FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
レミアム寺院とナギ平原とを繋ぐ吊り橋を渡り、ナギ平原南西部の高台へ出て、最初に視界に飛び込んできたのは、戦場だった。
広大な草原が広がるナギ平原の中部に位置するショップ、旅行公司を拠点に、元々ナギ平原に配置された部隊に加え、ベベルからの応援部隊が、北部から大群で迫り来る魔物を相手に奮戦していた。
即興の大部隊の指揮を執るのは、元青年同盟の盟主・ヌージ。ヌージ自らが戦場の最前線に立ち、守備隊を鼓舞して対応にあたっている。
「もうすぐ、応援部隊が到着する。あと少し持ち堪えろ!」
特注の改造銃を地面に向けて、引き金を弾く。銃口から放たれた弾丸は閃光となって地面を伝い、魔物の真下で弾け、上空へ爆炎が突き抜ける。しかし、片腕を吹き飛ばすも致命傷とまではいかず、他の兵の援護をしている間に、今の一撃で失った腕が再生されてしまう。
「フッ、バケモノめ。怯むな、防衛線を死守しろ。越えさせるなよ」
銃器による遠距離攻撃でどうにか、防衛線の手前で食い止めている状態。比較的被害の小さな南部には、負傷した兵たちが次々と担ぎ込まれ、即興で建てられた簡易的な野戦病院では、ベベルの医師・看護士、部隊常駐の衛生兵が、懸命の応急処置に当たっている。
「何これ......ねぇ!」
「シャレにならないな、これは。もしベベルへいかれでもしたら、どれ程の被害が出るか」
「急がないと。あっ!」
負傷した兵たちを、チョコボが運んでいるのを見つけた。高台を飛び降り、待機中のチョコボが繋がれている牧舎へ走る。
「クラスコさん!」
「ユウナ様!」
チョコボを管理している調教師・クラスコ。かつては討伐隊の一員だった彼は、チョコボの気持ちが分かる特殊な能力を活かし、ここナギ平原にあった訓練場の跡地にチョコボ専用の牧場を造り、世話役兼管理者を務めている。
「チョコボに乗せてもらえませんかっ?」
「評議会の命で、負傷者の運搬の任についていますが。分かりました。ユウナ様の頼みです。お前たち、ユウナ様たちを前線へ連れていってくれ!」
待機中だった三羽のチョコボは鳴き声を上げて、任せろと言わんばかりに飛び跳ねる。
「ありがとうございます! 二人とも!」
「うん!」
「よし」
各自チョコボの背に乗って、草原を戦場の最前線まで一気に走り抜けた。近くまで来たところで飛び降り、戦闘に加わる。
「ヌージ!」
「パインか!」
「助太刀します! 状況はっ?」
「見ての通り、芳しくないさ。今、ギップルが飛空艇で応援を呼びに各地を回っている。戻ってくるまで保てばいい。いざとなれば、ベベルへ通ずる道を爆破するまでだがな」
「それは、困ります」
「そうそう、アタシたちに任っかせなさい! ちょいちょいっと倒してあげるから!」
各自、杖、短剣二本、両手剣を構える。
「油断するな。敵は、高度な再生機能を有している。ちょっとやそっとの攻撃では仕留めきれんぞ」
「再生能力ね、上等だ。行くぞ」
パインを先頭に、戦場へ走り出した。
「境界線を作ります。部隊を下げてください!」
「聞いたな。全部隊、防衛ライン後方まで後退。急げよ」
ヌージの号令で、展開中の全部隊が防衛線後方まで後退。杖を振る。氷系の上位魔法が地面から突き上がり、ぶ厚い氷壁が作られ、守備隊と魔物との間が遮断された。
「さーて、これで他に気を取られずに済む。やるとするか」
「おっ先ぃーっ!」
飛び出したリュックは、素早く懐に飛び込んで短剣を二度叩き込み、華麗なバックステップで反撃を回避。更に追撃、確実にダメージを与えていくが。
「む~っ、やっぱ効いてないかも。すぐにキズが塞がる!」
「想定以上の回復速度だな。どうすればいいか分かってるな?」
「うん」
「とーぜん。アタシたちが、引きつけるからっ!」
リュックとパインは、魔物の大群に飛びかかる。強化されたパインの剣は、物理的防御をほぼ無効化。硬い鱗、皮膚を持つ魔物であろうとも、お構いなしに切り裂いていく。
「リュック、後ろだ!」
「ほいっ!」
短剣を前方の魔物に向かって放り投げ、腰のホルスターから銃を抜き、背中越しに後ろへ向けて連射。魔物の動きを止め、前方の魔物を切り裂いて戻ってきた短剣をキャッチ、怯んで鈍ったところを追撃。足に大きなダメージを受けた魔物は、大きくバランスを崩した。
「ユウナん!」
「とっておき、重力魔法!」
一時的に発生させた重力場に押され、地面押し付けられた魔物の身体の自由を封じ込める。
「パイン!」
「瞬時に増幅する幻光がキズを癒やすなら、本体から切り離せばいい――だったよな!」
ダークナイトの“暗黒”とサムライの“斬剣”の能力を同時に乗せた剣を逆手に構え、重力魔法で動きが止まった魔物に渾身の一撃を叩き込む。再生が追いつかない程のダメージを受けた魔物は、身体を形成していた幻光が裂け目から抜け出し、空中を舞うように漂う。
「さすが、パイン先生!」
「まだ一体始末しただけ。次いくぞ!」
「この調子でいこう!」
時間をかけつつも、同じ要領で一体一体確実に倒していく。戦い慣れた動きに、ヌージは感服した。
「なんてヤツらだ。たった数日の間に、これほどまで使いこなすとは。戦い方も心得ている。いったい、どれ程の修羅場をくぐり抜けてきたのか」
「ヌージ司令、応援が到着しました!」
マカラーニャの森を越え、各地へ散らばっていた守備隊を乗せた飛空艇艦隊が続々とナギ平原へやって来る。
「各隊部隊長へ通達、隊列を組み直す。集合させろ」
ヌージを囲う形で、大勢の兵士が集結。正に、圧巻。ベベルの上層部から一目を置かれていた討伐隊時代に培ったカリスマ性を惜しみなく発揮し、大部隊が出来上がった。
「ルチル。一個小隊を牽き連れて平原西部から回り込め、先端になればなるほど氷壁の密度は薄くなっているはずだ」
「はっ! 続け!」
「ギップルは、
「あんたは?」
「正面から行く。戦い方は、彼女たちが教えてくれたさ」
ちょうど、五体目の魔物を倒したところ。今日一番の大物の魔物から解き放たれた無数の幻光が行き場を探して周囲を漂っている。
「やるなぁ。さすが、先生方。頼りになる」
「援護射撃を。同時に突っ込む」
「あいよ。んじゃあ、いくぜ?」
そして同時に、人が倒れた。
倒れた人物は、タイトな赤い服を着て、左手で鉄杖を持ち。この大部隊をまとめ上げた人物――ヌージ。
身に着けている服よりも鮮やかな赤い色の鮮血が、撃たれた腹部を染める。
「――れだ。誰が、撃った! 出てきやがれッ!」
怒号を飛ばすギップルが、周囲の人間に銃口を向ける。
「お、落ち着け。急所は外れている、問題ない......」
「しゃべんなって。救護班、急げ! おい、勝手に動くなよ? 許可なく動いたヤツは全員、この場で撃つ! 今すぐ、大人しく投降するなら事故で済ませてやる。入射角度から方向は割れてんだ。お前か!?」
「ち、違う、オレじゃない!」
「お、オレも違う! オレは、銃を持ってない!」
「動くなっつってんだろッ!」
「......や、やめろ......お前ら――」
その場で応急処置を受けるヌージの必死の声も虚しくも、誰の耳にも届かない。本部周辺に殺伐とした空気が流れる中、二発目の銃声が鳴った。レミアム寺院の吊り橋を渡ってナギ平原へ遅れてやって来た、二人の耳にも届き、悲惨な戦場を高台から見つめている。
「間に合わなかった? 止めなきゃ......!」
「無駄だ。誰も聞きやしない」
「でも――」
「幸か不幸か、今ここは、幻光で満ちている」
「まさか、結びを使う気なんじゃ! ダメだよ、異界でも危ないのに――」
「迷っている時間はない。保って10分、空白を作る。炙り出してくれ。頼む」
目を閉じて、意識を落とす。唇を噛んだマヤナは、司令本部へ向かって走り出した。そして、二発目の銃声は、魔物と戦っている氷壁の向こう側にも届いた。
「なんだろう? 今の音」
「もしかして、銃声?」
「どこからだ?」
「あっ! 見て!」
リュックが指を差した方向、高台に作られた対策本部周辺では今、発砲による実害が出たことにより猜疑心、懐疑心、疑心暗鬼に駆られた兵士たちの間で、小競り合いが勃発。最初は小さな衝突も時間が経つにつれて激しさを増していき、やがて抑えが利かなくなり、己の身を守るため同士討ちが始まってしまった。
「まさか、仲間同士で殺し合いか?」
「なんで? 敵は、目の前の魔物なのに。ねぇ、どうして!」
「撃ったんだ、誰かが......!」
「そんな......やめて! みんな、もうやめて!」
魔物との戦闘を止め、急いで止めに入るも時既に遅し。一度芽生えた不安、恐怖、疑心は簡単には拭えない。戦闘の激しさは、どんどん増していく。終いには、止めに入ったところを、錯乱した兵士が斬りかかって来た。
「ぱ、パイン!」
「くっ! この――」
剣で押し戻し、魔力を込めた拳を叩き込む。殴られた兵士は地面を転がり、うつ伏せで倒れ込んだ。
「バカ! 仲間割れして何になる!? これじゃああの時と、アカギ隊選抜試験の時と同じじゃないか!」
「パイン......」
パインの悲痛な叫びを聞きたギップルは、銃装備の兵士の胸ぐらを掴み上げていた手を緩める。
「ギップル、後ろっ!」
「しまっ――!」
騒動に乗じて氷壁を越えて飛んできた魔物が、ギップルたちを目がけて急降下、口から巨大な火球を吐き出した。リュックの指摘を受けて咄嗟に、掴んでいた兵士を庇って突き飛ばすも、自身の回避は間に合わない。
直撃――と想われた次の瞬間、空中で火球が真っ二つに割れ大爆発を起こした。
「目を切るな。まだ、戦闘は終わっていないぞ」
「あ、あんたは――!」
爆風と爆炎、閃光で眩んだ目をゆっくり開けたギップルは、目の前に立つ人物の姿に驚愕する。それは彼だけではなく、この場に居る守備隊全員が自身の目を疑い、争いを止めてしまう程の人物。
白髪交じりのオールバック、サングラス、朱色の着物からは左腕をはだけ、背丈と同等の長さの太刀を右腕で肩に担ぎ。悠然と、威風堂々と魔物と対峙する風格のある男性。かつて、共に“シン”と戦った戦友――伝説のガードのひとり。
「ア、アーロンさん......!?」
「ほ、ホンモノ?」
問いかけに、軽く笑みを見せる。
「フッ、悪いが時間が限られていてな。ユウナ、異界送りだ。周囲の幻光を送れ、炙り出せる」
「異界送り......あ、そっか!」
アーロンの助言を聞き、異界で聞いた話を思い出した。半年前、故人が村人を襲った怪奇的な事件のことを。助言に従ってさっそく、異界の準備を始めようとしたところへ、マヤナが息を切らせて走って来た。
「ユウナさん、あたしも踊ります!」
「お願い!」
「警護は、アタシたちに任せてー!」
二手に分かれて、異界送りの舞を踊った。踊りに合わせて、空中を漂っていた迷える幻光が、次々に異界へと送られていく。
「さーて、こちらも片付けるとするか」
前を向く。未だ、魔物の群れが残っている。
「手伝う。二人でやった方が速い」
「どうやら、頭は冷えたようだな」
「ああ。こんな時に聞くのもあれなんだけど、マジモン?」
「フッ、大馬鹿野郎だな」
「ハギワコ......」
――マジかよ、とアルベド語で言いながら頭を抱えるギップル。
「世界を変えるのは、いつだって大馬鹿野郎さ」それは、ビーカネル砂漠でアーロン本人から直接言われた言葉。今、横に立つ人物が本人であることの証。
「足を引っ張るなよ」
「おう!」
二人は、魔物の群れに飛び込む。切れ味抜群の太刀と
そして、異界送りも終盤を迎えた。
元々漂っていたいた幻光、後から倒した魔物から放出された幻光も、ほぼ全て消え去った。
「――居た、居ました!」
同士討ちしていた兵士の輪から外れた場所、ナギ平原で生活している避難民の中に幻光が身体に纏わり付く人影を、マヤナが見つけ出した。
「アイツか!?」
「はい!」
「でも、民間人だよ? それにまだ、子供だよね?」
魔物でもなく、強い想いに縛られこの世に留まる死人でもない。間違いなく、本物の人間。ヌージを撃った犯人を目の前にしても、二人は身動きを取れずにいた。
――人を斬れますか? あの時問われた言葉が、脳裏をよぎる。正に今、試されている。
「くっ!」
「ど、どうすんのっ?」
虚ろな目をした少年は、隠し持っていたハンドガンの銃口を、袖の下から二人に向ける。
「やはり、荷が重いか。おい、後は任せるぞ」
「了解!」
ぶ厚い皮膚で身を守る魔物を一刀両断し、パインたちの元へ向かうアーロンの足が途中で止まった。
「どいて!」
「ユウナ!?」
走って来た勢いと雷属性の魔法を込めた杖を、腹部に叩き込んだ。攻撃を受けた少年は、よろけるも倒れない。まさかの事態に、他の避難民は悲鳴と驚きの声を上げながら、逃げるようにその場を離れていく。
「ハァハァ、その子はもう、亡くなってる。何かに操られてるだけ。今、叩いた場所からだけは幻光が出てない......!」
「なら、そこに操ってる機械があるんだな? やるぞ、リュック!」
「――うん!」
意を決して、斬りかかる。パインが腹部を切り裂き、剥き出しになった体内に埋め込まれた装置を、リュックが短剣で弾き出した。すると、まるで糸が切れた操り人形の様に倒れ、動かなくなった。
「どうして......どうして、こんなことになるんだろ?」
「ユウナん......」
「クソ......!」
残っていた全ての魔物が倒され、同士討ちも止まり、現場が落ち着きを取り戻し始めても。やるせなさだけが胸に残り。
ただただ、冥福を祈ることしか出来なかった。