様々な事件や事故を乗り越え、人間は新たな新天地を目指し進歩していった。
かつてGUTSの精鋭として地球のために戦ったマドカ・ダイゴもその一員として火星に移住、そこで植物の研究をしながら暮らしていた。
ある日、重金属に侵されていない火星の土を求め地中深くを探索していると謎の遺跡を発見してしまう。
何かに呼ばれている感覚を覚えつつ先に進み、門らしきものをくぐる。
気が付くとそこは異世界の地球だった。
「…ぃさん! ねぇ! おじさん!! 起きてください! こんなところで寝ていたら風を引いちゃいますよ~? おじさん?」
「う、う~ん……」
とある公園、今日は天気にも恵まれ小春日和であった。
気温はポカポカとした温かい陽気に包まれており、人々は変わらぬ幸福の日々を過ごしているかに見えた。
そんな平和な公園内、少女は木々が生み出す影の中に入るように設置されたベンチで寝ていた青年…と呼ぶには歳を召しており、かと言って、中年と呼ぶには躊躇われる程には若々しい壮年の男性の目を覚まさせようと、必死に声を掛けていた。
「ここは‥‥どこだ? 僕は……たしか‥‥あれ? 思い出せないなぁ‥‥」
「あ、あのぉ~。 大丈夫ですか? もしよかったら、これどうぞ!」
男が目を覚ます。
しかし意識が朦朧としているのか、頭を手で押さえつつ今の自分の状況を思い出そうとするが寝ぼけているのか未だここに居る経緯を思い出せずにいた。
そんな彼を心配してか、少女は鞄から水筒を取り出すと備え付けのコップに注ぎそれを彼に差し出す。
コップの中には仄かに湯気が上がったお茶が入っていた。
男はありがとうと礼を述べるとそのお茶を啜る。
程よい熱を帯びた液体が口の中に広がると同時にこの幼気な少女の暖かい心の光に触れられたからか、男の脳裏にあった靄が少しずつ晴れていく感覚を覚え、次第に自分の置かれている状況を把握できるようになっていた。
まず目についたのは
「空が青い? ここは……もしかして地球なのか?」
「おじさん大丈夫ですか? 空が青いのなんて当たり前じゃないですか?」
彼にとっては有り得ない出来事に思わず言葉が漏れる。
しかしそのこぼれた言葉は少女にとっては有り得ないことであったのだ。
思わず本当に危機的な状況ではないかと勘繰ってしまった彼女は親切心から救急車を呼ぼうかと携帯を取り出そうとする。
「ああ! ごめんごめん! 冗談だよ冗談! そらが青いなんて当たり前だもんな!」
「な、な~んだ! 冗談か~! びっくりした!」
慌てながらも取り繕い、なんとか少女を制止させることに成功する。
冷静に考えれば助けてもらった彼女に対し
それを見て安堵した男は残っていたお茶を飲み干すと少女にコップを返却した。
「ごちそうさまでした。 ありがとう、おかげで助かったよ」
「いいえいいえそんな~。 それより! どうしてこんな所で寝ていたんですか? 顔色も悪かったですし、ずっとうなされていましたし、苦しそうなんか言っていましたよ?」
「うなされていた? 何を言っていたか覚えているかい?」
「たしか……なんでまたボクなんだ、とか、また戦わなければならないのか、とか言っていました」
少女から又聞きした自分が発したうわ言に彼の脳裏にノイズが走る感覚を覚えた。
自分が何者で、何者だったのかははっきりと覚えている。
だが肝心な部分である戦いというキーワードを聞き、それが今の自分の状況たらしめていることは感覚では理解しているが、どこか心の奥深くでそれを否定し、思い出さないようにしている自分がいることを心の何処かで感じていた。
「どうしたんですか? 険しい顔して」
事態は我が事ながら深刻だと考えたためか、それは彼の表情にも現れ、それを見た少女は他人の事にも関わらずまるで自分の事のように心配そうな顔で見つめてくる。
「ごめんごめん! 大丈夫、ちょっと仕事のことで悩んでいただけだから。 今日は早く帰ってゆっくり休むことにするよ」
「本当ですか! 約束ですよ!」
優しい子だ。
男は思わず彼女の頭を撫でる。
今の彼に出来る最大限の感謝の現れと、既に独立した自分の娘もこんな時期があったなと懐かしさの余りによる行動であった。
撫でられた少女も見知らぬ男性からの突然の行動に驚きはしたものの、彼の手から感じる暖かな、自分の父親に撫でられた時と似たような温もりに気持ちよさそうに目を細めその行為を受け入れていた。
しばらくすると男は撫でるのを止め、ベンチから立ち上がりながら少女に尋ねる。
自分は帰り道を探すが君はどうするのかと。
少女もどうやらこの街の住人ではなく、近くのコンサート場で行われるアイドルのライブを観に来たのだと告げ、もうすぐ開場時間だと言うことに気が付くと急いで会場へと向かっていった。
「いい子だったな。 さて、どうやって火星から地球に来たのかは分からないけど、なんとか帰らなくちゃ。 ……とりあえず家に連絡しよう。 それから本部にいる隊長にも事情を話すしかないかな……」
だが通信機器の類を持ち合わせていなかった彼はひとまず交番を探すために公園を後にした。
なれない街並みに苦戦しつつも交番を見つけ出し、通信機器を借りるとこまでは良かった。
しかしどういう訳か電話帳はおろか、インターネット上、または交番に勤務する巡査から話を聞いてもTPC、地球平和連合と言う単語、ネオスーパーGUTS、果ては怪獣という存在を確認することが出来なかった。
むしろ、質問を繰り返すたびにこちらを見る巡査の表情は険しくなってゆき、怪獣の存在を聞いたころには不審者を見る目つきとなったため、男はいたたまれずこうして行く当てもなく彷徨っていた。
「困ったな……一体どうすればいいんだ」
男は途方に暮れる。
そんな彼の垂れ下がった頭を上げさせたのは流れついた建物から漏れる大歓声と、それに負けない歌であった。
どうやらあの少女が言っていたライブ会場の近くにに来てしまったらしい。
彼は音楽や流行にはさして興味を示さないタイプの人間であった。
仕事柄そう言ったイベントに中々参加できなかったということもあるが、最後に行ったライブもブルーな夜だったと苦い記憶として残っていたことも一因だった。
そんな彼にもその歌には不思議な気持ちを抱かせた。
直接でなく、様々な障害物に反射反響してなおその歌には彼に活力を取り戻させるだけの力があった。
もうちょっと頑張ろう。
気力を取り戻し、家に辿り着いたら声の主の新譜を購入しようか漠然と考えたその時、突然発生した爆発音により音も穏やかな気持ちもかき消されてしまう。
爆発のあった方向を見やればそこはあの歌声が流れてきたライブ会場からだった。
男は思わず、人生において一番濃かった期間に培った条件反射でその会場へと駆け出した。
あふれ出る人の波に逆らうようにして会場へと急ぐ。
彼がなんとか出入口に着いた頃にはほとんどの人々が既に避難し終わっているようであった。
「おかしい。 災害現場なのに救助の人間や警備員が居ないなんて……」
過去の経験からは考えられない異様な現場に訝しながらも会場内へと続く身を進むとこれまた災害現場に相応しくない音が聞こえてくる。
歌声だ。
録音したものが流れているのかと思ったが音質からしてそれは生歌だった。
だが先ほどまで聞いた人の心を暖かくする歌ではなく、その歌は何処か儚げで、悲哀と優しさが混ざった覚悟の歌という印象であった。
歌に導かれるように会場内へと出てみればそこは異様な光景だった。
見たことも無いような怪獣たちとその周辺にいる異星人のような見た目の怪物たちを観客にオレンジ色の髪の女の子が大型の槍を天に掲げながら熱唱するという常軌を逸脱する光景であった。
「そこは危険だ! 早く逃げろ!」
「Grandis babel ziggur……ッ!?」
声を掛けられた女の子は予定外のオーディエンスの登場に歌の2巡目の途中で歌唱を辞めてしまう。
それに怒り狂ったか本来の観客だった怪物の一部が体を投槍のように鋭く変形し男の方へと飛んでくる。
避けられない!
効果があるか疑わしいがそれでも目を瞑り防御姿勢を取るがいつまでも衝撃は訪れない。
おずおずと目を開けると彼の前には少し距離があったのにも関わらず向かってくる怪物よりも早く駆けつけそれらを斬り払った槍の女の子がいた。
「……ゴフッ!?」
だが無傷といかなかったのか、手に持っていた槍は完全に砕け散り、女の子は口からどす黒い血を吐き出しながら倒れてしまう。
「君! 大丈夫か!? しっかりするんだ!」
「ゲホゲホッ! ……あたしはもうだめだ。 お願いだ、あそこにいる子どもを連れて逃げてくれ」
そう指さす方向に目を向ければ瓦礫を背にへたり込んでいるあの公園で出会った少女がいた。
だが彼は迷っていた。
可能なら二人とも助けたい、しかしその力が今の彼には足りなかった。
こんな時、あの力さえあれば……。
何十年も前に失ったあの奇跡の力を……。
(いや、今のボクに出来る精一杯のことをするんだ。 それが人間じゃないか!)
だが彼は強い人間であった。
失った力を欲しいと思うことは今までにも何度もあったがその都度悩み、悩み抜いた結果今できる最大限の努力をする、それが彼の得た答えだった。
悩みは一瞬。
丁寧に槍の女の子を寝かせると男は少女の元へと走り出した。
その間襲ってくる怪物の攻撃を何とか躱し、全盛期とは程遠い鈍った体にムチを打ちながら走る。
なんとか少女の元までたどり着くが少女は何かに撃たれたのか、胸から夥しい量の血が流れていた。
急いで治療しなければ! そう思い彼女を抱きかかえようとすると先ほどまで夕日に照らされていた筈の自分に影が被ったことを感じる。
振り返ると大型の怪物が直ぐ真後ろに佇み今にも口から小型の怪物を吐き出そうとした危機一髪の瞬間、男の胸から光が洪水のように溢れだし怪物のみを押し流し彼らを守った。
「これは!? なんでこんなものが!?」
男が不審に思い胸の中をまさぐると輝かしい光を放つ杖型の物体だった。
それはかつて彼が力を行使した際に使用した道具にそっくりであった。
記憶とは異なり、丸みを帯びていたはずのそれは角ばっており、色合いも金属みを帯びた鈍い色を放っていた。
なぜこのようなモノが自分の手に、なぜ自分なのか、理由は男にも分からなかった。
唯一つはっきりと分かることがある。
(ダイゴ、自分の正しいことをやれ!)
慣れた手つきでステッキを胸の前に掲げ音叉のような部分が開く。
中から現れたレンズが先ほどと同じ光を放つと光は男を包んだ。
夕日が完全に沈み、空は赤と紫のグラデーションに彩られる。
そんな空の下、男を包んだ光が晴れるとなかから銀色の人型の機械の甲冑が姿を現す。
その姿はかつてダイゴが変身した光の巨人、ウルトラマンティガにそっくりであった。