FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
一連の騒動がひとまずの収束を迎えてから数時間後、聖ベベル宮の応接室に主要人物が集まり、表向きには労いという名目で、緊急の話し合いが行われていた。
「被害者の身元が判明した。先月、ナギ平原のホバーと接触して亡くなった子供。目に見える外傷は殆どなく、打ち所が悪かったらしい。遺体は異界送りされたのち、故郷の墓地に埋葬されたそうだ」
戦闘中、ベベルの本部で戦闘指揮を執っていたバラライが、報告書の内容を読み上げる。
「やっぱり、お墓が掘り起こされたんだ......」
膝の上で手をギュッと握って、込み上げてくるどうしようとも言いがたい感情を必死に堪えて抑え込む。参加している他の面子も各々想うところがあるが、あえて表には出さない。しかし、漂うこの重苦しい空気を払拭するべく、ギップルは半ば強引に話題を変えた。
「ったく、墓荒らしなんて悪趣味にもほどがあるぜ。いったい誰の仕業だ? つーか、あんたはもういいのかよ。船長」
「言っただろ、急所は外れていると。しかし、ずいぶんと特定が速かったな」
「実は、事前に情報があったんだ。覚えているだろう、会議を盗み聞きした彼らのことを」
「ああ~、公認送儀士と、護衛の幼なじみだったっけ?」
「そう。彼らから最近各地で、盗掘騒動があると報告を受けていたんだ。今回の一件と同一犯の可能性が高い」
会議室の壁に寄りかかり、黙って話を聞いていたパインが尋ねる。
「それで。犯人の目的と目星は付いているのか?」
「残念ながら。現時点で不明」
資料をテーブルに置き、バラライは肩をすくめた。
そして一転、真剣な表情に変わる。
「僕も、聞きたいことがある。戦場に現れたという人物は本当に、あの、アーロン様なのか......?」
彼の疑問に答えたのは、リュック。
「本物だよ。あの雰囲気、佇まい、言葉遣い。全部......アーロンそのものだった。絶対、ホンモノ。だよね? ユウナ」
「うん。あの人は、アーロンさん。間違いない」
「......だよなぁ。実は俺、三年前、ビーカネル砂漠で本人と話したことがあるんだ。あの時と同じ立ち振る舞いだった。信じられねーけど、マジモンだ。けど、どこへ行っちまったんだ? 急に現れたと思ったら、いつの間にか消えちまった」
「きっと、還ったんだよ」
――異界へ。窓の外へ目を向ける。
つい先ほどまでの騒動がまるで嘘だったかのように、平穏な街の日常が広がっていた。遠くには、建設中のブリッツボールスタジアムの剥き出しになった骨組みが見え、大勢の作業員がシーズン開幕に間に合うようにと、急ピッチで建設作業を進めている。
「私たちは異界で、ジェクトさんとも会ったんだ。ジェクトさんも、本人だった。最初は、呼び寄せだと思った。だけど、あの人は“結び”って言ってた。呼び寄せとは、似て非なるものだって」
「例の少年のことですね。しかし、“結び”か。紐を結ぶ等とは違う意味だろうけど。召喚士・送儀士の専門用語にはない言葉だ。彼の消息は?」
「分からない。不思議な
「――アイツ、マヤナなら、居場所を知ってるんじゃないか?」
パインが言った人物ついて知らないギップルとヌージは「誰だ?」と、軽く視線を向ける。
「その名前、聞き覚えがある。確か先日、イサール氏の推薦で正式に承認された公認送儀士の名だったはず。彼女の異界送りは、遺族の方々から評判が良くて、礼の手紙が数多く届くから印象に残っている」
「公認送儀士......あの、一緒に踊ってた子のことか」
納得して頷く、ギップル。治療を受けていたヌージは、更に感じた疑問を投げかけた。
「しかしなぜ、あの状況で異界送りを?」
「アーロンさんが、気づかせてくれるきっかけをくれた。あの時のナギ平原は、まるで異界みたいに幻光で満ちていた。漂う幻光を送ってしまえば、魔物の再生速度は鈍化する。何より魔物は、銃を使わない。使うのは、同じ人間だけ。だから、犯人は内部にいる。でも、守備隊の人たちにはヌージさんを狙う理由はないから」
「なるほど、木を隠すなら森の中ということか。何者かが、何かしらの目的を持って、遺体に装置を取り付けて操り、刺客として戦場に送り込んだ。おそらく、目的は――」
目的は、内部崩壊。指揮官が撃たれたとなれば、確実に動揺が広がる。広がった動揺はやがて混乱に変わり、疑心暗鬼を招き、最終的に収拾がつかなくなる。
「内部崩壊となれば、指導者の責任問題に発展する。事実、僕のところへ事実関係の問い合わせがきている」
「俺らに対して、怨みを持ってるヤツってことか?」
「考えられる一番の理由は、割を食っている人物の犯行。やはり、評議会内部に裏切り者が――」
「さて、どうだろうな。機械で操作されていたことを鑑みれば、その分野に精通した人間だ。何人いる?」
「ぶっちゃけいねーよ。体内の組み込まれていた装置は、未知の機械だった。シンラが今、シドの娘が持ってきた二つの装置も一緒に解析作業を行ってる」
「リュックって呼べ!」
眉尻をつり上げて、ギップルに猛抗議するもあっさりとあしらわれていた。どうにせよ、解析結果が出るまで保留という結論に至り、応接室を退室。
「私、祈り子様に会ってくる。会えますか?」
「それは、もちろん。ですが今は、ベベルの祈り子の像も例に漏れず、形だけの石像ですよ?」
「大丈夫、異界で話せたから。きっと、呼びかけに応えてくれと思うんだ」
「召喚士の特権だな。わたしたちには、祈り子の姿は見えなかった。操られてた犯人の幻光の漏れ方に違和感があることも、な」
「そうそう。ユウナが背中を押してくれなかったら、止められなかったも」
「わたし達の甘さだ」
「下手をすれば、
二人と三盟主と分かれ、ひとり、試練の回廊を越えた先にある祈り子の間へ。祈り子の間は、薄暗く狭い空間。そして、中央の床に埋め込まれる形で、祈り子の像が安置されている。
目を閉じて、深く深呼吸して、真摯に祈りを捧げる。
すると、異界で会った祈り子の半透明の少年が、石像の上に浮かび上がった。
「来たんだね、ユウナ。マヤナとは話せた?」
「うん、聞いたよ。スピラの祈り子様を探して、話を聞けばいいんだよね。それとは別に聞きたいことがあって。結びって、なんのことか分かるかな?」
「ごめん。詳しいことは分からないんだ。ただ、ザナルカンド特有の秘術じゃないことは確か。難しいんだけど、似たような方法はある。限りなく召喚に近い方法がね」
「召喚に近い方法?」
――うん。と、小さく頷いた。
「バラバラになった記憶の欠片を紡いで夢を視る。もし、上手くいけば――」
「待って。その先は、言わないで......ありがとう」
――もし今、この先の言葉を聞いてしまえば、きっと願ってしまう。だから、聞けなかった。ううん、聞きたくなかったんだ。
祈り子の少年は、目の前までスッと移動してくる。
「スゴいね、ユウナは。僕たちは、いつしか変わらないことを望むようになっていた。永遠に夢を見続けることも悪くないと思った。召喚士エボンが視た夢は、楽しい夢だったから......夢のザナルカンド。街はいつも賑やかで、明るくて、人も街も活気に溢れていて。超満員のスタジアムでは、ブリッツボールの試合にみんな鼓動を熱く弾ませた。もし、あの戦争が起こらなかったら今頃、あんな夢のような理想的な世界になってたかも知れない」
「ベベルとザナルカンドは、どうして争ったのかな?」
「分からない。機械戦争当時、僕は何も知らない子供だったから。ただ、みんなを守りたくて、守れるチカラが欲しくて、祈り子になった」
「そっか。やっぱり、探さないとだね。ありがとう」
「僕たちも、出来る限りの手助けをするから。もう二度と、あんな悲劇を繰り返させないためにも――」
正座の状態から立ち上がり、一礼して祈り子の間を後にするため背を向けたところを呼び止められる。
「機械戦争の激戦地だったナギ平原には、二大都市に挟まれた都市が存在していたんだ。両国の間を取り持っていたんだけど。結局抑えきれずに、都市は戦場になって、多くの人たちが各地へ離散して避難しちゃった。だけど、両国と交流を持っていたから、もしかすると――」
「うん。探してみるね」
頷いて、祈り子の間を後にする。
待機の間には、リュックとパインが待っていた。
「話せたか?」
「うん。聞けたよ。結びについては詳しく分からないけど。ナギ平原には昔、大きな都市があったんだって。ベベルとザナルカンド、両国と交流があったみたい」
「初めて聞いたな、そんな話し」
「だね。召喚士が、“シン”と戦う場所って聞かされてたし」
「寺院は、いろいろ隠していたんだ。召喚士になるための修行で、スピラの成り立ちを勉強した時も、そんなことは一切載ってなかった」
ビサイド村に保管されていた文献に書かれていたのは、遥か昔、機械を使った大きな戦争があったこと。争いを止めようとしない人々に怒り、現れた“シン”が機械文明を破壊し尽くしたこと。ザナルカンド出身の召喚士ユウナレスカ様が、究極召喚を用いて“シン”を倒したこと。
そして、“シン”は消滅から10年経過すると自然復活し、再び世界を破壊する。それは、人が犯した過ちが具現化した存在だから。人が罪を償えば、人の罪の象徴の“シン”は消えるはず。
「大まかにまとめると、こんな感じだよね? エボンの教え」
「うん。マヤナが話してくれたのは、初代の“ナギ節”の空白の10年の間に起きたこと」
「それが、人同士の愚かな争い。機械文明を破壊尽くし、ユウナレスカの功績によって訪れた、“シン”が存在しない最初の“ナギ節”に勃発した、新たな世界の覇権争いってことか。だけど、予期せぬことが起きた」
「“シン”の復活......?」
自信なさげ言ったリュックに対して「たぶん、そうだと思う」と返す。すると、首を小さく捻って唸りだした。引っかかっていたのは、マヤナに対しての疑問。
「う~ん......どうして、空白の10年に起きたことを知ってたんだろう?」
「きっと、祈り子様に教えていただいたんだよ。あの村には、半身が結晶化した祈り子様がいらっしゃるから」
「スピラの祈り子ってことか?」
「そうみたいだけど、機械戦争後の祈り子様なんだって」
「じゃあ、アタシたちが探す祈り子より後だね」
「あ、そういえば......」
――祈り子様を見つけても、呼びかけに答えてくれるのかな?
あの村の祈り子の像と対面した時のことを思い出した。祈りを捧げても、呼びかけに答えてもらえなかったことを。
「どうした?」
「ううん、何でもない。とにかく、しらみつぶしに文献を探してみよう」
「そのことだけど、バラライに頼んでおいた。今は、スピラの事実上のトップクラスの一人。一般人が入れない場所でも、難なく立ち入れるからな。何か分かったら、すぐに連絡をくれるってさ」
「そっか。なら一度、あの村に戻ってみよう。あの村は、ナギ平原の辺境の村。機械戦争から逃れた人たちが暮らしていたのかも知れないし。廃村になった今でも、古い文献が残ってるかも」
「ああ。それに、ちょうどいい。今、マヤナは、あの村に戻ってるそうだ。もう少し詳しい話を聞けるかもな」
「すぐに出発しよう。今度は、途中の古い遺跡を調査しながら」
「うわ~、大変だぁ~」
「行くぞ。腹くくれ」
「ほらほらっ」
分かりやすく肩を落としたリュックの手を引っ張って、ベベルから旅立つ。
当面の目的は、機械戦争以前に造られた祈り子の石像を見つけて。戦前の話しを聞くこと。
そして、戦後、“シン”が滅びたあとに訪れた最初の“ナギ節”。その空白の10年の間に、いったい何が起きたのかを知るための旅の始まり――。