FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

17 / 38
Mission16 ~まぼろし~

 気がついた時には、見覚えのない場所で横たわっていた。

 うつ伏せのまま顔を動かして、周囲を見回す。辺りは薄暗く、荒削りな岩の壁、天井はあまり高くなく、天井から滴り落ちる水滴が、岩場に出来た潮溜まりで跳ねる音が反響し、ひんやりとした空気が漂っている。

 どうやら、洞窟の中らしい。起き上がろうとすると、体中に痛みが走った。それは、当然のこと。荒波にのまれたのだから、生きているだけで奇跡的。全身水浸しで、海水を含んだ服が重い。呼吸をするだけでも苦しい、仰向けになるだけで精一杯。

 体中に走る痛みに堪えながら、どうにか呼吸を整えているうちに、いつの間にか眠りについていた。海中を彷徨う残滓に触れたからなのか、不思議な夢を見た。

 スピラでは珍しい着物を着た女性の夢。愁いを帯びた儚げな表情で遠くを見つめている彼女の口元が、微かに動いている。小さな声で内容までは聞き取れなかった。もしかしたら、唇が震えているだけで声は出していなかったのかもしれない。

 ただ、ひとつだけ確かなことは、深い自責の念を抱いているということ。誰に対しての、何に対しての想いなのか。彼女の視線の先へ目を向けると、あの祈り子像がまるで眠っている人のような姿で鎮座していた。そして次、振り返った時にはもう、彼女の姿はどこにもなかった。夢、あるいは幻光が見せた幻だったのかもしれない。だけど、祈り子像だけは同じ場所に存在していた。

 

「どうしてか分かりません。けど、あの人の想いを伝えなければならないと思いました。でも当時のあたしは、召喚士ではなかったので。ただただ、助かったことに対する感謝の気持ちを祈りに代えて捧げることしか出来ませんでした。潮が引いたタイミングで祠の外に出て、むき出しの岩壁の斜面を這い上がって、雑木林の中を重い足に鞭打って歩いて、村に戻りました。そしたら......」

 

 “シン“”の攻撃をまとも受けた村は、文字通り崩壊していた。

 地殻変動の影響で発生した地震により建物は崩壊し、火災で草木は燃え枯れ、焦げた臭いと血生臭さが混ざり合った臭いが鼻につく。変わり果ててしまった故郷の村。犠牲者の数を計り知らせるように無数の幻光が漂う荒れ果てた村の中を、生存者を探して隈無く歩き回った。

 そして、悟った。もう、この村には誰も居ない、その現実を――。

 全滅したのか、疎開したのか。どちらにしろ大勢の犠牲者が出た、その残酷な現実に打ちひしがれ、焼け崩れた家の前で途方に暮れることしか出来なかった。勝手口の前で呆然と座り込み、日が暮れだして辺りが暗くなり始めた頃、村の外れで大きな物音と共に大きな地鳴りが起きた。地面に両手を付いて揺れが治まるのを待ち、物音がした方へ顔を向けると。村の墓地がある方から、大型の魔物がゆっくり確実に、村の方へ向かって移動していた。

 全身から異常な瘴気を放つ見たことのない大型の魔物の姿に足がすくんで、腰が抜けて逃げだすことも出来なかった。

 ――助けて。誰か助けて......!

 声は出なくても、心の中で必死に叫んだ。けれど、想いは届くことはない。

 奇跡的に助かった命の、二度目の死を意識した時――どこからともなく彼が現れ、瓦礫の中から金属の棒を拾い上げると、魔物に立ち向かっていった。ただ、敵うはずもなく。振り下ろしの攻撃で弾き飛ばされて地面を転がった。その姿を見た瞬間、誰かの想いが入ってきた。

 

 ――守るから。今度は、必ず。もう、二度と......。

 

 無意識で身体が動いて、魔物の前に飛び出していた。

 魔物の容赦のない振り下ろしの攻撃。倒れた彼をかばうように身を投げ出して両手を広げたまま、ギュッと目をつむった。不思議と痛みは感じなかった。断末魔が聞こえて、恐る恐る目を開けると――原形がわからないほどバラバラになった魔物が、幻光が空中に溶けていた。魔物の残骸の傍らで、刀身の長い乱れの刃文が浮かぶ刀を握り、顔や服に魔物の返り血を浴びた彼が佇んでいた。

 

「不思議でした。村には、あんな刀を扱う方も、刀自体も見たこともありませんでしたので。彼は、荒れ果てた村を見回したあと、あたしに視線を向けて『様子を見にきた』と」

「......ドレスフィアみたいなものかな? それで、人じゃないっていうのは?」

「確証はありません。ただ、普通の人とは違う。そう感じたのは、もう少しあとのことになります」

 

 魔物を討伐した後「ここはまだ、人の未練・無念が渦巻いている。長居しない方が身のためだ」と言って、村を去ろうとした彼の背中を必死に引き留めた。

 

「誰も頼る人が居なくなってしまったあたしには、シキしかなかったんです。それこそ、藁にもすがる思いでした。残ればまた、魔物が出るし。村を出るにしても、別の集落まで距離がありますし。でも、それ以上に――」

 

 ――今、この手を離してしまえば、もう二度と繋がらない。

 そんな、漠然とした予感が頭を過った。

 引き留める理由を必死に探して......思いついたことが。夢で見た世界の行く末を止めたい。本当に“シン”が消滅したのなら、残滓が残した記憶と同じ混乱が新しい世界で起こるかもしれない。そうならないように、チカラを貸して欲しい。

 

「願いが通じて。わかった、と言ってくれました」

「けど、本当に起こった。“シン”の脅威から解放されたスピラは混乱して、各地で大小さまざまないざこざが起きて」

「......はい。このままでは、本当に同じ道を辿ってしまう。そう想った瞬間、空に溶けた幻光から悲痛な声が聞こえてきて――」

「覚醒したんだね、召喚士として。祈り子なきこの世界で」

 

 “シン”が消滅してからの二年間、スピラ各地を巡って召喚士としての修行を積んだ。どんなに世界が、人々の生活が変化しようとも、人の死は必ず訪れる。召喚士の絶対数の減少と相まって、異界送りを出来る人も少なくなったため、道中送儀依頼が途切れることはなかった。

 

「必死でした。最初は、全然上手く踊れなくて。期待に応えられなくて」

「うん、わかるよ。私も同じだった」

「中々上達しないことに落ち込んで、思い悩んでいたあたしに『なぜ、毎回同じように踊ることに拘っているんだ』と、シキが疑問を投げかけてきました。はっとしました。あたしは、自分のために踊っていたんだって。寺院の文献を読んで、他の召喚士の異界送りをマネすることに執着して、一番大切なことを疎かにしていたんです」

 

 それからは、形に拘ることは止めにした。ただ、思い人を亡くしてしまった人のため、思い人を残して旅立ってしまった人の想いを結ぶこと。それだけを考えて踊ることにした。今では、評議会の送儀依頼の指名を受けるくらい上達した。

 

「この村の幻光が安定しているのは、あなたが異界送りを?」

「はい。残念ながら、魔物になってしまった人は、彼が倒し。溢れ出した幻光を、あたしが異界へ送り届けました」

「それで、召喚士とガードの関係なんだね」

「師弟関係に近いのかもしれません。シキは、幻光を操ることに長けています。コツを教わったり。きっと、純粋な素質でいえば彼の方が適性は高いんじゃないかと」

 

 周囲の幻光を操作して発生させる重力魔法。幻光を利用した瞬動。何より、空に漂う幻光を己の身体に降ろし、死者を呼び寄せる特殊な術。

 

「――でも、能力を使う度に存在が希薄になっていく気がするんです......」

「あっ! そういえば、異界の花畑で......」

「異界は高濃度の幻光で満ちているので、回復も少し速いんです。でも、幻光の絶対数が少ない現世では。だから、いつの日か戻れなくなって、目の前からふと消えてしまう、そんな気がして。それが、頭から離れなくて......」

 

 特に、幻光を利用した“瞬動”と“結び”の後は顕著。

 比較的幻光が多く溢れ、濃度が安定しているこの祠で休息を取るようにしている。その時は、いつも一緒。彼は身体を休め、自身は、この祈り子像に祈りを捧げる。もう二度と、大切な人たちを失わないために。

 

「幻光で満ちているのに、この祠はどうしてか魔物も出ません。ここに居るときは、静かに身を休めることが出来ます。きっと、祈り子様が見守ってくださっているんだとあたしは思っています」

「そっか。じゃあ、休んでもらわないとね」

「ありがとうございます」

 

 少し潮が満ちてきた。表から出ることは諦めて、祈り子像の脇に作った地上に上がるための抜け道へ向かおうとしたとき――。

 

「この祈り子様は、召喚されたことはあるのかな?」

「たぶん、ないのではないかと。ザナルカンド出身の祈り子様ではないそうですし、召喚の方法もわからないので......」

「召喚の方法も違うのかも知れないしね。えっ――?」

 

 驚いたように声を上げると、半身が結晶化している祈り子像にそっと手を触れた。そして次、発せられた言葉を聞き、思わず耳を疑った。

 ――この祈り子様......召喚されてる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。