FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission19 ~元凶~

「どう? ユウナ」

「ただの石像。力を失ってる。もう、祈り子ですらない」

「ここは、関係ないってことか。それにしても......」

 

 無造作に壁面に無造作に列なる元祈り子像を前に、パインは息を呑んだ。

 

「朽ち果ててるけど。これ全部、元人間だったんだろ?」

「そうだよ。“シン”という強力な鎧を纏った召喚士エボンに召喚されていた祈り子たち」

「エボンは、鎧の中で何を召喚してたんだ?」

「夢――」

 

 バハムートの少年の話では、(シン)を纏った召喚士エボンは敗北を悟り、ザナルカンドの全ての住民を祈り子に変えて1000年もの気が遠くなる程の長い月日の間休むことなく常に召喚し続けた。

 そしてそれを、楽しい夢だったと語った。

 召喚士エボンが夢見た世界、機械戦争が起こらなかった世界。詳しい詳細は解らない、ひとつだけ確かなことは――彼もまた、エボンが召喚していた夢のザナルカンドの住民。

 

「てゆーか、召喚って召喚獣だけじゃなかったんだね」

「私も知らなかった。寺院の教えでは、召喚士の役目は死者を異界へ送ることと、“シン”を倒してスピラに希望を与えること。そして、祈り子は“シン”に挑む召喚士に力を与える者たち。そう教えられてたから」

「じゃあ、あの村の祈り子は召喚獣じゃないのかもしれないってことだな」

 

 寺院の影響が大きく行き届いていない辺境の廃村の祈り子。いったいどこの誰が何を召喚しているのか、何を目的に召喚しているのかおおよその見当も付かない。でもきっと、スピラを脅かすような悪意じゃない、そんな気がしていた。

 

「あ、キマリだ。おーい!」

 

 リュックが駆け出した。向かった先には、頭の角が折れたロンゾ族の長キマリ。彼女から一足遅れて、彼の下へ行き声をかける。

 

「キマリ、元気だった?」

「ああ。ユウナ達も元気そうで、キマリは安心した」

「それでどうしたの? こんなところまで――」

 

 祈り子の岸壁は、ザナルカンド遺跡とガガゼト山の最奥地の中間地点。ナギ節を迎えた今、ザナルカンドを目指す召喚士はもちろんおらず、礼節を深く重んじるロンゾ族もむやみやたらに立ち入らない霊峰ガガゼトの外れ。

 

「キマリは、噂を聞いて調べに来た」

「噂?」

「噂ってなに?」

 

 いつも険しい表情をしているキマリは、更に眉をひそめる。

 

「最近、登山道で人影を見たという噂がロンゾの間で流れている」

「登山道で?」

「アタシたちのこと、じゃないよね?」

「飛空艇で飛んできたからな」

 

 後方に停泊している飛空艇に目を向けて、パインが答えた。

 つまり何らかの目的を持った人が、険しい雪が吹雪くガガゼト山を登っている。もちろん、別の可能性も否定出来ない。例えば――。

 

「見間違いじゃないのか? 落雪とか。この辺りは降ってないけど、山の峠は吹雪いてるだろ」

「キマリも最初はそう思った。だが、目撃者は一人や二人ではない」

「そーいうことなら通信スフィア......は、ガガゼトにはあんまり置いてないんだった」

「それで、キマリが調べに来たんだね」

「そうだ。しかし、それらしいものは見当たらなかった」

 

 それでも、ナギ平原の一件もあり、戦闘に長けるロンゾ族の間にも多少の不安が拡がっている。手分けして周辺を調べることに。キリュックとパインは飛空艇で、ガガゼト山の山頂にそびえ立つガガゼト遺跡へ向かい。キマリと一緒に話ながら、朽ち果てた祈り子像の岸壁の裏側へ回る。

 

「キマリ、アーロンさんに子供が居たって聞いたことある?」

「イヤ、知らない。子供が居たのか?」

「そう言ってる子がいるんだ。自称する人は今までも居たんだけど、ちょっと感じが違って」

「十三年前、瀕死のアーロンから託された事はユウナをベベルから連れ出すことだけだった。ふむ......」

「どうしたの?」

「子を持たないキマリには解らないが、死が目前に迫っていた目からは特別な信念のようなものを感じた」

 

 何度も立ちはだかったシーモアしかり、生前強い信念を遺して亡くなった人は異界送りをされずとも、現世に留まる事はままある。生前の姿を保ったまま――。

 

「そういえば、アーロンさんって」

 

 年を取っていた、と言いかけた時、キマリが声を上げた。

 

「ユウナ、誰か居るぞ」

「えっ?」

 

 視線の先を追う。岸壁の裏側、三年前は雪で閉ざされていた洞窟の中へ入っていく物影。急いで崖道を登って、影の後を追いかける。

 

「あれっ?」

「居ない。見落としたか?」

 

 人影に追いつく前に、追って入った洞窟を抜けてしまった。

 円状になっている洞窟の出口付近の広場からは、追って入った洞窟の入り口が見える。

 

「二手に別れよう。キマリはもう一度入り口から入る。ユウナは、出口の方から入ってくれ」

「挟みうちだね」

 

 洞窟へ戻ろうと後ろを振り返った時、衝撃音が響いた。

 

「キマリっ!?」

「グッ!」

 

 キマリが槍で、何者かによる攻撃を受け止めていた。視界に映ったのは彼よりも一回り以上大きな体格、金色のたてがみ、一角が特徴的なキマリの同族のロンゾ族。

 

「お前は――ビラン、ビランなのか!?」

 

 三年前、シーモアの手にかかり命を落としたロンゾ族の青年、一族最強の勇士であり、大兄と慕われていたビラン=ロンゾ。その体のいたるところがつぎはぎだらけで、とても治療とはいえないお粗末な体。

 

「ビラン! 殺されたハズのお前が、なぜ!?」

「キマリ! その人は現世の人でも、死人でもない! 姿だけを残した遺体、だから――」

 

 杖を手に異界送りの準備に入ろうとした時、突然、視界が暗くなった。視界を暗くした正体は、頭上から跳びかかってきたもうひとりのロンゾ族の青年、エンケ=ロンゾの影。

 

「エンケまでも!? ユウナ!」

「大丈夫、私は戦えるよ」

 

 二人のロンゾ族は、キマリの呼び掛けにいっさい反応を示さない。ナギ平原でヌージを撃った少年のように、機械の力で強制的に操られているだけにすぎない。

 

「体のどこかに機械が組み込まれてるはず。体内から切り離せば、二人の活動は止まる。場所は、異界送りで特定出来るから!」

「キマリが動きを止める!」

 

 と言ったものの、二人の攻撃は激しい。武器を持っていない事が不幸中の幸い。召喚士マヤナのガード・シキ、彼が結び、現世へ呼び出した伝説のガードの機敏さと比較するまでもなく遅い。エンケの拳を掻い潜って、脇腹に杖を叩き込む。機械を叩いた感触はない。

 

「それなら! 電光石火――」

 

 攻撃は防がれ直撃はしなかったが、雷魔法を纏わせた打撃で若干動きが鈍った隙を見逃さず、大きく距離を取って、杖を振る。二人の体から幻光が漏れ落ちた。

 

「キマリ、左胸!」

「ハァーッ!」

 

 振り抜かれた腕を弾き、ビランの左胸に槍を突き立て、体内に埋め込まれた機械ごと屈強な体を貫いた。キマリは、力なく崩れ落ちるビランの体を抱き留め、無念さに顔をしかめる。

 

「キマリ......」

「ユウナ!」

「あっ......!」

 

 気を取られ、もう一人の存在が疎かになってしまった。振りかざされた拳は目の前、防御は間に合わない。痛みを負うことを覚悟して、歯を食いしばる。

 しかし、受けるはずの痛みはいっこうに訪れない。

 おそるおそる目を向ける。まるで凍り付いたかの様に固まっていた。跳び退いて杖を振り、二人を異界を送る。骸から抜け出た幻光が悲鳴にも似た哀しい音色を奏でながら虚空へと昇っていく。

 

「誰だ!」

 

 異界送りの舞の最中「ま、こんなものかな」と不意に聞こえた声。キマリが叫ぶ。

 

「ん? ああ、聞こえたんだ」

 

 広場を見下ろせる岩場に立つ、人影。

 ロング丈の白衣を羽織り、やや長めの赤毛色の髪を風に靡かせる灰色の瞳を持つ、同い年くらいの青年。

 

「もう少し使えると思ったけど、ロンゾ最強の勇士の称号も形無しだ」

「ビランとエンケは誇り高きロンゾだ! 侮辱する者は、キマリが許さない!」

「待って!」

 

 憤るキマリを抑え、白衣を羽織った青年を見上げ問いかける。

 

「あなたが、死者を、亡くなった人たちを......」

「ボクの趣味じゃありませんよ。大召喚士ユウナ様」

「それ、やめて」

 

 敬意なんてものは何一つ感じない言い方、不快感しかない。

 

「それはとんだご無礼を。けど、あの程度の衝撃で機能障害起こすなんて、つくづく甘い人だなぁ」

「知ってるんだ、アルブのこと」

 

 鎌をかけてみても、ひょうひょうとした青年の表情に変化は見られない。

 

「技職の神でしたっけ? あの人はその冠名を誇りに想ってるみたいだけど、如何せん頭が硬い。本当に世界を変えられるとでも思っているのかなー?」

「世界を変える......?」

「利用するだけ利用して、利用価値がなくなった途端に自身を切り捨てたスピラの民への復讐らしいですよ。ま、ボクは興味がないからどうでもいいんですけど。でもなー」

 

 動きが止まった二人の亡骸へ視線を向け、ため息を漏らした。

 

「これはナンセンスだ。ゼロから作り出せる技量を持ち合わせていないからって、死体を使うとか。使うにしても、あんなガラクタじゃなくてもっと鮮度がいいのを使わないと。腐敗してると通電も悪いし」

「キサマ......!」

 

 痺れを切らせたキマリが激しい怒りの感情を全面に出し、死者を愚弄する暴言を吐いた青年に斬りかかるも、強力な物理防御の障壁に阻まれ弾き返された。

 

「何を憤っているんです? たかが死体なのに」

「同胞を侮辱され黙っている者などいない!」

 

 キマリの言葉を聞いても、不思議そうな顔している。

 

「ユウナー、キマリー」

 

 全身傷だらけのリュックとパインが、山頂へ続く登山道から降りてきた。

 

「二人とも、大丈夫!?」

「ちょーちだいじょばないかも......聖獣が出てくるとか反則だって」

「ふーん、アレを倒したんだ。結構、自信作だったんだけど」

 

 言葉とは裏腹に想定内とでも言いたげな余裕を感じさせる。

 

「誰だ? アイツ。それに今、自信作って――」

「技職の神・アルブの関係者。機械で遺体を操っていたのも、彼......!」

 

 二人の表情が締まり、すかさず臨戦態勢。

 短剣を構えるリュックが、問い質す。

 

「キミ、アルベド? 初めて見る顔だけど」

「答えに何の意味が?」

「アルベドならアタシがケリをつける。違うなら本気で倒す!」

「ボクは、科学者。それ以上でもそれ以下でもありません」

「答えになってなーい!」

「どっちでもいい。お前が今、スピラで起きている事件の元凶だってことは確かだ!」

「おや、それは誤解です」

 

 のらりくらりと躱していた青年が、初めて断言を下した。

 

「今の状況を作ったのは、あなた方でしょう」

「私たちが? どういうこと?」

「少し考えれば解ることだと思いますけど。さて」

「待て! 逃げるな!」

 

 答えを濁して背を向けた青年に、パインが怒号を飛ばす。背を向けたまま指を鳴らし、半身をこちらに向ける。

 

「ボクは、アソオス。生きていたら遇うこともあるでしょう。さあ、どう転ぶか実に興味深い。期待していますよ、大召喚士ユウナ様」

 

 周囲に幻光が急速に集束し姿を現した魔物を四人で倒し終えた時には既に、アソオスと名乗った科学者の姿は消えていた。




オリキャラ設定。
科学者・アソオス。由来は、ギリシャ語で無邪気。
1000年前のベベルの技職の神・アルブの下、才能を開花。独自の技術を確立、とある方法で魔物を作り出すことが出来る。
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