FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission21 ~収穫~

「どんな様子?」

 

 異界探索の休憩中、リュックが声をかけた通信スフィアから、リアルタイムのシンラの姿と声で応答が返って来た。背後に映る周囲は、危機感に溢れた怒号にも似た大声が飛び交っている。

 

『この通り、猫の手も借りたいくらいだし』

『リューック!』

「うわっ!」

 

 突然響いた声に驚いたリュックは、その場で尻餅をついた。聞こえてきた声は、彼女の兄アニキ。

 

「もー、何さアニキ! びっくりするっしょ!」

『ユウナ、いるか!?』

「うん、居るよ。アニキさん、お久しぶりです」

『ユウナー! 無事か!? いつでも助けに行くぞ!』

『おい、私用で無駄にエネルギーを消耗させるなよ』

「まったくだ。ダチ、アニキの手綱はしっかり握っておけ」

『へいへい』

 

 共に空で旅をしていた仲間たちの声。こんな騒がしくも賑やかな日々を、ほんの一年ほど前に一緒に過ごしていたことが酷く懐かしく想う。

 

『今、どの辺り?』

『ヴェグナガンがある異界の最深部まで、もうちょっとのところかな? 地上の様子は、どう?」

『ヒデーあり様だ』

 

 通信に、ギップルが割り込んで来た。アニキから批難の声が飛ぶも、彼はいっさい気にせずに状況を知らせる。

 

『スピラ各地至る所で魔物が湧き出てる。各部隊が対応に当たっちゃいるが、いつまで持つか。スピラ中があん時のナギ平原の騒動みたいな状況だ。何より深刻なのは、前線への補給が止まっちまってる』

『機材トラブルが相次いでて、飛空艇が飛ばせないし。ザナルカンドへ向かった二人も、ガガゼトで足止め。転送装置も不具合が生じてるみたいで徒歩で向かうって連絡が来たけど、かなり吹雪いてるみたいで時間がかかりそうだし』

 

 誘拐事件の方も同じ。ヌージを中心に大規模調査を実施する予定が一転、クルグムとチュアミ、ルブラン一味の数名のみでの限定的な調査。ヌージは現場で指揮を執り、バラライはスピラ評議会を抑えるのに手一杯。

 

『緊急通信だ、エリア2-5にて新たな魔物の出現を確認!』

『ダチ、本部に通達!』

『こっちもまた出たー! 一緒にヌージに伝えろ!』

『了解。モニター班から対策本部へ、キーリカの森及び――』

 

 スフィアの向こう側の慌ただしさが増し、話を出来る状況ではなくなってしまった。通信を遮断し、リュックは通信スフィアを片付ける。

 

「すんごいことになってるみたい。スピラ中ところ構わずだよ」

「シューインの時とは違うな。出現場所は無作為、魔物が湧き出てた寺院を離れれば済む問題じゃない。一刻も早く対処しないと」

「アタシたちもいったん戻る? 異界は特に何もなさそうだしさ」

「......進もう」

 

 傍らに置いた杖を持って、立ち上がる。

 

「ここで引き返したら、何も得られない」

「けどさ、進んで何もなかったら?」

「なかったってことは分かるよ、少なくとも」

「確かに。急ぐぞ。早く済ませれば、その分早く戻れる」

「りょーかい! よーし、ささっと調べて地上に戻ろー!」

 

 進めば得られる、例え望み通りの成果を得られなかったとしても。そう信じて、歩みを前へ進める。機械仕掛けの道が続く異界の通路を慎重かつ急いで奥へ向かう。何度か遭遇した魔物を倒し、ヴェグナガンが鎮座していた最深部に通じるゲートの前に到着後、しばしの休息。

 

「思ったより、すんなり来られたな。ここまでは」

「毎回仕掛け解かないといけないのは面倒だけど」

「異界だからね。それにしても......」

 

 ざっと周囲を見回す。前回訪れた時とは、微妙に異なった雰囲気が漂っているのを感じ取っていた。

 

「どうした?」

「幻光の流れが少し変なんだ」

「どうゆーこと?」

「うーん、一定の動きをしてるっていえばいいのかな? 前はこう、もっと無造作に舞ってたの」

「分かる?」

 

 問われたパインは、小さく首を横に振った。二人には掬い取れない、召喚士特有の感性。

 ――この先に、何かがある。

 不意に頭を過った抽象的な感覚を確かめるため、止まっていた足を踏み出そうとした時、ゲートの向こう側に現れた影が近づいて来る。

 

「あれ、人影だよね?」

「ここに居るってことは、あの科学者......アソオス?」

「――違う、避けろ!」

 

 パインの言葉を聞き、咄嗟に散開。

 距離を詰めて斬り掛かってきたてきた人影の手には、鋭利な刀が握られ、藁傘を頭に被っている。

 

「刀? マヤナのガードと同種の使い手か。コイツが、あの送儀士とガードが言ってた辻斬りか? どうして、異界(ここ)に......!」

「てか。挨拶もなしなんて、礼儀がなってないんじゃないのっ!」

「気をつけて、普通の相手じゃない。守護の鎧――」

 

 物理攻撃防御(プロテス)と、念のために魔法攻撃防御(シェル)を二人にもかけて臨戦態勢。相手も、構える。

 一瞬の開いた間、先に仕掛けたのはパイン。激しい斬撃の応酬、鍔迫り合いの最中、相手の前蹴りをもらって押し返された。

 

「くっ!」

「大丈夫っ!?」

「ああ。二人から聞いた通りだ、身を守る気なんていっさいないぞ......!」

「死人なんでしょ? 異界送りはっ?」

「ダメ。ここは、異界だから!」

「ああー、送る先がないのかー」

「どうにしても倒すしかないってことだろ、行くぞ!」

「まっかせなさい!」

 

 防御する気はいっさいなしの相手を前に、リュックとパインの二人の攻撃は確実に当たっているにも関わらず、なかなか致命傷を与えられない。それどころか、動きが鈍る素振りすら見受けられない。

 

「なんなんだコイツはっ! 攻撃を受けてもものともしない!」

「しつこいなー、切りがないっての!」

「あの子、チュアミは相討ち覚悟で懐に飛び込んだって言ってたけど......」

「なら、胴体ごと貫いて地面に串刺しにしてやる!」

「ダメだよ、パイン。この先、戦えなくなっちゃう」

 

 ここはまだ、最深部の手前。護り手を配置したのなら、この先はもっと強敵が待ち構えている可能性が極めて高い。何より、相手の姿、目的、この先に何があるのか不明瞭な以上は消耗戦は悪手。

 

「......じゃあどうする? まともな相手じゃないぞ」

「聞いて」

 

 二人に作戦を伝え、取り囲むような立ち位置。相手の激しい攻撃を耐えつつ、広場の先へとジリジリと押し込んでいく。振り払おうと大きく振り下ろし刀の刃先を掻い潜り、右手で持った杖を首に引っかけ背後を取って、逆手の左手で杖を握る。

 

「せーの!」

「よし!」

「いっけー!」

 

 二人の力も借りて、背中を支点に全体重をかける。ふっ、と辻斬りの体が持ち上がり、勢いをつけて底が見えない奈落へ向かって体を一回転させて回し落とす。一緒に落下しそうになった体を、手を取って繋ぎ止めてくれた二人に引っ張りあげてもらう。

 

「ふぅ、助かった。ありがと」

「まったく、無茶なことを」

「ホントホント。えーと、アイツは......」

 

 座ったリュックが、覗き込む。遙か下の出っ張りに落ちた辻斬りは、何事もなかったかのように立ち上がっていた。

 

「しぶと! もうゾンビだよ、ゾンビ」

「ま、死人か遺体だからな。あそこからは簡単には這い上がれないだろ。今のうち」

「うん、行こう、リュック」

「あ、待ってー」

 

 怪我の治療をしながら、辻斬りが現れた異界の最深部へと通ずるゲートを潜った。潜ったゲートの先は、尋常ではないほどの幻光が渦巻いていた。召喚士でない二人も息を呑むほどの無数の幻光が一方へと向かって流れている。

 

「これが、ユウナが感じてた違和感の正体......」

「あのさ、幻光が向かってるのって、ヴェグナガンの方だよね? まさかとは思うけど」

「急ぐぞ!」

 

 駆け出す。最悪の事態が頭を過った。技職の神・アルブは、ヴェグナガン開発に関わった人物。そのアルブの関係者、科学者アソオス。もし、二人が今、頭を過ったことを実行に移していたとすれば、スピラは再び滅亡の危機に陥ってしまう。

 しかし、その憂いは取り越し苦労に終わった。

 引き換えに、別の懸念を残して。

 

「ヴェグナガンは、壊れたままだ。とりあえず一安心だな」

「でも、幻光はこの辺りに集まってる。前に来たときは、こんなじゃなかったよね?」

「少し調べてみよう」

 

 無惨に崩れ落ちたヴェグナガンの周囲を手分けして調べて回る。空間に渦巻く幻光が多い場所を重点的に調査。崩壊する前、ヴェグナガンが掴まっていた機械柱を見上げていると、近くで何かが弾んだ音が聞こえた。振り向いて確かめる。それは、慣れ親しんだ物体。スピラでもっと盛んな水中格闘技・ブリッツボールの試合球。

 

「何で、こんなところに――」

 

 唐突に、不自然に目の前に現れたブリッツボールの試合球を前に足が止まる。バラバラになったパーツ付近に落ちたボール、ふと感じた視線の先へと向ける。全身を覆うダボダボの防護服と、ガスマスクを付けた小柄な人物が立っていた。

 

「シンラくん?」

 

 ――違う、そんなはずはない。彼は今、ベベルのモニタールームで缶詰状態、異界にいるはずがない。だとしたら、あれは......辻斬りと共に現れた誘拐犯の一人。

 即座に考えを改める。話を聞き出すため、杖を手に足を踏み出そうとした時、カチッカチッと一定のリズムを刻む小さな音を拾った。音の出所は、ブリッツボール。

『言い忘れた。このスフィアは――』

 不意に頭に浮かんだ、ルカのスタジアムでの一幕、咄嗟に叫ぶ。

 

「伏せて!」

「えっ?」

「なんだ......なっ!?」

 

 突然、ブリッツボールが爆発した。寸でのところで直撃は免れたものの、爆風に乗った周囲のパーツが四方八方に飛散、細かな破片のいくつかが体を傷つける。爆風が治まったことを確認してから顔を上げ、体をゆっくりと起こす。積まれていたヴェグナガンのパーツはあちこちに飛び散り、見るも無残な有様。

 

「......二人とも、大丈夫?」

「いった~......酷いよ、これ」

「生きてた回路がショートでもしたのか?」

「違う、爆弾。積み重なった部品の近くで爆発した」

「それって、殺傷力上げたってことじゃん!」

「本気で殺しに――犯人は!」

 

 爆発したブリッツボールを投げたであろう、先ほどまで居たハズの人の姿は既に消えていた。手負いで深追いは悪手と判断し、足下を片付けて座れるスペースを確保して治療に当たる。

 

「爆発を引き起こしたブリッツボールが転がってきた直線上に、シンラみたいな格好したヤツがいたんだな?」

「アンダーベベルで見せてもらったスフィアに映ってた墓荒らしの犯人に似てた」

「じゃあ、アルベドってことだよね、装備の抜き打ちチェックには異常はなかったって、バラライが言ってたし。何でこんなことするんだろ? せっかく、世界から機械とアルベド族に対する偏見がなくなってきてるってのに」

 

 やるせなさに憤るリュックを、パインが気遣ってフォロー。

 

「まだ、そうと決まったわけじゃない。あの科学者は、遺体を操れるんだ。アルベドの子供を使っただけかも知れないだろ」

「そうかもだけどさ。事情を知らない人は、そんなの区別できないし」

「なら、見つけ出して倒すまで。自分の手は汚さないなんて姑息なマネ、同じ1000年怨み続けてたシューインより陰湿だ」

「あの科学者――アソオスは、私たちが原因だって言ってた」

 

 刺さった尖った破片を取りに除き、痛みに耐えながら、腕に包帯を巻く。

 

「私たちがしたことって何だろう......?」

「三年前、“シン”を倒した。それも、永遠に復活しないように」

「半年前には、世界を滅ぼそうとした亡霊(シューイン)を止めた。スピラを破壊するほど危険なヴェグナガンも」

 

 二人が話しているように、大きく分けてこのふたつ。

 永遠のナギ節の到来と、新しい世界の混乱に乗じた復讐の阻止。

 

「ただの戯れ言、責任転嫁。恐怖と絶望に満ちた世界を救いはしても、こんな騒動を起こすための手助けしたわけじゃないだろ」

「そうなんだけど。実際、起きちゃってるから」

「うーん、やっぱり、ナギ節じゃないの?」

「それだと、今まで行動を起こさなかった理由がつかない。ユウナの父親、大召喚士ブラスカのナギ節の時はこんなこと起こらなかった」

「じゃあ、ヴェグナガン壊されて怒ったとか」

 

 消去法ながらも、おおよその答えに行き着いた。

 

「技職の神・アルブは、ヴェグナガン開発の中心人物だったってメイチェンさんが言ってた。欠陥も把握してたし、どこに保管してたのかも知っていたはず」

「ヴェグナガンは、アンダーベベルに厳重に保管されていた。スピラそのものを破壊しかねない強力な兵器の情報が外部に洩れるとは考えづらい。つまり?」

「アルブが、シューインにリークしたってこと?」

 

 リュックの答えに、パインと一緒に頷く。

 機械戦争、技職の神・アルブ、シューイン、レン、ヴェグナガン――バラバラだったピースが徐々に繋がり、朧気ながら全容が見え始めた。

 

「よし、応急処置完了。追うぞ」

「うん」

「りょーかい......って、あれ? これ見て!」

 

 横になって休憩していたリュックが、背後にそびえ立つ機械柱に幻光が流れ込んでいることに気がついた。そこは奇しくも、爆発で吹き飛んだ破片が傷を付けた個所。パインは、剣を突き立て強引に拡げ、機械柱の中を覗き込む。パネルのような機械が、所狭しと並んでいる。

 

「機械の中に、機械?」

「ま、不思議じゃないけど。リュック、何か分かる?」

「たぶんだけど、モニターだと思う」

「モニター? あれ全部か。どうして、この中に――」

 

 機械柱を見上げる、パイン。

 けれど、このまま眺めていても埒があかない。

 

「中にあるんだから、入り口あるはずだよね? 探してみよう」

「あ、待って。ケーブルが繋がってる。あれを辿れば――」

 

 機械柱内部のケーブルを目で辿り、円上の広場の端へ移動したリュックは手助けを求めた。宙に浮く床の下を調べる彼女の体が底知れぬ奈落に落ちないよう、二人で支える。

 

「えーと、あーなって、こーなって......分かった!」

 

 リュックの体を引き上げ、ケーブルが繋がった先へ。

 

「ここなの?」

「そう。下から、ここに繋がってた」

 

 目の前にあるのは、一際大きなヴェグナガンの残骸。

 ケーブルは、ヴェグナガンの真下から機械柱の内部へ繋がっていた。調べようにも、再び活動を開始する怖れがあるため迂闊に手は出せない。当初の予定通り、入り口を探すもそれらしき場所は見当たらない。

 

「仕方ないな。少々手荒い手段使うか」

「まっかせなさい。アルベド印の粘着ばくだーん」

 

 軽いノリで欠損個所に爆薬を貼り付けて、十分な距離を取り、ホルスターの銃を抜く。

 

「じゃ、やっちゃうよ」

「お願い」

「オッケー! えい!」

 

 連射した一発が粘着爆弾に命中、爆発を起こした。黒煙が鎮まるのを待って、近づく。身を屈めればどうにか通れそうな穴が開いた。機械柱の中に入る。リュックの予想通り、数多くのモニターと大きな機械が内部に設置されていた。爆発を免れたモニターの映像を観て、唖然とした。

 

「見て! ルチル隊長だよ」

「こっちは、ドナとバルテロだ。キーリカの森で、魔物と戦ってる!」

「キーリカの森......ダチのヤツ、エリア2-5って言ったよな? まさかこの映像、全部リアルタイムなのか?」

 

 他のモニターのその全てに、スピラ各地の映像が映し出されていた。

 ――進めば得られる。

 そう思って進んだ先で得たのは、想像を遙かに超える予想外のモノだった。

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