FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission2 ~既視感~

 ビサイドに魔物が出現したのと時と前後して、世界各地で同様の出来事が発生していた。事態を重く見たスピラ評議会の一部議員が、今後の対策案を話し合うべく、所属議員に緊急会議を招集。会議の参加者は、スピラ評議会の議長を務める元新エボン党党首バラライを始め。ロンゾ、グアド、アルベド各種族の長など、そうそうたる顔ぶれが揃っている。

 

「時間です。始めましょう。議題は、他でもありません。ご存じのことと思われますが、このスピラに異変が起こっています。魔物の出現頻度増加及び、一部狂暴化についてです」

 

 強い危機感を持った神妙な面持ちで切り出したバラライだったが、一部議員の反応があまり芳しくない。その多くは、エボン寺院の元僧官で、真実騒動などの件もあり、大事にしたくないという本音がうかがえる。

 

「無論聞き及んではいるが、少しばかり時期尚早ではなかろうか? もっと確かな情報が集まってからでも――」

「情報が集まってからでは遅い」

 

 元青年同盟の盟主ヌージは、慎重論を唱えた議員の言葉を遮り、自身の意見を堂々と述べる。

 

「情報が集まるということは、既に事態が生じた後だ。対策が後手に回れば、民衆の中に漠然とした不安が芽生え、再び疑念が生まれる。まとまりつつある世界が、安定し始めた秩序が再び乱れかねない。早急に対処すべきだ」

「しかし、空振りならば徒労に終わるだけぞ。それこそ、民衆の不安を煽るだけになるやもしれぬ」

「取り越し苦労にこしたことはないさ。忘れるな。俺たちはまだ、旗揚げから半年も経っていない。ゼロから信頼を積み上げて行くには、途方もない長い年月を必要となるということをな」

 

 重みのある提言に、慎重派の議員は反論出来ず押し黙った。

 何せ、千年も続いたエボン寺院の信頼は、“シン”の消滅から一年を待たずして急激に没落、信頼は地に落ち、解体を余儀なくされた事実が存在している。エボン寺院の元僧官の多くが役職に就いていることを踏まえれば、スピラ評議会は実質マイナスからのスタート。

 

「異論はありませんね。早急に手を打ちましょう。情報収集に伴い、マキナ派の意見を伺いたい」

 

 バラライから意見を扇がれたマキナ派のリーダー、ギップルは腕を組み、若干考え込むそぶりを見せてから答えた。

 

「通信スフィアを使うか。アレなら映像を一括で監視(モニター)出来るぜ。ただ、結構な数の技術者とそれに見合うだけの設備が必要だ。つっても、スピラ全域を網羅できるほどの数はねーし。幻光虫の影響を受けやすい点もちと改良する必要がある。少し時間をくれ」

「わかった。作業室、宿泊設備もこちらで手配しておく。必要な物をリストアップして提出してくれ。次に、各地方の警備についてですが――」

 

 監視体制の強化、主要都市の警備体勢の見直し、各都市の警備増員、対策本部の早期設置など。今後の対処方針の大筋がまとまり、閉廷した会議室には、若き指導者の三人が留まっていた。

 

「やれやれ、どうにか当初の予定通り進みそうだ。キミのおかげだ、ヌージ」

「さすが、我らが船長様ってな。元エボン寺院の僧官相手に大立ち回り出来るのは、アンタだけだ。どうした?」

 

 会議を開く前日に打ち合わせ通りの成果を得たにも関わらず、役者を演じきったヌージは、憮然とした表情を崩さないでいた。

 

「どうにも解せん。魔物の大半は、死者の残滓が形になったものだ」

 

 己の死を受け入れらず彷徨う死者の魂が、生きる者を妬み、やがて魔物に姿を変えて現世に現れ、人を襲う。それを阻止するため、“シン”を倒す大役を担う召喚士のもうひとつの役目として「異界送り」といわれる儀式があり、迷える死者の魂を異界へ導いていた。

 

「会議が始まる前、グアドの族長トワメル=グアドに探りを入れてみた。まだ予断は許さないが、不安定な状態だった異界も、だいぶ安定を取り戻しつつあるそうだ。実際、グアド族がグアドサラムへ帰郷してからは、魔物の出現数も減っていたからな」

 

 話しを聞いた、二人の顔付きが強張る。

 “シン”が消滅した今、異界送りを行う召喚士の母数も、無作為に訪れる死者の数も大幅に減少した。今では、評議会が抱える召喚士の素質を持つ者が、異界送り専門の「送儀士」として、異界送りの任についている。

 

「グアド族が、異界の調整に失敗したってことは?」

「異界から幻光虫が漏れてるようなことがあれば、評議会の、少なくとも俺たちの耳に入っているさ。例えグアドが、隠蔽工作をしようともな」

 

 ギップルの疑問に対するヌージの返答を聞き、バラライは口元に片手を添え、眉をひそめる。

 

「完全にイレギュラーな事態だ。どうにせよ、今回の原因の究明が、僕らに与えられた使命であることは変わりはない」

「そりゃそうだな。また、世界が滅びかけるのはゴメンだ。おーい、聞こえるかー?」

 

 音声通信スフィアに向かって声をかけると、子供の声で応答があった。返事をしたのは、アルベド族の天才少年、シンラ。

 

『全部聞いてたし。今、通信スフィアの再調整してるところ』

「どれくれーかかる?」

『量産と配備を含めて、三日もあれば出来るし』

「オーケー。ベベルに対策本部を設置する。何か欲しいもんあるか? リクエストあったら用意しておくぞ」

『ジュースとお菓子』

「ガキか」

『僕、まだ子供だし』

「あいよ。用意しておく。引き続き頼むぜ」

 

 シンラとの通信を終えたギップルは、今後の対応について話し合っている、バラライとヌージの中に加わる。

 

「各地の警備体勢だが、元青年同盟の連中をあてがう。戦闘に慣れているからな」

「おいおい、青年同盟って大丈夫かよ? アイツら、血の気の多いヤツが多いだろ。派遣先の住民とドンパチ起こすようなことになれば、マジ終わるぜ? スピラ評議会は」

「フッ、心配するな。過激な行動を起こするのは理由がなかったからだ。明確な目標(テキ)を示してやれば、任務に邁進するさ」

「青年同盟旗揚げ当初、新エボン党を利用したようにか。やはり、キミの狡猾さは、味方となると心強いな」

「使えるものは使うまでさ。さっそく、準備に取りかかるぞ。早いにこしたことはない」

 

 ヌージは金属製の杖をつき、かつて“シン”との戦闘で重症を負った左半身を支えながら会議室の扉へ向かい。バラライとギップルも自分の役目を果たすため、会議室を出る。廊下へ出たところで、大きなベルの音が館内中に鳴り響いた。

 

「あん? これ、警報か?」

「バラライ」

 

 入り口横に設置されているモニターに触れたバラライは、警報の発信源を確かめた。

 

「発信源は、中庭――魔物だ」

「ここにも出やがった。まさか、ベベルのど真ん中とはな」

「なーに、ちょうどいいさ。凝り固まった連中の目を覚まさせる薬になる」

 

 急ぎ会議室に戻った三人は、一番奥のカーテンを引き、窓の外に見える中庭に目を向けた。すると、対処にあたっている六人の警備兵が、自分たちと同じくらいの大きさの魔物を相手に、激しい戦闘を繰り広げている。

 

「構え! 撃てーッ!」

 

 半円状に陣形を構え、隊長の指令と共に一斉射撃。複数の銃弾が、魔物の胴体を捉えるも、何ごともなかったかのように痛烈な反撃。直撃を受けた警備兵は、吹き飛ばされて地面を転がり倒れ込む。ひとり、またひとりと、数で勝っていたはずが徐々に劣勢へ追い込まれていく。

 状況を見守っていた三人は、アイコンタクトで意志の疎通。

 そして、常時鳴り響いていたけたたましい警報が、救援要請の変化したことを合図に、バラライとギップルは窓から飛び降り、警備兵の援護へ向かった。

 

「助っ人参上!」

「ここは、我々に任せてください。あなた方は、傷病者の保護と周辺住民の避難を」

「議長! 応援感謝いたします! 総員、ケガ人を保護して離脱。警戒を怠るな!」

 

 護衛兵は、ケガ人を連れて戦線を離脱。

 二人は間近で、魔物と対峙。三種類の動物の頭部を持ち、尾が蛇になっているキマイラ種族。

 

「小型のキマイラ、新種か?」

「僕が切り込んで、ヤツの隙を作る」

「あいよ」

「――行くぞ!」

 

 ギップルが、特注の改造銃で牽制射撃で注意を引き。両の先端が円形状の棒状の武器を構えたバラライは、キマイラの懐へ向かって飛び込んだ。

 

           * * *

 

 魔物が現れた中庭と周辺区域に規制線が張られ、ギップルが中心となり、計測機器を使った現場検証が行われていた。

 

「警備兵二名が重傷を負った。けど、二名とも命に別状はない。何より、住民や居住区に甚大な被害が出ずに済んでよかった」

「魔物出現の経緯は?」

「第一発見者の証言によると、突然出現したそうだ。これも、幻光虫が関係しているだろう。今、ギップルが幻光濃度を計測している。しかし――」

 

 先の戦闘を思い返すバラライは、険しい表情を見せた。

 

「僕達の攻撃を受けても怯まない強度、耐久力。あれは、普通じゃない。おそらく、オーバーソウル、倒された魔物達の思念が宿った魔物――」

「だそうだが、お前の見解は?」

「なんとも言えねーなぁ」

 

 調査隊から抜けたギップルは、戦闘のはずみで倒れたベンチを起こして、腰を降ろす。

 

「ここら一帯の幻光濃度は正常値だった。高濃度の幻光が魔物に宿るオーバーソウルが起きたとは考えづらい。つーか、魔物が出現したこと自体が不思議なくらいだ」

 

 彼の見解は、彼を含めた三人の頭の中で、三者三様の考えを生んだ。だがそれを、誰も口にはしない。規制線の向こう側の野次馬、近くで調査・復旧を行っている作業員を気にしての沈黙。

 小さく息を吐いたバラライは、話題を替えた。

 

「復旧の見通しは?」

「中庭は、三日もあればな。ただ――」

 

 もたれ掛かったベンチでふんぞり返り、一番損傷率が高い建物に目を向ける。魔物の消滅現場であり、とどめを刺したヌージの強烈な一撃は、奥の建物の外壁ごと破壊した。

 

「アンタ、加減ってもん知らねーのか?」

「下手に長引かせるよりマシだ。さて、戻るぞ。今頃、寺院の元僧官連中が慌てふためいているだろうからな」

「そうだね。今後のことは、報告書が挙がり次第にしよう」

「やれやれだな」

 

 会議室が入る建物へ戻っていく三盟主の背中を、規制線の向こう側の野次馬に混ざって、男女の若者が見つめていた。

 

「見たか? クルグム。この騒動、結構根深そうじゃないか」

「不謹慎だよ、チュアミ。ベベルの中心部に魔物が出ただけでも大事なのに。犠牲者が出なかったのが不幸中の幸いだよ」

 

 二人の男女。栗毛色で背中まで伸びるウェーブがかった髪を二つに編んだ女子「チュアミ」に対し、彼女の幼馴染みでスピラ評議会が抱える公認送儀士の男子「クルグム」がいさめる。

 

「ベベルは......スピラの情勢は、まだ不安定なんだ。もし、今回みたいな騒動が続けば――」

「評議会の権威を示す絶好のチャンス到来ってわけだ」

「チュアミ、そういう言い方は......」

「冗談だよ。わたしだって、本気で望んでる訳じゃない」

 

 くるりと踵を返す。

 

「ま、おまえは覚悟しておきな。各地で魔物が増えてるのは確かみたいだし。忙しくなるかもしれないからさ」

「分かってるよ」

 

 現場を離れた二人はかつてのマイカ通り、ブリッツボールチーム、ベベル・ベルズの本拠地を建設中のスタジアム通りを、繁華街へ向かって歩き出した。

 

           * * *

 

 街の灯りが消え、静まり返った未明。魔物を討伐した三盟主は、魔物と共に破壊した建物の中で密会していた。

 

「しっかし、考えたなー。ここなら誰も近づかない」

「まさか、このために破壊したのか?」

「さーな。あまり時間はない。始めるぞ。先ず、グアドが関与している線は薄そうだ。監視スフィアの映像を一週間分洗ってみたが、それらしい痕跡は何もなかった。現場付近を通った形跡もない」

 

 議題を切り出したヌージは、自分の目で調べた情報を伝え、二人にも問う。

 

「今は、チョコボ牧場になってる、ナギ平原の元モンスター訓練所を調べた。牧場の責任者に話しを聞いたけど、あそこは関係なさそうだ。むしろ、チョコボが魔物に襲われないか気が気じゃないって感じだったし」

「僕は、かつて異界へ繋がっていた祈り子の間とアンダーベベルの最深部を調査した。結果は二人と同じく、これといった異常は見当たらなかった」

 

 三人共に睨んだ可能性は空振りに終わった。

 しかしそれは、言い換えればある種の収穫があったとも捉えられる。

 

「つまり、それらとは別の要因ということだな」

「そりゃ厄介だぜ。直接、異界に乗り込んで調査するってか?」

「それを出来れば苦労はしないけどね。調査と対策を同時進行出来るほどの余裕は今の僕らにはない」

「だが、全面的に信用を置ける人間は評議会の中にはいないのも事実だ」

 

 頭の後ろで手を組んだギップルは、ニヤリと笑みを見せる。

 

「んじゃ、我らが先生様にお願いするしかねーな」

 

 彼の提案はもちろん、ヌージとバラライの中にもあった。しかし、同時に後ろめたさも感じていた。ほんの数ヶ月前、自分達が原因の片棒を担いで起こったスピラを揺るがす騒動を、彼女達の力を借りて解決してもらったことに。

 

「不本意ではあるが、また彼女達の力を借りるしかないか。今の俺達に他の選択肢はない。問題解決が最優先事項だ」

「交渉は、どうする?」

「シドの娘になら、すぐに連絡つくぜ。アニキと一緒だからな」

「いや。通信スフィアは、傍受・盗聴の恐れがある。人為的犯行の可能性を拭いきれない以上、僅かな懸念も摘み取るべきだ」

「確かに......少し時間をくれ。考えてみる」

 

 連絡手段はバラライに一任することが決まり、この密談はお開きになった。

 そして、三人の密談から数日後の昼前、キーリカ島を経由してきた連絡船が、ビサイド島の港に着岸。本土から送られてきた大量の物資と、ユウナとの面会希望者がビサイド島へ降り立つ。面会希望者が行き交う桟橋の脇で、ワッカは注文リストと届けられた荷物のチェック作業を行っていた。

 

「食料、生活必需品、薬品、その他もろもろ――よし、全部揃ってるな。ご苦労さん、お代だ」

「毎度! 今後とも、オオアカ屋をよろしく!」

「おう。また頼むぜ。よーし、お前ら、荷物を村に運んでくれ!」

 

 ビサイド・オーラカの面々をはじめとした村の若者達が、届いた物資を手分けして運んで行く。

 

「そいや今回は、飛空艇じゃないんだな。何かあったのか?」

「それが、急なエンジントラブルだとかでよ。久々の船旅は堪えたってもんよ」

「アハハ、そりゃ災難だったな」

「ハァ、一度便利を覚えると当たり前だったことが苦痛に感じるなぁ。おっと、そうだ。コイツを忘れるところだったぜ」

 

 大きなバッグを背負ったオオアカ屋の店主は、ワッカに袋を差し出した。タメ息をついて、袋を受け取る。

 

「確かに渡したぜ」

「ああ、またよろしくな」

 

 折り返しの連絡船を見送り、袋を持ってビサイド村に戻った。

 村に着いたのは、ちょうど昼食時。ルールーとワッカの間に産まれたばかりの赤ん坊「イナミ」を含めた四人での昼食。

 

「飛空艇が故障? それで、到着が遅れたのね」

「そう言えばシドさんも、どうやって動いてるか詳しいことは分からないって言ってたね」

「改めて聞くとおっかねぇー話しだよな。道ばたに落ちてた機械の破片の原因かもしれねーしよ」

「あり得ない話しじゃないわね。何かの拍子で空から落ちたと考えれば、腑に落ちる。ところで、今回はなかったの?」

「だとよかったんだけどな。ほら」

 

 箸を置いたワッカは、オオアカ屋の店主から受け取った袋を置いた。

 

「今回はまた、ずいぶんな数ね」

「普段、直通ですっ飛ばす地方を経由した分増えたみてーだ」

「なるほどね。どうする?」

 

 ぱんぱんな袋を前にして、少しだけ無理して笑顔を作る。

 

「見るよ。せっかく贈ってくれたレタースフィアだし」

「そう」

「また、求愛とか、見合いの申し込みたいなのだったら遠慮なく叩き壊していいからな」

「うん、そうするね。ごちそうさま。ちょっと出掛けてくるね」

「ゆっくりしてらっしゃい」

 

 食べ終えた食器を片付けてひとり、浜辺の山間に建つ遺跡の中で波音を聞きながら、受け取った袋の中のレタースフィアをひとつひとつ確認していた手を止め、大きなタメ息をついて横になった。受け取ったレタースフィアの殆どが、ワッカの言っていた通りの内容。半分が求婚やファンレター、もう半分は人生相談のような内容。まだ二十歳を前にした自分には、どう対処すればいいのか頭を悩ます種にしかならない内容が大半。

 それでもと、身体を起こして、床に散らばっているレタースフィアの確認に戻そうとした時、袋の底に横たわっていた封筒の存在に気がついた。

 

「手紙?」

 

 音声を、高価なものとなれば映像も送れるレタースフィアが主流になりつつある現在、あまり見かけなくなったアナログな連絡手段に既視感を覚えながら、封筒を裏返す。差出人を確認するも、差出人は不明。封を切り、二つ折りの手紙を開く。

 

「東ブロック最前列右から五番目――デジャブ?」

 

 手紙の内容を読み返しながら、数ヶ月前にも同じような内容で呼び出されたことを思い返していた。 


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