FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
始まりは、些細なことだった。
機械文明の発展と共に、霊峰ガガゼト山を隔てた二大都市、ベベルとザナルカンドは急成長を遂げた。どちらも当時は、機械文明主流の大都市。人工的な光に照らされ、昼夜の境目も曖昧で、眠らない街と表されるほど。
文化も、芸術も、スポーツも、あらゆる分野でまるで競い合うかのように両国は発展していった。
しかし、ただひとつだけ相違点が存在していた。
それは、召喚士の扱い。当時のスピラでは、召喚士は貴重な存在で、召喚士としての才気を持つ者、頭角を現した者はすべて、見返りと引き換えにベベルが身柄を確保・管理していたが。ザナルカンドは険しい霊峰ガガゼトを隔てていたこと、召喚士エボンが国を直接治めていたため影響を受けずに済んだ。
特別な存在である召喚士を多く有するザナルカンドは、召喚士エボンの高い統率力をもって、スピラの雄として世間的に認知されていくようになる。しかし、ベベルも黙ってはいない。強力な召喚獣を操る召喚士の絶対数は及ばぬとも、独自に開発した機械兵器を次々と導入、国力強化を図り、富国強兵の大国へとのし上がる。
国力が拮抗していくと共に、徐々に軋轢が生じ出し......そして、事件が起きた。
大都市に成長した両国の溝が深まりつつある間を取り持つため、ナギ平原に存在していた都市が提案を持ちかけ、やっとの思いで開催に漕ぎ着けた友好コンサートの最中、ザナルカンドの演者がパフォーマンスを行っていた際、小規模な事故が起こった。幸いなことに怪我人も出なかったものの、客席から放たれた一言が物議を醸した。
――設営チームの中に、ベベルの人間が居た。
ただの噂。機材がコードを噛んだことで起きたトラブルが原因と、主催者側が監視スフィアに記録された画像を添付して公式に声明を発表するも、あの言葉が人々の心の中でくすぶり続けた。追い打ちをかけるように、ザナルカンドで絶大な人気を誇る歌姫である「レン」がコンサートの出演者だったことで、優秀な召喚士でもある彼女を狙ったテロではないかという噂がまことしやかに流れ、憶測は新たな憶測を呼び。やがて......。
「民衆同士の小規模な小競り合いが起き、やがて収拾が付かなくなり、大規模な争いへ発展していった。それが今日、機械戦争と呼ばれる大戦のルーツですなあ」
「そんなことが......」
「あの、意図的に狙われたということはないのでしょうか?」
マヤナの質問への返答は――NO。
「機械戦争終結後、舞台に携わっていた者と話す機会があり直接尋ねたところ。ベベルの人間も、ザナルカンドの人間も、運営には居なかったと断言しておりましたわ。いやはや。争いを避けるための融和目的の催事が、結果的に裏目に出てしまったと大層嘆いておった。思えば、戦争の大義名分に利用されたのやも知れませんな。それだけ当時の情勢は不安定、一触即発の状態でしたからのお」
どちらの思惑かは分からずも、口実になれば、何でもよかった。争いを避けようと必死に努力した人たちの思いを踏みにじる行為に、思わず胸が痛む。それでも、その先を聞かなければならない。これからのために。
「戦後、“初代のナギ節”に何か変わったことはありませんでしたか?」
「ユウナレスカ様のナギ節ですかな? 変わったこと、ふむ......」
メイチェンは、やや考え込んだ。無理もない。何せ、1000年も前の出来事。戦後間もなくで、生きることで精一杯の時代。
「そういえば、不可思議な話しを聞いた覚えがあります。戦没者が、故郷へ還ってきたという話しですわ」
「戦没者が......死人ですか?」
「異界送りをされていなければ、魔物になってしまいますもんね」
「うん。ザナルカンドの召喚士たちは、召喚士エボンのチカラで国民と一緒に祈り子様になったはずだから。ベベルが抱えていた召喚士だけじゃ、“シン”の被害を受けたスピラ全土には手は回らなかったと思う」
「さて、どうでしょうなあ。あたしのように本土から離れた戦地で終戦を迎え、難を逃れた者も少なからずおりましたが、なんとも。ただ、奇妙なことに還ってきた者たちは一切口を開くことはなかったそうで。ある日突然、ふと、姿を消したと聞き及んでおります」
「突然、姿を消した......?」
「異界へ行ったんでしょうか?」
残された親族に会うため、死人となって還ってきた。そして目的を果たしたことで未練が消え、異界へ旅立った。そう考えれば、納得がいくし、自然の成り行き。気になることは、還ってきた戦没者が一切口を聞かなかったこと。強い念に縛られた死人は、姿を保ったまま意思の疎通が出来る。呼び寄せも、呼び寄せた者だけに声が聞こえる。呼び寄せた人の望む言葉で。今回は、二人一緒に呼んだから二人共に声が聞こえている。他に考えられる可能性は――。
「結び......」
「結びとな? それは、いったい?」
メイチェンは、結びを存じていない。それに、結びも会話は出来る。マヤナに目を向けてみると、彼女は小さく首を振った。どうやら、関係はなさそう。他の可能性を探る。
「もしかして......機械ではないでしょうか? 半年前、故郷の村を襲った死者、ナギ平原に紛れていた死者ように機械で操られていたのなら」
「確かに。あの子、機械が体に埋め込まれていた子どもは、虚ろな眼をして感情が欠落していた。機械みたいに。でも、そんな昔に――」
「いやいや、あり得ますぞ。当時のベベルの科学力は、現代よりも遙かは発達しておりましたからなあ。失敗作だったとはいえ、自律制御システム搭載のヴェグナガンを開発したほどです。遺体を操作することなど造作もないことだったかも知れませんぞ」
――と、すれば。
「その件が起きた時期は、分かりますか?」
「ええ、もちろん。“ナギ節”の末期だったと記憶しております。何せ、“シン”が復活を遂げた前後の出来事したから、よう覚えておりますわ」
「“ナギ節”の末期。マヤナ」
「はい、あたしが触れた残滓は、その頃の記憶だと思います」
荒れ狂う海に飲まれ時に見た、悲劇の記憶。兵士のような姿の集団に焼かれた村から、必死に逃げる記憶。
「それはおそらく、ベベルの兵士ですな。“シン”の攻撃を受け、壊滅的な被害を被ったとはいえ、ベベルは戦勝国。戦後の世界の舵取りを担う内部の権力闘争と同時進行で、各地に離散したザナルカンド出身の生き残りを捕らえ、求心力が落ちた他国への見せしめにしようと画策していました。ザナルカンド出身のユウナレスカ様が“シン”を倒したことで、神格化されていましたからなあ。しかし、もくろみ通りとはいかなかった。言わずもがな、滅んだはずの“シン”が復活を遂げ、復興を始めたスピラに再び猛威を振るいだしたからです」
そして、復活した“シン”は、復興し始めた都市を中心に破壊して回った。再配備された機械兵器が数多く集まる都市を中心に。権力争いの内部闘争どころではなくなり、“シン”復活の混乱に乗じ、とある団体が権力を奪取。“シン”の脅威へ立ち向かう召喚士をプロパガンダとして利用し、不安に駆られる多くの民の心を掴んだ。偉大な召喚士エボンと、“シン”を倒したユウナレスカを大召喚士と祀り上げ、エボン寺院と名乗った組織は不都合な情報をひた隠し、1000年以上もの間世界を牛耳る組織になった。
「まぁ、おかげで命拾いしたわけですが」
そう言うと、やや自虐的に笑ってひと息つき、興味深そうに辺りを見回した。
「しかし、ここは、不思議な場所ですな。まるで、生き返ったかのような――」
視線の先には、半結晶化した祈り子像。するとメイチェンは、どこか納得した表情を浮かべた。
「なるほど、そういうことでしたか」
「メイチェンさん?」
「いえいえ、こちらのことです。どうか、お気になさらずに。その祈り子を見て、ひとつ思い出しました。ベベルにはかつて、神が存在しておったそうです」
「神様ですか?」
「正しくは、神の冠を与えられた者たちですな。秩序を司る神、五穀豊穣を司る神など。要するに、役割を与えられた者は、その役割に応じた神の冠名を名乗っていた、と」
ベベルの神は想像上の存在ではなく、神の称号を与え登用された実在する人間。古代スピラの民から尊敬の対象だった召喚士を多く有するザナルカンドに対抗するため、役割分担を大袈裟に見せかけるための苦肉の策。でも、それがいったい何を意味するのだろうか、と思っていると――。
「あたしが存じている中に、ユウナ様が調べていることの手がかりになるやも知れませぬ」
「えっ?」
マヤナと顔を見合わせて頷き、次の言葉に集中。
「技職の神の名を与えられたその者は、ヴェグナガンを開発したベベルの技術者たちを統括していた責任者でもあり。ベベル上層部の命令で、ザナルカンド侵略のための新兵器開発に日夜尽力していたらしいのですが。機械戦争末期、多くの配下の者たちと共に、突然、行方知れずになったそうで。その者たちは――」
――技術者アルブと、その配下ベドール。
かつての人々から「下人」と揶揄されながらも、現在まで残る機械の基礎を築いた者たちの名を告げると。
「さて、そろそろお返しせねばなりません。久しぶりに愉快な時間を過ごさせていただきました。では、またいつの日にか」
そう言い残し、満足そうな顔で薄暗い祠の幻光と同化するように、ふっ、と静かに姿を消した。
「技術者アルブと。身分の低い者と位置づけされ、当時の人々から迫害を受けていた人たち......ベドール」
彼らの開発した機械のおかげで人々の生活は楽になり、また、機械戦争勃発のきっかけにもなった。あまりにも皮肉な話しに、思わず気が滅入ってしまう。
「怪事件と何か関係あるんでしょうか?」
「どうかな」
まだ、結論は出せない。気を取り直して、改めて尋ねる。
「やっぱり、呼び寄せとは違うんだね」
「......結びは、あたしたちが勝手にそう呼んでいるだけです」
「じゃあ、召喚士の秘術じゃない?」
「はい。結びは、シキだけが使える特別な
「死者の魂を、降ろす?」
「えっと、簡単には説明すると、死者に体を貸しているそうです。あたしたちは、その行為を“魂を結びつける”という意味合いで、“結び”と表現しているんです」
「そ、そんなこと......」
人間業じゃない。けれど、もし本当だとすれば、異界で出会ったジェクトも、ナギ平原に現れたアーロンも、すべてが腑に落ちる。
「......この先は、内密にお願いします。シキは――」
悲痛な顔を見せた彼女は、衝撃的な言葉を続けた。
――人ではありません。