FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission26 ~感傷~

 発せられた酷く冷徹な声に、自然と身構えた身体に緊張が走る。

 背後からの不意討ちを防いだ障壁は、シキが切り裂いたアソオスが展開した障壁と類似していた。二人に何かしらの繋がりがあることを示唆している。

 

「斬り掛かってくるとは、無礼者め」

「それが、お前の本性か」

「ち、ちょっとどういうことっ?」

 

 状況を飲み込めず困惑するリュック。事前に聞いていなければ、自身も間違いなく彼女と同じ反応をしていたに違いない。

 オンになったままの通信スフィアから所有していたパインにだけ伝わる微弱な音の振動を利用して発信された、バラライから送られた暗号通信(シグナル)――支援部隊など組織していない。

 彼女は目の前のアルベド族の男性の話を聞きつつ、どう対応するかを考えていた。剣や銃で問い詰めたところで、確たる証拠がなければ言い逃れられてしまう。どう対処すればいいのか考えた末に出した答えは、口ではなく、まず足を止めること。結果として、言い逃れできない証拠を、隠されていた本性を見せた。

 

「あの辻斬りを、人工兵器を何処へ連れて行った? 技職の神のところか? アルブは何処に居る、答えろ!」

「勇ましいな、小娘」

 

 小馬鹿にしたように鼻で笑う。まるで眼中にないとでも言いたげな顔。再び向けられたパインの剣先は、同様の障壁に弾かれた。

 

「くっ!」

「お前程度が、私に触れることなど出来るはずがなかろう。身の程をわきまえろ」

「ちょっとアンタ! オヤジとの話も全部ウソだったのっ?」

「愚問だな、シドの娘、答える価値もない。まあいい、同胞のよしみに教えてやろう。対立したことは事実、シドの反対を押し切り、ミヘンセッションを進言したのは私だ」

 

 三年前、スピラ中から集められた“シン”の身体から剥がれ落ちた魔物(コケラ)を一個所に集めて、本体(シン)おびき寄せ、アルベド族の兵器を用いて討伐を試みたミヘンセッション。作戦は失敗に終わり、動員された部隊はほぼ壊滅状態、数え切れない程の犠牲者を出した。

 

「あの作戦が失敗したせいで、アルベドが――」

「お門違いもいいところだな。使い物にならん旧世代の兵器を持ち出したのは、永遠の死の螺旋こそがスピラの本質などと戯れ言をのたまうエボン寺院の老人共。私が提供を予定していた兵器を使用していれば、“シン”の核とまでとはいかんが、鎧の一部を破壊することは容易だった」

 

 禁じられた機械の力で、“シン”にダメージを与えられればエボンの教えは揺らぎ、寺院の求心力の低下を招きかねない。失敗するよう予め仕組まれていた挙げ句、寺院の教え以外では“シン”は存在し続けるという体のいいプロパガンダに利用された。

 しかもこの人――人の死を何とも思っていない。

 機械に精通しているアルベド族を遙かに凌ぐ科学力を持つ科学者アソオスと同様、胸の内に秘めた思惑は不明。同族のアルベド族だからなのか、アソオスよりも、復讐心を持つ技職の神・アルブに近い思考を持っている。

 それでも、開発した兵器で一時的でも“シン”の活動を止められたのなら――。

 

「どうして、寺院の反対を押し切らなかったんですかっ?」

「寺院の老人共に手を貸す義理などない。しかし、大召喚士ユウナ殿、貴公には礼を述べなければならんな。さて、お喋りはここまでだ」

 

 おもむろに、懐からシルバーメタリックのハンドガンを取り出した。議長室で、アスオスが使用したモデルと似ている。男性は、パインに銃口を向けた。

 

「大召喚士殿に免じて、詮索せず立ち去るのならこの場は見逃してやろう」

「戯れるな。今さら、銃程度に怯むか!」

「フン」

 

 警告もなしに躊躇なく、引き金が引かれた。乾いた発破音が響く。放たれた銃弾は、接近戦に重点を置いたパインが纏う強力な物理障壁(プロテス)に当たり、やや勢いが衰えるもそのまま押し込み貫通。障壁を抜ける直前、咄嗟に跳び退いたパインの二の腕辺りを掠めた。

 

「この弾丸、プロテスを......!」

「躱したか。小賢しい娘だ。だが、いつまで保つかな?」

 

 連射。弾丸が容赦なくパインを、三人全員を襲う。間一髪で避けて、ヴェグナガンの物影に隠れる。銃のマガジンを取り替えた、マガジンの装填数は8発。ワンタッチ式、交換所要時間は3秒弱。次の交換に合わせて物影から飛び出し、転がりながらスフィアハンターの時に愛用していた小銃を撃つも、やはり分厚い障壁に阻まれる。足が止まった瞬間、相手の銃口がこちらを捉えられたと思った直後、リュックが投げた短剣が障壁を抜けた。

 

「避けられたっ!?」

「そうか、ユウナ!」

「了解!」

 

 プロテスを貫く特種な弾丸の撃つ際は、自身の周囲に展開している障壁を取り除く必要性があり、展開し直すのに僅かなタイムラグがある。ある程度のダメージは覚悟の上で突っ込むパインとリュック。彼女たちが気を引いている間に、こちらも拵える。

 

「このっ! このっ!」

「ちっ! 攻撃が通らない!」

 

 近接戦闘なら反撃は受けないが、強化した新装備も強力な物理障壁に阻まれ有効打を与えられない。しかし、二人が作ってくれた貴重な時間、準備が整った。杖を向ける。男性の足下に魔方陣を展開。

 

「避けて! とっておき!」

 

 異界を漂う無数の幻光を最大限活用した重力魔法を放とうとした瞬間、突然の奇襲。視界の外側から、複数のブリッツボールが投げ込まれた。

 

「ブリッツボールだと.....!」

「なんでこんなところに!? もー、邪魔っ!」

「ダメ! 避けて!」

 

 切ろうとした二人を止めるも、ブリッツボールは切っ先に触れる前に炸裂。爆音、衝撃、熱が襲う。爆風に巻き込まれ、身体が何度も地面に叩きつけられ、うつ伏せに倒れ込む。激しい耳鳴りと身体中の痛みで意識が朦朧とする中、全身防護服で顔をガスマスクで隠した人影が姿を現した。

 

「ヤツの行方は――このエネルギーは......撤収だ、痕跡は残すな。小娘どもは放っておけ、まだ利用価値はある」

 

 受け取った白衣を羽織り、銀縁のメガネをかけて険しい表情を覗かせると、数名の防護服の作業員を残して、この場を立ち去って行く。どうにかして引き留めようとしても、身体が想うように動かない、腕を伸ばすことさえも叶わない。

 意識を失う直前、爆発音が響いた。薄れゆく意識の中、撤収作業を終えた防護服の人達の会話が微かに聞こえた。人の名前。

 彼、あるいは彼女たちの口から発せられたのは――“ヴァルム”と言う初めて聞く言葉だった。

 

           * * *

 

 気がつくと、ベッドの上で横になっていた。白で統一された清潔感のある部屋、薬品のニオイ、風に揺れるレースのカーテン、横になっている身体には治療が施された形跡が残っていた。

 

「私......」

 

 ――生きている。

 

「二人ともっ! い、イタぃ~......」

 

 患部に激痛が走る。寝返りはおろか、普通に呼吸するだけでも尋常じゃない痛みが走る。身体中を襲う痛みに耐えて、横を見る。右隣にリュック、反対側にパインが横になってた。命拾いした。

 

「失礼」

 

 バラライの声。

 

「お気づきになられたようですね。ご無事......とは言えませんが、何よりです」

「私たち......」

「ご無理をなさらず、そのままでどうぞ。覚えていますか? 袂をわかったアルベド族のはぐれ者と異界で一戦を交えたことを」

 

 ブリッツボールの爆発で、パインが持っていた通信スフィアは機能を停止。異常を感知し、マヤナを介してシキに応援を求め、彼の瞬動で地上まで送り届けて貰った。

 

「シド族長に確認したところ、二十年ほど前にアルベド族の中年の男性と対立したことは事実だそうです。何か心当たりは?」

「き、きっと同一人物だと思う。あの人たちは、ヴァルムを探してるって言ってた......」

「ヴァルム――そうですか、人の名あるいは、兵器の名称......分かりました。では今は、回復に努めてください。調査は我々が続けます」

「あの、現場は?」

「残念ながら、手掛かりになりそうなものは何も。機械柱の内部は完全に破壊され、崩れ落ちたヴェグナガンも完全に機能を停止していたそうです。では、失礼します。お大事に」

 

 真白なカーテンを閉じ、医務室を後にするバラライ。

 途端に、静かになった病室。両隣の二人のやや苦痛混じりの寝息が聞こえる。

 

「どうして、なのかな......?」

 

 永遠のナギ節、シンがいなくなった新しい世界の危機を自分たちの力で乗り越えて、ほんの少しだけ強くなったと思っていた。迷ったり、悩んだりしても、前を向いて歩くって自分で決めた。

 それなのに――弱さを、不甲斐なさを痛感する度に心がキュッと締め付けられる。

 ダメだと分かっていてもすがりたくなってしまう、弱い自分がいる。

 ――今、凄くキミに会いたいよ。

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