FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission28 ~依頼~

 ブライアという名の人物を差し、生き証人とほぼ断定したシキは、目を通していた歴代のエボン寺院の役職名簿をこちらに向けて開く。

 

「こちらをご覧ください。数年の誤差はありますが、一定の周期で同一の名前が記載されいます」

「ただの偶然ってことはないのかな?」

「通常であれば、そう考えるのが妥当です。しかし、ブライアと名乗った御仁は、常人を遙かに超える幻光を纏っていました」

「幻光を、纏う?」

「濃度と表現した方が適当でしょう。あなたの父ブラスカ様の召喚獣といえば理解しやすいのではないかと」

 

 幻光――人間も、動物も、植物までも大元を辿ればそこへ行き着く。生身の人間が、召喚獣と同等クラスの幻光を身に宿していることを考えられる理由は二つ。ひとつは、生前強烈な未練を残して息絶え、現世に姿を残した死人である可能性。もうひとつは、召喚士として優秀な素質を持っている場合。

 

「見た目こそ、風来坊のような出で立ち。しかし、立ち振る舞いや言葉遣いにただならぬ品格を感じ――」

 

 言いかけた彼の言葉が止まり、同時に異変を感じ取った。

 

「周囲の空気が変わった、館内の幻光がざわめいてる。この感じ......まさか、誰かが召喚してる?」

「おそらく、彼女でしょう」

「マヤナが? でも、あの子は召喚方法を知らないって。それに祈り子様は......」

「幻光は全ての源。召喚しかり、機械しかり、幻光の様々な用途に用いられています」

 

 名簿を閉じて書物庫に戻り、元あった棚にしまって振り向く。

 

「出所へ行きます。想定外の事態が生じる可能性を否定できません」

「想定外の事態?」

「......今の彼女は、満足な器量を持ち合わせていません」

 

 言葉の真意は分からぬまま、共に書物庫を出て異変の発生場所を探す。ざわめく幻光の導きに従って辿り着いた場所は、守備隊が腕を磨く訓練場。チュアミとマヤナが対峙していた。チュアミが持つ模造刀は、肉眼でも確認出来るほどの亀裂が入っていた。シンラたちと一緒に観戦している、パインに訊ねる。

 

「何があったの?」

「ユウナ。二人の模擬戦、技量はチュアミの方が圧倒的に上回ってるのに――」

「たった数回の打ち合いでアレだ。シンラ!」

「間違いなくただのレプリカだし。きっとこれが、マヤナが言ってた力だし」

「力? シキ、あの子は何をしてるのっ?」

「ご覧の通りです」

 

 眉尻を上げて、亀裂が入った模造刀を構え直したチュアミが戦闘態勢に入った。

 

「チュアミ、その状態じゃ......」

「お前は黙ってろ!」

 

 素速く距離を詰め、間合いに入ったチュアミは躊躇なく模造刀を振るう。その速さに戸惑いながらも、彼女はニルヴァーナモデルの杖を軌道上に宛がった。杖に当たった模造刀は亀裂を伝って真っ二つに砕けるも、折れた切っ先を空中でキャッチしたチュアミは、即席の二刀流で追撃。しかし、その追撃は実ることなく、いつの間にか二人の間にシキが割って入っていた。片方はチュアミの模造刀を受け止め、もう片方手でマヤナの腰を抱いている。

 

「なっ!? お前――」

「ここまでです」

「邪魔すんな――あっ!」

 

 掴まれたマヤナの腕から杖が落ち、彼女はそのまま彼の腕の中に身体を預けた。

 

「キミは無茶をする」

「......ごめんね」

 

 抱きかかえた彼女を、訓練場内のベンチにそっと横にさせる。

 

「大丈夫なの?」

「ただの疲労です。問題ありません」

 

 ギップルとシンラが、彼の下へ。

 

「キミの刀を研究させて欲しいし。もちろん、傷つけるようなことは絶対にしない」

「オレからも頼む。もう体裁もなにも構ってる余裕はねぇ」

「調べたところで、何も特別な処置は施していません」

「納得いかないな」

「パイン?」

「特別な武器じゃないのなら幻光河も、異界の件も説明がつかない。どう考えても実力だけの差じゃない」

 

 シキはやや間を開け、閉じた目を静に開いた。

 

「お見せした方が早いですね。魔物はいますか?」

「ああ、訓練用に捕縛したのが何体か。どんなのがご所望で?」

 

 ギップルの問いかけに「では、一番硬いものを」と彼はリクエスト。館内に警報が流れ、職員たちの避難が済み、魔物が幽閉された檻が訓練場に運び込まれた。横になっていたマヤナも身体を起こして、見守る。

 

「ユウナさん、こちらへお願いします」

「私?」

 

 言われるがまま、彼の傍に立つ。

 

「残滓に触れた今のあなたになら感じ取れるはず。よろしいですか、全神経を研ぎ澄ませてください」

「うん」

 

 万が一に備え、パインたちは臨戦態勢。頑丈な檻の扉が開かれ、異様な瘴気を放つ魔物が解き放たれた。しかし、彼は至って冷静。動揺も、焦りの色も微塵も見せない。

 

「ただ漠然と見るのではなく、全体の流れを意識してください」

「流れ......」

「見るのはターゲットだけではなく、周囲に舞う幻光も視野に」

 

 魔物の周辺を舞う幻光の様子を注意深く観察する。幻光の流れに微かな規則性のようなものを拾った。

 

「お分かり頂けましたか」

「――うん」

「では、ここから実戦です」

 

 身体の右を前に構え、やや右手を下げた抜刀の構え。

 けたたましい雄叫びを上げて突進してくる魔物が間合い入った瞬間、シオマネキやウェポンの時と同じく、瞬く間にバラバラに切り裂いた。悲鳴にも似た音を奏でながら、亡骸から抜け出た幻光虫が渦を巻きながら虚空へと融けていく。

 

「ね、ねぇ、チュアミ。今の、いつの間に斬ったの?」

「あたしに聞くなよ......」

「あり得ねぇ、甲殻の中でも硬い部類の魔物をあんな細長い刃物で」

「刃を入れる場所は、幻光が示してくれます」

 

 ――示す。幻光の動きは見えた。幻光密度が濃い場所、反対に密度が薄い場所。彼が斬ったのは、魔物を形成する幻光の密度が限りなく薄い場所。斬るというよりも、刀を隙間に通した。そんな、イメージ。

 

「極力無駄を省き、急所のみを適確に突く。とにかく強力な武器を用いて、物量で押すオレたちとは真逆の発想か。けど、どうにも判らないのが、あの子の力だ」

 

 釈然としないといった表情を覗かせたギップルは、マヤナに疑念の視線を向けた。

 

「二人の戦闘センスには歴然とした差があったのに、模造刀があのザマだ。説明がつかねぇ」

「あの、それはあたしが。召喚士としての才気を持つ方でしたらある程度扱える技術です。もちろん、個人差はありますけど」

 

「大丈夫だよ」と彼に伝えた彼女は、訓練用のダミー人形の前に立つ。彼女が持つ杖に、周囲の幻光が反応している。書物庫で感じたのと同じような感覚。

 

「空に融ける幻光の力を借りれば、非力なあたしでも――」

 

 杖で叩いたとは想えないほどの重い音を響かせ、地面に固定されたダミー人形の向かって右側が破損された。

 

           *  *  *

 

 リュックからの連絡を受け、休憩所で待ちながらの会話。

 

「さっきの、あの時ユウナがやったのと同じだろ?」

「似てるけど、少し違うかな」

 

 原理は同じ、違うのは効率。幻光は全ての源。基礎の四大魔法も、基礎から外れた重力魔法も、幻光を魔法に変換させたもの。異界で相見えた時は、魔法を打撃に上乗せして瞬間的に杖そのもの破壊力を向上させた。けれど彼女が行ったことは、魔法への変換の過程を省き、繰り出す打撃にロスなく昇華させ最適化された一撃。

 

「召喚士の才気を持つ人なら出来るっていってたけど、あの疲労のしかたは尋常じゃない。召喚するのって、あんなになるものなのか?」

「最初はね。特に、祈り子様と心を通わせるのは凄く大変。何時間も祈って祈って、祈り続けて。中には、命を落とす召喚士も。召喚することももちろん大変だけど、慣れれば多少はね」

「......どんな精神力してるんだ、アイツは」

 

 半結晶の祈り子像が安置された祠で、召喚士としての単純な才能はシキの方が上と話していた。幻光の流れを完璧に掌握できて、祈り子なき世界で修行を積んできたマヤナが数度繰り出しただけで呼吸が乱れる剣技を平然と使いこなす天賦の才。しかし、彼は引っかかることを言っていた。

 

「器量って、何のことだと思う?」

「器量好しとか、そういうのに使われる言葉だよな。才能......なら遠回しには言わないな。異界で会った時、わたし達は力不足だってことを真っ向から突きつけられた」

「だよね」

 

 才能とは、また別の話。何か特別な事情を抱えているのかもしれない。そんなことを話し合っていると、リュックが休憩所へやって来た。

 

「お待たせ! さっそくだけどさ、観てよこれ!」

 

 そう言って、中央のテーブルに置かれた旧型のスフィアに映し出されたのは、数名が言い争っている現場。話している言葉は、スピラの標準語ではなくアルベド語。シンラが開発した自動翻訳機を取り付けると、話している内容が標準語で聴き取れるようになった。

 

『満足な武器もねぇってのに、シンを倒せる訳ねーだろ! 今は、まだ調査が済んでねぇ海底を調べることが先決だ』

『古代の寂れた兵器など役に立つものか。寺院など内部から掌握すればいいだけの話しだと何故理解しない。愚か者めが』

『馬鹿はテメェだ! 寺院の連中が、オレたちアルベドの言うことなんざ聞くわけがねぇだろうが!』

『これ以上は時間の無駄だ。私は、私のやり方でシンを滅ぼす』

『おう、やれるもんならやってみろ! その不快なツラ、二度と見せんじゃねぇぞ!』

『ねぇ、そんな強い言い方しなくても......』

『うるせぇ! お前は黙ってろ!』

 

 言い争っていた一方が数名を引き連れ、部屋を出て行ったところで映像は途切れた。

 

「これって......」

「そ。オヤジと、あの科学者の確執の現場」

「よく有ったな」

「あまり表に出る人じゃなかったみたいだし、何より一触即発の感じだったからね。それから、オヤジを嗜めた人、オヤジの妹」

「母さんっ?」

「うん。これがきっかけかは分かんないけど、この後すぐにベベルに行っちゃったみたい」

「そっか。それで、シドさんはなんて?」

「知らないってさ」

「これ程の物的証拠があるのにか?」

「そうじゃなくて。このスフィアに写ってる人、バラライの話しに出た“プセマ”って名前を名乗ってたのは確かみたいなんだ。だけど、アタシが伝えた人相よりも年老いてて、見た目年齢は初老のお爺ちゃんだったって」

「それって、どういうこと?」

 

 死人は歳をとらないし、若返ることもない。あの二人の科学者の他にも、技職の神・アルブの意思を継いだ人物。そして、もうひとつ浮かんだとある可能性。

 

「三人目の科学者......それとも、アルブ本人?」

「あり得るな。リュックの親父さんと袂を分かつて離反した中に、異界にいた科学者がいたのかも」

「うぅー......もう訳分かんないって」

 

 事件を調べれば調べるほど、真相に近づけば近づくほど、黒幕の背中が、黒い影が遠ざかっていくような思考に陥ってしまう。

 

「ここに居たか」

 

 重苦しい空気が漂う休憩所に、険しい表情を浮かべたヌージがやって来た。

 

「お前たちに依頼が来た。依頼者は、科学者・アソオス」

「......どういうことだ?」

 

 不快感を全面に出したパインが、ヌージに詰め寄る。

 

「思惑は不明だ、通信スフィアをハッキングして一方的に通知してきた。前情報として、お前たちが異界で遭遇した科学者の情報をリークしてきた」

「リーク?」

「依頼内容は、持ち去られた物の回収または破壊」

「何のこと?」

「アレだろ。顔のない剣士。それで、情報ってのはなんだ。あんたが要求を呑むくらいだ。半端な情報じゃないんだろ?」

「ああ、とんでもない情報だ。お前たちが遭った科学者は――」

 

 先ほどまで観ていた、リュックがもってきたスフィアで観た人物と同一人物。

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