FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
トラブルで飛空艇が飛ばないことを考慮して、グアドサラムを経由せずに、異界の花畑からベベルの祈り子の間に繋がる異界への道を活用して、地上へ戻ることにした。幾重もの仕掛けがある螺旋状の長い坂道を登りきったベベルの祈り子の間には、先客が居た。
両膝をついて、胸の前で両手を握って、真摯に祈りを捧げていたマヤナは気配に気付いて、閉じていた目をゆっくり開いた。
「ユウナレスカを呼び寄せたのっ!?」
四人一緒に祈り子の間を出て、話し合いの場に指定された議長室へ途中に聞いた話に、リュックは大声を上げた。それもそのはず、三年前意見の相違から敵対して手にかけた相手を、現世に呼び寄せたのだから。
「いろいろ教えてくださりました。スピラのことも心配されていました」
「信じられないんだけど」
「けど、実際に呼び寄せて聞いたんだろ。何か収穫はあったのか?」
「祈り子の成り立ちとか。事件の動機になったと思われる出来事、それに伴うアルベド族の由来とかです」
「アルベドのっ?」
アルベド族という言葉を聞き、リュックが大きく反応を示すも、お互いに話すことはたくさんある。得た情報を一刻も早く共有するため、議長室へ急いだ。
「何かあったんですか?」
ノックして入った議長室は、緊迫した空気が漂っていた。ただ事ではない。窓辺に立つバラライと、ソファーに浅く座って若干前屈みで両手を組むヌージの険しい表情が物語っている。
「......例の科学者が、取引を持ちかけてきました」
「取引? どういうことだ?」
まるで問い質すように言ったパインの疑問に、ヌージが答える。
「拉致事件を捜査していたチュアミが、古代の遺跡に隠されていた地下室で遭遇したそうだ。容姿、風貌、言葉遣いからして間違いない。同時に被害者の遺体も見つかった」
被害者は粗末な手術台の上で腑分けされていたと知り、酷く気分が滅入る。
「取引の内容は、現世に渦巻く幻光を安定させること。対価は、技職の神・アルブの情報」
「その場で飲んだ。お前たちの言い分は分かっている。安直な判断は足下を見られるだけ、せめて一度持ち帰るべきだと言いたいんだろうが」
「彼女は、命のやり取りはおろか、人生経験もまだまだ浅い。あなた方を追い詰めるほど強力な魔物を精製する相手に対し、咄嗟の状況化において駆け引きを求めるのは、さすがに酷な要求になってしまう」
「死にたがりと揶揄された俺が言うのも滑稽だが、命あっての物種だ。何より、有力な情報を掴んできた。地上の幻光が不安定になっている原因はグアドでも、異界に異変が起きているわけでもない。全ては、アルブの所業によるもの」
そう言って、テーブルに差し出された資料には、科学者アスオスの具体的な要求が箇条書きで記されている。中でも一際目を引いた要求が――。
「各地の通信スフィアの撤去要求って......」
「そんなの無理にきまってるじゃん!」
「全容把握が出来なくなって被害が拡がるだけだ、呑めるはずない。しかも、理由が『邪魔だから』って馬鹿げてるにも程があるぞ」
「ま、そのとおりなんだがな。しかし、幻光を安定させるには不可欠だと伝えられたそうだ」
「あの......」
話を静かに聞いていたマヤナが、やや遠慮がちに挙手。どうぞ、とバラライに促されて話し出す。
「魔物出現の傾向に変化があると、モニター班の方から伺ったのですが」
「もちろん、僕たちにも報告は上がっている。スピラ全土ところ構わず至るところで出現していた魔物が、一定の場所で極端に減少した、と」
「そうなんですか?」と尋ねると、「ええ」と頷いたバラライは、テーブルに広げられている地図に指を差す。
「該当地域はルカと、ジョゼ寺院近辺。お三方にも連絡を入れたと、アルベドの少年から報告を受けましたが、受け取っていませんか?」
二人と顔を見合わせる、連絡は受け取っていない。ここのところよくある通信障害と思いきや、リュックが腰に身に付けたポーチの中からメッセージ受信を知らせる着信音が聞こえた。
取り出した新型通信スフィアには、魔物の動向に変化があったことを報せる旨のメッセージが届いていた。
「今? 何でだろう?」
「あれじゃないか? 前、異界から戻ってきた時も日付が若干狂ってただろ。異界から連絡する分には感じないけど、地上からだとタイムラグが起きるのかも」
どうあれ、そういうことでいったん納得して話を戻す。
「あたしの感覚の話になってしまうんですけど、ベベルの幻光はさほど荒れているように感じません」
「うん、私もそう感じる。幻光が集まりやすい水上都市なのに、安定してる」
「イサール氏を始めとした元召喚士、現在の送儀士たちが一定の間隔で異界送りを行っているからです。ベベルはスピラの首都、ここが揺らげばスピラ全土が揺らいでしまう」
しかしながら、“シン”が消滅した現在、送儀士になり得る召喚士の資質を持つ者の絶対数が少ないため、各都市部へ派遣出来るほどの人数は確保出来ない現状、根本的な解決には至らない。
「今は、相手の要求を呑む他に選択肢はない」
「テロリストの要求に素直に従うのか? あんたらしくない」
「フッ、無論ただでやられるつもりはないさ。策は立ててある。危険な賭けになるがな」
「通信スフィア撤去作業に伴い、ベベル在住の送儀士を一斉に各地に送り込みます。しかしこれは、一時的な時間稼ぎにすぎません。実際は通電の遮断ですが、撤去作業が完了すれば、取引を持ちかけて来た科学者は何らかの方法でコンタクトを取ってくると思われます」
「打開のチャンスがあるとすればそこだけだ。交渉で済めば御の字だが、おそらく、戦闘は避けられないだろう」
取引を持ちかけてきた科学者アソオスとの交渉が長期、決裂した場合、スピラ全土の幻光が不安定な今、無作為に出現する魔物の探知は通信スフィアを無くしては極めて困難。交渉に命運がかかっている。
「科学者との交渉にはあたってですが。ユウナさんとマヤナ、お二人同席していただきたい」
「私ですか?」
「ええ、相手は幻光を扱いに長けています。“シン”を倒した大召喚士と、“シン”無き世界で修行を積んできた送儀士。二人でなら対抗可能と考えています。もちろん、直接の交渉は僕が行います。あくまでも、想定した最悪の状況に陥った時の保険だと思ってください」
「分かりました。いい?」
「はい」
彼女も頷く。同時に、ガードのシキも同行も決まった。
「アタシたちはっ?」
「俺とギップルと共にスピラ各地に飛んでもらう。ガガゼトには、キマリ=ロンゾ族長。ビサイドには伝説ガードが二人いるが、他はな。守備隊だけでは手が回らん」
「そういえばまだ、飛空艇飛べないの?」
返答は、一部地域を除いて航行不能状態が続いている。
「うーん、通信スフィアの再稼働考えると結構厳しいかも」
「交渉の間、全力で持ちこたえろってことか。持久戦の上に、スピード勝負。責任重大だな」
「移動手段ですが。牧場から、チョコボを貸し出してもらえる手はずになっています」
「チョコボ! それならどうにかなるかも!」
「集合は明日の明朝、グレート=ブリッジだ。部屋はこちらで用意した」
「了解」
話がまとまり、解散。夜に会う約束を交わしたリュックとパインは、旅支度と装備の再調整ため、モニター班のシンラとギップルの元へ赴き。バラライとヌージは、作戦の最終確認のため議長室に残り。二人で食堂へ向かう間の廊下で、一足先にザナルカンドでの話を聞く。
「強い絆で結ばれた人がなった祈り子を、創り出した召喚士が召喚することで本来の力を最大限引き出せる。それを、究極召喚と呼ぶそうです。各寺院の祈り子様たちにも、想いを同じにした召喚士がいたんです」
想いを同じにした召喚士の命が尽きた後も、永遠に終わることのない夢を見続ける祈り子。“シン”を倒す旅に出た召喚士たちは、想い人を喪った祈り子たちの力をほんの少しだけ貸してもらっていただけ。もし、本当に永遠というものが世界に存在するのなら、それは現世に生前の姿を残す死人ではなく、夢を見続ける半死半生の祈り子なのかもしれない。
「ユウナレスカ様のナギ節以前は、祈り子ではなく“獣芯”と呼ばれていて、ザナルカンドの戦闘用の祈り子像のような器が決まってあったわけでもないそうです。」
「じゃあ、ベベルの祈り子――獣芯は、岬の祠の祈り子様みたいに石像じゃないかもしれないんだね」
「はい。皆さんが戻る前に聞いたんですけど、幻光河周辺の森の中には古代の遺跡が複数点在しているそうで。今、シキが情報を収集に出てくれています。あたしも、今回の件が一段落ついたら一緒に探してみるつもりです」
元々通信スフィアが設置されていない森林が広がる地域の捜索、人手は多いに越したことはない。手伝うことを伝え、他の話を聞きながら食事をしていると、クルグムたちがやって来た。
「お食事中、申しわけありません。先日は、しっかり挨拶出来ず――」
「畏まらないでいいよ。二人も明日出発だよね、詳しい話聞かせてもらえるかな?」
「あ、はい。失礼します」
四人掛けの席へ移動、クルグムたちの向かいの席に腰を降ろし、科学者アソオスと対峙した時の状況を訊ねる。
「どうして、通信スフィアの撤去が必要なのか言ってなかった?」
「......説明しても時間の無駄って言われました」
不機嫌そうなむくれ面。
ガガゼトで遇った時と同じ、質問をのらりくらり躱して肝心な部分は決して語らない。
「しかも、面倒だからですよっ? どれだけバカに――」
「面倒? ちょっと待って! 理由って、通信スフィアが邪魔なだけじゃないの?」
「え? まあ、そう言ってましたけど。でも、数が多いから面倒なんだよねーって」
勘違いをしていた。
彼女の話を聞く限り、アルブとアソオスは必ずしも志を共にしていない、そう考えると、成功報酬にアルブの情報を持ち出して来た理由も頷ける。そしてなりより重要なことは、通信スフィアが何かしらの影響を与えていることを示唆しているということ。
* * *
翌朝、リュックたちが各地へ出発。議長室で交渉に備えるバラライに、昨日聞いたことと疑問に感じたことを伝える。
「通信スフィア......そういえば以前、アルベドの少年から気になる報告があった。魔物騒動の起き始め、人が居るところに魔物が出ると」
「それ、普通ではないんですか?」
「そうなんだけどね」
異界送りをされずに異界へ行けなかった死者の魂が、生きている人を羨み人を襲う魔物に姿を変える。
「しかし、通信スフィアが現場を捉えている場合が多い、何か因果関係が――」
言いかけたところで、総員が現場に到着したことを伝える通信がシンラから来た。
「そうか。各員に通達、健闘を祷る」
『了解。十秒後に遮断するし。ユウナたちも気をつけて』
「ありがとう」
通信が途切れてピッタリ十秒後、テーブルに置かれたスフィアの電源が全て落ちた。もう情報は入ってこない。何も出来ない歯痒い気持ちを抱きながら一刻が過ぎ、自体が動きを見せた。
議長室のドアが何度も叩かれる。急いで応対に向かう。ドアの向こうには、息を切らせたベベルの警備兵。
「議長、緊急報告です! 市街地に、未知なる魔物が出現しました!」
「わかった、すぐに対応に回ってくれ。他に被害は?」
「目下、全力で調査中です。失礼します!」
「俺が行こう」
「お願い!」
開け放った窓辺から中庭の位置を確認したシキは窓から飛び降り、すぐさま現場へ向かう。時をほぼ同じくして、もう一度扉が開かれた。ロング丈の白衣、赤毛に灰色の瞳、ミステリアスな雰囲気を醸し出す人物。
「ご無事で何よりです、大召喚士様。お初にお目にかかります、バラライ議長閣下殿と......ま、いいや。少々気を引かせてもらったよ」
何か言いよどんだが、真正面から乗り込んで来るとは夢にも思わなかった。
「......キミが、科学者アソオス。要求は全て呑んだ。さっそく教えていただきたい。技職の神・アルブ、そして、キミの思惑を――」
真剣な顔のバラライとは対照的に、まったく緊張感を感じない。
「あの人の目的はスピラの民、とりわけ元エボン寺院の僧官、人々の敬愛の対象だった召喚士への復讐だったんだけどね」
「だったとは?」
「単純に時間をかけ過ぎたんだよ。1000年も待ってるから」
「やはり、強い憎しみを持った死者か」
「不正解。あの人は生きている」
想定外の答えに言葉を失い。彼は、科学者アソオスはまた愉快げに笑った。
「あなた方は、人の、生物の命はどう決まるか知ってるかな?」
「心臓が停止した時だろう」
「半分正解。不慮の死以外の場合、テロメアという身体の細胞の中にあるものが生命の期限を決める。テロメアには限界があり、やがて尽き果てる。アルブは、死亡間もない人体の細胞の中から採取した生命の期限を司るテロメアを継ぎ足し、現在まで生き延びてきた」
専門知識すぎて理解が追いつかない。
アソオスはお構いなしにやれやれ、と軽く肩をすくめた。
「死ねば楽になるのに。あの人は、諦めが悪いというか臆病というか。現世に姿を留めらない可能性を恐れている。既に復讐心よりも、生への執着心の方が勝っているんだ」
「ならば、なぜこんなことをする? アルブの、ベドールの生い立ちには同情する面はある。怨みを抱く理由も納得出来る。しかし、キミたちの身勝手な行動で、どれだけ多くの人々が死の恐怖に怯えているか――」
「別に。“シン”が存在していた時と同じに戻っただけのことでしょ?」
「だからだよ」
たまらず、二人に間に割って入る。
「私は、もう二度と理不尽な死に怯えなくていいように。だから私たちは、“シン”を倒した。永遠のナギ節、みんなが笑って暮らせる平和な世界。それが間違ってるのっ?」
「さあ? ボクに聞かれても知りません。今回は偶然、思惑が一致しただけのことですよ、大召喚士ユウナ様」
「それ、やめて」
「ああー、そうでしたね、これは失敬。あの人が何処に居るかはボクにも解らないから無駄だよ。ま、通信スフィアさえ稼働させなければ少しは持つからその間に探しなよ」
「どうして、通信スフィアを?」
今の台詞とチュアミの話から推察するに、通信スフィアに拘っていることは明白。
「どうしようかなー? ま、いいか。不敬払ったし、また稼働されても面倒だし。通信スフィアを媒体にして、魔物を召喚しているんだよ」
「ど、どういうことっ?」
「腐っても技職の神だよ? あの程度の監視システムのジャックなんて余裕。稼働に必要な
通信スフィアを通して、一定の場所の幻光を増幅させるシステム。自動的に魔物が生み出され、倒されても異界へ戻るため、半永久的に繰り返されるサイクル。
「まさか、そんなことが......」
「あれ? もうやられた。ふむ、そろそろおいとましようかな」
「ま――」
――待って。と引き留めようとした瞬間、瞬動で戻ってきたシキがアソオスに向かって振るった刀は、キマリの攻撃を弾き返した障壁を切り裂き、白衣を掠めた。
「おっと! この物理障壁を持っていかれるなんて」
「シキ!」
「気を抜くな。口より先ず足を止めろ」
「シキ? そうか、キミが。召喚士といい、これはちょっと分が悪いかな?」
懐から、銃を取り出した。
杖を持って身構える。バラライ、マヤナも同じように臨戦態勢。ニヤリと笑い引き金を引く。撃ち出された弾丸は足下の床に触れた瞬間、目映い閃光を放つ。閃光弾で眩んだ目を開けた時にはもう既に、科学者アソオスの姿は消え去っていた。