FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission9 ~遠い記憶~

「人を斬るって......」

「それは、人を殺せるかって意味か?」

 

 問いかけられた質問に答えあぐねていると、険しい表情のパインが逆に問いかけた。シキは、静かに頷く。

 ――人を殺す。

 その穏やかじゃない響きの言葉に、動揺と緊張感が駆け巡る。彼は気に止めることなく話を、質問の真意を語り出した。

 

「正確には、人の姿(カタチ)をした(モノ)です。頭の中に置いて聞いてください。最近、各地で頻発している騒動についてはご存じですね」

「幻光の異常発生に伴う魔物の狂暴化及び、突発的な出現。私たちは、その原因を調べるために異界(ここ)へ来た。でも――」

 

 くるりと踵を返して、今から半年以上前、世界を滅亡させかけた大量破壊兵器、ヴェグナガンが存在していた高台へ目を向ける。

 

「ここには、本当に何もないの?」

「ご覧の通りです」

「納得いかないな。何もないならなぜ、異界へ来させるような紛らわし言い方をした。ただ危険を促すためなら、直接言えば――」

「ん? ちょっと待って!」

 

 釈然としない解答に痺れを切らしたパインが問い詰めようと前に出たところで、何かに気づいたリュックが止めに入る。

 

「ねぇ、なんか変じゃない?」

「......何が?」

 

 と、話を遮られて不機嫌そうな、パイン。リュックは、ヴェグナガンが鎮座していた半ドーム状の広場の一部分が、木の幹のようにせり上がってできた機械柱を指差す。

 

「あそこに、ヴェグナガンが掴まってたんだよね。ベベルの建物みたいなおっきな兵器が。なのに......なんで、ここから見えないのっ?」

「ねぇ、パイン。解体したって話は?」

「いや、聞いてない。行くぞ!」

「うん!」

 

 パインを先頭に、走り出す。空中に浮かぶ足場を飛び移り、今居る、異界の深淵の入り口の更に奧。かつて、ヴェグナガンが鎮座していた高台が見える広場まで駆け上がった。

 

「何かあるぞ!」

「一番上まで行ってみよう」

「待ってー!」

 

 曲がりくねった坂道を登り、機械の柱がある高台へ。

 そこには胴体、手足、触覚、尻尾、羽根など、ヴェグナガンのパーツが幾つかのカタマリになって散らばっていた。

 

「......間違いない。これは、ヴェグナガン。不安な気持ちになる不気味なレリーフは、頭部に刻まれてたのと同じ模様。破壊して半年以上経つし、支えきれなくなって崩れたんだね、きっと」

「下から確認出来なかったのは、傾斜角度の関係か。また動き出したのかと思った。リュックの早とちりでよかった」

「う~ん......でも、なーんか引っかかるんだよねぇ。落っこちたなら、もっと派手に壊れてないとおかしいっていうか」

「崩れた拍子に落下したんじゃないか?」

 

 後ろを振り向いたパインは、足下に落ちていた破片を拾って、飛び移ってきた足場の端へ移動。もし踏み外しでもすれば、微かな光さえ差さない底知れぬ暗闇。吸い込まれそうな気分になって一歩後ずさりしたところへ、遅れて坂道を上ってきたシキが、リュックの意見の方を推した。

 

「高所から落下したとすれば、もっと遠くへ、四方八方へ散らばっていなければ不自然。落下地点周辺に集まり過ぎています」

「そう言われると、そんな気がするかも。それになんだか、部位(パーツ)ごとにまとまってるような感じもする、かな?」

「じゃあ、誰かが意図的に降ろしたってこと? 調べてみよ」

 

 リュックは、ヴェグナガンを詳しく調べる。

 パインは警戒心を緩めることなく、シキに鋭い視線を向ける。

 

「これか。お前が、わたし達を異界(ここ)へ来るように仕向けた理由は」

「理由のひとつです。常時高濃度の幻光で満ちている異界の深淵でなら、極力周囲へ気を配らずに済みます。ですが――」

「......なるほど。ユウナ、リュック」

 

 パインに呼ばれ、ゲート付近まで戻り、改めて向き合う。話を切り出したのは、あの僅かなやり取りの中で意図を汲み取った、パイン。

 

「ここなら心配いらないだろ。それで?」

「これです」

 

 やや厚みのあるプレートを、袖の中から取り出した。

 

「これ、機械の部品かな?」

「おそらくは。ただ、詳しいことはわかりません」

「ちょっと見せてー」

「ん? その部品......」

 

 部品は、リュックの手に渡り。パーツを改めて見たパインは、その部品に見覚えがあることに気づいた。先ほど広場で拾ったヴェグナガンの近くに落ちていた機械の破片を、撮影用のスフィアを入れてあるバッグのポケットから取り出した。

 

「さっき拾ったんだけど。もしかして、これと同じか?」

「あ、カタチは似てるね。リュック」

「う~ん、たぶんどっちも、動力系ユニットの一部だと思う。それと、こっちの方が新型。回路が効率化されてるし」

 

 ふたつのパーツを見比べていたリュックは、シキが持ってきた方のパーツを差した。

 

「ヴェグナガンのパーツというわけじゃないんだな?」

「違うよ。使われてる素材が全然違うし。特殊な部品も使われてないから」

「そうか」

「疑念は、晴れましたか?」

機械(これ)に関してはな」

 

 パインが疑っていたのは、ヴェグナガンが移動させた犯人が彼ではないかというもの。ただ、疑いの目を背けることを目的に異界へ行くよう仕向けた可能性を拭いきれないため、最低限の警戒は怠らない。

 

「それで。これを私たちに見せた理由は、なに?」

「その機械は、とあるモノの中に組み込まれていた代物です」

 

 そして、語られたとあるモノの正体を聞いて、顔が強張るのを感じた。聞き間違えではないか、とリュックが再確認を求めた。

 

「今、人の身体の中にあったって言った......?」

「ええ。都市部を外れた辺境の村を襲撃した犯人を始末した際に」

「始末......まさか、殺したのっ?」

 

 ぎゅっと握った手のひらに熱がこもる。

 

「まともに話が通じない相手だった。言葉を交わす間もなく、無差別に村人に襲いかかった。犠牲は、多数にのぼりました」

「そ、そんな、どうして......」

「ユウナ、やるせない気持ちは分かる。けど、身勝手な正義を振りかざす“エボナー狩り”みたいな連中がいることも事実だ。けど、どうしてすぐに、スピラ評議会に報告しなかった?」

「襲撃を受けたのは今から、半年ほど前のことです」

 

 新エボン党、青年同盟の二大派閥が解体され、スピラ評議会が組閣される以前、世界情勢が混乱していた時期に起きた凄惨な事件。

 そして何より、その事件には特殊な事情があった。

 

「村を襲撃した犯人は、ハンターではありません」

「エボナー狩りの犯行じゃないのか? 伝説のガードを呼び寄せたから、お前もエボナーかと思ってた」

「じゃあさっきの、ジェクトさんは?」

「偽物ってこと? でも、アタシたちしか知らないこと知ってたし」

「あれは、呼び寄せではなく――」

 

 言いかけたところでシキの動きが止まり、すっと目を閉じた。しばらくして、ゆっくりと目を開ける。

 

「申し訳ありませんが、事情が変わりました。地上へ戻りましょう」

「――えっ?」

 

 核心に迫る前に会話は中断され、地上への道を早足で戻る。

 先頭を行くシキの横に付き、改めて話を聞く。

 

「さっきの続きだけど。呼び寄せじゃないならいったい、何?」

「――結び。呼び寄せとは、似て非なるものです」

「結び?」

「詳しくは後ほど。少しペースを上げます」

「結構、全開に近いんだけどっ。てゆーか、前みたいに飛ばしてくれれば速いんじゃないのー!」

「現在、諸事情により使用不能状態です。あしからず」

「走るしかないな。置いてかれると、魔物が出るぞ」

「うへぇ~......」

 

 行きは半日以上かかった道のりを半分近く短縮し、休むことなく一気に入り口近くの花畑まで戻ってきた。両膝に手をつく。リュックは、座り込んで。パインは腰に手をやって、各々乱れた息を整える。

 

「少し休憩しましょう。ここは安定しています、魔物も出ません」

 

 提案したシキは、岩場に寄りかかり静かに目を閉じた。

 

「超人かと思ったけど、人並みに疲れるんだねぇ」

「当たり前だろ。わたしたちも、回復に専念。さすがに疲れた」

「りょーかい」

 

 休憩を取っていたところ、誰かに呼ばれたような気がして後ろを振り向く。そこには、幻光を纏う小柄な少年が立っていた。青紫色のフードを深々と被り、半透明な姿。ベベルの祈り子――バハムート。

 

「あ。あなたは......」

「久しぶり」

 

「お久しぶりです」と丁寧に挨拶を返し、微笑みかける。一連の動作をリュックとパインは、不思議そうな顔で見ている。どうやらふたりには、少年の姿が見えていない。

 

「どうした?」

「ついにおかしくなった?」

「祈り子様がいらっしゃってるの。それからリュック、後でシメるから」

「こわっ! パイン先生とは、また違う迫力だよ」

「ほう。よし、どっちが恐いか比べてみるか? 面白くなるぞ」

「やめて~」

 

 小さく笑って、ひとつ息を吐き、祈り子の少年に視線を戻す。

 

「ごめんね。急に」

「ううん、大丈夫。用事は、地上で起きてる異変のことだよね」

「そう。手伝ってあげてほしいんだ。ザナルカンドで生まれた僕たちの代わりに」

「どういうこと?」

「詳しいことは、彼女に......マヤナから聞いて。僕が知りうる限りのことを伝えておいたから」

「マヤナ?」

 

 ――誰? と首をかしげる。

 

「大丈夫。彼が、巡り合わせてくれる」

 

 そういうと、岩場で休息をとるシキに向けた顔を戻した。

 

「僕たちも出来る限り協力する。急がないと、大変なことになるから......」

「大変なこと、あっ!」

 

 半透明だった身体は音もなく、スッと消え去ってしまった。

 バハムートの祈り子が居た場所から飛散する幻光虫の光を追っていた視線を「巡り合わせてくれる」と、指名されたシキへと移す。

 

「あれ?」

「今度は、どうした?」

「ちょっと、目が霞んで......疲れたのかな?」

 

 軽く目を擦り、改めて見る。壁面から離れたシキが、ゆっくりした足取り歩いて来ていた。

 

「休息は取れましたか?」

「うん、連れて行って。マヤナのところへ――」

 

 異界を後にして、マカラーニャで飛空艇を降りた。その後は、徒歩での移動。ナギ平原を西へ進み、切り立った険しい山々を越えた辺境の地。微かながら緑が残る大地まで、まる一日以上かけて歩いて来た。

 

「こんなところに、村があったんだな。人はもう、住んでいないみたいだけど」

「ハァ、疲れた~。飛空艇使えば、ぱぱーっとひとっ飛びだったのに」

「仕方ない。黒幕がはっきりしない以上、慎重に動く必要がある」

 

 目立たないように人目はもちろん、通信スフィアにも映らないよう注意を払って慎重に移動してきた。休むことなく、今はもう、誰も住んでいない廃村の外れへ向かって歩みを進める。

 

「行こう。この先に居る」

「ユウナ、わかるの?」

「うん、幻光の気配がするんだ。きっと、近くで祈ってる」

「同じ召喚士だけがわかる共感か」

 

 村の外れの岬にひっそりと建てられた碑石の前で、ひとりの少女が跪き、真摯に祈りを捧げていた。

 

「あの子、だよね?」

「ええ」

 

 頷いたシキは、祈りを捧げている彼女の後ろに立ち、声をかける。立ち上がって振り向いた少女――マヤナは、被っていたフードを外して、丁寧にお辞儀をした。一歩前に出て、微笑みかける。

 

「こんにちは。あなたが、ベベルの祈り子様が言ってた?」

「はい。マヤナです。ユウナ様、お目にかかれて光栄です」

「えっと、堅苦しいのはちょっと、ね?」

「あっ、すみません」

「ううん。あと、様もいらないから。それで、さっそくだけど聞かせてもらえるかな?」

「はい。その前に、少しだけ――」

 

 傍に立つシキに向けて、やや怒りを込めた視線を送る。

 

「言ったはずだよね? 無茶しちゃダメって。今すぐ戻って」

「わかっている。では、失礼します」

 

 叱られたシキは会釈をすると、崖下へ続く階段を降って行った。

 

「すみません。お手数をおかけしました」

「それは、いいんだけど。どこへ?」

「下に、休める祠があるんです。村は、あの通りですから」

「そっか」

 

 お辞儀をした彼女は、改めて自己紹介をした。

 

「マヤナです。下へ行った彼は、シキ。あたしたちは――」

「召喚士とガード?」

「はい、そんな感じです。あたしたちは、召喚士としての修行を積むため各地を転々としていました。そこで、ある現場に遭遇したんです」

 

 それが半年前、辺境の村で起こった襲撃事件。

 

「それは、聞いた。犯人の体内から機械が出てきたんだろ。けど、最近じゃあまり珍しくない。ヌージの左半身も治療で機械化されてる」

「知っています。ですが、その方は“死人”ではありませんよね」

 

 マヤナの言葉で、場の空気が変わった。

 どことなく冷たい空気が、辺りを通り抜ける。

 

「村を襲撃した犯人は、死人だったんです。それも、同じ村出身の方。事件が起こる数週間前に異界送りされて、埋葬もしっかりされた方だったそうです」

「な、なにそれ? どういうこと......?」

「強い未練を残して留まった思念とかじゃないのか? シューインみたいな――」

「......違うと思う。下へ行った彼が、どうしようも出来ずに始末したって言ってた。動いていたんだよ、遺体が。意思を持たずに――」

 

 村人も大事にしたくないと望み。評議会の組閣前ということもあって、マヤナが改めて異界送りをして、事件は闇に葬られた。

 

「いろいろ調べていくうちに、祈り子様と直接お話しをする機会に恵まれました」

「あ、それそれ! 異界でも不思議に思ったけど、祈り子ってチカラを喪っちゃってるんだよね?」

「条件が整うと、呼びかけに答えてくれます」

 

 最低限の条件は、異界送りの直後。死者の魂を異界へ送り届けるため、一時的に周囲の幻光濃度が上昇する。その一時の間、一部の召喚士呼びかけに答えてくれる。それをビサイドで知ったマヤナは、寺院に近い異界送りの任に積極的に立候補して、祈り子たちから話を聞くことが出来た。同様に、現世とは別世界の異界では、姿を現すことが出来る。

 そして、ベベルの祈り子――バハムートから、彼女が告げられたことは――。

 

「スピラの祈り子様を探せ?」

「はい。今、各寺院にいらっしゃる祈り子様は“シン”の出現あとに身を捧げた方。もしくは、大戦中のザナルカンドの祈り子像が、寺院の手によって移設された祈り子様だそうです。ですが、“シン”が現れる以前にも、祈り子様自体は存在していたそうです。その方々なら、もしかすると......」

「なるほどな。1000年前のザナルカンドの祈り子じゃなくて、1000年以上前のスピラで作られた祈り子なら、もっと多くのことを知ってるかもしれないってことだな」

 

 ――はい、そうです、とマヤナは頷く。

 

「うーん、けどさ。何か関係があるの? 今現在進行形の魔物騒動と、死者の暴走との因果関係って」

 

 至極当然のリュックの疑問に、マヤナは大きく深呼吸をひとつして答える。そして、思いがけない言葉を返した。

 

「1000年前、同じようなことが起きていたんです。“シン”が倒された後の世界で――」

 

 最初の大召喚士――ユウナレスが、究極召喚を用いて“シン”を倒した後に勃発した、新世界の覇権争い。野心を持つ人間のエゴで、死者をも冒涜し、大勢の犠牲者を出した愚かな内戦。

 

「どうして、そんなことを知っている?」

「あたしは、見てしまったんです。ユウナ様......ユウナさんたちが、“シン”へ立ち向かったあの日――」

 

 彼女は、マヤナは触れた。“シン”の攻撃を受け、地殻変動により引き起こされた天変地異で荒れ狂うあの嵐の中。死を覚悟し、薄れゆく意識の中で触れた、遥か昔の遠い記憶の中で――。

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