〜sideシオン〜
半殺しの定義って何だと思う?
半殺しの「半」ってさ、言葉通りの半分だけ殺すっていう意味の分からない状態じゃなくてただの比喩なんだ。
俺はこの言葉を「殺す場合」を半分、もう半分を「殺さない場合」と解釈している。
要するにだ。
「死ななきゃどんくらい痛めつけても良いってこと」
「何を言ってやがる……!」
さて、どうしようかな……目立つのは嫌だから
そう思い俺は銀色の赫子を
俺の体は瞬く間に銀色の流線形の鎧に包まれた。
頭は三つ眼の鎧に覆われ、両腕には鋭利な爪と腕の向きとは逆向きに小型のブレードが付いている。
「なんだ……それは?」
「俺みたいなのを白鳩どもは赫者と呼ぶらしいぞ?」
「つーか半殺しってテメエ……舐めてんのか?」
「……お前の羽赫は遠距離からの狙撃、または物量攻撃だ。必然的に距離をとった戦い方になってしまう。確かに全て被弾すれば致命的かもしれないが、生憎俺は甲赫だ。基本無視していい」
ココは狭いな。こいつにとっても、俺にとっても。
「もう少し、部屋を広くしようか」
そう言って、俺は赫子から急激にRc細胞を噴射し、アヤトくんに迫ってその腹に蹴りを入れた。
「グッ!!」
アヤトくんが苦悶の声を上げる。
俺はそんなこともお構いなしにアヤトくんを蹴り付けて噴射の勢いのまま———
「グ、ガアアァァァァァァァ!!!!!」
———壁に叩きつけて壁をぶち抜いた。
「ゲッホ! ゲホゲホッ! ……イッテェ……!!」
「よそ見してる暇あるの?」
「グッ!」
続いて腹に一発。
次は顔、足、腕と順々に攻撃して行く。
「チッ! 舐めてんじゃねぇぞっ!」
攻撃の隙を見つけてこちらに殴りかかってくるが……
「は?」
瞬間、彼の拳は空を切り、俺はアヤトくんの視界から消える。
俺は膝、股関節、肩と順番に力を抜いて行き、滑らかに彼の足元へ移動。姿勢は低く、勢いを殺さず
「ブッ!?」
躰道の、卍蹴り。
続けてその勢いのまま流れるように腹に蹴りを入れる。
そして回し蹴りで今度は右側頭部!
攻撃の手を休めることなく今度は赫子の噴射口を前に向け、Rc細胞を噴射して後ろに下がる。そして今度はRc細胞を圧縮、極太のビームのように撃ち出す。
「ガッガアアァァァアアアアァァァァ!!!!」
さすがにダメージが溜まってきたのか倒れたまま呻くばかりで起き上がらなくなった。
俺はそんなアヤトくんに近づいて蹴り上げた。
「げはっ…ぺっ…」
「トーカとは姉弟なんだからさ、暴力は感心しないぞ?」
「テメ、説得力…皆無なんだよっ」
アヤトくんは再び赫子を出すが、疲弊しているのか先程のようなキレは見えず、容易に回避できた。
隙ができたアヤトくんの片足を赫子で突き刺し、壁に向けて放り投げる。
「グッ……」
「俺がトーカのところに向かう途中、逐一仲間からお前たちの様子を報告してもらったんだ」
その際、不可解な点が見受けられた。
「お前さあ———」
あの時、本当ならば俺は
ならなぜ結果的にトーカを救出できたのか?
「———トーカを殺したいならなんでさっさと殺さなかった?」
「……あ?」
「いやだから、なんで殺さなかったんだって訊いてんの」
「テメエには…関係ねぇだろ……!」
そもそもこいつはこの組織で何を為そうとしているのか。
「お前の言葉の節々には
「んなもん分かるわけねぇだろうが」
「分かるぞ? 色んなやつを見てきたからな。で、お前結局何が———誰だお前」
「…………」
気づいたら目の前に大きな口の描かれたマスクを着けた男がいた。
喰種か? にしても不気味な気配だな。
「……ノロ、か…?」
ノロって言うのか?
敵だって言うならとりあえず……
「一撃、入れてみようか」
そう言って俺は赫子のブレードでノロと呼ばれた喰種をぶった切った。
「ん?」
手応えが無い。
どういうことだ?
上半身と下半身に分かたれたノロだが———
「ああ? いくら喰種でも再生速すぎるだろ」
一瞬で上半身と下半身を繋ぎ合わせた。
今のは、赫子か?
と思ったら今度は赫子で攻撃してきた。
「うおっ!? って、口!?」
その赫子には牙を持つ巨大な口が付いていた。
奴は俺がアヤトくんから離れたのを見て、アヤトくんを担ぎ上げる。そしてそのままどこかへ走っていなくなった。
「……半殺しにできなかったじゃねぇか。何だったんだよ」
あー、そういえば。
「イリーナ、上手くやってるかね」
〜23区・三人称〜
同時刻、23区ではアオギリ構成員たちと
『ソーレッ』
「「「ギャァァァァァァァ!!!」」」
たった一人でアオギリ全員を相手取っている喰種は、全身に赫子を纏っていた。そう、赫者だ。
「もー、なんなのこいつ」
「どうする、エト? こいつ凄い強いよ。話も聞きそうにない」
「うーん。おっそろしい話、たぶんこれ私たちでも勝てないよ?」
「じゃあ逃げる? 当初の目的は達成できたし」
「うん、そうしよう」
少し離れたところでは二人の喰種が話していた。
この二人は元々喰種収容所から強力な喰種を脱獄させ、戦力として引き込むために来た。
だがその目的を達成していざ帰ろうと思ったらこれだ。
『アハハハハハハハハハハ!!!!!』
化け物と騎士を掛け合わせた怪物。
今二人の目の前で暴れている喰種を一言で言い表すならばこの表現が一番適切だろう。全身は黒く、頭には角が数本生え、口には牙が生え揃う。背中からは翼のような形状の刃である甲赫が生え、右手には分離させた赫子であろう異形の大剣を持っている。身長は三メートル近い巨体。
『…………』
アオギリの構成員を粗方殺し尽くすと不意に二人の方を振り向いた。
『オニーサントオネーサンハ遊バナイノ?』
「遠慮しておこうかな〜?」
「俺もそうする」
『エ〜ツマンナーイ』
そう言って黒騎士の喰種は大剣を振り上げた。
『ソウ言ワナイデ』
そしてそのまま二人に斬りかかった。
『遊ボウヨ!』
この後、この二人は命からがらなんとか逃げ切るのだがそれはまた別の話。
戦闘の後、黒騎士は身に纏った赫子を解除した。
「……おとーさん、褒めて、くれるかな……」
中から出てきたのはなんと長い銀髪を持った儚い雰囲気の小学生くらいの少女だった。口調は先程までとは似ても似つかず、とても先程まで暴れていた喰種と同一人物とは思えない。
「……おかーさんに、会えるのかな……」
少女の名はイリーナ。
その異名を黒騎士と言い、一年前までロシアで恐れられ、その異常な強さからロシアの喰種捜査機関が規格外の彼女のためだけにレートEXと認定した、『騎士団』最強の喰種である。
少女は歩き出す。
天涯孤独だった彼女を、孤独という地獄から掬い上げてくれた、彼女が父と呼び慕う青年の元へ帰るために。
・『黒騎士』イリーナ
拙作中最強キャラ。その姿から黒騎士と呼ばれ、圧倒的な強さからロシアの喰種捜査機関が専用のレートとしてレートEXと認定した化け物。
仲間集めのために一ヶ月だけロシアに遠征した際に一人だったのをシオンに拾われた。それからはシオンのことを「おとーさん」と呼び慕っており、シオンの恋人であるトーカを「おかーさん」とし、会うのを楽しみにしている。
赫者のイメージはコードヴェインの「女王の騎士」。