異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~   作:オサカナ

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7話 依頼と体験

 この世界に来てから一ヶ月ほど経った。魔術は基礎的なものは大体習得し、応用的なものを教えてもらっている。

 セシルさんは想像以上の飲み込みの速さだと驚いていた、元の体の持ち主に感謝だね。

 

 また、この世界の法律や歴史、一般常識などの他に科学の知識なども教えてもらっている。セシルさんの教え方が上手なおかげか、自分が興味を持てるせいだろうか、学校で習っていたときよりすんなり覚えることができた。

 やればやるほど上達する魔術もそうだが、勉強についても学ぶことがこれほど楽しいと思ったことはなかっただろう。正直言って学校に通っていたときよりも遥かに勉強している。

 

 それだけではない。この家には多くの本、魔術についての本や小説なんかはもちろん、少し古い絵柄だったりするが漫画すらたくさんある。何より驚いたのは、かなりレトロなやつとはいえ携帯ゲームもあったことだ。

 聞いてみると他の世界から持ち込んだものらしい。洗濯機や冷蔵庫もそんな感じでちゃんとあるので、とても快適な生活だ。

 

 もちろん魔術師の助手として研究の手伝いなどもして、毎日が刺激ある退屈しない毎日を送っていた。

 

 そんなある日のこと……

 

 

「あれ何ですか?」

 

 夕飯の食材のお使いから帰ってくると部屋の隅に見慣れない物が合った。大きな箱にたくさんの尖ったものが刺さっている

 あれは……剣だろうか? 見た感じ百本近くありそうだ。

 

「ん、あれ? さっきこの国の王宮の人が来て兵士が使う剣の魔力付与を依頼されたんだ。まあ、年一くらいであることだよ」

「国からの直々の依頼ってことですか。さすがですね。でも結構多いですが……」

「そうだね、確かに多いかも。今年は新人さんが多いって聞いたから……そうだ、レンちゃんも手伝ってよ。二人でやれば早く終わるし、レンちゃんなら私と遜色ないものができるよ。大丈夫だって!」

「え~ホントですか?」

 

 

 そうして夕食を終えて、いつもの研究室の一つに連れられた僕はやり方を教えてもらうことになったわけだが……本物の剣に触るなんて初めてだから、やっぱり緊張するな。

 

「最初は柄から……均等になるように……そうそう」

 

 魔力付与に使うという手袋型の道具を着けて、言われるがまま作業を行う。魔力を帯びた場所は淡い光を放ち、なんとも神秘的な雰囲気だ。

 それにやっていくうちにここはもう十分か、ここはまだ足りていないか、といったことがなんとなく分かってきた。これもこの身体の才能のおかげなのだろうか。

 

「よし、オッケー。すごくいいと思うよ」

「ありがとうございます」

 

 なんとか一本目ができた。まじまじと見つめてみると、やはり実物の剣は迫力が違うな。

 

「この調子でお願いね。終わった剣は鞘に収めてあの箱に、上手くいかなかったらこの布で拭けばやり直せるから。あと、手を切らないようにね」

 

 そう言ってセシルさんは剣のいくらかを僕に渡し自室へと戻っていった。

 

 

 

「ふう……」

 

 いったん椅子から立った僕は大きく背伸びをして、身体のこりをほぐすように背をそらす。

 なかなか神経を使う作業だ。やり直しができるといっても結構疲れるな。

 

「さぁて、続き続き」

 

 再び、椅子へと座り作業を再開した。残りを見ると半分ほどだ。

 要領もわかってきたし……頑張るぞっ!

 

 

 

「よし……これで最後だ」

 

 最後の一本を終えた僕は、首だけを後ろに向けて時計を見る。始めてから実に三時間程経っていた。

 それほど長く感じなかったのはやはり作業に集中していたからだろう。実際に楽しかったし。

 

「しかし、この剣やっぱり本物なんだな……」

 

 机に乗っていた最後の剣を右手に持ち、その重さを再確認する。始める前に想像していたよりは重い、しかし手に吸い付くような握り心地があり、あまり力のない今の僕でも問題なく振り回せそうなのは魔力付与の効果だろう。

 

「むむ……よっと」

 

 本物の剣なんてものを持ったせいか、男心がくすぐられた僕はちょっと試してみるつもりで剣を両手で持ち軽く構えてみようとした。

 したのだが……

 

「あ、やばいっ!」

 

 カチャンという音が静かな部屋に響きわたる。

 持ち上げた剣の先端が机の上の小さな棚に置いてあったビンに当たり、中の液体をこぼしてしまったのだ。

 

「わわわ……」

 

 すぐに元に戻したのでこぼれたのはほんの少しだけ、見た感じでは分からない量で済んだ。

 だけど……肝心の剣についてしまった。

 

 きっとこのまま黙っていても誤魔化せるくらいの量。それに打ち明けた場合、もしかしたら……怒られるかもしれない。

 どうするべきか……

 

 後になって思えばなんて愚かだったんだと悔やんでしまいたくなるが、このとき僕は打ち明けるべきか黙っているかとにかく本気で悩んでいた。

 

 

「そろそろ終わったかな~」

「あっ!」

 

 自分の分を終えたのであろうセシルさんがドアをノックして入ってきた。その手には二つのカップが乗ったお盆を持っている。

 やはり……隠し事はよくないだろう。僕は覚悟を決めることにした。

 

「ん? どうかした?」

「あの……ごめんなさい! えっと……そこの棚の上にあった薬、僕がこぼしてしまいました……」

「…………」

 

 一瞬の間、故意ではないとはいえ自分が悪いのだから叱られることを考えた。しかし……

 

「いや別にいいよ。完成品を置きっぱなしにしていた私も悪かったんだし」

「え、でも……」

「いやいや、ちゃんと正直に言ってくれたからね。恐らく黙っていても隠し通せただろうに、わざわざ言ってくれたということは私を信用してくれているということ……でしょ?」

「セシルさん……」

「何だか子どもに言ってるみたいになっちゃったね。まあ危ないものはちゃんと別に保管してるとはいえ、今後も何かあったら報告してね。とりあえずお疲れ様」

 

 セシルさんはそう言って優しい笑みとともに温かいココアの入ったカップを僕に差し出した。

 甘いいい香りが落ち着いた気分にしてくれる。

 

「おいしい……」

「よかった。一仕事終えて、疲れたときは甘いものが一番。こんな少し遅い時間に飲むってのも、またおしいんだよね」

「ですね……ねえ、セシルさん。もしも……もしもですよ、僕が黙っていて後から気づいてたら、どうしたんですか?」

「そうだねえ、怒ったりはしないけど、ちょっといじわるしちゃうかも」

「いじわるって……どんな」

「それは~秘密!」

 

 なんだそりゃあ……

 

「え~と、さっきこぼして少しついちゃったっていうのはこの剣かな」

「ああはい、そうですが……」

「そうか……じゃあこれは当たりだね」

 

 どういうことだろう? あの薬品に何か特別な作用でもあるだろうか。

 

「さてと、飲み終えたら剣を何本か持って外へ来てくれる?」

「え? 外へですか? もう夜ですけど……」

「試し斬りだよ、やってみたいんでしょ?」

「あ……はい!」

 

 

 心の内を見透かされたような思わぬセシルさんの一言。嬉々として僕は仕事を終えた剣の内、適当に五、六本、セシルさんも自分が施した分のいくつかを持ち家の外へと出た。

 外では既に日は落ち静寂に包まれていたが、満月の光が草原をかすかに照らしており、昼間とは違った印象を感じた。

 

「ちょっとそれで練習していてくれる?」

「わかりました」

 

 まず手始めにと基本の剣の振り方を教えてもらい、軽く素振りをする。

 本物の剣を持つという体験に感激しながらも、初めてだというのに思い通りに剣を振るえることに対して魔力付与による効果の実感をした。

 

 

 そうして軽く身体が温まってきたころ、セシルさんがどこからか巻き藁を持ってきた。

 

「じゃあやってみてくれる。スッパリ切れるようになってるから」

「これですね……」

 

 巻き藁の中腹に軽く剣を当て、切りかかる場所を決める。

 軽く目を閉じ一つ深呼吸をして、僕は巻き藁に切りかかった。

 

「てあっ!」

 

 パンッと乾いた音がして袈裟切りにされた巻き藁が真っ二つに割れ、上の部分が地面へと落ちる。

 

「わあっ……」

 

 憧れだった瞬間。当然初めての体験であるが、手にその感触が今もって残っているほど、とても気持ちがよく、印象的な光景だった。

 

「うん、問題なさそうだね。じゃあ私も一発……」

 

 そう言うセシルさんは別の剣を手に巻き藁の前に立ち、剣を構えた。

 しかし……この人剣術もできるのか? いや、僕に教えてくれたわけだしある程度の腕前はあるのだろうか?

 

「やっ!」

「……え? ちょっ……今のなんですか!」

「ふふん、なかなかのものでしょ。いっておくけど、特にズルはしてないよ」

 

 セシルさんはちょっと得意げに笑っている。しかし僕はせいぜい素人に毛が生えた程度ではないかという、直前の予想をものの見事に覆され、冷静ではいられなかった

 

 セシルさんの振るった剣は比喩ではなく本当に太刀筋が全く見えなかった。決して目を離していたわけではない、しっかりとその瞬間を凝視していた。それなのに()()だ。

 そして切られた巻き藁は僕がやったように少し動いて落ちたのではなく、切った瞬間は微動だにすることなく一拍置いてズレるように下へ落ちた。もしこれが実戦だったら剣に手をかける前に切られている、僕でさえそう確信するほどの速さだった。

 

「何でもできるんですね……」

「私も伊達に長生きしてないから、これくらいはね。今度レンちゃんにもちゃんと教えてあげるよ。男の子はこういうの好きでしょ?」

「ああ、はい……」

「残りの剣のチェックは私がやるからレンちゃんはさっきみたいに剣振っててもいいし、まだ巻き藁あるからそっちやっててもいいし、好きにしていいよ。疲れたならもう休んでも大丈夫だから」

「じゃあもう少し素振りやってます」

 

 セシルさんにキチンと剣術を教えてもらえると言われたのは素直にうれしかった。

 だがそうは言われたが、それ以上にその動きの美しさに僕は圧倒され、動揺していた。まさしく達人の技をこの目で見たのだと。

 

「うん、特に問題なしだね。これなら大丈夫。もう遅いし今日はお休みかな」

「ならこれ戻しておきますね」

「あっ、ありがとう! 気が利くね。明日取りに来てくれるから玄関置いといた箱に入れといてくれればいいよ」

「了解です」

 

 試し切りを終えた剣を言われた場所へと戻す。また少し汗をかいたため、交代でシャワーを浴びた後、互いに部屋へ行き寝床についた。

 しかしセシルさんの剣筋を見たときの興奮はシャワーを浴びているときも、歯を磨いているときも、そしてベッドの中で目を閉じてからも続き……結局その日はあまり眠れなかった。

 

 

  ◆◆◆          ◆◆◆   

 

 

 翌朝、いつものように朝食を食べ終えた僕たちが本を読んだりして時間をつぶしていると、王宮の人と思われる数人の兵士が剣を受け取りに来た。

 

「おはようございます。依頼されたものはできてますよ」

「おお、さすが素晴らしい出来栄え! いつもありがとうございます。それではこれは報酬です」

「はい、確かに受け取りました。それでは皆さんも気を付けてお帰りくださいね」 

 

 受け渡しは数分ほどの短い時間だったが、その親し気な会話はセシルさんと彼らとの信頼関係を察するに十分なものだった。疑っていたわけではないが、元王宮勤めは本当なのだろう。

 それに受け取った報酬も見た感じ結構な金額のようだ。それだけセシルさんの信頼が大きいということか。

 

 

「えっと……じゃあこれはレンちゃんの分。好きに使っていいよ」

「え、こんなにいいんですか?」

 

 もらったお金を手にセシルさんはテーブルに僕を呼んだ。分け前を渡すためだ。

 しかし僕は少し戸惑っていた。確かに手伝ったとはいえそれほど多くこなしたわけではない。それなのに、仕事した量より明らかに多い分け前を差し出されたからだ。

 生活費などは除いて、自分たちで使う分を分けているのだから、あんまりもらうのはちょっと悪い気がする……

 

「いいって、今回は助かったよ。これからも手伝ってね」

「……ありがとうございます!」

 

 やや受け取るのを躊躇した僕を見たセシルさんは、優しい笑顔とお礼の言葉と共に僕の方へ袋を動かし、それを見た僕は微笑み返した後、そのお金を受け取った。

 こうまで言ってくれるんだから、遠慮する必要はないだろう。

 

 そうして自分の部屋で初めて自分で稼いだお金を眺めながら、僕は本屋で興味を引いた本などを思い返し、どうやって使おうかとしばらくの間思いに耽っていた。

 

 

 その日からしばらく後、今年入った中で異例の速さで出世をしている兵士がいると風のうわさで聞いた。

 始めの内は特に何か抜きん出たものがあるわけではなかったが、何やら支給された新しい剣を受け取ってから驚異的な集中力と共に急に剣術の腕を上げ、メキメキと頭角を現していったとか……

 

 

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