FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission18 ~共犯者~

 ビサイド島を飛び立った飛空艇は、各地を寄港し、スピラ第二の都市ルカで積荷運搬作業待ちの後、首都ベベルへの空路を取った。

 

「結構、待たされたな」

「仕方ないよ、悪天候が続いてたし。これから先はもう、グアドサラム以外大きな町はないから日没までには到着するはず」

「で、すぐに報告に行くんだろ?」

 

 数時間停泊したルカで受け取ったバラライからのレタースフィアには、ベベル到着後に報告を受ける旨が記されている。

 

「夕食を用意してくれてるそうだよ」

「それはそれは、ありがたいことで」

 

「逆に気を遣うって」と、小声で不満を漏らして憂鬱な感情を胸に抱き、客席のテーブルで頬杖を突いて窓の外へ視線を移す。雲の上、青空の向こうに大きな積乱雲が広がっている。

 

「雷平原だ。そういえば、どうだった? ルールー村長と話したんだよね?」

 

 飲み物を置いたクルグムは、向かいの席に腰を降ろす。

 

「......知らないって」

「そっか」

「ジェクトの子供」

「何? ジェクト様?」

 

 頬杖を突いたまま、ため息を漏らす。

 

「ジェクトの子供、アーロンの子供、ブラスカの子供。スピラを救った英雄の遺品目当てで、同じこと言ってきた連中が今まで何人もいた。大召喚士ユウナ様の生き別れての兄弟姉妹だって、面と向かって言った身の程知らずもいたってさ」

「ああー......」

「で、似てないとも言われた。もっと似てるヤツもいたって」

「それで、引き下がったの?」

「そんなわけないだろ。食い下がった、遺品なんて興味ないって、どんな人だったか知りたいだけって」

「それで?」

「隠し事をするような人じゃない。誠実な人、子供がいるなら一緒に旅をしていた自分たちが知らないはずないってさ」

 

 カチン、と来た。優しかった母が嘘をついているんだって侮辱された気分だった。胸のデカい村長を敵と認定しかけた、だけど――。

 

「本当に知らないのかもしれないって。ベベルの僧兵だった頃上官の勧めの縁談を断ってベベルに居場所を失ったアーロンは、大召喚士ブラスカと伝説のガード・ジェクトと一緒に、“シン”を倒す旅に出たから」

「そうだったんだ。でも、それだと――」

「10+3で13。四年間の空白がある」

 

 その間に、アーロンと母との間に何かがあった。

 そう、信じたかった。亡くなった母の名誉のためにも。

 

「ユウナ様なら......」

 

「かもな」と答えた時、衝撃と共に飛空艇が大きく揺れ動いた。身体に力を入れて堪える。揺れが治まり、艦内に緊急放送が流れた。

 

『現在、雷平原上空。落雷の影響を受けた当機は、点検作業のため幻光河へ引き返し緊急着陸します。繰り返します――』

「マジかよ。もう少しでベベルだってのに」

「こればかりはね。でも、幻光河か......ねぇチュアミ、グアドサラムに行ってみようよ」

「はあ?」

 

 揺れで倒れたコップを直していた手を止めて、顔を上げる。

 

「レタースフィアを受け取ったルカで耳にしたんだ、異界が安定し始めてるって。一般客は無理でも、評議会の名前を出せば入れてもらえるかも」

「お前、生真面目なくせにたまに凄いこというよな」

「どうする?」

 

 唐突に訪れた、理不尽な別れ。長年閉ざされていた異界へ行けば会える、例え幻想だったとしても。エボナー狩りに遭って命を落とした母親と――。

 熟考しているうちに飛空艇は幻光河に緊急着陸、アナウンスと同時に整備に入った。突然出来た時間に乗客は各々休息を取ったり、飛空艇を降りて、幻光河の土産物屋へ行く人も。列の最後尾に付いて、飛空艇を降りて。長い河を数名の乗客と一緒にシパーフの背に乗って、対岸へ移動。雨が降るの灰色の空の下、グアドサラムへと続く街道を歩いている。

 

「聞けるといいね、アーロン様のこと」

「口寄せって、呼び出した側が望んだ言葉が返ってくるだけなんだろ?」

「聞いた話しだとそうみたいだけど、実際は、どうなのか分からないよ。僕も体験したことないからね」

 

 グアドサラムまで数百メートル程のまで来たところで、空を縦に切り裂く閃光が走り、轟音と共に大地がビリビリと震えている。

 

「今の雷、凄い近かったな。耳痛いし、目も眩むしってどうした? 驚いて腰でも抜かした?」

 

 その場に立ち止まったままのクルグムをからかったけど、想ったような反応は返って来なかった。それどころか、訝しげな表情を浮かべて周囲を見回している。

 

「ねぇ、チュアミ。僕の思い違いかな? 僕らの前を歩いてた人が見当たらないんだけど」

「はあ?」

 

 前を向く。裏返った傘が一本、地面に落ちていた。

 近くに、持ち主の姿は見当たらない。先に飛空艇を降りた客が、連れと一緒に数メートル前を歩いていたはず。その連れが、大声で呼び掛けているが返事はない。後ろを振り向いてみる。遠くに別のグループが見える。グアドサラムへ続く一本道の街道の外れは、鬱蒼とした深い林が拡がっていて、人の出入りはないに等しい。

 

「......消えた?」

「そんなわけないだろ。神隠しなんて今時、子供騙しにもならないって。どうせ、雷に驚いて――」

 

 前を向き直す。連れを探していたもう一人が林の中へ引き摺られて行く現場を目撃。傘を投げ捨て、乗客の後を追う。引き摺っているのは、魔物か、人かここからでは判断がつかない。

 

「待て!」

「チュアミ! 前!」

 

 クルグムの声に顔を上げる。気を取られて目前には剣を担いだ人影に気がつかなかった。横払いで振られた鋭利な刃物を、屈んで雨で濡れた地面を滑るようにして間一髪躱すも、掠めた刃が右側の髪留めを切った。結んだ髪がはらりと解ける。

 

「大丈夫!?」

「あ、ああ......何だ、お前は!?」

 

 藁傘で顔が隠れた大柄の男は、いっさい口を開かない。思いがけない横入れに、引き摺れていった人は林の奥へと完全に連れ攫われてしまった。太刀を構え、男と対峙。そこへ、グアドサラム管轄の守備隊の面々が騒ぎを聞きつけやって来る。

 

「何事だーッ!」

「人攫いです、気をつけてください! 相手は、凶器を所持しています!」

「凶器だと? あの、風貌。まさか、例の辻斬り――ぐあっ!?」

 

 背後から駆けつけてきた守備隊を、恐ろしく正確な太刀筋で淡々と斬りつけていく。

 

「くっ、わたしが相手だ!」

「相手は人だよ!?」

「人を襲うようなヤツ相手に、そんなこと甘いこと言ってられない!」

 

 思いのほか容易に懐に潜り込めたが、太刀で斬りつけた刃が通らない。体を覆う硬いものに阻まれる。

 

「鎖帷子かっ!?」

「今だ、かかれー!」

 

 五人体制の残った三人が一斉に斬りかかったが、全員が傷ひとつ与えることも叶わず返り討ち。みんな息はあるが、圧倒的な差を見せつけられ、戦意は喪失。腰を抜かしてしまっている。

 

「僕が受け持つ、チュアミ!」

「分かってる、引き離すぞ!」

 

 とは言ったものの、まるで防御する気がないとでもいうかように、こちらの攻撃はお構いなし。逆に、急所を的確に突く敵の正確無比な攻撃に防戦一方。

 一度で良い、一瞬、隙を作れれば――。

 後退りした踵に触れた、襲われた通行人の傘を蹴り飛ばす。開いたままの傘は風の影響を受け、辻斬りの前で不規則に舞って視界を横切り、守備隊の装備の銃剣も投げつけて更に注意を引き付ける。

 

「くらえーッ!」

 

 それらの陽動にも微動だにしない相手に刃の先端を向けて、相討ち覚悟で飛び込み、共に地面に倒れ込んだ。

 

           * * *

 

「チュアミの攻撃は、辻斬りの身体を貫通しました」

「砕いた感触もあったのに。でもそいつ、何事もなかったかみたいに平然と立ち上がって」

 

 二人の話から、辻斬りに対してとある可能性が急浮上。今まで何度か対峙したことのある相手と酷似した特徴。リュックとパインも、同じことを思っていた。

 

「ユウナん」

「うん、犯人は死人だと思う」

「アイツも、シューインも同じだったな」

 

 シューインも、シーモアも同じ、何度倒してもその度に立ち上がった。

 

「死人ですか? あれが......」

「死人って、あんなにはっきりした姿なのか?」

「いろいろ。生きている人みたいな死人いるし、幻光が溢れてる死人も」

 

 戸惑う二人に、死人にも個人差があることと、異界送りも意味をなさない程の強い念を持つ者もいることを簡単に伝え、本題に入る。議題は、辻斬りの出現と同時に起きた誘拐事件。

 

「それで、誘拐犯の姿は見たか?」

「いえ、視認出来ませんでした。被害者は、二名。グアドサラムへ続く街道の林の奥へ連れて行かれました」

「人気のない林か」

 

 バラライの目配せを受け「すぐに調べるし」と、シンラが取り出した小型の機械に、ギップルが興味を持つ。

 

「何だ、それ?」

「ノート型モニター。これならいつでも、通信スフィアのデータベースにアクセス出来るし」

「へぇ、スゲーもん作ったな」

「フフーン」

 

 得意気にキーボードに時間と場所を打ち込む、周辺に設置されら通信スフィアの映像を分単位で収集された静止画と動画の一覧がモニターに表示された。シンラの背後からディスプレイを覗き見る。映し出されていた映像が、突如、急激に乱れ出した。

 

「どうしたのかな?」

「雷の影響じゃないのー? 光と大っきな音がバリバリバリーって鳴ってたし」

「雷程度の衝撃で壊れるような設計じゃないんだけど。あ、そうだ。こっちなら映ってるかもしれないし」

 

 やや不服そうなシンラは思い出したように、別のフォルダを開く。フォルダに保存されているのは、旧型の通信スフィアの記録映像。新型通信スフィアの映像が乱れた時間までスキップ、同じ轟音と閃光が走った直後の映像が捉えられていた。

 

「しかし、ノイズが酷いな。もう少し鮮明になるか?」

「動画は無理だけど、静止画なら出来るし」

 

 ヌージの要望を受け、静止画に補正を施しノイズまみれの粗い映像が徐々に鮮明になっていく。

 

「映った!」

「男の人が、二人歩いてるね」

「その方たちが、僕らの前を歩いていた通行人です」

「次だし」

 

 キーを押す度に、補正された静止画が切り替わる。

 そして、二人の数メートル前を歩いていた通行人の一人が雷が鳴った直後、悲鳴をあげることなく膝から崩れ落ちた。この時点ではまだ、連れの男性は気付いていない。

 

「旧型の通信スフィアのスペック上、これが精一杯だし」

 

 次の画像は、襲われた男性が林の中に連れていかれている場面、残念ながらこちらの画像にも誘拐犯の全身は捉えていないが、林へ消入っていく足下が見えた。膝下まで覆うダボダボのズボンは、先ほど見た墓荒らしに酷似していた。

 

「収穫はあったな。辻斬りは通り魔的な犯行ではなく、何かしらの目的を持っている。そして、被害者を処理する共犯者が存在している」

「犯人の思惑はどうであれ、至急捜索要請を出すよ」

「バラライ議長、その件についてですが。グアドサラム在住のルブランという女性が調査協力を申し出ています」

「ルブラン一味が。分かった。しかしなぜ、伝言を?」

 

 二人が、夜中に帰って来た理由が判明。

 通信スフィアに障害が発生しており、修理が完了した飛空艇の飛行にも影響が出るおそれがあるため欠航が決まった。命からがら戦線を離脱した二人は、偶然居合わせたルブランの屋敷で応急処置を受け、グアドサラムからは徒歩、ホバー、チョコボ等を乗り継いで首都ベベルまで戻って来た。

 

「ご苦労だった。食事は、食堂に用意してある。今日は、休んでくれ。また後日、詳しい報告を伺う。遅くに呼び付けてすまなかった」

「いえ、お心遣いありがとうございます。行こう、チュアミ」

「ちょっと待って」

 

 会釈した二人を呼び止める。杖髪を一本のおさげに結び直した彼女に向けて、軽く杖を振るう。

 

「静かなる癒やしを――」

「あっ......!」

「あくまで一時的な治療だから、医務室で診て貰ってね。お大事に」

「ありがとうございます。あの、ユウナ様、ルールー村長にも伺ったんですけど。ブラスカ様とユウナ様のガードを務めたアーロンは、どんな人でしたか......?」

「アーロンさん? そうだね、ちょっぴり気難しいところもあったけど、凄く頼もしい人だったよ」

「頭硬そう見えて、意外と軽いところあったしねー」

 

「軽いところ?」と彼女は、リュックの台詞にやや首を傾げた。

 

「アタシがアルベドだって知っても、ユウナのガードになること認めてくれたし。機械にも理解を示してくれた。てゆーか、自ら率先して使うような人だったし」

「伝説のガードのアーロン様が......?」

 

 にわかには信じられないと言った様子でクルグムは眉をひそめ。彼女の方は、何やら呆けている。まったく違う反応を見せる二人に、ヌージはしっかり釘を刺しつつ進言。

 

「世間話は後日にしろ。早く休め。今日のことは他言無用だ。いいな?」

「あ、はい、承知しました。行こう」

「あ、ああ......」

 

 二人がアンダーベベルを去り。話している間も作業を続けていたシンラは、新型の通信スフィアが記録した二人の戦闘シーンの動画を再生させた。通信障害の影響でノイズが酷いが、藁傘を被った侍のような姿で、召喚獣の用心棒を連想させる格好をしている事が解る。

 マヤナのガードのシキに似ている侍のような身なり。しかし、負傷を省みない攻撃一辺倒の戦闘スタイルは、むしろ防御に比率を置く彼とはまったくの正反対。

 

「目的が不明な以上予定通り、部隊を立て直し、行方不明者の捜索に当たる」

「グアドサラムと幻光河を繋ぐ鬱蒼とした林の捜索......大規模捜索になるな。よし、オレとシンラはモニター班と連携出来るように準備だ」

「電波障害の原因究明は任せて。対策も考えるし」

「俺は、現場で指揮を執る。バラライは、評議会を抑えろ」

「解ってる、そのつもりだ。お三方は今まで通り、スピラの祈り子の捜索を。捜索中手がかりが見つかり次第、こちらからも連絡を入れます」

「解りました」

 

 そして翌朝、私たちは、スピラとザナルカンドを隔てる霊峰ガガゼト山へと向かった。かつて機械戦争で劣勢に立たされたザナルカンドの実質的支配者、召喚士エボンの祈り子となった人々の記憶を求めて――。

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