FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
ベベル対策本部、議会室。
シンラから、ヴェグナガンと遺体に組み込まれていた機械の解析結果の報告を受けたギップルは、ヌージとバラライに伝える機会を窺っている。しかし、臨時評議会は紛糾していた。ナギ平原での一件が引き金になり、各地で起こる異常現象について達観......とまでは言わないが、問題に対し慎重な姿勢を示していた議員たちもようやく、その重い腰を上げた。
「皆さん、どうか落ち着いてください。冷静に話し合いましょう」
議長を務めるバラライの説得も届かず、議題に入るどころか収拾もつかない状態。
「しかしこれは、看過できぬ事案だ。死者が蘇るなど......」
「別に驚くことでもなかろう。マイカ総老師しかり、死者が現世に留まる実例は少なからずある。一番の問題は、ヌージ殿を狙った犯行が故意によるものということであろう。死者とはいえ、年端もいかぬ子供が銃を向けるなど」
「一部では、アルベドが関わっているという噂もあるではないか!」
世間でも今だ少なくない、アルベド族に対して嫌悪感を持ち、毛嫌いしている元エボン寺院所属の僧官の話の中で「アルベド」の呼称が上がった。この時を待っていたと言わんばかりに、アルベド族マキナ派の代表ギップルが立ち上がる。
「俺から報告がある。どう想って貰っても構わねぇが、解析結果が出た。遺体には、機械が組み込まれていた」
バラライとヌージは、勘づき。議場は、ざわめき立つ。
「機械だと? やはり、アルベドの所業――」
「今、報告してんだろ。反論は、人の話しを最後まで聞いてからにしろ」
「一先ず、報告を伺ってからにしてください。ギップル、言葉が強い。慎むように」
因縁をフッかけった議員は押し黙り、ギップルは若干呆れ顔を見せつつも気を取り直して、報告書の続きを読み上げる。
「判明したことは、遺体に組み込まれていた機械は、未知の動力ユニットだったってことと、制御システムが搭載されていたってことだ」
「やはり、機械に精通していなければ出来ぬ所業ではないか......!」
その言葉に、他の議員たちも反応を示したが、確実な裏付けがないため過半数には届かず、割合は7:3といったところで推移している。
「あんたらが想ってるような複雑な仕組みじゃねぇよ。移動用のリフターがあんだろ、あれと似たようなもんだ」
「つまり、ある程度の知識があれば、誰でも運用可能であると?」
「ああ、複雑なプログラムを組めるほどの容量はなかったそうだ」
「ならば、ベベルの警備機械兵器のような立ち位置か。あれらは、ベベル内部の人間が管理していたのだろう?」
「そ、それは......」
先程までの威勢は何処へやら。ベベル内部では、寺院の教えで禁じられた機械を所持、運用、管理していたと指摘をヌージから受け、追い打ちのように投げかけられた問いかけに言葉を濁した。しかし現実的に、機械に精通しているアルベド族もしくは、機械兵器の運用に関わっていたエボン寺院お抱えの技師以外は考えづらい。
「アルベド、エボンなどと、論点が大きくズレている。誰が犯人かは大した問題でない」
「しかし、ヌージ殿。種族が分かれば、犯行動機や目的も見えてくるでは?」
「新エボン党の残党である可能性が極めて高い。根拠は、対抗組織である青年同盟を立ち上げた俺を狙ったからだ」
「......そう、誘導させることが犯人の思惑であることも......」
「フッ、分かっただろう。個人の思想が絡む議論など無駄な言い争いに過ぎん。今すべきことは、状況を把握し、対策を練ることだ。バラライ」
ヌージに促されたバラライはこの話題を一度棚に上げ、議題を上げる。ナギ平原の件以前から、報告に上がっていた騒動について。資料を配り、スフィアスクリーンでの投影を平行して行う。
「各地の守備隊から上がった定期報告をまとめた資料です。魔物の発生場所は、人通りの多いところに出現しやすい傾向にあり、若干出現頻度は低下した模様。これは、異界の安定が進んできたためと思われます。現時点で関連性は不明ですが、魔物の出現頻度と反比例して盗掘や、通り魔事件が増加傾向にあるようです」
「魔物ではなく、人の手による事件ですか。ふむ......」
「それはまた、厄介ですな」
魔物の退治に充てていた守備隊の幾つかを警備や、巡回に充てるよう再編成する案が可決。今後のスピラの法案についての話し合いが行われ、議会は幕を下ろした。そしていつもの様に、三盟主は会議室の隣の応接室で話し合いを行う。
「彼ら。以前送り出した送儀士から報告が届いている。盗掘ついてだけど。犯人は、比較的新しい遺体を狙って犯行を行っているらしい」
「ナギ平原の子供と同じだな。守備隊を統轄するルチルからは、例の通り魔事件、辻斬りについての目撃談が寄せられた。隣を歩いていた知人が気付かぬ間に、殺されていたケースもあるらしい」
「悲鳴すら上げさせずか。それは、相当な手練れだ」
「そのことだけど、モニター班から情報が挙がった」
ギップルは、深刻そうな顔で打ち明ける。
「通信スフィアが、それらしき現場を押さえらしい」
「本当か!」
「あの場で切り出した理由は、それか。映像は?」
「記録してある。つっても、確証は得られてない。今、シンラが映像の解析を進めてる。傍受の怖れがある。続きは今夜、例の場所で......」
* * *
時刻は午前零時を回り、三盟主の呼び出しを受け、アンダーベベルへ。さっそく、呼び出された際に添えられていた内容の件について伺う。
「犯人が分かったって、本当ですか?」
「正確には、犯人とおぼしきものです。こちらをご覧ください」
スフィアに映し出されたのは、小雨が降る深夜の街道。送り出した葬儀士・クルグムの報告を受け、墓地が近い場所が記録していた通信スフィアの記録。人気ない夜道に、黒い影の様なものが現れ、墓地へと続く脇道へと入って行く様子が捉えられている。
「これが、犯人ですか?」
「おそらく、そう思われます」
「ねえ、もっとはっきりしたの無いの?」
「これでも、ずいぶん鮮明になったんだぜ。オリジナルは、旧型の通信スフィアだったってこともあって、ノイズが酷くて使い物にならなかったからな」
「さあ、そろそろ姿を現すぞ。眼を離すなよ」
墓地へと続く脇道へ入って行った姿が写っているのだから、出てくる姿も写っている。後ろ姿だった、なら、出てくる時は当然――。
「――写った!」
「えっ?」
「コイツは......!」
パインとリュックと一緒に、食い入るように記録された映像を見る。写っていたのは何かを運ぶ、全身を防護服で覆った姿をした人。見た目は、映像解析に携わった少年シンラとほぼ同じシルエット。
「お前たちと共にしていたアルベドの少年ではない。本人なら、こんな映像は出さないからな」
「それは、そうなんだろうけどさ......でもこれって、犯人はアルベド族ってことだよね?」
「分かりません。確かに特徴的な背格好ですが、防護服やガスマスク等は、ベベルの標準装備にもあります。明日、臨時点検と銘打って確認を行う予定です」
「それはそうと、コイツが引っ張り出したのは?」
パインの質問に、ヌージが答える。それは、想像していた通りの答え。
「棺だろうな。時期と場所からして、例の少年が埋葬された棺と見ている」
断言しない曖昧な回答。理由は、すぐに判明。突如映像が乱れプツンと暗転してしまった。ギップルは再生を止めると、スフィアを地面に置き、証拠隠滅のため踏み潰した。
「記録はあれで終わりだ。ノイズが酷くて、あれ以上の復旧は不可能らしい」
「他には無いんですか?」
「残念なことに、まともな記録は残っていません。どれもこれも、ノイズまみれだそうです。憶測の域を出ませんが、何かしらの妨害工作が行われているのではないかと」
ルカのスタジアムで遭遇した、通信障害を思い出した。そう、あれは予兆だったのかも知れない。今、スピラで全土で起きている異常事態を知らせる予兆。
「幸か不幸か。ナギ平原の一件以来、魔物騒動が落ち着いてきたこともあり、こちらの調査に人員を割くことが決まりました」
「そうですか。じゃあ、私たちも......」
「あんたらには、やらなきゃならないことがあんだろ。スピラの祈り子、見つかったのか?」
二人と顔を見合わせ、祠で出来事を要点をまとめて伝える。
「機械に精通した職人を統括する技職の神、アルブと――」
「配下のベドール、か。アルブ、ベドール。アルブのベドール......」
「両者の頭文字を合わせると、アルベドか。偶然にしては出来すぎているな。それで、祈り子が召喚されているとは?」
ヌージは、祠の祈り子が何者かによって召喚されていることついて、詳細を求めた。けれど分かっているのは、召喚されていることだけで、誰が、何を目的に召喚しているのかも不明のまま。“永遠のナギ節”のあとに召喚士として目覚めたマヤナは、召喚の方法を知らない。別の誰かが、召喚している。千年もの間、殆ど人目に触れることの無かった祈り子を――。
「彼女は今、どちらに?」
「祈り子様がいらっしゃる故郷の村で休んでいます。連絡を受けた時には、もう眠ってたから」
「ずっと動きっぱなしだったからな、アイツ」
「まだ、子供だからね。ユウナんが修行を始めた時と同い年って言ってたし」
「おいおい、大丈夫なのか? そんな子を一人にして」
「へいき平気~、すんごい用心棒がついてるからね」
ギップルの心配をよそに、リュックはあっけらかんと笑って見せる。
「お前たちと敵対した例の男のことか。結局、何者だ?」
「あの子のガード。話しを聞いた限り、元兵士だったみたい。でも、新エボン党にも、青年同盟にも所属してなかったんじゃないかな?」
「だろうな。居れば間違いなく、幹部候補だ」
と、雑談混じりに話していたところへモニター班からギップルの通信スフィアへ連絡が入った。懺悔の旅に出ていた二人が無事、ベベルへ帰還したという知らせ。連絡を又聞きしたバラライは途端に、表情を強張らせた。
「どしたの?」
「......この時間、飛空艇は飛んでいない」
「何かあったな」
「ご名答。早急の面会希望が来てる。どうする?」
「すぐに向かう。応接室へ......いや、やはりここへ来て貰おう。ここでなら、気兼ねなく話せる」
「んじゃあ、迎えに行ってくる。シンラ、人気の無い場所で二人を待機させてくれ」
「了解だし」と、シンラの声で返事。二人を迎えに行ったギップルは、一時間ほどで戻ってきた。男女の葬儀士と幼なじみのガード、シンラの三人と共に。二人は戸惑いながら周囲を見回し、シンラは早足で駆け寄って来た。
「新しい装備の調子は、どう?」
「バッチリだよ、シンラくん」
「えへへ~、もう完璧!」
「わたしの剣は、少し刃こぼれした」
「了解だし。ついでに耐久性も上げとく」
「頼む」
会話を外れ、落ち着かない様子の二人の下へ。
「初めまして、だよね?」
「あっ! ゆ、ユウナ様......!」
「何で、大召喚士様がこんな場所に......?」
「すまない。話しは後にしてくれ。クルグム、緊急の用件とは?」
「あ、はい」
男女の二人組、送儀士のクルグムが報告を行う。
表情が引き締まった彼の口から発せられた言葉、それは――幻光河の北部グアドサラムへ続く街道にて、辻斬りと思われる人物と対峙しました。
正にそれは、思いもよらない報告だった。