「はぁ………」
俺はため息と共に改めて自分の体を見下ろした。そこには今まで異世界と地球で戦ってきた、17歳遠藤浩介の体とは似ても似つかない体、中学生時代の体があった。
今更ながら俺は頭の中で自問自答に陥っていた。
いくら地球の危機だからと言ってここまでする必要あるのか?それに南雲なら簡単に殺せると思うんだけど………
そりゃあ最悪の場合は手を貸してくれるとはいえ、最悪の場合のみしか手を貸してくれないというのは流石に酷くないか?だって地球の危機なんだよ?ミュウちゃんにもお願いされてたでしょ?
まぁ、南雲達のことだし面白半分なんだろうけど……流石にもう諦めるしかない。
ようやく諦めのついた俺はハンガーにかけてある真新しい(実際新品)の椚ヶ丘中学の制服を手に取った。
今現在俺は南雲と国が用意してくれた防犯用アーティファクト完備のアパートに住んでいる。流石にこの姿のままで家に帰るといくら南雲が我等が魔王様でも家族からクレームが入りかねない。
しかし、一般のアパートにアーティファクトなんてつけていいのかと思うが、このアパートは南雲がたまに地球に連れてくるトータスの人達用に用意したものなので、今現在使われていない。
ちょうど椚ヶ丘からもそこそこ近いのでここに約1年間住んで学校に通うことになる。
ちなみに高校に関しては俺の分身体に行かせている。高校は休めないので分身体を出した。これも中学生の体になっていたが、そこは南雲達に責任があるため魔力が回復次第分身体を元の体に戻してくれた。
しかし、これで常に分身二体分(もう一体はエミリーの家)の魔力を消費し続けることになった。仕方ないとはいえ少ししんどい。
そんなことを考えていると、ちらほらと椚ヶ丘の制服を着た人が見え始めた。すぐ横を通っても気づかれる様子はない。やはり普通に俺を見つけられる人は限られているようだ………
一昨日の夜きたばかりの木造の校舎?の玄関に着くと黒いスーツを着た真面目そうな人が立っていた。
「あのー、すみませーん……………」
「………っ!?」
とりあえず話しかけた方がいいと思い、声をかけたがやはりというかなんというか気付かれない。どうしようかと考えていると、スーツの人は思ったよりも早く俺に気付きかなり驚いた様子だった。
「今日からここに来ることになった遠藤ですけど……」
「あ、あぁ…君が遠藤浩介君か、俺は防衛省臨時特務部所属の
「あ、ご丁寧にどうも」
ぼ、防衛省……なんか、ほんとにやばい状況だったんだなぁ………
この3年E組の担任は、件の超生物もとい生徒が付けたらしい殺せんせーなのだが、国家機密のターゲットの名前を何も知らない本校舎の先生達に見せるわけにもいかずこの烏間さん……烏間先生が書類上の担任らしい。それでもこの先生は体育の授業で暗殺の基礎訓練を担当しているらしく、毎日ここに足を運んでいるようだ。
「えーと、それで俺はどうしたらいいんですか?」
「そのことだが、今日のHR(ホームルーム)の時間に紹介するから、それまで職員室で待っていてくれ」
職員室か……一昨日のことだし、見た目変わってるし大丈夫だよな?
烏間先生に案内されて職員室に入ると、あの一度見たら忘れられないような黄色い触手が目に入る。
「おや?烏間先生その子は?」
「そういえばお前はまだ知らなかったか、転校生の遠藤浩介君だ。俺も昨日の朝知らされたからな、お前が知らないのは仕方ない」
「転校生ですか………ふむふむ」
な、なんだ?めっちゃ見られてるんだが……もしかして俺が一昨日ここに来たやつだってバレたのか!?
もしもバレた時のために、気取られないように宝物庫の準備をしていると不意に殺せんせーが話しかけてきた。
「いいですねぇ、遠藤君が加わればまたより良い教室になりそうです。ちなみに得意科目と苦手科目を教えてくれませんか?」
「と、得意科目ですか……?」
びびった〜なんか俺の正体について聞かれるのかと思った。それにしても、まず真っ先の質問が得意科目と苦手科目って………いや、待てよ。そういえばここは中学校だから俺全部習い終わってるんじゃ………
結局ここで嘘言ったりしても、余計疑われるだけなのでここは正直に答えよう。
「得意なのは言語系全般で、苦手なのは強いて言えば……なんだろう?ん〜?最近はあんまりないかもです」
「そうですか!優秀なのですねぇ〜」
「ど、どうも」
言語関係が全般得意なのはもはや仕方がないと思う。なぜなら俺達『帰還者』はトータスに行った時に例外なく“言語理解”の技能を手に入れており、それはこの地球に帰ってきてからも変わらない。
そのため、急に消えていなくなっていたのにも関わらず、戻ってきたと思ったら英語に古典、漢文なんかがクラス全員完璧になっているなど、高校の先生からしたら困惑ものだろう。
実際、俺達の英語の先生なんか、俺たちの方が英語を完璧に理解しているのだから、授業中に萎縮してしまって、チャイムがなると同時に逃げるように教室から出て行ってしまうのだ。
「おや、そろそろですね。それじゃあ遠藤君ついてきて下さい。」
「あ、ハイ」
先週までこの教室に無かった机と椅子がある。
それが意味するのは転校生が来るということだ。普通の学校ならばどんな人が来るのか、男子か女子かの話題で教室が少しながら騒がしくなるものだろう。
だけど、この教室では………
僕が新しく追加された机と椅子を見て固まっていると、横にいた友達の杉野友人(すぎのともひと)が声をかけてきた。
「なぁ、渚。やっぱり転校生って……」
「うん、こんな時期に転校生なんてない話じゃないけど珍しいし、ましてE組に来るなんてなると……」
「そうだよなぁ。でも殺せんせーはいいとして、烏間先生が何も言ってこなかったってのがちょっと気になるよな?」
確かに、あの先生なら事前にメールでしらせてくれると思う。僕たちのことをきちんと考えてくれている人だから。
その烏間先生が何も言ってこないということは、知らされてなかったのか、もしくは急遽決まったのかのどっちかだけど………
もし、前者だったらどうしよう………怖い人じゃないといいけど。
教室の中のみんなが、おそらく転校生のことを考えていただろうタイミングで教室の扉が開かれた。反射的にその方向を見ると、殺せんせーが出席簿を持って入ってきた。
「にゅ?どうしたのですか、皆さん?そんなにこっちを見て、もしかして先生のどこかに何かが付いてますか!?」
「「「「「「ハァー」」」」」」
殺せんせーの空気の読めない発言に緊張していた場が砕けて、思わずみんなため息をしてしまった。
その様子に最初殺せんせーは困惑してたが、すぐになんのことかを思い出す。
「なるほど、皆さん転校生のことが気になるようですねぇ」
「先生、その転校生って……」
「それは直接聞いた方がいいでしょう。それではHRを始めます。日直の人は号令を!」
「起立!!……気をつけ!!………礼!!」
目の前の教室からものすごい数の発砲音が聞こえる。もちろん俺が聞き慣れた本物の火薬が爆発するような重く低い音ではなく、ガスガン所謂モデルガンの発砲音だった。
それにしても30人近い人が同時に同じ的相手に撃っても当たらないものなのだろうか?いくら最高速度がマッハ20だとしても、一昨日見た感じでは“瞬光”と“先読”の付与された南雲謹製のアーティファクトを使えばどうにか追いつけるくらいだったと思うけど。
「今日も命中弾はゼロですねぇ〜やはり弾幕が短調で分かりやすいですよ。烏間先生あたりに弾幕について聞いてみたらどうでしょうか?」
殺せんせーは出席簿を閉じながら顔を緑の縞模様に変えてそう言った。
………いや、緑の縞模様ってなんだよ!?
「君には言ってなかったが、奴は態度によって顔色が文字通り変わる。今の緑の縞模様は相手を舐め切っている時の顔だ」
「へ、へぇー」
なんかすごい皮膚(?)してんだな。
殺せんせーの顔色が元に戻るのをそれとなく見ていると、殺せんせーが長い触手をこちらに向けて手招きのようなことをしていた。
今から自己紹介を行うと意識すると、戦場とは違う緊張が走ったが別にこのくらいの緊張感はどうということもないので、適当に振り払い教室に入る。
「それでは今日から皆さんと一緒に先生の暗殺を行う仲間を紹介します!」
「誰もいないじゃん殺せんせー!」
案の定というか、予想通りというか、今し方扉を開いて入っていったのにもかかわらず、クラスの誰からも気付いてもらえなかった。
「にゅや!?そんなことは!ねぇ?遠藤君!?」
「……別にいいもん気づかれなくても。生まれつきだし、もう慣れたし、俺リア中だし、気にしなくていいですよ。殺せんせーいつものことなんで…………」
「「「「「え?」」」」」
俺が声を発した途端、教室の中にいる人達が一斉にこっちを見た。しかし、その目は俺を捉えておらず俺の後ろの黒板を見ているようだった。
「あ!いるよ!殺せんせーの横に」
一番最初に気付いてくれたのは水色の髪の少j……少年だった。
彼が俺の立っている場所を指差すとチラホラと目が合う人が増え始めた。
「遠藤浩介です。この通り影が、気配が、存在が希薄なんで、気付いてくれると嬉しいです。そりゃあもうホントに嬉しいです」
「な、なんかごめんな?」
俺が自己紹介(?)をすると、さっき殺せんせーに「誰もいないじゃん」と言っていたちょっとチャラそうな人が声をかけてきた。
「いや、いいよ。もう慣れたし、両親に気付かれないよりも全然平気だし」
殺せんせーのおかげで(せいで?)弛緩していた空気が今度は暗くなった。
男子からは同情を買ってしまい、女子は徐にハンカチで目元を押さえ始めるものもいた。
俺はいつの日かも思った「同情するなら存在感をくれ」という言葉を思い出した。
「そ、それでは!遠藤君の席は後ろのカルマ君の隣です」
俺は「果たしてこの調子でみんなと仲良くできるのだろうか?」と一抹の不安に駆られてしまった。
先週ぶりです。どうもKaimaxです。
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次回もまた来週です。