FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission22 ~取引~

 拉致事件の捜索を本格的に開始してまる一日以上が経ち、今日も夜明け前からしらみつぶしの懸命な捜索活動を行うも何一つとして成果を得られず、夕暮れ時を迎えた。鬱蒼とした林を抜けて、幻光河の湖岸近辺の草原でキャンプを張る。川縁の幻光花の集まる虹色の幻光虫が、空のオレンジ色と相まって思わず目を奪われてしまいそうな幻想的な風景を描いている。

 汲んだ川の水を簡易浄水器に流し込み、夕食の準備をしながらスフィアでニュースを観ているクルグムの対面の丸太に腰を降ろす。

 

「酷い、負傷者も少なくない。旅をしていた時みたいな強力な魔物は少ないみたいだけど、早く騒ぎを収めないと」

「で、お前の見立ては?」

「やっぱり、幻光が影響してるのは間違いないと思う」

「幻光ねぇ」

 

 幻光河へ視線を向ける。

 魔物を作り出す幻光は、夜が深くなるにつれて活動が活発になる。特に幻光が多く集まる幻光河とグアドサラムの周囲には、守備隊の多くが割り当てられていたが。被害がスピラ各地へと拡がっていくにつれて、各地へ分散されていった。今、この地域に残っているのは幻光河の南北に二部隊ずつ各隊5人編成の20名と、誘拐事件の被害者の捜索を手伝っているグアドサラム在住のルブラン一味の数名のみ。圧倒的に人手不足ではあるが、それは他の地域も同じ、各地で命を賭して奮戦している。

 

「今日の捜索でだいたい全体の1/10くらいの規模かな」

「比較的平坦な土地を選んでそれだけか、あと何日かかるかな?」

「どうだろうね。出来たよ」

「こっちも完了」

「ありがとう」

 

 濾過した水を注いだコップを渡して、本日の夕食にありつく。焚き火にかけた鍋に張った湯で暖めたレトルト食品と缶詰、懺悔の旅で食べ飽きた食事も、今では唯一気を休められる貴重な時間。何より、幻光河の周辺は幻光が多いにも関わらず、魔物はあまり出現しない。

 

「魔物は、行き場を失った幻光が集束して生まれるから」

川縁(ここ)は、幻光花に集まるからってことか」

「詳しくは分からないけど、河を少し離れた街道ではやっぱり多いしね。あ、定期報告の時間だ」

 

 出立前に受け取った、幻光の干渉を受け難い新型通信スフィアを取り出して立ち上げて、データを送る。数分後、モニター班を統括するギップルから連絡が来た。

 

『悪ぃ、ちーと動きがあって遅くなった』

「いえ、報告です。本日探索し終えた地域のデータを送信しました」

『ご苦労さん。どうだ? 新しい装備は』

「問題ありません、と言いたいんですけど」

 

 苦笑いのクルグムは、与えられた新しい武器に搭載された新システムに悪戦苦闘していることを伝え、それを聞いたギップルは、どこか愉快げに笑っている。

 

『ま、実戦あるのみさ。あの人たちは、既に自在に使いこなしてるぜ。で、訊きてぇんだけどよ。幻光河周辺に何か変化はあったりしたか?』

 

 スフィアに映るギップルの笑みは消え、真剣な表情に変わった。

 

「大きな変化はありません。何かあったんですか?」

 

 クルグムの後ろから顔を出し、突っ込んで訊く。やや顔を伏せたギップルは、後頭部を掻きながら若干考え込み、やがて口を開いた。

 

『一部地域で魔物出現頻度が急激に鈍化した』

「えっ?」

 

 クルグムと顔を見合わせる。あれだけ騒がしていた事件が限定的とはいえ、治まったことに驚きを隠せない。

 

『理由は不明だ。だが、要因は異界にある可能性が高い』

「もしかして、ユウナ様ですか?」

『だから分かんねぇって。今、それを調べてる。それと伝えておくことがある。チュアミ、お前が見た防護服姿のヤツには注意しろ。ブリッツボール型の爆弾を所持していると思われる』

「爆弾? ブリッツボールの?」

「分かりました。注意します。減少した地域というのは?」

 

 出現減少地域は、スピラ第二の都市・ルカと、ジョゼ寺院周辺。

 それらに共通点といえるものはない。唯一の救いは、人口の多いルカが対象地域であること。予断は許されないが、仮に本当に減少傾向にあるのなら被害も比例して減少することが期待される。

 

「ちょっと待ちな!」

 

 やり取りを終え、通信を切ろうとした時、茂みから聞こえた声に顔を向ける。先日、辻斬りとの戦闘後に逃げ込んだグアドサラムで世話になった、ピンクを基調にした露出度の高い姿の女性・ルブラン、ふくやかな体格の男性・ウノー、細身で長身の男性・サノーの三名が茂みから姿を現した。ルブランは、スフィアに向かって要求を伝える。

 

「ヌージのダンナに取り次いでおくれ。通信障害が酷くてね」

『現場だ。簡単に掴まんねーよ』

「使えない男だねぇ。とっておきの情報を手に入れたってのにさ」

『......やっちゃみるが、確約は出来ねぇからな』

 

 したり顔のルブラン。スフィアカメラを構えるサノーに、ウノーが小声で問いかける。

 

「とっておきの情報なんてあったか?」

「お嬢のことだ、ヌージと話したいだけだろう」

「お黙り!」

 

「申し訳ございません!」と、二人は声を揃えて平謝り。そうこうしている間に準備が整い、スフィアに映る映像が切り替わった。

 

「ダンナぁ! 元気だったかい?」

『どうにかな。元気そうで何よりだ。それで? 緊急な案件と聞いた。被害者が見つかったのか?』

『そのことなんだけどね。捜索中に、遺跡を幾つか見つけたんだよ」

『遺跡?』

「ああ、こいつさね」

 

 大きく開いた胸元から取り出したふたつのスフィアを再生させる。古の遺跡が映し出された。遺跡の内部は、酷く朽ち果て人気がない。もうひとつの方も同じような感じの佇まい。

 

『なるほど。座標は解るか?』

「もちろん。まとめて送っておくよ」

『助かる。クルグム、チュアミ、お前たちは遺跡へ向かえ。召喚士の素質を持つお前たちなら何か掬い取れるかも知れん。ルブラン、引き続き捜索を頼む』

「はい、分かりました」

「はいよ、ダンナ」

 

 ヌージとの通信を終え、ウノーから教わった遺跡の座標を地図に書き込む。一個所はさほど遠くなく、現在地から歩いて行ける距離にあるが、夜が深くなれば遭難の怖れもあるため明日に持ち越し。ルブランたちも、同じ場所でキャンプを張る。

 

「それが、あんたの新しい武器かい?」

「特種な機能があって、マテリアルドライブシステム......だっけ?」

「頼りないね。貸してごらん」

「あ......」

 

 返事をするまもなく、シンラが開発した新機能搭載の剣をかっ攫われた。

 

「で? この剣のどこが特種なんだい」

「刃の付け根と柄の先にスフィアがついてるでしょ」

「搭載された異なる性質のスフィア同士の相乗効果で従来の数倍の力を発揮するそうです。僕の杖も、同じシステムが搭載されてて。チュアミのは攻撃に、僕の杖は補助を主においているそうです」

 

 スフィアの組み合わせ次第で、様々な能力を引き出すことが可能。ユウナたちの武器、防具にも同様のシステムが搭載されている。

 

「要するにリザルトプレートを組み込んだような武器ってわけだね。なら、このルブラン様が手本を見せてあげるよ! ウノー、構えな!」

「へい、お嬢! いつでもどうぞ!」

 

 背中に背負った円上の大きな盾を前に構えたウノーは、深く腰を落とした。

 

「止めておいた方が......」

「小娘が小生意気な口をきくんじゃないよ! おりゃあーっ!」

「ぐわーっ!?」

 

 忠告を無視して勢いよく跳びかかり、刃先が盾に触れると同時に閃光が走り爆発を巻き起こした。ウノーは真後ろに転がり、ルブランは攻撃の反動で無残にもうつ伏せで地面に倒れ込む。

 

「あいたたた......ど、どうなってるんだいっ?」

「だから言ったのに。強力な武器は使い手を選ぶって、ヌージ司令が言ってた」

「実は、僕らも完璧には使いこなせていないんです」

 

 守備隊には、同システム搭載の廉価版武器が支給されている。実力者の一部の部隊長以外は、出力を抑えたスフィアをひとつのみ搭載、複数の複合効果で爆発的な作用を生み出せる程のポテンシャルはない。

 

「状況に合わせて、組み合わせと出力を手動で調整しないといけなくて」

「ふむ、なかなか面倒な武器だな。しかし――」

 

 カメラを回しながらサノーは、ウノーの下へ。

 

「一撃でウノーの盾に亀裂を入れるとは、破壊力は折り紙付きということか。まさに、諸刃の剣」

「いいから起こしてくれよ!」

 

 カメラを持っていない手を貸し、倒れたウノーを引き起こす。立ち上がったルブランが「ま、まあまあだね!」と強がりを言いながら差し出した剣を鞘に収め、横に置く。

 

「あの、遺跡の内部はどのような感じですか?」

「何もない。そもそも、この遺跡自体結構前に見つけたものだ。内部の探索はとっくに終わっている」

「はあ?」

 

 新エボン党を創設した僧官・トレマが提唱したスピラの歴史を知る真実騒動の折り、スフィアハントをしていた頃に発見した遺跡を、電波障害で直接連絡がつかないヌージと話すために盛っただけ。

 

「少しくらい脚色したってバチは当たらないさ。それにダンナは、遺跡を探せって言ったからねぇ。何より、身を隠すには持って来いの場所だからね。ってことでアンタたちは、遺跡内部を調査しな」

「異論はないけど、連絡はどうすれば?」

「うちの諜報力甘くみるんじゃないよ。連絡手段なんていくらでもあるさ」

 

 そう得意気な顔で言うと「アンタも手伝いな」と、男子禁制の湯浴みの支度に取りかかった。

 翌日。陽が昇る前に出発準備を済ませ、クルグムとふたり、昨夜教えてもらった遺跡へ向かう。鬱蒼とした道なき道を、地図を頼りに進み、一個所目は空振り。次の場所を目指す。やがて、開けた場所に出た。

 

「座標はここだ。この辺りにあるはずだよ」

 

 四方を木々に囲まれた草原。手分けして探すも、それらしき建物は見当たらない。大きめの石に座って、いったん休憩。

 

「チュアミ。もしかしてそれ、瓦礫じゃない?」

 

 足下を見る。座っている石の側面に模様らしきものが刻まれていた。

 

「ってことは――」

 

 後ろを振り返る。風か、何かで倒れた木が折り重なっていた。

 

「やり過ぎちゃダメだよ」

「分かってる。極力抑えて......」

 

 鞘から抜いた剣を両手でしっかりと構え、倒れた木々に向かって振り下ろす。真っ二つ折れた木々の下、爆発の衝撃で抉り取られた地面に、地下の遺跡へ続く階段が現れた。

 ランタンに灯した火を頼りに、脆い階段を壁伝いに降りきった先は、やや狭めの地下室。中は荒らされ放題。

 

「これ、あの人たちの仕業だよな」

「だろうね。何だろう? これ......」

 

 クルグムは、床に落ちていた古ぼけた紙を拾いあげる。意味不明な数字の羅列が紙一面にかきつづられていた。重要資料として回収し、地下室内を手分けして調べる。倒れたテーブルを立て直し、見つけたものを置く。その殆どが、同じようなメモ。

 

「スピラの文字......じゃないよな」

「アルベド語じゃないかな? 対策本部に訊いてみるよ」

 

 確認のため地下室を出て行った、クルグム。

 残った紙切れを読む。内容はどちらも不明だが、文章と数式が書かれてある2種類のメモを振り分けまとめていると、メモが一枚落ちた。落ちたメモを拾おうと腰を屈めた時、不意に拾った違和感。ここは、地下室。風の通り道は出入り口の階段だけにもかかわらず、足下から風が凪いでいる。つま先で地面を叩く。

 

「ここだ」

 

 床に降り積もった埃を払い。床石の繋ぎ目に剣先を差し込み、テコの力を使って慎重に持ち上げる。剥ぎ取った床下に、更に地下へと降りる梯子がかけられていた。鼻につく深いな臭いがする。クルグムを待たずに、更なる地下へと降りた。

 するとそこには、手術台らしき台で顔に布がかけられた人が横たわっていた。鼓動が、動悸が高鳴る。恐る恐る近づき、確かめる。

 

「――っ! はぁはぁ......」

 

 思わず息を呑んだ。その人は、既に亡くなっていた。

 あの時の、母がエボナー狩りに遭った時の光景がフラッシュバックして、足が思うように動かない。

 

「やれやれ、なーんか騒がしいと思ったら。思わぬお客様みたいだね」

 

 赤毛、灰色の瞳、丈の長い白衣を纏った青年。旅立ちの前、聞かされた情報類似する人物像。咄嗟に剣を構える。

 

「――お前、科学者だな!」

「あれ? ボクのこと知ってるんだ。大召喚士様から聞いたのかな。ま、別にどうでもいいけど。それでキミは、ここで何をしてるの?」

「......グアドサラム近郊で民間人を拉致した誘拐事件を追ってる」

「ああー、あの人の案件か。じゃあ、ボクには関係ないね」

「あの人? 1000年前の科学者のことかっ!」

「ご明察。しっかし......」

 

 武器を構えていることもお構いなく、遺体の前へ行き、呆れ顔を覗かせた。

 

「相変わらず、雑な処理をする。それにしても色々起こるなぁ。あ、そうだ。ねぇキミ、協力してくれない? あの人の本当の目的教えてあげるからさ」

「......お前は――」

 

 ――いったい、何を言っているんだ?

 悪びれた様子は微塵もなく、平然と言ってのけた科学者・アソオスの提案した内容は、まったくといっていいほど理解が追いつかなかった。

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