FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
あの日から、恐怖の象徴であった“シン”の消滅から二年の月日が経ち。世界情勢は大きく変わった。
長年崇拝の対象だったエボン寺院は、僧官を名乗る人物「トレマ」が告発した“真実騒動”により、寺院が意図的に歴史を歪めて来たことが明るみになり。“シン”が、寺院の教え以外の方法で消滅したことも相まって、絶対的だった求心力は失墜の一途を辿り、瞬く間に世界中に混乱が広がった。
真実騒動の発起人トレマは、事実上破綻したエボン寺院の実権を掌握し、新エボン党と名を改めた。しかし彼もまた、人々に呼びかけ世界中から集めた過去の映像スフィアを持って行方を眩ました。
指導者を失った新エボン党を内部の穏健派がクーデターを起こし、政権を奪取。開かれた党を目指すことを宣言し、混乱する世界情勢の中、長年教えを信じて生き、寺院に裏切られ、心のよりどころを失った人々の受け皿になった。
そして、多くの犠牲者を出しながらもスピラの人々を、“シン”の脅威から遠ざけるため勇敢に戦った討伐隊の一部は、トレマの失踪を理由に、新エボン党への対抗組織として青年同盟を結成。新エボン党に疑念を抱く人々、新しい時代を生きる若者から多くの支持を集めた。
さらには、寺院によって禁じられていた機械の普及活動及び、オリジナルの機械を創り出すことを目標に掲げたアルベド族を中心としたマキナ派を含めた三権は各々の考え、思想の違いもあり、また別のいざこざが世界各地で頻発した。
しかしそれらの争いも、ひとりの女性が収めてしまう。
それはかつて、“シン”の恐怖から世界を解き放った大召喚士――ユウナ。
彼女の存在は、どんな時でも特別だった。
三権の党首。新エボン党党首「バラライ」、青年同盟の盟主「ヌージ」、マキナ派を束ねる若きリーダー「ギップル」の三人を中心に、スピラという大きな船は、荒れ狂う時代の波に揉まれながらも着実に新しい航路を、新しい世界へ進み出した。
* * *
豊かな自然と穏やかな人が暮らす島、ビサイド島。
港から山道を抜けて、麓の村を見下ろせる高台から伸びる坂道を、麓のビサイド村へと向かって歩いている。
「でよ。この前本島から来た連中の話しによると、新エボン党と青年同盟の解散後に新しく結成されたスピラ評議会が今、なんだかバタついてるって話しだ。まぁ、平和なこの島にはあんま縁のねー話しだけどな」
「そうだね」
隣を歩くのは、ビサイド島の伝統衣装を着た、オレンジ色の髪の色に水色のバンダナを額に巻いた大柄な男性――ワッカ。三年前、圧倒的な力で恐怖の渦巻く世界の元凶である“シン”を倒した、伝説のガードのひとり。
「そういや、ユウナ。もう、あっちの方はいいのか? なんつったっけ? なんか、鳥っぽい名前が入った――」
「スフィアハンター・カモメ団」
「そう、それだ。半年以上前、急にビサイドを飛び出したと思ったら。また、突然戻ってきてよ」
ワッカと同様共に“シン”と戦った仲間であり、従姉妹でもある、アルベド族のリュックに誘われ。彼女が持参した古い映像スフィアに記録された人物を探すため。そして何より、“シン”を倒した後も変わらない自分を変えたくて、ビサイド島を飛び出した。
ビサイド島を飛び出した後、リュックの提案で髪形と服装を思い切って変え、外見から大胆なイメージチェンジを図るも、結局、自己犠牲の精神と困っている人を放っておけないお人好しは変わることはなかった。
そして、一時の旅を終え、第二の故郷ビサイド島へ帰り、少し退屈ながらも平穏な日々を送っている。
「なんか、あったか? ヤドノキの塔で。久しぶりに、リュックたちと会ったんだろ?」
後ろで手を組んだまま、空を見上げる。
雲ひとつない青空が、水平線の向こう側まで拡がっていた。
「あったよ。いろいろ」
日差しに目を細めながら、思い出し笑顔で答える。
「そっか。んじゃあ今日も、お勤めよろしくな」
「......うん」
今の役目は、新エボン党が解散された後もエボンの教えの良いところ守って生きる人々――エボナーと呼ばれる人や、悩みを持つ人の話しを聞くこと。どこからか、ビサイドに戻ったと風の噂を聞きつけた悩みを抱える人々が、現世を生きる唯一の大召喚士の救いを求め、連日ビサイドを訪れては面談を心待ちにしている。
本音は、少しだけ気が重い。結局、悩みを聞くことだけしか出来ないため。村周辺の見回りへ戻るワッカと村の入口で別れて、ビサイド村の奥で静かに鎮座する寺院へ向かう。歴代の大召喚士の石像が祀られている寺院の中には、既に大勢の人々が面会の時を待ちわびていた。面会希望者の年齢層は基本的にやや高め、幼少から寺院の教えを疑わずに信じ、忠実に守って生活していた人が大半を占めている。“シン”の脅威なき今もなお、割り切れずにいる人々にとって、大召喚士はまさしく特別な存在。
「“シン”が消えさったとて、幼い頃から教えを信じてきたワシには、やはり今さら生き方を改めることは出来ぬのです。こんなことならば、いっそのこと......」
「それは――」
「決して想ってはダメです――」と叱咤しようとした時、大きな物音が響いた。頑丈に造られている寺院が揺れる程の衝撃を伴って。
「ユウナ様!?」
「すみません!」
異変を感じ取り、周囲の制止を振り切って、ビサイド寺院の外へ飛び出した。騒然としている村の中を駆け抜け、入り口付近にいる黒いドレス姿の女性――ガードの一人であり、ビサイド村の村長を務めるルールーに尋ねる。
「ルールー! 何があったのっ?」
「ユウナ? 魔物よ。高台へ続く山道に、魔物が出たの」
「魔物がっ?」
「落ち着きなさい。今、ワッカたちが対応にあたってる。あんたは、寺院に戻ってなさい」
「でも――」
「みんなを安心させることが、元召喚士の大事な努めよ」
「わかってるけど。だけど......」
何もない空間から、突然出現した杖を握った両手に力が入る。
「みんなを護ることも元召喚士の大事な努め、だよね?」
「ハァ、わかった。だけど、村に被害が及びそうになった時だけよ」
「うん」
ルールーの方が折れた。そこへ、彼女が持つ音声通信スフィアに、魔物の討伐にあたっているワッカから連絡が入る。
『わりぃ、何体かすり抜けた。山道をまっすぐ村へ向かってる!』
「数は?」
『二体だ。
魔物は複数の種族に分類される。素早さ、強力なパワーを持つ獣系。空を飛ぶ、鳥類。物理攻撃にめっぽう強く、魔法を得意とするエレメント等など。上記の二体、甲殻のヘルムは文字通り打撃が通り難く、プリンは特定の属性魔法に弱い傾向がある軟体の魔物。
「了解。こちらで対処する。行きましょ。村に入れるわけにはいかないわ」
「うん!」
連絡を受け、二人同時に駆け出す。村に被害が及ばないように高台へ延びる山道で、取り逃がした魔物と遭遇。
「お、大っきいね」
「遺跡で戦ったプリンの亜種かしら。だけど、これほどの大物は久しぶりね。悪いけど、ここは通させないわ。炎よ、踊りなさい!」
頭の上まで上げた右腕を振り下ろすと、黒紫色の巨体が一瞬で、激しい炎に包まれた。しかし、仕留めきれない。炎をものともせず、反撃の体勢に入る。
「ルールー、退いて! えいっ!」
振るった透き通るような水色の美しい剣が、プリンの胴体を斬りつける。だが、致命傷を与えるまでには至らず、すぐさま再生されてしまう。
「やっぱり、生半可な物理攻撃は通じないわね。ワッカたちが手を焼くわけだわ。ユウナ、あんたは、あっちをお願い。私が始末するわ」
「わかった。気をつけて」
「お互いにね」
巨大なプリンから、異様な瘴気を放つ中型のヘルムと対峙。
突進をかわし、剣を振り下ろすも、硬い甲羅に弾き返されてしまう。
「それなら!」
水色の剣が、身に纏う衣装と共に、背丈を越すほど巨刀に変化。全身の力をめいっぱい使って、華奢な体とは不釣り合いな巨刀を振り抜く。硬い甲羅を砕く一撃、大きな亀裂が入った。ダメージを受けた、ヘルムの動きが鈍る。
「――えっ?」
己の目を疑った。砕いた硬い甲羅の亀裂に、どこからか出現した虹色の光が纏わり付くのを目の当たりにした。
「今よ! ユウナ、とどめを!」
「う、うん!」
ルールーが唱えた強力な氷魔法で足が止まったヘルムの間合いに入り、肩に担いだ巨刀を真上から豪快に振り下ろす。正に一閃。硬い甲羅ごと真っ二つに切り割かれ、活動は完全に停止した。
「ふぅ、倒せたわね」
「うん......」
プリンの方も弱点属性の魔法で倒され、活動を停止した残骸から、美しくも儚く輝く幻光虫が渦を巻きながら空へと昇っている。
「おーい! 無事かー?」
ワッカが、仲間たちと共に山道を駆け下りて来た。
「大丈夫だよ」
「そっか」
「ずいぶん手こずったみたいね。引退してトレーニングをサボったツケが回ったんじゃない?」
「うっ、いや、今回の敵はちょっちやりずらかったつーか。なかなかタフな相手でよ。倒してたと思っても何度も起き上がってきて、しぶとかったんだ。なぁ?」
彼と一緒に降りてきた水中球技「ブリッツボール」のチーム、ビサイド・オーラカに所属している選手たちが頷く。
「ワッカさんたちも?」
「てーと、こっちもか?」
「うん。ちょっと、気になることがあって。あ、ケガしてるよ」
「ん? ああ、これくらい――」
「ダメ」
ヘルムにとどめを刺した巨刀が消えた代わりに、手には杖が握られた。服装も、フード付きの白に赤のだんだら模様のローブに変化。
「静かなる癒やしを......」
白魔道士の姿で、杖を患部に添える。
すると、腕に負った擦り傷が癒えていった。
「便利だな。ドレスフィアっていったか?」
世界各地に残されたスフィアを、様々な特徴を持つ衣装に変化させたドレスフィアを収め、能力を引き出す役割を持つリザルトプレート。
「ワッカさんも、使ってみる?」
「やめれー、俺の巫女姿なんて誰得って話しだろ」
「なんで巫女になること前提なのよ?」
「ふふ、はい、治ったよ」
白魔道士姿から、元の巫女風の衣装に戻る。
「サンキューな。よし、じゃあもう一回りしてくる」
「気をつけて」
「おう! って、イテ!」
山道を戻ろうとしたワッカが、地面に落ちていた尖った破片を踏んだ。それは、機械の破片。目をこらしてみれば、他にも小さなネジや、塗料の付いた部品が落ちている。
「危ないわね」
「大丈夫? ワッカさん」
「ああ、血も出てねーし。けど最近、ビサイドにも機械が増えてきたし。便利な反面こういうことも増えるよなー」
「うーん......そうだ。今度、みんなで掃除しよっか?」
「いいわね。子供や、お年寄りもいるし」
「だな。お前ら、ゴミ拾いしながら見回りに戻るぞ」
ワッカたちは改めて、村周辺から港までの見回りへ向かう。
踵を返して、ルールーと一緒にビサイド村へ戻る。
「さっきの続きだけど。気になったことって、なに?」
「うん。傷ついた魔物の周囲に幻光虫が集まって、キズが癒えていくように見えたんだ」
「魔物のキズを癒やす? どういうこと?」
わからない、と首を横に振る。
「ビサイドは海に囲まれてるけど。それほど、幻光虫が集まる場所じゃないのに......」
漠然とした不安が、予感が頭に過っていた。
スピラに異変が起きている。
――そう。これは、始まりに過ぎなかった。
僅か数ヶ月前、滅亡の危機を辛くも脱した世界でまた。
誰もが信じて疑わなかった、“シン”が存在しない世界で。
“永遠のナギ節“を脅かす脅威が再び、この世界に訪れようとしていた。