FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
消えていく――。
歪な形の禍々しい巨体が、無数の虹色の光の柱になり、無数の虹色の光となり、忌々しいほど美しい輝きを放ちながら、悲鳴を上げるように、虚空の闇と同化して溶けていく。
空に浮かぶ船がゆっくりと、悠然と、地上へ降りてきた。
底知れぬ恐怖が渦巻く絶望に満ちたこの世界を救った、五人の英雄を乗せて。
世界中の人々は、歓喜に沸いた。
千年もの長き歳月にわたる死と隣り合わせの恐怖の日々からの解放。誰もが喜びを分かち合い、誰もが思いを馳せた。
永遠に続くであろう、新しい平和な世界に。
希望に満ちあふれた輝かしい未来を、胸に抱きながら――。
* * *
横殴りの雨が降り続く嵐の中、少年と少女が、草木が生い茂る雑木林に身を隠しながら、木々の間を縫うように全速力で駆けていた。
遠くから聞こえる悲鳴、怒号。そして、銃声。
激しい銃撃戦の最中、建物に火が上がった。嵐にも関わらず、木材で出来た住居に付いた火は勢いを増し、激しく燃え上がる。飛び火して、別の家屋にも燃え広がっていく。
雨で濡れた雑草に足を取られそうになりながらも、少女の手を引いて当てもなく走り続けた。
いつしか雑木林を抜けて、村はずれの岬に出た。荒々しい波が岸壁にぶつかっては、大きな波しぶきを何度も上げる。
後ろからいくつかの人影が、草木をかき分けて近づいて来る。目の前は、荒れ狂う海。後ろには、村を襲った人影。逃げ場はない。波に打ち上げられた尖った枝を拾い上げ、彼女を背中で庇い、近づいて来る人影に立ち向かう。
逃げよう! と、必死に袖を掴む彼女の制止を振り切る。
わかっていた。こんなことをしても、無駄なことは。
相手の銃火器に対し、粗末な枝。結果は、火を見るより明らかだった。それでも、抗わずにはいられなかった。何もしなければ確実に訪れる死を待つよりも、例え紙のように薄い確率にかける方を選んだ。自分は死ぬとしても、彼女が生き残れる可能性を、生きた意味を残したかった。
雑木林から出てきた武装兵に飛びかかる。それが、相手の虚を突いた。やみくもに振った枝が手首に当たって、武器をたたき落とした。一気に畳み掛けようとした瞬間、衝撃が走った。別の武装兵にライフルの柄で頭を殴られ、足下がふらつく。頭に受けた衝撃で、視界が歪む。辛うじて見えるのは、相手が構えるライフルの銃口。目標を定め、引き金に指がかかっている。
思うように身体が動かない。とてもじゃないが避けられない。
目前に迫った、死の瞬間――。
パァン! と乾いた銃声と同時にドン! と、身体に衝撃が走る。思っていたよりも軽い痛み、衝撃の勢いで地面を転がり、崖下へ転落。転がり落ちる身体には、少女が力いっぱい抱きついていた。
水柱が立つ。二人揃って、荒れ狂う海に落ちた。放たれた凶弾が掠めたらしく、患部には激痛が走った。それでも、身を呈して庇ってくれた彼女を離さなかった。荒れ狂う海の中を必死にもがき、偶然見つけた横穴に這い上がった。
必死な
ただひとつ、心残りがあるとすれば――。
頬を伝う涙を拭いてあげることが出来ないこと。
意識が、徐々に薄れていく。ただ、抱きしめてくれていることだけは、優しい温もりを感じる。
薄れゆく意識の中で最期に、彼女の声が聞こえた。
――必ず、逢いにいくから。
どんなに時が過ぎ去っても、いつの日か必ず......。
そこで、意識は途絶えた。
* * *
――終わる? 本当に......?
虚空へと昇っていく、虹色の光の輝き。
あの虹色の光が現れる直前まで、大地を、海を抉り取った“シン”の攻撃で甚大な被害を受けた被災地で、討伐隊の兵士達と共に、必死の救助活動に尽力していた手が無意識に止まっていた。
千年間、恐怖と絶望で世界を支配した時代の終わりを告げる瞬間。この世界、スピラに生きる誰もが待ちわびた、“シン”がいない平穏な時間――永遠のナギ節。
「カズラミ!」
「あぶない!」と、背中越しにかけられた声に振り向いた直後、体に衝撃が走った。油断していた。背後に迫っていた魔物の気配に気づかなかった。攻撃を受けた体はよろめき、足下の感覚が消えた。
「――あっ」
消えさった“シン”が残した爪跡。抉り取られた大地を支える崖から足を踏み外してしまった。
激しい銃撃音が響く中、抗うことも出来ず落下していく。
――ああ、終わるんだ。
徐々に遠くなっていく銃撃音、小さくなっていく無数の虹色の光を見つめながら「必死に抗ってたのに。最期はこんなにも呆気ないものなんだ......」と驚くほど冷静に今、自身が置かれている状況を受け入れていた。
落ちた先、衝撃で水が跳ねた海面に高い水柱が上がった。
浮かんでいるのか、流されているのか、沈んでいるのかさえも分からず。崖から落ちた衝撃を受けた身体は、痛みでまともに動かせず、ただ、されるがまま急激な地殻変動が引き起こした荒波に身を委ねることしか出来なかった。
口から空気が漏れ、更なる苦しみが襲いかかる。
薄れ行く意識の中、指先にナニカに触れた。
そして、そのナニカが、薄れいく意識に入り込んで来た。
水辺は、幻光が集まりやすい。入り込んで来たのは、海に融けた幻光に宿る記憶の欠片。
無念を残して散っていった人々の記憶や感情。
その大半が、苦しみ、痛み、妬みなどの負の感情が占め。喜び、愛情、慈しみなどの正の感情は数えられるほどしか存在いない。自我を保つことが難しくなるほどの多くの記憶が頭の中に入っては抜けていく。
触れた記憶の中で、
決して忘れることの出来ない悲劇の記憶を。
閉じていた目を開き、失いかけていた意識を強く持ち、受け入れていた死から抗う。今、意識から抜けていった幻光は、すぐ目の前を漂っていた。
上も下も分からない荒波の中を必死にもがき、その光を追いかけて、めいっぱい手を伸ばした。
“シン”の居ない世界で起きた、悲劇の記憶を逃さないために――。