FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
スピラ最果ての大地、ザナルカンド。
飛空艇の故障と悪天候が重なって予定よりも大幅な遅れの到着。つい半年前まで観光地として賑わいを見せていた神聖な地も、今では、野生の猿たちの楽園。むやみに訪れる人も居ない静かな大地に戻った。
スピラに死と絶望ともたらす厄災“シン”を倒しうる唯一の究極召喚を求め、各地の寺院を巡り命懸けの過酷な旅を耐え抜いた数少ない召喚士とガードが辿り着く最後の舞台。彼、彼女たちもしたであろう、行く手を阻む霊峰ガガゼトの山道を抜けた最後のキャンプ跡地で体育座りして、幻想的に輝くの夕焼け空に様々な想いを馳せながら、静かに体と心を落ち着ける。
「......よし」
「いいのか?」
「大丈夫だよ。早くお話しを伺わないと」
「そうか」
シキと一緒に、朽ち果てたフリーウェイをエボン=ドームへ向かって歩いている途中、幾度となく行く手を阻む魔物を倒し、数え切れない無数の幻光が渦巻くエボン=ドームの入り口に辿り着いた。
「ここが、エボン=ドーム。凄い数の幻光......ドーム内が巨大なスフィアみたい」
「現世とかけ離れている。長居は無用、手短に用件を済ませよう」
「うん」と頷いたのが合図だったかの様に、目の前で幻光が集束、巨大な魔物が現れた。杖を取り出し、身構える。左腰の鞘に収めた刀の鍔に親指を添えたシキが、前に出た。やや右手前下がりの抜刀の構え、跳びかかってきた魔物が間合いに入った瞬間、瞬く間に切り裂いた。
「無駄に動かなくていい。何処であろうと、魔物の相手は受け持つ」
「ありがとう」
複雑に入り組むエボン=ドーム内部の回廊をひたすら奥へ進む。試練の間に続く通路を歩いていると、不意に人影が通り過ぎた。見覚えのない映像が頭に直接流れ込んで来た。
「残滓......幻光に刻まれた記憶の欠片」
ここまで辿り着いた召喚士とガードの記憶。スピラにその名を列ねる歴代の大召喚士たちの中、死の螺旋を絶ち切った人たちの記憶も残されていた。一歩一歩、歩みを進める度に記憶が流れ込んで来る。幻光に残された記憶を視ながら、試練の間の謎を解き、中央の昇降機で地下へ降りる。
「一緒に旅をしてきたガードが、究極召喚獣になる。どうして、他の祈り子様じゃダメなんだろ?」
「それも聞けば分かる」
「そうだね。行こう」
床に埋め込まれた力を喪った祈り子像を避けて奥の大広間の階段を昇り、両開きの扉を開く。一瞬、外に出たのかと錯覚を覚えた。星空のような異空間――魔天が拡がる。
ここで繰り広げられた激しい戦闘を物語るかの様に、魔天の中央には陥没の痕が残されていた。
「ここでユウナさんたちは、ユウナレスカ様と......究極召喚じゃ死の螺旋を絶ち切る根本的な解決には至らない。だけど、ユウナさんたちは選んだ。より困難な道であると知りながら、苦しみを全て背負うことを覚悟して......」
「どうする? 敵対する可能性もあるが」
「聞くよ」
目を閉じて、静かに、そして真摯に呼び掛ける。
始まりの大召喚士・ユウナレスカ。求める考えの違いから対立した相手だったとしても、命を賭した彼女のナギ節で起きたことを、今起こっている世界の異変を解決するために――。
「私を呼んだのは、どなたですか? この、“シン”無き世界で......」
ゆっくり、目を開ける。銀色の長い髪を靡かせ、美しくも何処か妖艶な女性が、抉られた地面を隔てた先に立っていた。
「ユウナレスカ様、教えてください。機械戦争で、戦争終結後のあなたのナギ節で何が起きたのですか? どうか、お願いします」
考えは違ってもスピラを、世界を想う気持ちは同じだったはず。ふわりと浮き、宙を舞って近づいて来た彼女は、全てを悟った様に物悲しそうな表情を見せた。
「あなたは......そうですか。やはり、あの方は諦めていなかったのですね」
「あの方? ベベルの技術者、技職の神・アルブのことですか?」
「そうです」と小さく頷き、背を向ける。
「機械戦争の最中ベベル中枢から、技職の神・アルブの冠名を拝命したベドール。彼を中心とした技術革新は、均衡していた戦況を一変させました。次々と前線へ導入される新型の機械兵器を前に劣勢に陥ったザナルカンドに、敗戦という二文字の現実が目前に迫っていました。しかし、思わぬことが起きたのです。アルブは数名の技術者を引き連れ、その科学力と共に他国へ亡命したのです」
責任者と技術者が忽然と姿を消したベベルは大混乱。機械兵器の配給が滞った一時の隙をつき、召喚士エボンは最終手段を使った。ザナルカンドの住民を祈り子に変え、思い出の、夢のザナルカンドと守護の“シン”を創り出した。
「“シン”の復活と共に、時代のうねりに飲まれ忘れられたと思っていたのですが。彼の執念は、私たちが考える以上のものだったのですね。あれは私が、夫ゼイオンを究極召喚獣として用いて鎧である“シン”を破壊した後のこと。ベベルは、“シン”が父エボンを守護する鎧であることをまだ知らず、世界再編に着手した後のことです。姿を消していたアルブが、動き出したのです」
アルブの離反は不問に処する以外の選択肢はなかった。何故なら、機械文明が破壊し尽くされた世界は、技職の神・アルブと配下のベドールに頼らざるを得なかった。要職に復帰したアルブは、首都ベベルの復興と再配備に着手。復興と比例して、ベドールの地位も向上の兆しを見せた。
しかしそれは、長くは続かなかった。
破壊の限りを尽くした“シン”の復活と共にエボン教がスピラの覇権を握り、機械戦争前後のベベルについての箝口令と「機械は、“シン”を呼ぶ悪しきもの」と禁止令を敷き、寺院の教えに背く機械を開発したベドールを悪しき種族と定め、彼らをとりまく環境は再び地へと堕ちた。
「政権を追われ、一転して迫害の対象となったアルブとベドールは反骨心から双方の頭文字を取り、“アルベド”と名を変え、反エボン寺院の象徴となったのです」
「そうなるよう仕向けたのは、あなたではないのか」
「シキ?」
「否定はしません。結果としてそうなったのは事実です。ですがアルブは、“シン”復活以前から人々の崇拝の対象であった召喚士やベベル兵に対して、異常なまでの劣等感を抱いていたこともまた確かなのです。やがて、その憎しみの対象は召喚士や兵士だけではなく、エボン寺院が支配するスピラ全土へと変わったのです」
アルブの悲願が成されることは向こう1000年の間なかったが。召喚士エボンが、“シン”の核が消滅し“永遠のナギ節”が訪れたことで状況が変わった。永遠のナギ節が始まって二年が経ち“シン”の復活の兆し、兆候が見えないことで機会を待っていたアルブは、ヴェグナガンの破壊も追い風になり、ついに行動に移した。
「レン、懐かしい名。ザナルカンドの歌姫であり、優秀な召喚士。私も、彼女の歌は好きでした。私の次に“シン”を倒す者がいるとすれば、深く愛し合う恋人が居る彼女だとも思っていました。ヴェグナガンが破壊されたことは想定外の出来事だったことでしょう。同時に、好都合でもあった。ザナルカンドを破滅へ導いた機械を狙う“シン”と、スピラそのものを滅ぼしかねない大いなる存在ヴェグナガンが同時期に消え去ったのですから」
「それでユウナさんたちが騒動の原因、引き金になったって......」
「科学者・アソオスなる者を私は存じません。あなた、マヤナと言いましたね」
「あ、はい」
「いいですか、よくお聞きなさい。いざという時は、あなたが終わらせるのです。召喚士としての純粋な素質では、ユウナには及ばないのかもしれません。ですが想いの強さ、絆の深さは劣っていません」
「あたしが......?」
大召喚士の始祖・ユウナレスカから、まさかのお墨付きを貰って戸惑いを隠せない。
「でも、あたしは召喚方法を知りません。どうすれば――」
「案ずることはありません。あなたは既に、その
「それが、究極召喚......」
「あなた方の疑問は解消されましたか?」
「あ、もうひとつだけ。1000年前、戦没者が故郷へ還って来たことについて何かご存じでしょうか?」
「死人......ではないようですね。少なくとも、ザナルカンドの秘術ではありません。ベベルの獣芯にならもしくは」
「そう、ですか。ありがとうございました」
「いえ。久方ぶりに、ひとりの“人”として会話が出来たことは感慨深いものがありました」
柔らかな微笑みを浮かべた彼女の影が薄くなり、やがて抜けゆく幻光と共に虚空へと還っていった。
「ユウナレスカ様、視た記憶よりもずっと優しい人だった」
「彼女もまた、縛られていたのかもしれないな、エボンの呪縛に。あるいは――」
続きを言うことなく、彼はすっと身を翻した。
「どうしたの......空気が変わった、何だろう? 嫌な感じがする」
階段を昇って来た影、抜いた刃同士が甲高い音を響かせる。
「シキっ!」
「問題ない、下がっていろ。この兵装、古のベベル兵。ユウナレスカの影を追って呼び寄せられたか」
敵はひとりじゃない。何人もの兵士が、魔天へ攻め込んで来る。彼はまったく臆することなく、ひとりひとり確実に戦闘不能へと追い込んでいく。
「あたしは......」
――知っている、この光景を。
そう、これは忘れることのない。三年前に触れた残滓、死者が残した記憶。戦闘域の後方で銃を構える兵士と、彼の間に飛び込んで両手を広げる。銃声が響いた。倒れた兵士の身体が消えていき、魔天に攻め込んできた古のベベル兵も全て倒れていた。
「あまり気負うな。キミは、俺が護る。用向きは済んだ」
「うん、帰ろう」
杖を振って舞い踊り、蘇った兵士たちを異界へ送り。
呼び掛けに応えたくれたユウナレスカが居た場所に深く頭を下げて謝辞を表し、異空間の魔天、そしてエボン=ドームを後にした。