FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
「結局、コレってのは見つからなかったな」
「無理ないって。1000年以上前のなんて、超高性能な記録媒体でもないと残ってないよ。こんな時、あの物知りおじいちゃんが居てくれたら何か教えてくれたかもだね」
「ああー、あの、話し好きの爺さんか。聞きにいくか? 闇雲に探すより手っ取り早いかもしれない」
「そうだね。メイチェンさんは、ザナルカンド産まれって言っていたし、祈り子様に聞いてみて何も分からなかったら尋ねに行こう。あ、見えてきた」
日が落ちる前に、ナギ平原外れの廃村に到着。結局、この廃村までの道中には有力な手がかりになる物は見つけることが出来なかった。機会戦争以前のザナルカンド産まれで、ちょっぴり長話しになりがちな老人――メイチェンに、当時のことを伺うことを視野に入れ。宿泊準備と周囲の散策をリュックとパインに任せて、この廃村のどこかに居るはずの、マヤナを探す。
「下かな?」
スピラの夜空に一番早く輝く星――ナイトベリーが姿を現す前に、村はずれの岬に佇む慰霊碑の真下に位置する崖下の祠へ向かう。今はタイミングよく、引き潮の時間。以前は海の中に沈んで閉ざされていた祠の入り口を視認することが出来た。波を受けて湿っている足下に気を払いながら壁伝いに岩場をたどり、波打ち際の祠に入る。
外よりも幾分ひんやりとした空気が漂い、天井から落ちる水滴が地面に出来た潮だまりで跳ね、静けさの中で反響する。僅かに差し込む日の光を頼りに奧へ進むと、祠の一番奥、半身が結晶化している祈り子の像の近くに、人影が見えた。探し人、マヤナの後ろ姿。近づいても、彼女は気づかない。声をかけてみても応答がない。
「もしかして......寝てる?」
思った通り、半結晶の祈り子像のすぐ側で寄り添うように体育座りをしている少女は、小さな寝息を立てていた。それは、無理もないこと。ナギ平原の戦闘直後から、医療班に加わり、ケガ人の手当てを率先して手伝い。その後休む間もなく、村まで徒歩で戻ってきた。
「疲れたよね。でも、困ったな。う~ん......」
「何か?」
「――えっ!? い、いつの間に......!」
祈り子像の後ろで聞こえた声にびっくりして、思わず体を震わせる。声の主、マヤナと行動を共にするシキは、悪びれる様子は一切見せず、表情を崩すこともなく淡々としていた。
「マヤナと、祈り子様に会いに来たんだ。シンの居ない時代、初代のナギ説に何があったのか。それが分かれば、今回の怪事件の解決法も見つかるんじゃないかと思って」
「そうですか。残念ですが、あなたの望む答えは持ち合わせていません。当時はまだ、無力な子どもでしかなかった。何が起きたのか、なぜ、襲撃を受けたのかも知らぬまま、1000年間一切人目に触れることのなかった、忘れられた哀れな祈り子――」
姿形は違えど、祈り子と共に“シン”に立ち向かった経験者として、気に障る言い方に高ぶりかけた感情を抑える。何より、祈り子を見つめる彼の表情に帯びた愁いが、どうにも責めきれない。
「彼女は、触れた。薄れゆく意識の中で、強い想いを残して散った命の残滓に。俺は、彼女の真摯なまでの願いを聞き入れ、共に居る。ただ、それだけ......」
祈り子の像に寄り添って眠るマヤナを、静かに見守っている。ずっと気になっていた。ガードとも、想い人とも少し違う関係性、そんな感じに思えた。
「私も、見たよ。初めてこの村に来て海で溺れかけた時、誰かに手を引かれて、まるで武装兵のような格好をした人たちから必死に逃げる記憶」
あれはきっと、1000年前のナギ節の間に起こった出来事。彼女もきっと、同じ記憶に触れてもがいてきた。平和になった後の日々を、祈り子無き世の召喚士として、召喚士・葬儀士として全ての時間を費やしてきた。悲劇の記憶と同じ道を辿らないように。
「キミにも聞きたいことがあったんだ」
誰かがこの祠に導いてくれて、辛くも命拾いをした。あの時マヤナは、祈り子様が助けてくれた話した。“結んだ”と――。
「結びっていったい、何? 死者に思いを馳せる呼び寄せとはまったく違う。異界で戦ったジェクトさんも、ナギ平原で助けてくれたアーロンさんも、本人そのものだった。あれは、あなたが起こしたことなんだよね?」
異界の深淵へ通ずるゲート前での戦闘直前「面白いモノを見せる」そう話した。
「言わずとも、お気づきでは」
指摘通り、大方の察しはついている。ベベルの祈り子から聞いた話し、二人が現れた状況から推察すれば、おのずと辿り着く答え。大きく息を吐き、前で結んだ手にチカラを込め、自身の考えを述べる。
「......召喚」
極論を言えば、スピラには「完全なる死」という概念は存在しない。人が亡くなった時、生前死を受け入れているか、異界送りをされない限り、人を襲う魔物に姿を変える。異界送りされていたとしても、死者の魂は光り輝く幻光に姿を変え、スピラの空や海に溶ける。例外として、強い念を残した者はたとえ、異界送りをされても生前の姿を保ち現世に留まることも。
死者に思いを馳せる呼び寄せとは似て非なるもの、と言っていた。呼び寄せ以外では、召喚以外に考えられない。でも、召喚されたふたりの祈り子像は存在しない。
仮に“結び”が、ベベルの祈り子の少年が言っていた方法と同義の、祈り子像を必要としない召喚に限りなく近い秘術だとすれば、納得のいく説明が付く。
「あなたも、召喚士なの?」
「召喚士。人々に希望をもたらし、迷える民衆を導く特別な存在」
「別に、そんなたいそれた
「謙遜することはありません。何せ、あの“シン”を破壊したのですから。しかし、世の動乱の中心には必ず召喚士が存在していたこともまた、事実」
思い当たってしまった。長年人々の恐怖の象徴だった“シン”の正体も、“シン”を倒した方法も、その全部に召喚士が絡んでいる。もしかすると、1000年前に勃発した機械戦争のきっかけも召喚士だったのかもしれない。そう思うと急に、漠然とした不安に駆られてしまう。
「私たち召喚士の存在は、世界にとって悪影響だったのかな......?」
「まさか。少なくとも“シン”の出現後の世界では救われた人々の方が圧倒的多数を占めるでしょう。俺と同じように――」
小さな寝息を立てるマヤナの肩にそっと手を触れた。それに反応するように、彼女はゆっくりとまぶたを開き、まだ寝ぼけ眼で、彼の顔を見て尋ねた。
「......大丈夫?」
「問題ない。客人だ」
「お客さん? あ、ユウナさんっ!」
髪と服を慌てて整えたマヤナは、畏まって座り直した。
「すみませんっ」
「ううん、私こそ突然訪ねて来てごめんね」
「いいえ。それで、あたしに何かご用事ですか?」
「うん、もう少し詳しく聞かせて欲しいんだ。あなたが知ってる、空白の時代に起きた凄惨な記憶を」
マヤナは、伺い立てるような視線をシキに向けた。
「下がっていよう。では、失礼します」
小さく会釈をして、フードを深く被ると、祠の出入り口へ歩き出した。西日が入って幾分明るい祠を出て行く後ろ姿を見送り、彼女に問う。
「話づらいこと?」
「いえ、そういうわけではないです。ただ、もう少し休んで欲しいだけで......」
レミアム寺院へ送り届けてくれた直後、倒れかけたことを思い出した。
「うん、そうだね。今は、ゆっくり休んでもらおう」
「ありがとうございます。話しの方ですが、あたしが知っていることは、以前お話しした通りです」
機械戦争末期、突如として出現した“シン”は、ベベルの機械兵器をものともせず、無差別に都市を破壊した。その後、ザナルカンド出身の召喚士ユウナレスカが編み出した秘術、究極召喚によって倒され、長きに渡る機械戦争は終結した。
やがて、都市の復興・再建が進み。新しい時代の舵取りを誰が担うかを巡り、内部闘争が勃発。生き残ったベベル上層部同士の醜い覇権争いは、血で血を洗う内戦へと発展。
しかし、その内戦は数年後、突然終わりの時を迎える。
理由は言わずもがな。倒したはずの“シン”が復活を遂げ、再び世界に猛威を振るい出した。
「ザナルカンド出身の祈り子様たちは当時、一度全てベベルに集められて厳重に封印されていたそうです。召喚されないように。ですので、その頃のことは、あまり記憶にないそうです」
「隣の祈り子様も?」
マヤナの傍らに鎮座する、半身が結晶化した祈り子に目を移す。ザナルカンド出身ではなく、機械戦争後に祈り子となったスピラの祈り子。シキは、何が起きたかも分からないまま祈り子になった、無力な子どもと言っていた。でも、この祈り子本人から直接聞いた話しじゃない。
言葉からして、彼は召喚士じゃない。祈り子と心を通わせている彼女なら――。
「すみません、分からないんです。何も」
「そっか」
「はい......」
祈り子の像を、少し寂しげな表情で見つめている。
「悲劇を知ったのは、波に漂う死者の残滓に触れたからです。最初は、半信半疑でした。でも実際に、あの時視た記憶と同じ歴史を世界は辿り出したんです」
新エボン党と青年同盟の対立。今は、両方とも解散され、スピラ評議会として新たな組織が誕生した。しかし、高いカリスマ性を有する三盟主が中枢にいるといっても、内部で権力争いは存在している。末端にまでは、行き届いていない現実。
「絶対繰り返してはいけないんです。あんな悲惨な歴史は――」
「うん、分かる」
数え切れないほどの多くの犠牲を上で今、この世界に生きている。空白の10年に起きた悲劇の二の舞は避けなければならない。今を、生きる者として。
「当時のことを調べることが、解決への一番の糸口だね。やっぱり、メイチェンさんの知恵を借りるのが一番かな?」
「メイチェンさん?」
「メイチェンさんは、1000年前のザナルカンド出身のご老人で、半年前までスピラに留まっていたんだ。昔のことをよく教えてくれた。お話し好きで、ちょっぴり長話しだったけど」
「そのような方がいらっしゃったんですか」
「でももう、異界へ行っちゃった」
自身が遙か昔に死に絶えたことさえも忘れてしまうほど長い年月を留まり、世界を見続けてきた人。きっと何か知恵を授けてくれるはず、そう思っていると。
「今、呼びかけてみてはいかがでしょうか? ここは、幻光に満ちていますので。上手くいけば」
「呼び寄せられるかも、だね」
「はい」
「やってみる」
「あたしも、お手伝いします」
目を閉じ、ゆっくり呼吸を整えて、思いを馳せる。
真摯に、純粋に、ひたすらに。どれくらいの時間が経っただろうか、後ろに何かの気配を感じた。振り返る。
「これはこれは、ユウナ様。お久しぶりですな。さて、再会を祝して、語ってもよろしいですかな?」
そこには、真っ白なヒゲを蓄え、丸眼鏡をかけた話し好きのご老人が立っていた。