FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
スピラ評議会定例会議後、評議会議長バラライの執務室に集った三盟主は、パインからモニター班へ送られてきたガガゼトの一件を記録したスフィアの録画映像の情報共有と、今後の対策について話し合っていた。
「科学者アソオス。遺体兵器転用、魔物精製技術。機械の扱いに長けたアルベド族と、幻光の扱いに長けたグアド族の双方の特質を兼ね備えた科学者――」
「今までの騒動は全部そいつの仕業ってことだろ」
神妙な面持ちで言葉に出したバラライに、ギップルが問いかけた。
「単純に考えればそうなる。頻発していた魔物騒動、ナギ平原の混乱、ヴェグナガンの破損も全てが繋がる。しかし、いったい何を目的でこんなことを......」
「スピラへの復讐、だろ。アルブってヤツの言い分は」
「技職の神・アルブ、1000年前の機械戦争時代の科学者か。少なくとも死人であることは間違いないだろうけど、それらしい記載はいっさい残されていなかった。寺院にとって余程都合の悪い人物なんだろう」
「散々利用された挙げ句の果てに切り捨てられたんだ。死後強い怨念を持って現世に留まっててもおかしくねぇ。なあ、船長」
話し合いに参加せず、資料に目を落としたままの返事を返さないヌージを不思議に思い、バラライが声をかける。
「どうした? ヌージ、眉間に皺を寄せて、何か気になることがあるのかい?」
「......技職の神とやらが何を企んでいるかは知らんが、妙だと思わないか? なぜ今、このタイミングで姿を現したのか」
「そりゃあな。今まで姿どころか、手掛かりひとつも残さなかったってのに、こうもあっさり正体を明かしたのは不自然だ」
「つまるところ、キミは意図的に姿を見せたと考えていると。確かにそう考えれば、様々な点において腑が落ちる。正体を隠す必要がなくなったか、あるいは――」
――正体を明かさなければならない事情があった。
命懸けの戦場を共に生き抜いた盟友同士、声に出さずとも互いの考えの共有は容易。
「意識を別のものへ、ヤツ自身へと向けさせた。遺体の兵器転用、魔物精製の技法、気を引くには充分すぎる。フッ、そう思わせることが狙いかもしれんがな」
行為がミスリードであるか否かは別にしても、今の状況そのものが楔が打ち込まれたことを顕著に物語っている。
「何かあるとすれば、異界、ザナルカンド遺跡、オメガ遺跡辺りか。人の出入りはないし、通信スフィアの設置も後回しにしてたエリア。既に引き払ってるだろうけど、痕跡のひとつくらい残ってるかもしれねぇ、どうする?」
ギップルに問われたバラライは窓際へ移動し、窓の外に広がる活気に溢れたベベルの街並みを見つめ。そして、調査隊を組織することを決断した。
* * *
気品を感じる装飾が施された扉を数回ノック、返事を待って部屋の中に入る。窓際に立ち、扉に背を向けていたバラライがゆっくり振り向いた。
「ようこそ。こうして顔を合わせるのは初めてですね。スピラ評議会議長バラライです」
「公認送儀士のマヤナと申します」
「畏まらずにどうぞ。僕自身、堅苦しいのはあまり得意ではないから」
見るからに作り笑いで「どうぞ」と椅子に座るよう促し、中央にスフィアが置かれたテーブルを挟んだ向かいの席に座ったバラライに続いて、静かに腰をかける。
「不躾で申し訳ないが、新しく組織する調査隊に参加してもらいたく呼び出させてもらった」
「調査隊、ですか?」
「ええ。調査対象は、ザナルカンド遺跡の中心部エボン=ドーム。他地域よりも幻光濃度が高く迂闊に踏み込めないため、ドーム内部の調査には、異界送りを行える送儀士のチカラが必要不可欠」
本当の理由が別にあることは解っている、けどあえて言葉には出さない。テーブルを挟んだ向かい側に座っている彼もまた、本音を見透かされていることは承知の上で自ら話を切り出し、スフィアの再生ボタンに手を伸ばした。
「どうか気を悪くしないでほしい。彼女たち、ユウナさんたちからキミのガードの話は聞いている。これを――」
記録されていたのは先日、ガガゼト山で起きた一件。祈り子群像裏手付近に置かれた旧型通信スフィアが、偶然捉えた戦闘記録。四人掛かりにも関わらず。新種の魔物を相手に苦戦を強いられている。
「ユウナさんたちが対峙した魔物は、従来の魔物を遙かに凌ぐ桁違いの魔物。グアド族がグアドサラムへ戻り、不安定だった異界の調整が進んで安定してきてはいるが、大元を絶たない限り事態の終結は見ないと考えている」
最高責任者自らの申し出、二つ返事で返したいところ。
けれど、そう簡単に頷けない事情がある。
「あたしには、あたしたちにはやらなければならないことがあるんです。1000年前、機械戦争以前の世界で命を捧げた祈り子様からお話しを伺わなくてはなりません。遠回りで、見当違いなのかもしれません。だけど――」
「もちろん、重々承知している。本来であれば、これは僕たちが解決しなければならない事案だということも」
前で組んだ手をギュッと握りしめ、うつむき加減で口を真一文字に結んだ。
「しかし今、僕たちがベベルを離れれば、スピラ評議会は確実に揺らぐ」
「所詮、形だけの組織なのさ」
「誰も互いを信用なんてしちゃいねぇ」
背後から聞こえた声に振り返る。扉付近で杖を突いたヌージと、壁に背を預けて腕を組んだギップルが立っていた。
「驚かせて申し訳ない。脅すとかそういうつもりはないんだ。ただ、こうでもしなければ本気は伝わらないと思ったんだ」
「あ、はい......」
様々な人間の思惑が絡み合うスピラをまとめる若き三盟主を前に、気押されてしまいそうになっている。
「この先は、オフレコで頼むぜ。首謀者は、技職の神アルブと科学者アソオス。遺体を人工兵器へ改造したのも、新種の魔物を作りだしたのもコイツらの仕業だ」
「俺たちは今、グアドサラム近郊起きた誘拐事件解決に向けて多くの人員を割り当て大規模調査を予定している。街道外れの鬱蒼とした森の中へ姿を消した誘拐犯、被害者を襲った辻斬りは、両者の関係者であると睨んでいる」
「辻斬り、誘拐犯......科学者?」
技職の神・アルブついては呼び寄せたメイチェンから聞いていたけれど、いっぺんに入ってきた新たな情報に整理が追いつかない。すると「焦らず、ゆっくりどうぞ」と言うように、温かい紅茶と茶請けを議長自らが用意してくれた。
「ユウナさんたちは、異界へ。辻斬りと対峙した送儀士とガードは、大規模調査に同行予定。スピラの祈り子が見つかった際は、すぐに連絡を入れる。どうか、前向きな返事を」
そう言って、幻光の影響を受けづらい最新型の通信スフィアを差し出した。
* * *
やや傾いた日差しが窓から差し込む、聖ベベル宮の廊下を歩く足取りは重い。結局、受け取ってしまった通信スフィア。
「ザナルカンド......」
かつて、多くの召喚士が究極召喚を求めて目指したスピラ最北の地。召喚士として目覚めて三年あまりの年月が経ち、未だ一度も踏み入れたことのない神聖な地。
くるりと踵を返す。今までの報告も兼ねてベベルの試練の間へ向かおうとしたところ、ジョゼ寺院付近の街道で見かけた男女が、あの時と同じようにじゃれ合いながら歩いて来る。
「どんな感じ?」
「悪くない。けど、複雑。よく、あんな簡単に......」
「細かい作業の苦手だもんね」
「誰が、ガサツだって?」
「い、言ってない!」
すれ違い様に、挨拶を交わす。
「こんにちは」
「こんにちは。もしかして、あなたも送儀士ですか?」
「はい。公認送儀士のマヤナです」
「やっぱり。僕も、公認送儀士なんです。僕は、クルグム。彼女は、チュアミ」
世が世なら召喚士とガード、行動を共にするパートナー。
そして、この二人が先ほど聞いた大規模調査に同行する、二人。
「じゃあ、議長が当てがあると言っていた送儀士はあなただったんですね」
「大抜擢。わたしらの一個下なのに」
「実は、まだ決めかねているんです。それで、祈り子様に意見を伺おうと思って」
「祈り子って、今はただの石像だろ? どの寺院の祈り子もさ」
「応えてくれます。心の底から真摯に願えば――」
そう、呼び掛けに応えてくれた。どの寺院の祈り子も応えてくれた。そうだとすれば――。
「だってよ」
「僕に振られても」
「だってお前、応えてもらえたことないだろ。心が足りてないんじゃないか?」
「あの、すみません。急用を思い出しました。任務お気をつけてください」
「あ、はい。年の近い送儀士の方と話が出来てよかったです」
「あんたも気をつけなよ。辻斬りは、いつどこに出るか分かんないから」
「ありがとうございます。失礼します」
身を案じてくれた二人に会釈して再び踵を返し、議長室へ向かった。調査協力の返事を伝えるために。
* * *
スピラ評議会公認送儀士して正式に任命された際、ベベルに用意された自室で旅支度を整える。食料、通信スフィアなどの必要最低限の物資を入れた手荷物と、異界送りに使用する杖を持ち、部屋の扉にカギを掛け、飛空艇乗り場へ赴く。搭乗直前、評議会の役員であると同時に送儀士の指南役を務めるイサールから手紙の束を受け取り、飛空艇はザナルカンドへ向けて飛び立った。
窓際の四人掛けの席に腰を降ろし、空いている隣の椅子に荷物を起き、テーブルに置いた手紙を順番に目を通していく。どれもが、今まで行ってきた異界送りに対する感謝が綴られた手紙。手紙に目を通しながら、傍らに立つシキに尋ねる。
「どうだった?」
「送儀士とガードが辻斬りと対峙した街道を調べた。真っ二つに折れた武器が、林の前に落ちていた。おそらく、ガードのものだろう。しかし、血液らしき痕跡は残っていなかった」
「やっぱり、死人なのかな?」
「周囲に幻光は漂っていたが、現場は幻光河近郊」
幻光河は元来幻光が集まりやすい土地柄、判別はつかない。
「彼女たちが遭遇したという科学者の方も同じ、足がつくような手掛かりはない。それどころか時を同じくして、鳴りを潜めていた魔物騒動が再び各地で再開された」
「聞いたよ。今回は、一件や二件じゃない。多地域で同時に何件も連続して起こってるって。予定してた大規模調査にも影響が出てるみたい」
「無関係とは思えない、か。焦りか、陽動か。筋書き通りか、急遽変更したかは定かではないが、分散目的であることは間違いないだろう」
「うん、そうだね」
「どうした?」
「......ユウナさんたち、科学者に言われたんだって。スピラの今の混乱を招いたのは、ユウナさんたちが原因だって。もしそれが――」
「マヤナ。三年前、キミは何を視た?」
「......分かってる。あたしは、迷わないよ。スピラを地獄のような世界にはさせない」
――だからあたしは、ザナルカンドへ行くことを決めた。
あの人に、1000前の世界で初めて“シン”を倒した始まりの大召喚士ユウナレスカの話を聞くために。