいなら別に構わないでしょ。気に入らなければ、また次に行けばいいんだから」

「うん……それでいいんじゃないですか? みんなが仲良く頑張ってる世界が一番好きなのは僕も同感です。好きも嫌いもそんな隠すことじゃないと思いますよ」

「ありがとね……なんか吹っ切れさせてもらっちゃったな。たまにこういうことで悩むんだよね」

 

 そんなにたいしたこと言ったつもりないけどな……

 

 

「あっ、レンちゃん、何か飲む? 散歩につきあってくれたし、私がおごってあげるよ」

「そうですか。じゃあ遠慮なくお願いしま~す」

 

 

 そうして近くのコンビニでホットコーヒーを買った僕たちは、それを飲みながらすぐそばのベンチへと腰掛けた。

 

「日が上がってきたね~」

「綺麗ですね」

 

 湯気の立つ暖かいコーヒー、僕はブラックでセシルさんは砂糖とミルクを一つずつ。じっくりと味わいながら、街を照らし始める日を眺める。

 普段飲んでいるコーヒーでもこういった場所、シチュエーションで飲むとなるとそのおいしさもまたひとしおだ。

 

「これ飲んだら、ホテルに戻りますか」

「そうしよう。また荷物の整理の仕上げをしなくちゃならないしね」

 

 

「ごちそうさま」

 そうして数分後、カップをゴミ箱へと捨てた僕たちは同じ道を辿りながらホテルへと向かった。来たときは閉まっていたシャッターが開き始め、人々の生活の始まりを感じさせる。

 この通りも数時間後には多くの人で行き交うだろう。

 

 そして僕たちもひとまずこの世界で過ごす最後の一日が始まるのだ。

 

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